蕪村俳句と比喩―寓喩(諷喩)

https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/2020/04/06/071645 【蕪村俳句と比喩―寓喩(諷喩)(1/5)】より

 寓喩(諷喩)は、譬喩、寓意ともいう。他の事物や動物、物語などにたとえて、意味を強めあるいは暗示する表現法。おなじ系列に属する隠喩を連結して編成した言述。

和漢の古典や歴史、伝説に精通していないと理解が難しい。

     鶯はやよ宗任(むねとう)が初音かな

*梅はよく知っていた安倍宗任(平家物語・剣巻)にとって、鶯の声は初めてだろう、として初音を強調した。鶯をもってきたところが蕪村の工夫。

     柳にもやどり木は有(あり)柳下恵(りうかけい)

     つなたちて綱がうはさや春の雨

*「つな」は京一条戻橋の妓女の名前。つなさんが立って行ってしまった後の座敷はでは、客たちがひとしきり綱のうわさ(鬼を退治した渡辺綱に及んでいよう)をしている。

     股立(ももだち)のささだ雄(を)ちぬ雄春の雨

*ささだ雄、ちぬ雄: うない乙女を争って、三人とも死んだ説話中の人物。万葉集、大和物語などにでている。

     雉子啼(なく)や草の武蔵の八(はち)平氏(へいじ)

*草の武蔵の八平氏: 草深い坂東に割拠した八つの平氏をさす。雉子の勇ましい鳴き声に平氏の群雄が立ち上がった様子を想った。

     夕雲雀鎧(よろひ)の袖をかざし哉

     熊谷(くまがい)も夕日まばゆき雲雀哉

     耕や苛(か)政(せい)も聞(きか)ず二百年

     陽炎や烏帽子(えぼし)に曇る浅間山

     擲(てき)筆(ひつ)の墨をこぼさぬ乙鳥(つばめ)哉

*擲筆: 空海が応天門の額に一点を書き忘れ、下から筆を投じて補筆したという逸話。燕は墨も落とさないで一点を加えている、と見立てた。


https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/2020/04/07/072002 【蕪村俳句と比喩―寓喩(諷喩)(2/5)】より

     松下(しようか)童子に問へば只此雲裡(このうんり)山桜

*松の下で童子に隠者の所在を問うと、「処を知らず、只此雲裡山桜あるのみ」と答えた。「唐詩選・巻6・尋隠者不遇」の漢詩をもじった句。

     百(もも)とせの枝にもどるや花の主(ぬし)

*松永貞徳を花咲翁と呼ぶことから、百回忌追善として手向けた句。

     花盛六波羅禿(かむろ)見ぬ日なき

     かくれ住(すみ)て花に真田(さなだ)が謡かな

     犬ざくらよし野内裏(だいり)の似せ勅使(ちよくし)

*犬桜は、正当でない南朝の内裏が送った勅使のようなもので、桜に似て桜にあらず、と詠んだ。

     阿古久曾(あこくそ)のさしぬきふるふ落花哉

*阿古久曾: 紀貫之の幼名。 さしぬき: 袴の一種。

     祇(ぎ)や鑑(かん)や髭(ひげ)に落花を捻(ひね)りけり

*宗祇や宗鑑ぶった連衆が、花の下で句を案じている様子。

     千金の宵を綴りて襲(うはがさね)

*蘇東坡の「春宵一刻値千金」を踏んで、春の宵の「龍衣(天子の衣)」に思いをはせる。(前書が省略されているので難解。)

     春の夜の盧生(ろせい)が裾(すそ)に羽織かな

     岩に腰吾(われ)頼光(らいくわう)のつつじ哉

*岩に腰をおろして辺りのつつじを眺めると、源頼光になったような気分になる。つつじが退治した鬼の血潮にみえたのだ。


https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/2020/04/08/070244 【蕪村俳句と比喩―寓喩(諷喩)(3/5)】より

