https://e-muse.jp/blog/kukai/kukai-8837/ 【青群 三樹彦俳句サロン塚口 顧問 伊丹三樹彦様(兵庫県・尼崎市)】より
青群 三樹彦俳句サロン塚口 顧問 伊丹三樹彦様(兵庫県・尼崎市)
9月17日(日)、本誌「フォトイック」のコーナーでもお世話になっている伊丹三樹彦さんの句会「青群 三樹彦俳句サロン塚口」にお邪魔しました。お住まいのマンションのフリースペースで行われている句会は月に4回。この日は夕方に台風が直撃するということもあって、予定より少し早めにスタート。さて97歳の伊丹さん、どんな句会となるでしょうか。
▲自らを「句泉翁」と称す97歳の伊丹三樹彦様
まずは、「根っこも茎も咲く前も咲いてからもぞっこん」という「彼岸花」を詠った伊丹さんの20句が出され、各人が好きな句を選び講評します。
足元はすっぽんぽんの 彼岸花
彼岸花は多少暗いイメージもあるが、花は華やかなのに足元は葉っぱの一枚もない、それをすっぽんぽんと詠んだユーモア/ほんと俳句ですっぽんぽんは、よー言わんわ。先生だから使える。
伊丹…私も今だから使える。十代、二十代なら使えない。
私今でも恥ずかしいわ(笑)。
彼岸花折るに掛声立てるとは
昔、彼岸花の汁は毒やから折ったらいかん、と言われた。折る際にも掛け声が必要なそんな気持ちになる花、彼岸花の本位本質を感じた。
伊丹…年を取ると自分自身にも「よっしゃー」とかなんでも掛け声が出る。道端の花を折るにも掛け声を出さんと折れない。そういう老いたる我を宣伝しよう思て作ってんねん。皆さんも97歳になったら私の心境がわかります。
先生の心境わかりませんわ、そんな長生きできませんから(笑)。
▲季刊「青群」叢行人は長女伊丹啓子さん
続いて、提出した一人2句を青、赤とした別々の紙に精記し、それぞれから3句選、うち1句を特選とする。同じ人の句が選ばれないよう、各人のチャンスが多くなるよう配慮されている。
◎青 高得点句より
いくさいや核いや飛ばすは紙風船 三樹彦
北海道にはミサイル、九州には台風、よくないものばかり飛んでくる。普段から思ってますのにこういういい句はできなかった(笑)/子どもが遊ぶ平和な情景も見えてくる。
伊丹…いくさいや核いやとやさしい表現にしたが、今一番訴えたいこと。核に核では地球は破滅する。広畑さん、今の「いや」の読み方ええなぁ。もう一遍読んでみて。(広畑さん再読)ブラボー!
石段を一段飛ばし秋高し 友子
いいお天気の秋の日、一段飛ばし出来てたわ、前は(笑)/秋高しと一段飛ばしが呼応して気持ちの軽やかさが出ている。
伊丹…みんな少年少女時代を思い出すんとちゃう? 幼いときは早く大人になりたいと未来を思っていた。今は過去が夢。シャボン玉、紙風船、かくれんぼ…少年時代の思い出で盛んに今俳句を作っている。回想でどんどん俳句を作れるから、この前入院した半月で300句作った。俳句は何でもラッキーチャンス。皆さんよかったね、過去を夢として作ってください。
作者…まだ一段飛ばしできます、時々こけますけど(笑)。
生き方に上手下手ありこぼれ萩 銀次郎
こぼれ萩との取り合わせ、奥深い人生を詠っている。
伊丹…「生き方に上手下手あり」なんて先生口調やねん。「生き方に上手下手の世こぼれ萩」でええ。
草むらに息づくものら星月夜 朋子
上の世界と下の世界とで秋を詠っている/小さな命を詠っているところに秋の風情を感じた。
伊丹…草むらや石や岩の裏、そういうところに息づいている生き物がたくさんいる。
制空権ありや無しやと鳥渡る 京子
空も海も危ういことが多い。鳥はそんなことを考えずに行ったり来たりしている。
伊丹…渡り鳥には制空権も制海権もいりません、歳時記にも解説はありませんわね。渡り鳥になってみたい。
