https://crd.ndl.go.jp/reference/entry/index.php?id=1000296120&page=ref_view 【レファレンス事例詳細】より
質問
アレロパシーの作用について説明されている児童書が読みたい。
回答
①には、アレロパシーについて、「植物は動物とちがって、動くことができません。牙や爪のような武器ももっていません。それで、葉を食べにくる昆虫や動物から身を守ったり、自分の陣地を確保したりさらに広げようとして、アレロパシー物質(他感物質)という特殊な物質をわざわざ作っているんだ。動物は生きていくのに必要な物質しか作らないんだけれど、植物は自分に不必要な物質をたくさんふくんでいることがあるんだ。人間にとって薬となる「抗生物質」や「漢方薬」の成分、毒だけれど薬としても使える物質、トウガラシやワサビの辛い成分、コーヒーやお茶にふくまれる目覚まし効果があるカフェイン、ミントなどのハーブにふくまれるよいにおいの成分など、人間の役にたっている植物独自の成分の本当のはたらきはアレロパシー物質であるらしいんだ。」「植物が自分のからだの中で特殊な物質を作り、根や葉や花から放出して、他の植物や微生物、昆虫や動物に、なんらかの影響をあたえる作用を、「アレロパシー」というんだ。他感作用ともいうよ。ほかの植物に対して、その物質で嫌がらせをすることが多いんだけれど、その逆のはたらきをすることもあるんだ。」と記載がある。さらに、「アレロパシーは、植物にとっての生き残り作戦であり、武器なんだ。でも、相手をみんな殺してしまうほど強いわけではない。また、ときには相手の役にたつ物質を出して、なかよく暮らそうとしていることもあるんだよ。一緒に栽培したとき、お互いの生育がよくなる組み合わせもあって、これにもアレロパシー物質が関係していることがあるんだ。アレロパシーは目に見えないので、気がつきにくいけれど、こんなはたらきを、未来の農業にも役立てられるといいね。」と記載されている。
②には、「化学物質を出してなわばりを広げる」として、「セイタカアワダチソウが急速に繁殖したのは、ふえる力が強いことに加え、根から化学物質を出して、ほかの植物の発芽や成長をおさえているからです。植物が化学物質を出して、ほかの植物や動物に作用することを、「アレロパシー」(他感作用)といいます。」と記載されている。
また、「アレロパシーをもつ植物」として、「ローズマリーやヘアリーベッチ、ソバなどは、ほかの植物の成長をじゃますることで知られる。ヘアリーベッチは、紫色の花をつけるマメ科の植物で、地面をおおって雑草を防ぐため、果樹園の下草に使われる。」と記載されている。
また、「環境にやさしい農薬」として、「アレロパシーを引きおこす化学物質を取り出して農薬として使おうとする研究や、アレロパシーをもつ植物を農作物といっしょに育てて、農業に役立てる研究がおこなわれています。研究が進めば、合成農薬を使わなくても、農薬と同じ効果が得られるかもしれません。」と記載されている。例として、「バラとユリ、トウモロコシとマメ、トマトとバジルなど、近くに植えるとよく成長する組み合わせがある。これらもアレロパシーによるものと考えられ、研究がおこなわれている。」「全体に毒をもつヒガンバナは、モグラやネズミが穴をほるのを防ぐため、墓地や田んぼのあぜに植えられている。」と記載されている。
③には、「せいたかあわだち草は、根から周囲の植物の成長を妨げたり、もぐらなどの動物を追い払ったりする、化学物質を出す。アレロパシーといって、生存競争に勝つための戦術だ。ところが、長い年月、同じ場所に集まっていると、自分たちが出した毒に自分たちがやられる。最近、せいたかあわだち草の大群落が少なくなったのと、「せいたか」ではなくなってきたのは、人間が駆除したせいでもあるけれど、このアレロパシーのせいでもあるんだ。」と記載されている。
④には、セイタカアワダチソウの項目で「おそろしいアレロパシー作用」として、「湿原など自然の豊かな環境に入ってしまうと、貴重な在来植物の生長をさまたげる物質を出し、一面にひろがってしまう可能性があります(アレロパシー作用)。アレロパシー作用は強力で、いずれはセイタカアワダチソウそのものも弱っていってしまうほどです。」と記載されている。
参考資料
①藤井義晴『植物たちの生き残り大作戦』 新星出版社,2020,175p. 参照はp.170-171.
