都市中央句会

https://e-muse.jp/blog/kukai/kukai-6472/ 【都市中央句会 主宰 中西夕紀様(東京都・町田市)都市中央句会】より

主宰 中西夕紀様(東京都・町田市)

 東京都の一番南に位置する町田市。10月25日、町田市民ホールで行われた「都市中央句会」にお邪魔しました。「都市」は平成20年2月、中西夕紀さんが東京で創刊。有季定型を守り、各々の個性を尊重した俳句創作をめざしている。また、先人の俳句から学ぶため、現在、月1回古典俳句勉強会(江戸時代)」や現代俳句勉強会(正岡子規以降)を開いているほか、有名作家の代表句集の輪読会および吟行、題詠句会も盛んに行われるなど、多岐に俳句を学べる機会を設けている。

そして、本日の中央句会は5句出句の5句選(うち特選1句)のあと、披講、点を入れた句に対する各人と主宰の講評というオーソドックスな句会。合計155句は、どのように解釈され心に響くのであろうか。

◎まずは、高得点句より

物落つる音や林は霧の中 渡辺茫子

木の実が落ちてくる音だけが聞こえ、他には何もなくそれが霧の中だったという句/何が落ちたと言わないで「物」といったところに作者の驚きと、林の広さが出た拡がりのある句。

中西:見えないものが、見えないところで落ちた。音だけに集中してつくられていていいのだが、「林は」の「は」が気になった。「の」にすると、落ちたものに焦点が集まる。

芋やうかんぶら下げてゐる秋祭 吉川わる

秋祭の何ということはない句なのに、羊羹をぶら下げている人がよく見えてくる/決して大きくはない身近なお祭りでのことだと思うが、芋ようかんがよかった。

中西:普段着の、親しみやすいお祭りの感じがよく出ている。

秋湿り軍手の中の爪に土  堤 萌

一所懸命に作業をしている景が見えた。

中西:軍手の中のことまで具体的にしっかりと描け、力を入れて作業した感じが伝わってくる。

林檎噛む原稿用紙白きまま 杉本奈津子

硬い林檎だったと思うが「林檎噛む」に、思案にくれている様子がでている/噛めば何かが生まれるのでは? と思ったが、あるのはりんごと白紙の原稿用紙という無念さ。

中西:私もしょっちゅうこういう状態なので、共感していただいた(笑)。

無題

▲「都市」(隔月刊)通巻47号

源平の帽子八百運動会 樋口冬青

運動会といえば、ふつう紅白帽や赤白帽というところを、源平の帽子とした表現が面白く、運動会も立派に見えてくる。

中西:「軍は合わせて八百で―」と、源平の戦記を読んでいるみたいでおもしろい。

雀蛤にスカートを皆ゴムに 野川美渦

「に」でつないで、雀が蛤になってスカートがゴムになったと、散文的な表現で「雀蛤となる」という難しい季語に挑戦している。「を」は「は」にした方がもっとはっきりと対比がでたと思う。

眠る猫いつか秋日の影にをり 盛田恵未

日向ぼっこをしていたはずの猫が、時のうつろいにより、いつの間にやら日影にいるというその様子がよくでている。

菊日和「ペテロ」の名もて兄逝けり 川合岳童

「ペテロ」はクリスチャン名だが、和風の「菊日和」で日本人だということがわかる。

中西:「菊日和」をもってきたことで大往生だったのかと。「ペテロの名もて」がいい。

ここでチラリと中西先生の手元を見ると、選んだ句に〇がついているほかは、一切のメモ書きなし! 頭に整理されたことを、その場その場で話されている様子に、はたで一人たじろぐ。

櫨紅葉うだつ上がりし蝋の町 安藤風林

櫨紅葉を詠っているようで、櫨の実が蝋の原料であり、その蝋をとって一旗あげた、つまりうだつが上がったということまでうまく詠んでいる。

中西:財を成し、うだつを上げた大きな家が見えてきた。

穂芒の高さ違へて光り合ふ  丸山 桃

「高さ違へて」に、透明感が感じられていい/「月一輪 凍湖一輪 光り合ふ」という橋本多佳子の句を思った。

中西:高さを違えているのは、起伏のある戦場ヶ原のような芒原なのかと。そこがおもしろい。

雲水の白足袋駅の初時雨  森 有也

寒々としていて、白足袋の白さと初時雨がとても合っている。

中西:雲水の句はたくさんあるが、ふつう雲水といったら裸足。それを白足袋を見たところでいただいた。

別れ路のもみぢ一葉や栞なす 甲光あや

あまりにきれいな紅葉で、帰って栞にしたという句。

中西:1つ注意したいのは「もみじ」は「もみぢ」。記念に紅葉を栞にしてノートにはさんだ、そこらへんをうまく詠った。切れが効いている。

ゐのこづち素数のやうな夫でよし 岩原真咲

素数は割り切れない数字。素数のやうなという表現がとてもいい。そのままの夫でいてほしい、という夫への愛情を感じる/私の夫とは違う人を想像して、ただうらやましいなと(笑)。

