Facebook野口 嘉則さん投稿記事
【自己実現の7原則】第5の原則、スキーマをゆるめる
こんばんは、野口嘉則です。今回は、「自己実現のための7つの原則」のうち、
第5の原則についてお話しします。第5の原則は、「スキーマをゆるめる」です。
では、話を始めましょう。
前々回(9/20)の投稿(第4の原則)でお伝えしたように、同じ出来事に遭遇しても、
そのとき湧いてくる感情は人それぞれ違います。
それはなぜかというと、頭の中で考えること(=思考)が人それぞれ違うからです。
たとえば、ゴミ出しのときに、近所の人に挨拶をしたが、その近所の人は挨拶に応えず、
無言で立ち去ってしまった、といった出来事に遭遇したときに、
「私は嫌われているんじゃないだろうか?嫌われてやっていけるのだろうか?」
と考えて不安になる人もいれば、「こっちから挨拶しているのに、挨拶を返してこないなんて、失礼じゃないか」と考えて怒る人もいれば、「どうせ私は疎まれているのだ」と考えて憂うつになる人もいます。
このように、考え(思考)が感情を生み出すのです。
では、考え(思考)はどこから来るのでしょうか?それは「スキーマ」です。
スキーマとは、人の思考の根底にある「思い込み」のことで、コア・ビリーフとか中核的観念とも言います。
つまり、スキーマとは、「心の底で信じ込んでいること」です。
そしてそのスキーマが、生き方を規定する規範になっているのです。
たとえば、上記のような出来事に遭遇したとき、「私は嫌われているんじゃないだろうか?
嫌われてやっていけるのだろうか?」と考える人は、心の底で、「人に嫌われるべきではない」 とか「みんなとうまくやらねばならい」 と信じ込んでいる可能性があります。
この信じ込みがスキーマです。
また、上記のような出来事に遭遇したとき、「こっちから挨拶しているのに、挨拶を返してこないなんて、失礼じゃないか」と考える人は、心の底で、「人は皆、礼儀正しくあるべきである」 とか「失礼な態度をゆるしてはならない」 といったスキーマ(信じ込み)を持っている可能性があります。
また、上記のような出来事に遭遇したとき、「どうせ私は疎まれているのだ」と考える人は、
心の底で、「私は受け入れてもらえない人間である」といったスキーマを持っている可能性があります。
これらの例でおわかりのように、心の底にあるスキーマ(信じ込み)から自分特有の思考が生まれてくるのです。
一昨日、第4の原則として、思考を柔軟にしていくことの大切さをお伝えしましたね。
そして、そのための効果的な手法として、認知行動療法というものがあることを紹介しましたが、こういった手法を使いながら、同時にスキーマにも取り組んでいくと、思考の柔軟化が効果的に進みます。
スキーマの中でも、悩みや生きづらさの原因となるスキーマや心の柔軟性を奪うスキーマを
「非適応的スキーマ」と言うのですが、非適応的スキーマをゆるめていくことで、思考の柔軟化が進むとともに心の健康度が増し、いろいろな面で生きやすくなります。
ここで、代表的な非適応的スキーマをいくつか挙げてみますね。
「人に嫌われるべきではない」「失敗をするべきではない」
「相手をがっかりさせてはならない」「相手を不機嫌にさせてはならない」
「人に甘えるべきではない」「自分の弱いところを人に見せるべきではない」
「いつも頑張っているべきだ」「わが子は私の期待どおりに育つべきである」
「私はダメな人間だ」「私は受け入れてもらえない人間だ」
以上、非適応的スキーマを10個挙げてみましたが、最初の「人に嫌われるべきではない」
というスキーマを例にとって解説しますね。
上述したように、非適応的スキーマというのは、悩みや生きづらさの原因となるスキーマ
のことです。
では、「人に嫌われるべきではない」という非適応的スキーマが、なぜ悩みや生きづらさの原因になるかというと、このように信じ込んでいたら、現実に対して柔軟に対応できなくなって
しまうからです。
現実的に考えるなら、誰からも嫌われずに生きるなんて無理ですよね。
人には好き嫌いというものがありますし、人間関係には相性というものがありますので、
誰からも嫌われない、などということは現実的にはありえないわけです。
つまり、人間関係においては、「どうやらあの人は私のことを嫌っているようだ」
と思わざるをえない場面があるわけですが、そんなとき、「人に嫌われるべきではない」というスキーマを持っていると、過剰に不安になったり、過剰に落ち込んだり、過剰に反応したりします。