②『すごい自然図鑑』 PHP研究所,2011,127p. 参照はp.89.
③柳原明彦『調べてなるほど!花のかたち』 保育社,2017,141p. 参照はp.81.
④ネイチャー&サイエンス『外来生物ずかん』 ほるぷ出版,2016,127p. 参照はp.91.
https://minorasu.basf.co.jp/80067 【アレロパシーとは? 野菜栽培に役立つ具体例を紹介【雑草・病害虫対策】】より
アレロパシーとは? 野菜栽培に役立つ具体例を紹介【雑草・病害虫対策】
出典 : papilio / PIXTA(ピクスタ)
「アレロパシー」とは、植物が自ら分泌する化学物質を利用してほかの植物や虫への抑制・忌避・殺虫・殺菌などの作用をもたらす効果のことで、農業での活用が進んでいます。「持続可能な農業」への有効な手段として注目されるアレロパシーの現状を解説します。
環境への負荷の少ない持続可能な農業が求められる中で、従来とは違う方法による雑草や病害虫の防除法として「アレロパシー」が注目されています。植物が自ら放出する化学物質を活用し、植物を使った「天敵農法」ともいうべきアレロパシーの効果や実用性について探ります。
アレロパシーとは?その言葉の意味
最近、新しい農法として徐々に浸透してきつつあるアレロパシーとは、実は1937年、東北大学植物生理学講座の初代教授H・モーリッシュが、オーストリアに帰国後に出版した本の中で発表された概念です。
アレロパシーとはギリシア語で「お互いの」と「あるものの身に振りかかるもの」を意味する言葉を組み合わせた造語です。日本語では「他感作用」と訳され、他感作用を引き起こす物質を「他感物質」といいます。
アレロパシーとは、植物が放出する化学物質が、ほかの植物や虫に対して殺菌や成長・発芽の抑制、忌避作用などにより阻害的に作用したり、生長の促進など共栄的に作用したりするなど、よくも悪くも何らかの作用をもたらすことをいいます。このようなほかへの影響力を「アレロパシー活性」といい、植物によって影響力には違いがあります。ユキヤナギ、スズランは高いアレロパシー活性を持つことがわかっています。
日本では、セイタカアワダチソウのアレロパシーについての研究が行われ、特定の種の植物がほかの植物を駆逐して場を占有する原因の一つが多感作用にあると報告されました。
ただし、アレロパシーの作用は常にどの生物に対しても起こるのではなく、限定された条件下でのみ起こるという特徴があります。特定の品種同士を並べたときにだけ何らかの作用が起こり、条件が異なると全く作用しません。
組み合わせ・条件によってどのような効果をもたらすかは、これまでにも多くの報告がありますが、今後さらなる解明が期待されています。
アレロパシーを持つ植物とその作用の例
アレロパシーの具体的な作用の例を挙げてみましょう。アレロパシーの作用は光や水分、養分の競合による影響と区別しにくく、これらに比べると寄与率も低いため実証は困難とされています。
しかし、これまでの研究で学術的に実証された識別方法もあるので、ここでは作用物質を含めて紹介しましょう。
先述の「セイタカアワダチソウ」の研究では、「ポリアセチレン」(注)という化学物質を分泌し、ほかの植物の発芽を抑制することが報告されています。同じようにポリアセチレンを含む植物としては、ヨモギ、野菊、ヒメジョオンなどがあります。いずれも、ほかの植物を寄せ付けず繁茂する雑草です。
(注)ポリアセチレン:アセチレンガスの重合化合物。特定の操作を行うことでり電気を通すようになるプラスチック、導電性高分子として知られています。