人生はいつもこれから秋の声 久刀
過去は過去、非常に前向きでいい/そやん、これからやん!こういう風に生きたいと思った。先生もこれからですよね(笑)。
伊丹…せやな。毎朝、起きると布団で浮かんだ今朝の言葉を書き留めている。今日は「日々新生 夜々夢中」。
台風過子午線越える鰯雲 八頼子
子午線は見えないが晴れ晴れした気分がでている/明石の方かな、子午線を実感として生活しているのだと感じた。
伊丹…私なら子午線ではなく「赤道越える」にするが、明石の八頼子さんなら仕方ないな。「台風過赤道越えは鰯雲」の方が強く訴える。
風にシャツ奪われた日の鶏頭花 砂代里
鶏頭の花は野性味があって素朴で風が似合う、取り合わせが素敵。
伊丹…奪われた日のではなく「風にシャツ奪われたまま鶏頭花」とした方が鶏頭花の上にシャツがのっかったままという感じがでる。
指先の旅は宇宙へ盲ろうの まき子
障がいのある方は神経が鋭敏と聞く。宇宙へと広がっていく感覚が発見だと思った/手で表現することと、それを慈しむ目で見ている作者が優しい。
伊丹…盲ろうは難しい。俳句は一般市民が読んで手をたたくような作品を作らんと。俳人が作って俳人が読んで喜びあって、そんなに俳句をせばめたらいかん。「目を病む人」でいい。まき子さんあんた俳人やね(笑)。
▲枕元に置いている紙に書く「今朝の言葉」
◎赤 高得点句より
合性の筆は一本 白椿 三樹彦
好きな筆はそればかり使う/言い切ったところと白い椿が潔くてきりっとしている。
伊丹…のろけますけどね、亡き妻に捧げる「合性の女は一人伊丹公子」三樹彦。たった一人の女を幸せにしてあの世へ逝かせた、ええ男や思うわ(笑)。
大根蒔く水の地球を信じつつ すず子
水の地球がいい/何かを信じて毎年同じ仕事をする、大きなものと同時に日常生活を詠んでいてうまい。
伊丹…「水の地球」が立派やね、これに惚れた。水がなかったら生きていけない。さっき「だいこん」と読んだけどそう読むんは大根役者や、「だいこ」と読まんと。蕪にしたら読み違いないな(笑)。
佳きことは伝えておこう 仏壇に 秀子
仏壇に言うのは小言とか、悲しいことが定番。こういう自覚はなかったのでハッとした/今日いいことあったな、俳句はよくなかったけど、とかいいことを伝えるようにしている。これからもそうありたい。
伊丹…佳きことが抽象的。「仏壇に伝えておこう特選句」でいい。
作者…特選の時はそうします。ないから困る(笑)。
秋晴れや真っすぐに打つ五寸釘 銀次郎
真っすぐに打つ、にこの方の心意気が表れている/秋晴れの空がすっこーん、五寸釘もすっこーんと入る、その空気の良さが詠われている。
伊丹…真っすぐに打つ五寸釘なんて、職人やったら当たり前やねん。「秋晴れや真っすぐ打てた五寸釘」。
大夕焼この街に生きてボランティア 久刀
前向きで気持ちが燃えているような若々しい句/誠実に生きて町の人にも信頼されて満ち足りた感じがする。
伊丹…この街に決まってるんやから「大夕焼街に生きてのボランティア」。添削向きの俳句やなぁ(笑)。
コスモス畑真っ只中の四面楚歌 斐子
コスモス畑に入ってみたら四面楚歌という気分、よくわかる。
伊丹…四面楚歌がうまい。「四面楚歌コスモス畑の只中の」。
母逝きぬ軒の干し柿吊りしまま 友子
こういう類いの句は多いと思うが、干し柿が渋い/干し柿は時間がかかる、食べられなかったなーという感じが出ている。
伊丹…干し柿なら吊っていることはわかる。「母逝きぬ軒の干し柿揺れるまま」としたら風と作者の心の揺れも出てくる。お母さん今どうしてるんやろなーて。こんな句大好きやねん。詩心がある。
噴水と雲の接点四季の園 洋子
伊丹…「噴水と雲の接点四季花園」にしたら、単なる公園でなく花が浮かんでくる。
▲皆さん終始笑顔、明るい明るい!
