文・写真 金子昇
正月特別編「千両万両有り通し」
「万両は兎の眼持ち赤きかな」(加賀千代女)
明けましておめでとうございます。お正月に飾る一つ「センリョウ・マンリョウ・アリドオシ」の話です。
昔から赤い実が目出度い時に使われ、赤い実をつける「センリョウ・マンリョウ・アリドオシ」の3種を寄せ植えにして、正月の飾りとする習わしがありました。この3種はいずれも低木で、赤い実と常緑の葉が美しいので、花の少ない冬には盆栽に最適でした。
江戸後期、庶民の文化の一つ園芸が盛んになり、小野嵐山の園芸文献に「花家に多くあり、葉は百両金に似て短く...」と記されており、花家をさらに拡大解釈して「一万両金」と名づけたといいます。その後、別の赤い実を持つ「センリョウ」には万両に対して「千両」の名、さらに小さな「アリドオシ」には「一両」の名がつけられました。ちなみに百両は「カラタチバナ」、十両は「ヤブコウジ」につけられています。なお、アリドオシの名の由来は、茎に鋭い棘を持ち、小さなアリでも刺し貫くという説と、棘が多く出ているのでアリのように小さな虫でないと通り抜けられないという説とがあります。
「千両万両有り通し」とは「お金は一年中いつも有る」という意味です。
マンリョウの実は葉の裏に隠れるようにつき、センリョウは枝の先端につきます。これは万両(一万円札に例えて)は大切に財布の奥に隠しておくけれど、千両(千円札に例えて)はすぐ出しやすいようにという配慮からでしょう
https://ameblo.jp/yujyaku/entry-12882446528.html 【千両(せんりょう)】より
冬の季語(植物) 関連:実千両
千両や予想はずれて大勝利 せんりょうや よそうはずれて だいしょうり
冬季には、小鳥が好む赤い実を付ける植物が数多く見られるが、「南天」と並んでよく知られるのが「千両(せんりょう)」である。「南天」は民家の玄関先や庭などでもよく見かけるが、「千両」は寺社などの庭園で見かけることが多い。
名前に「両」というお金の単位がついているので、この名を初めて聞いた時は何かの間違いなのではないかと思った。そこで、名前の由来を調べてみると、江戸時代に園芸ブームがあり、様々な園芸植物が取引される過程で命名されたものだそうだ。(詳細は後掲の「千両」の概説を参照)
掲句は、3年前のW杯サッカーで日本がドイツに快勝したことに感激して詠んだ。大方の事前予想は7割が日本敗戦だったので、前半にPKで1点取られた時は、もうだめだろうと思ってTV(ABEMA)を切った。
その後、最終結果を確認すると、何と2対1で逆転勝利していた。何かの間違いじゃないかと思い経過を確認したら、後半30分と38分に値千金のゴールを千両役者が決めてくれていた。
尚、「千両」は「仙蓼」とも書き冬の季語。「実千両(みせんりょう)」ともいう。また「千両の花」「花千両」は夏の季語。
「千両」の自作句
千両や雨をまといて艶増せり 赤き実に倦んで目に染む黄実千両
穏やかに時は過ぎゆき実千両 千両や未だ舞台は整わず
千両や当たれば何するジャンボくじ
*原句一部修正
千両も万両もある古刹かな 千両万両役者揃いし裏参道
千両万両南天ありて恙なき
「千両」の概説
「千両」は、センリョウ科センリョウ属の常緑小低木。日本、韓国 (済州島)、台湾などに分布。観賞用に広く栽培され、正月の縁起物として生け花などにもよく使われている。
花期は6~7月。新梢の先端に黄緑色の小さい花を穂状に咲かす。10月~翌2月頃に赤い実を付けるが、園芸品種では「黄実千両」「白実千両」なども流通している。
*黄味千両