     賀茂堤太閤(たいかふ)様(さま)のすみれかな

*太閤が作らせた賀茂堤のおかげで、桃花水(桃の花の咲くころ、氷や雪が解けて大量に流れる川の水)の時節になっても洪水の心配がなく、すみれが咲いている。

     法(ほふ)然(ねん)の数珠(ずず)もかかるや松の藤

     炉塞(ふさい)で南阮(なんげん)の風呂に入(いる)身哉

*南阮: 晋の阮威・阮籍ら(竹林の七賢)のこと。

冬以来の炉を塞いで、ほっとして風呂に入る気分は、満ち足りたもの。かの南阮もこんなだったに違いない。

     ゆく春や横河(よかは)へのぼるいもの神

*いもの神: 疱瘡神。 横河: 叡山三塔の一で、厄除けの護符は疱瘡に利くとされた。

     ゆく春や川をながるる疱(いも)の神

*春中はやった疱瘡も治まり、祀っていた赤紙など供物が川を流れて行く。

     鞘走(さやばし)る友(とも)切(きり)丸(まる)やほととぎす

     広庭のぼたんや天の一方(いつぽう)に

     朝比奈(あさひな)が曾我を訪ふ日や初がつを

*朝比奈三郎義秀が曾我十郎を訪れた際に、初鰹をもっていっただろう、と蕪村が想像して詠んだ。

     射干(ともし)して囁(ささや)く近江やわたかな

*近江やわた: 曾我物語にでてくる近江小藤太と八幡三郎のこと。二人は待ち伏せして曾我兄弟の父・河津三郎を射殺した。句は、照射をしかけ得物を待ちながら囁き合う猟師ふたりの様子を近江と八幡の状況に重ねた。

     実方(さねかた)の長櫃(ながびつ)通るなつ野かな


https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/2020/04/09/070553 【蕪村俳句と比喩―寓喩(諷喩)(4/5)】 より

     藻の花や藤太(とうた)が鐘の水離(はな)れ

*藤太: 俵藤太。百足を退治した礼として龍宮から釣り鐘をもらった。

水離れ: 水中から引き上げること。

湖上一面に広がる藻の花は、俵藤太が鐘を引き上げた際に、あたり一帯に飛び散った水滴にちがいない、と見立てた。

     藻の花を分(わけ)て許(きよ)由(いう)が手水(てうづ)哉

     もの花の枝折(しをり)失ふ浦島子(うらしまこ)

*枝折: 枝を折る(道しるべ)。 

一句は、浦島は龍宮からの帰り、藻の花の枝折がみつからなくて困ったろう、という。

     石陣(せきぢん)のほとり過(すぎ)けり夏の月

     負(まけ)腹(ばら)の守(しゆ)敏(びん)も降らす旱かな

*守敏: 空海と雨乞を競って敗れた僧侶。一句は、この旱は、守敏にも雨乞をしてもらいたいくらいひどいという。

     天にあらば比翼(ひよく)の籠(かご)や竹婦人

*白楽天の長恨歌の一節を踏む。 竹婦人: 竹や籐を円筒形に編んだかごで、夏の夜、涼を入れるため寝るときにかかえるもの。

     涼(すずみ)舟(ぶね)舳(へ)にたちつくす列子(れつし)哉

     丈山(ぢやうざん)の口が過(すぎ)たり夕すずみ

*丈山: 石川丈山。江戸初期の文人。句は、丈山が宮中の召しにも応じなかった時に詠んだ歌を背景にしている。川岸の床で川風に吹かれていると、「渡たじな」と詠んだ丈山も言い過ぎたものだと悔やんだことだろう、と蕪村は想像した。

     羽衣の盗み余しや青あらし

*羽衣: 八人の天女が地上に舞い降りた際、一人が羽衣を盗まれたという伝説。

句は、羽衣を盗まれなかった天女が空に舞っている風を青あらしと見立てたもの。

     いなづまや二折(ふたをれ)三折(みをれ)剣沢(つるぎざは)

     朝顔にやよ維光(これみつ)が鼾(いびき)かな

*維光: 源氏物語中の人物。源氏と夕顔の君との間を取り持った。


https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/2020/04/10/072126 【蕪村俳句と比喩―寓喩(諷喩)(5/5)】 より

     花すすきひと夜はなびけ武蔵坊(むさしばう)

*武蔵坊弁慶に、一夜くらい女になびいてみよ、と呼び掛けている形。

     楊(よう)墨(ぼく)の路(みち)も迷はず行秋ぞ

     草枯(かれ)て狐(きつね)の飛脚(ひきやく)通りけり

     祐成(すけなり)をいなすや雪のかくれ蓑(みの)

*虎御前が恋人の曾我十郎祐成を折からの雪を隠れ蓑としてそっと返す場面。

     とらまへてひきよせ見るや冬の梅

*『忠臣蔵』七段眼の大星由良助のせりふを踏んでいる。冬の梅を賞美する心。

     くすり喰人にかたるな鹿ケ谷(ししがたに)

*鹿肉のくすり喰いのことは人に語るなよという密議を、平家追討の密議の場所であった鹿ケ谷によって暗示した。

     薬喰盧生(ろせい)をおこす小声哉

     乾鮭や琴(きん)に斧(おの)うつひびき有(あり)

     鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分哉   

     花守の身は弓矢なきかがし哉   

     出る杭(くひ)を打(うた)うとしたりや柳哉   

コズミックホリステック医療・現代靈氣

吾であり宇宙である☆和して同せず  競争でなく共生を☆

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