★3月にお会いする予定が伊丹さんの入院で延期となり、今回実現した待望のご対面。誰よりも元気な声が響くホールは常時笑いで満たされ、伊丹劇場かと思いきや、そこはさすがに関西の方々。言われてもただでは引き下がらず、それ以上に面白いラリーを返し、掛け合いが終わらない。豊の秋に、経験豊かで表情豊か、言葉豊かで何よりも気持ちの豊かな師とそのお弟子さん達の本当に楽しい会と出会うことができた。(木戸敦子)
▲記念写真の重要さを思い写真とその説明、1句を付した最新刊「メモリーフォト&ハイクコレクション 俳句愛のわが友垣」
▲玄関には「合性の女は一人伊丹公子」との人形が
「これ似合うやろ。一番好きなネパールの帽子や」。突き出たお腹に、つい「今8ヵ月くらいですか?」と問うと「ちゃうねん80歳や」。事前に頭に入れていった、リアリズム・リリシズム・リゴリズムの「三リ主義」を標榜し、超季、分かち書き俳句を推進。1970年には写真と俳句の相乗による「写俳」運動を創始し、現代俳句大賞を受賞する他、様々な賞を受賞…といったプロフィールは雲散霧消。ただただ明るく楽しく愛らしく、その人としての光に浴していることが心地よかった。
だからだろう。多いときは日本全国、月に27回の俳講に参加し海外も可能な限り旅をしていたが、蟄居の身となった今も居ながらにして多くの方が足を運び、便りを寄こし、声を聞きに電話をしてくる。夜中の2時過ぎに目が覚めると枕辺の紙に5~10句を書きつけ、起床してからはそれらを推敲しながら原稿用紙に書くという日常。努力というべきか句作80年の所業というべきか。「人は死んだら灰になるだけや。この人はどんなこと考え生きていたかを形で残さんと。死んでからやなくて生きているうちに」。人生は「愛と死と旅」と言い切った伊丹さん。どこまでも旅は続く。
https://e-muse.jp/blog/kukai/kukai-8672/ 【纏(まとい)句会 主宰 伊藤伊那男様(東京都・千代田区)纏(まとい)句会】より
主宰 伊藤伊那男様
連絡先 「銀漢亭」
東京都千代田区神田神保町2 ― 20
TEL 03 ― 3264 ― 7107
まだ若葉まぶしい5月27日、日本橋「鮨の与志喜」で開かれた第81回纏句会にお邪魔しました。主宰は「銀漢」主宰で神田にある「銀漢亭」のご主人でもある伊藤伊那男さん。
本日の兼題は「卯月」「蛇」「山女」「石楠花」、席題は「峰入り」「南瓜の花」「明易」と当季雑詠3句、合計10句出しの10句選、うち1句を特選とします。今日は特別に主宰の母校伊那北高校の後輩で「海程」同人、ニューヨークから帰国中の月野ぽぽなさんがゲスト参加。合計12名の句会スタートです!
小綺麗なお鮨屋さんのカウンターを横目に、不肖木戸も「峰入り」って何!? 初めて聞いたんだけど…と、当日の席題を半ばヤケ気味にでっち上げる。個室にひしめき合いながら、選句、披講をした後はカウンターに場所を移し、美味しいお酒とお料理をいただきながら、各人が採った特選について講評をし、あとは自由に意見を述べていく。
▲主宰の伊藤伊那男さん(左)とゲストの月野ぽぽなさん
朝の茶の香り卯月と思ひけり 大和
新茶とは言わずさらりと朝の茶と詠んだことで、落ち着いた生活がにじみ出た。
峰入り(※)の先づの一歩に躓けり 伊那男
峰入りを調べたら、初めて参加する人も結構いるらしく辛いだろうな、と。なかなかうまくなじめない辺りをうまく詠んだ。
※峰入り…修験者が奈良県の大峰山に入って修行すること。
山寺の裏のがれ場の花南瓜 直
お寺で煮炊きした南瓜の種を裏のがれ場に放置したら、ひとりでに花が咲いていた。その花をまた精進料理に使うのかも。
商談を東踊の幕間に 健彦
まさか大学の教授の句とは(笑)。お客さんを招待してそこで商談を絡ませる。ビジネスとしてはある。
この句は特選にしようか悩んだ。東踊りを見に行く人はだいたいお座敷に行くような人なのでお呼ばれで来ている。普段お座敷では会わないが「おぉ、あんたも来てたのか」と商談が始まる、そんな空気を見事に捉え、京都の都踊りに対しての東京の空気を伝えている。
花南瓜黄のくたくたに雨の中 高水
作者の名前を聞いてああなるほどな、と(笑)。くたくたにという軽さと雨の中という平易な言葉、なかなかできないがこういう句を作りたい。
水を足す度に巻かるる屑金魚 秋葉男