ところで、「千両」という名前はどのように付けられたのか。実のところ江戸時代に何度か園芸ブームがあり、そこで「唐橘(からたちばな)」が人気となり、百両以下では手に入れることができなかったため、「百両金」という異名が付けられたとのこと。
*唐橘=百両
そして、それよりも実が大きい当該植物「センリョウ」が「千両」と呼称され、葉の下に沢山実を付けるなるということで「マンリョウ」には「万両」という名がつけられたと言われている。(異説あり)
両のつく植物には、他に「十両」「一両」があるが「十両」は「薮柑子(やぶこうじ)」の、「一両」は「 蟻通(ありどうし)」の別名になっているが、いずれも、赤い実の大きさや数を考慮して付けられたそうだ。
*万両
「千両」の参考句
配されて石がもの言ふ実千両 /上田五千石 実千両日向に出ては手をひろげ /星野麥丘人
千両もて玄関飾り立てにけり /高澤良一 千両や筧一滴づつの音 /片山那智児
枝折戸を閉ざす山荘実千両 /五十島典子 千両や日陰をつねの遊女塚 /中村翠湖
活け終えし松の根締は実千両 /山崎道子 千両や筧の雫落ちやまず /水谷浴子
実千両猫がとほれば冴ゆるなり /太田鴻村 実千両見頃入居者募集中 /渡辺晃世津
【余談メモ:江戸時代の一両は現在のお金でいくら?】
江戸時代の一両は現在のお金に換算するといくらなのか。日本銀行金融研究所貨幣博物館のホームぺージQ&Aで以下の回答が記されている。
「江戸時代の貨幣価値を現在のものに換算するのは大変困難である。当時と現在では、世の中の仕組みや人々の暮らし向きが全く異なっているからである。一応の試算として1両を米価、賃金(大工の手間賃)、そば代金と比較してみると、米価は1両=約4万円、賃金で1両=30~40万円、そば代金では1両=12~13万円になる。また、米価から換算した1両の価値は、江戸時代の各時期において差があり、初期の頃で10万円、中~後期で3~5万円、幕末頃は3~4千円になる。
上記に従えば、幕末記を除けば大雑把に5万円から10万円(高くて30万円)ぐらいといっても間違いではないだろう。そのように考えれば、「千両役者」は、今でいう「5000万円から1億円プレーヤー」ということになる。興味深いことに、現在の十両力士の月給は110万円だそうだ。
https://ameblo.jp/yujyaku/entry-12882573290.html 【万両(まんりょう)】より
冬の季語(植物) 関連:実万両
万両やゴーンと響く寺の鐘 まんりょうや ごーんとひびく てらのかね
掲句は6年前に詠んだ句だが、あるお寺の庭を散策している時に、あちらこちらで「万両」の実がたわわに垂れているのを見て詠んだ。中七の「ゴーン」は鐘の音の擬音語だが、実は、ある有名人の名前にかけたものである。
その有名人とは元日産自動車のCEOカルロス・ゴーン氏。1999年6月に日産自動車の最高執行責任者(COO)に就任し、倒産寸前の日産自動車を再建してV字回復に導いた。また、電気自動車(EV)への積極投資を行うなど、その業績拡大に貢献した。
しかし、その功績とは裏腹に数々の不正が発覚し、2018年に金融商品取引法違反で逮捕され、2019年に会社法違反(特別背任)で追起訴された。しかし、保釈中の同年12月にプライベートジェットでレバノンに逃亡した。現在公判停止中。
たまたま、このスキャンダルが世間を賑わしていて、ゴーン氏の不正にかかる金額が数十億円とも数百億円とも言われ、「万両」の現在価値にも符合すると思い掲句を詠むに至った。ただ、そのスキャンダルを知らない人には、掲句の意味が今一分からないかもしれない。
「万両」は「万両の実」「実万両」とともに冬の季語。「万両の花」は夏の季語。
「万両」の自作句
万両もあれば何する実はたわわ 実万両足るを知りたる姿かな
足ることを知れば安心実万両
「万両」の概説