なぜなら、「人に嫌われるべきではない」というスキーマを持っている人にとって、人に嫌われるということは起きるべきではないことが起きたことになるからです。
こんなふうに、非適応的スキーマを持っていると現実に対して柔軟に対応できなくなります。
そんな非適応的スキーマに対して、健康的なスキーマ、現実に対して柔軟に対応できるスキーマを適応的スキーマと言います。
「人に嫌われるべきではない」というのは、非適応的スキーマですが、一方、「人に嫌われないに越したことはない」というのは、適応的(健康的)スキーマです。後者の方は柔軟性がありますよね。
たとえば、「どうやらあの人は私のことを嫌っているようだ」と思わざるをえない場面に遭遇したとき、「人に嫌われないに越したことはない。だけど、嫌われることもあるさ」と、柔軟に対応できます。
こんなふうに、適応的(健康的)なスキーマは、どこかファジーで融通が利きます。
そして、非適応的スキーマをゆるめていくと、結果的に、適応的スキーマが育ち、現実に対して柔軟に対応する力が高まります。
ただ、非適応的スキーマは、多くの場合、人生の早期に形成され、長年に渡って持ち続けてきたものだけに、無意識の領域にまで根を張っています。
なので、自分の中の非適応的スキーマに気づいて、それをゆるめようと心がけたとしても、
それだけでは、なかなかゆるまないケースが多いのです。
ちなみに、意識と無意識は、よく氷山にたとえられますね。
氷山の水面上に浮かんでいる部分が「意識」水面下に沈んでいる部分が「無意識」
です。
そして、実際の氷山において水面下に沈んでいる部分が巨大であるように、僕たちの心においても、無意識の比重はとても高く、その影響力は非常に大きいのです。
スキーマは、そんな無意識の領域にまで根を張っているので、意識して心がけるだけでは、
なかなかゆるまないわけですね。
そこでおすすめなのが、効果的な心理手法やツールを適切に使うことです。
非適応的スキーマをゆるめていくうえで極めて効果的な手法の一つに、「スキーマ療法」というものがあります。
これはジェフリー・ヤングという心理学者が開発した手法なのですが、幼少期に形成された非適応的スキーマをゆるめ、健康的なパーソナリティ(人格)を形成していくうえで、非常に効果的なものです。
他にも心理療法の中には、スキーマをゆるめるうえで効果的な手法がいくつかあるのですが、
それも機会があったら、また紹介したいと思います。
今回は、このあたりにしまして、ワークセッションの提案をしたいと思います。
今回の記事を読まれたあとで、以下の問いのどっちか(あるいは両方)に対する答えを、
下のコメント欄に書き込んでみてください。
1.今回の記事を読んで何を感じたか?
2.自分はどんなスキーマ(思い込み)を持っていそうか?
これが、今回のワークセッションです。
毎回、
たくさんの方がコメントしてくださっていて、とても楽しく読ませていただいてます。
ただし、ご質問に対しては、個別にご回答するのは難しいのが現状です(^^;
お一人おひとりのご質問にしっかりお答えしたいという気持ちもあるのですが、
ご回答するためには、それなりのボリュームの文章を書く必要があり、たくさんの方がコメントして下さっていることを考えると、ご質問に回答する時間を作る余裕がないのが現状です。
ですので、個別のご質問に対してはお答えできないことをご了承ください m(_ _)m
ですが、皆さんの書き込みは、すべて読ませていただいております。
感じたことや気づいたことをアウトプットすることで、理解と気づきが深まり、学んだことが定着しますので、よかったらぜひ、書き込んでみてください。
あなたのコメントを楽しみにしています。
次回は、「最も本質的なこと」についてお話しします。楽しみにしていてくださいね。
https://psych.or.jp/publication/world097/pw10/ 【複雑性PTSDに対するスキーマ療法】より
伊藤 絵美
洗足ストレスコーピング・サポートオフィス 所長 伊藤 絵美(いとう えみ)
千葉大学子どものこころの発達教育研究センター 特任教授を兼任。専門は臨床心理学,認知行動療法,ストレス心理学,スキーマ療法。博士(社会学)。単著に『事例で学ぶ認知行動療法』(誠信書房),『自分でできるスキーマ療法ワークブック』(星和書店),『ケアする人も楽になるマインドフルネス&スキーマ療法』(医学書院)など。