水の渦に巻かれるということだと思うが、そこがちょっとわかりにくい。屑金魚の宿命。
蛇消えてなほ草叢の揺れやまず 健彦
蛇が見えなくなってもまだ叢が動いている。蛇の長さ、特性がうまく出ている。
お告げなどしさうな蛇の舌の割れ 秋葉男
蛇はちょろちょろと舌を出し、怖いところがある。蛇をあがめてきた歴史がわかるような、思わず見入ってしまう感じがよくでている。
告ぐるたびくちなはの丈長くなる 伊那男
この句のおもしろさは「そこで蛇に会っちゃってさ」と、人に言うたびにその長さが長くなっていくところ。蛇のおどろおどろしさを伝えている。
糸流しまた糸流し山女釣り 新祇
これは山女を釣っていないと作れない句。何回も糸をしつこく流すんですよ。さらっと詠まれていて感心した。
ぽぽな…こんないい会があるのかと今日は心底楽しんだ。ニューヨークも25年目なので25句選ばせていただいた。
一声もて一叢制す行々子 洋征
葭切の声が叢一帯を制している様子が、一と一でうまく表現されている。
石楠花や風の澄みゐる比叡口 子貢
比叡口の様子、心の様子がよく出ている。
琥珀色残るグラスや明易し 新祇
ブランデーではなく、琥珀色といったところに技が効いている。
主宰…これ角瓶クラスだよ(笑)。
並足(※)の馬の一列夏木立 大和
並足がよくて、更に夏木立との取り合わせのうまさ。抑制の効いた美しい絵のような句。
※並足…速くも遅くもない普通の足並み。
◎特選三句
どくだみや隠れん坊の鼻先に 大和
隠れん坊で何かの陰に屈んでいた。郷愁もある。
香水やマンハッタンに昼と夜 海村
よくぞおっしゃいました。マンハッタンに昼と夜、でまずは私に挨拶をしてくださった。そして昼はビジネスの顔、夜は歓楽街の顔。そこに香水。昼の香水と夜の香水の違い。俳句の美で、ごちゃごちゃしたマンハッタンをよく掬い取ってくださった。
主宰…動詞を何も使っていない。だからくっきりと印象に残る。
石楠花のなぞへ(※)に岩を踏みて立つ 大和
※なぞへ…ななめ、斜面
なぞへという言葉を教えていただいた。くらくらしちゃった。
主宰…作り方は地味だがしっかりとした写生句。よくニューヨークの人が採ったね。
ぽぽな…斜めになっているとこに咲いている石楠花。そこからにじみ出てくる強い情感がある。今日はいい句にたくさん出会えてうれしかった。
主宰…ぽぽなさん、ありがとう。来年も待ってますから。まぁ、生きていればだけど。だからこそ一期一会。今日の句会がもう一度再生できるかといったら絶対にない。芭蕉の時代なら奥の細道で一生涯に一回だけ行き合って、句会を持つ。今生に一回限りの句会を大事にすること。この句会は一生に一度しかないと思って句を作る、選ぶ、清記をする、披講をする、これだと私は思う。歳をとると切実に思う。来月会うからいいやと思ったら絶対にいい句はできない。永遠に続く話はない。
◎特選二句
二句とも私しか採っていない。ダメかなぁと不安になるとき(笑)。選句は本当に難しい。
峰入りを称え熊野の木々騒ぐ ぽぽな
今日の題で作ったんでしょ? 躍動感があって峰入りを詠んで珍しい句で、わっと立ち上がってきた。
浄土への道はあやうげ練供養 健彦
観音菩薩に扮した二十五人が練り歩く、奈良の当麻寺の練供養が有名だが、その姿があやうげな様を見て、人の世の悲しさや人の弱さをうまく詠みこんだ。
山女釣る早瀬の渦を腰に巻き
という句があったが、上流にいるのは岩魚、その次が山女で一番下が鮎、と棲み分けがある。そういうことを前提にしないと、山女の本当のところはわからない。例外としてあるかもしれないが、一般論として山女は腰がつかるほど深いところにはいない。
一番下界には寡(やもめ)がいる/それは岩(いわ)魚(な)い/そういうことも鮎(あゆ)。
主宰…それを俳句に活かせばいいのに(笑)。
▲歳を重ねてもなお爽やかな皆さま!
★急な病で急遽来れなくなった方、予定変更で来られるようになった方、時空を超えてニューヨークからいらした方、主宰が強調されていた一生涯で一度しかない一期一会の句会を、取材という立場にありながら堪能させていただいた。普段は男性だけの句会だが、どんな状態・状況であろうと、その時々の最善のパフォーマンスを出す面々であろうことは容易に想像できた。(木戸敦子)
▲主宰の『銀漢亭こぼれ噺―
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