例えば「そば」は、昔から雑草との競合に強いことが知られ、手入れのできない遊休農地の活用に利用されてきました。これは、そばの生長が早くほかの雑草よりも先に葉を広げ日光を遮ることや、養分を吸収する力が強いことが理由とされてきました。
それに加え、そば類に多量に含まれるルチン、没食子酸、カテキン、ファゴミンなどのアルカロイドがほかの植物の生長を阻害する他感物質であり、「そば」の繁殖にアレロパシーも関わっていることがわかっています。
そば 花畑
農業におけるアレロパシー活用の具体例
日本でも近年、アレロパシーを農業に活用する事例が増えつつあります。例えばトマトとハーブの一種であるバジルを一緒に植えることで、お互いの生長が促進されることはよく知られています。一方で、連作障害にアレロパシーの作用が関係していたことが明らかになった事例もあります。それらを紹介しながら、農業とアレロパシーの深い関係を探ります。
ヘアリーベッチによる雑草抑制
「ヘアリーベッチ」とは、「ビロードクサフジ」という和名を持つ、つる性のマメ科の草本植物です。近年、窒素やカルシウムなどの肥料成分が豊富で分解が早く速効性も高いことが評価され、水稲や小麦の後作緑肥として、また休耕地や遊休農地の管理に適するとして急速に普及しています。
秋播きをすると雑草をほぼ抑制できるうえに緑肥としての効果が高いため、落葉果樹の下草管理としても広く活用され、今や日本の農業生産になくてはならない存在となりつつあります。
最近は、このヘアリーベッチが強い雑草抑制効果のアレロパシーを持つことが判明し、さらに注目度が高まっています。ヘアリーベッチの持つ他感物質は石灰窒素の成分でもある「シアナミド」で、除草、殺菌、種子休眠覚醒などの効果があります。
ヘアリーベッチがこれから後作をおこなう農地や、休耕地や遊休農地といった栽培跡地の雑草をほぼ完全に抑制できるのは、このアレロパシーの作用が大きく影響しているといえるでしょう。
マリーゴールドによる虫害対策
マリーゴールドはアレロパシーを持つ植物として特に有名です。葉や根から分泌される「テルチオフェン」が他感物質で、殺虫作用を有しています。土壌の線虫などに殺虫効果があるとされています。
アレロパシーが原因で起こる連作障害
アスパラガス
野菜の中でアレロパシーをもつ種がアスパラガスです。他感物質はアスパラガスから発生する「アスパラガス酸」で、ほかの植物の発芽や育成を阻害します。
ところが、アスパラガスの場合、長期間同じほ場で栽培するケースが多いため、他感物質の成分濃度が次第に濃くなり、アスパラガス自身が自らの他感物質に影響を受けることがあります。
アスパラガスの連作障害は、こうしてアレロパシーが自分にも作用し株が弱っているところへ、立枯病や株腐病の原因菌であるフザリウム属菌類などが感染することによって、引き起こされると考えられています。
アレロパシー産業利用への高い期待
「生物系特定産業技術研究支援センター」では、植物をスクリーニングし、高いアレロパシー活性を有する上位20種を一覧にしています。これはアレロパシー活性の高い植物はほかの植物の生長を抑える化合物を持っている可能性が高く、環境への負担の少ない農薬の新たなリード化合物(新薬の候補となる化合物)となりえるからです。
アレロパシーを利用した病害虫や雑草の防除は、今後求められる持続可能な農業において、大きな力を発揮することが期待されています。アレロパシーと化学的防除を組み合わせることで、環境負荷の低減と生産性を両立した農業が実現していくかもしれません。
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