「万両」は、サクラソウ科ヤブコウジ属の常緑小低木。原産地は日本や朝鮮半島、台湾、中国など。果実と常緑の濃緑色の葉を観賞する縁起植物。
*古いクロンキスト体系や新エングラー体系ではヤブコウジ科に分類されていたが、最新のAPG体系ではサクラソウ科に分類される。
花期は7月~8月で白い鈴のような花を咲かす。11月~12月頃に赤い果実をつける。黄色の実の「黄実万両」、白い実の「白実万両」がある。
*万両の花 (7月中頃撮影)
「千両」も同じような赤い実をつけるが、これは、センリョウ科センリョウ属の植物で科属が全く違う。但し、「百両」の「唐橘(からたちばな)」、「十両」の「藪柑子(やぶこうじ)」とは同科同属である。
*白実万両
名前は、「千両」の項目でも触れたが、江戸時代に「唐橘」が「百両」と言われ、それよりも大型のセンリョウが「千両」、実がたくさん垂れるマンリョウを「万両」と呼称されるようになった。
「万両」の参考句
万両の実は沈み居る苔の中 /高浜虚子 杉苔に万両溺れ寂光土 /富安風生
座について庭の万両憑きにけり /阿波野青畝 万両やつねのこころをたひらかに /森澄雄
万両のひそかに赤し大原陵 /山口青邨) 万両の紅をかざりてのぼり窯 /柴田白葉女
万両の下まだ濡れずしぐれをり /福永耕二 万両や市の女の声透る /原田逸子
万両のしだれる先に雨雫 /小久保ユウ 抱くたびに子の言葉増え実万両 /野田禎男
https://ameblo.jp/yujyaku/entry-12882698439.html【蟻通し(ありどおし)】より
冬の季語候補(植物) 関連:一両
蟻通し駄洒落の多き縁起物 ありどおし だじゃれのおおき えんぎもの
名前に「両」が付く植物で「千両」「万両」があることはよく知られているが、「百両」「十両」「一両」と呼ばれる植物があることは、あまり知られていないかもしれない。
この内の「一両」は、もっとも小さな実を付けるということで名づけられた。元々の名前は「蟻通し(ありどおし)」で、葉のつけ根に長い棘があり、それが蟻を突き刺すほど鋭いことから付けられたとのこと。
また、赤い実が冬から春先まで長期間残ることから「有り通し」とも記し、「千両」「万両」と並べ「千両万両有り通し」と語呂合わせされ縁起物になっているそうだ。即ち、「千両、万両のおカネがいつも有り続けて困ることがない」 という具合に。
掲句は、そんな謂れを知り、改めて縁起物には駄洒落やこじつけが多いなと思って詠んだ句である。正直こんなものを信じてどうすると思う反面、こんなものを信じる?日本人の大らかさ、大まかさを改めて思い知った。
駄洒落(こじつけ)のような縁起物と言えば、お節料理などでもよくみかけるが、後掲の「備考メモ」にいくつか例示しているのでご参照いただきたい。
尚、「蟻通し」=「一両」は季語ではないが、「万両」「千両」と同時期に赤い実を付けるので、冬の季語に準じる候補として用いたい。
*候補とは、現在は季語としては認められないが、将来的に季語になる可能性があるもの、あるいは季語になって欲しいもののことをいう。
「蟻通し」の自作句
一両と言えど大金蟻通し
「蟻通し」の概説
「蟻通し」は、アカネ科アリドオシ属の常緑低木。本州(関東地方以西)から沖縄に自生する。
花期は4~5月頃。葉腋に筒状の白い4弁花を通常2個ずつ咲かせる。果実は液果で直径5~6mmの球形。冬に赤く熟し、翌春までの長期間枝に残る。
*蟻通しの花 (5月中頃)
「蟻通し」の参考句
*「蟻通し」「一両」は季語になっていないこともあり、詠まれた句はほとんどないので、参考句は割愛する。
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