中西:べたべたしたのはいやだけど、夫恋の歌もこのくらいなら採ってもいいかな(笑)。

田一枚二つに割るや稲架襖 大木満里

稲刈りのあと、稲架が田を二つに割っている景がはっきり見えた。

中西:気になったのは「襖」。「霧襖」など、かなり大きなものを想像させるのが「襖」。田一枚分の稲架では襖とは言えないので、襖は替えた方がいいが、田を二つに割ったというのがよかった。

生きるもの風に顔挙げ烏瓜 永井 詩

「生きるもの」と大上段からきて、そこによくある烏瓜。きれいに詠っている。

中西:顔を挙げて風に真向かっていくなんて、生きる強い姿勢がでている。

銀山の間歩は閉ざされ赤のまま 坂本遊美

中西:間歩は坑道のこと。廃坑と言わず間歩と言ったのがよかった。路傍に咲いている赤のままもよく効いている。

◎先生の特選 5句

背伸びして触れたる風や荻の花 大木満里

「背伸びして」とあるので、先生くらいの身長の方かと思ったら満里さん。ずいぶん大きい荻の花だ(笑)。実に気持ちのいい句。

中西:「背伸びして触れたる風」がいい。まさか長身の満里さんとは。背伸びして手を伸ばしたら風に触れた、荻の花の高さが出ていてなかなかの発見。

句会

草の穂の紫紺の風を放ちけり 秋澤夏斗

景を大きくする言葉は使われていないが、穂草の広い草原が見え情景豊かな句。

中西:風に揺れている穂が紫紺に見えた、この辺が詩情豊かできれい。

跳鯊の潮騒をきく大目玉  石黒直子

普通耳で聞くところを、大目玉で聞いたとしたところに新しみがある。

中西:干潟の穴から、目玉だけ出して潮騒を聞いているユーモラスでかわいい跳鯊が見える。

鯉の背を踏まんばかりに鴨来たる 三森 梢

写生句。鴨密度の高い池で、鯉の背すれすれに飛ぶ鴨がユーモラスに描かれている。

中西:「踏まんばかりに」に鴨の着水の足が見えている。見たことをかなり強調しているが、より印象を鮮明にしている。

動くものなき日干し池秋立てり 井上田鶴

破調ではあるが、非常にしまっていて秋の日干し池の感じがよくでている。

中西:水を抜くと、鯉やブラックバスがぴちゃぴちゃ跳ねていてほしいところ。なんにもない、残念な感じが「動くものなき」に出ている。

ながあめの鰯はからくからく炊く 北杜 青

長雨だとなぜ辛く炊くのかはわからないが、そうだなぁと納得してしまった/実感だと思う。雨がしとしと降っているときに、薄く炊いた鰯は生臭くて食べたくない。しっかり焚けばもちもいい。

中西:実感というより、ドラマチックで文学性の高い句。何がどうなのかは関係なく、この句の世界で遊んでいればいいと思わせる句。

◎他の作品

紅葉山ついうかうかと深入りす 城中 良

蟷螂に声を掛ければ睨みけり 酒匂了太

秋麗の街を引き寄せ赤城山 松井葉子

野良気取る猫の夜遊び藁ぼつち 大矢知順子

住みなして稲穂の美しきところなり 小林 風

内堀は桜紅葉の大手門 高橋 亘

花野行二輌列車の切符買ふ 永澤 功

縁側に母の髪梳く菊日和 永澤美紗子

◎中西夕紀さんの3句

日の差して幹に遠近菊膾

身じろがぬこと月光に習ひゐる

窓拭きの人爽涼と下りて来ぬ

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▲メンバーがどんどん増えるまさに「都市」!

★たまたま当日、見学で初参加した方がいみじくも言った。「みなさん、明るいいいお顔で次回もぜひ参加したい」と。以前には中西主宰に「そんな表現ごまんとある」「あなたの俳句はなってない」と言われ、悔しくて飲みにいったこともあると言っていた同人の面々も、今や会を運営する中心メンバーとして大きく羽ばたいている。愛らしい笑顔で、全体をよく見て的確に指摘し、適材適所の役を与える。人を見る目、育てる力が確かなのだ。勉強したいなら「都市」へと言われる所以だ。11月からはまた新たな支部ができ、来年3月からは首都圏の中学校、高校を対象に俳句教室をスタートするという。全体が熱心で情熱にあふれていた。 (木戸敦子)

コズミックホリステック医療・現代靈氣

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