スキーマ療法
スキーマ療法(ST)はヤングが境界性パーソナリティ障害(BPD)を対象に構築した,アタッチメント理論,ゲシュタルト療法,力動的アプローチなどを認知行動療法(CBT)に組み込んだ統合的な心理療法である。包括的な治療マニュアルが出版され[1],BPDに対するランダム化比較試験(RCT)を通じてエビデンスが示されたことによって[2],STへの注目が高まった。
理論モデル
STの理論モデルは「早期不適応的スキーマ(Early Maladaptive Schema:EMS)」であり,「中核的感情欲求」という概念に基づく。これは養育者に対する子どもの欲求で,「愛されたい」「守ってほしい」「尊重されたい」といったものである。これらの欲求は,虐待的な家庭環境で育った子どもや,学校でいじめられ誰にも助けてもらえなかった子どもには満たされず,結果EMSが形成される。
ヤングは18のEMSを定式化した。具体的には,①情緒的剥奪,②見捨てられ/不安定,③不信/虐待,④欠陥/恥,⑤社会的孤立/疎外,⑥依存/無能,⑦損害と疾病に対する脆弱性,⑧失敗,⑨巻き込まれ,⑩服従,⑪自己犠牲,⑫評価と承認の希求,⑬否定/悲観,⑭感情抑制,⑮厳密な基準/過度の批判,⑯罰,⑰権利要求/尊大,⑱自制と自律の欠如,である。BPDでは,これら18のスキーマがより多く強く形成され,その結果多大な生きづらさを抱えたり,健全な対人関係を築けなかったりする。STでは,EMSについてその成り立ちも含めて十分に理解した上で,それらを軽減し,より適応的なスキーマを再形成することを目指す。
その時々の状況や対人関係によって活性化されるスキーマは異なる。EMSを多く有するほど,その時々に活性化されるスキーマが異なるので,それに応じて生じる思考や感情や行動が異なってくる。またその人が自らのEMSにどう対処するかによって,その時々に生じる思考や感情や行動が異なる。このような「活性化されたスキーマ」とそれへの対処の掛け合わせにより,その人の「今・ここ」での状態は様々である。STではそれを「スキーマモード」と呼び,EMSと並ぶもう一つの理論モデルとして重視している。
スキーマモードは,①「チャイルドモード」,②「不適応的コーピングモード」,③「非機能的ペアレントモード」,④「ヘルシーアダルトモード(HAM)」の4つに分類される。この理論モデルによれば,健全な人は,HAMが「健全な自我」として機能し,他の諸モードを司令塔的に統括できる。一方でBPDや複雑性PTSDや解離性同一性障害(DID)では,HAMが機能せず,様々なモード(特に非機能的なモード)に乗っ取られやすく,かつ各モードが統合されていない。そのため,状況よって様々な強烈な感情を示したり,極端な行動を取ったり,あるときは解離したりする。
スキーマ療法の進め方
STは前半が「ケースフォーミュレーション」,後半が「諸技法を用いた介入」である。前半では,過去体験を振り返り,自らの生きづらさを「スキーマ」「モード」という概念で理解する。後半では,認知的・体験的・行動的諸技法を駆使して,不適応的なスキーマやモードを手放し,適応的で健全なスキーマやモードを手に入れていく。
ファレルら[3]は,BPDによくみられるスキーマとモードとそれらに関連する諸要因を図式化した(図1)。このような図式をクライアントに提示すること自体が,トラウマインフォームドケアとして治療的に機能する。
図1 境界性パーソナリティ障害の病理モデル図1 境界性パーソナリティ障害の病理モデル
複雑性PTSDに対するスキーマ療法の適応可能性
BPDに対するSTは複数のRCTで効果が示されており,エビデンスレベルは比較的高い。複雑性PTSDではどうか? 現時点でトラウマに対するSTの研究は少ない。単発性PTSDに関しては,EMSの有無や強度とPTSDの発症に相関がみられること,そしてPTSDに対してSTがCBTに比べて有意に治療効果が高いことが示されている[4]。複雑性PTSDに対するSTは現時点で結果が公表されているのは一つで[5],脱落率が低く,精神症状の有意な改善のみならず,感情状態やQOLがポジティブに変化した,といった結果は,これまでのBPDへのSTの研究結果と一致する。これらの研究を踏まえると,複雑性PTSDへのSTの効果については期待が持てるものの,RCTを含むさらなる臨床研究が必要である。
理論的にはどうか? ハーマン[6]は,複雑性PTSDと診断されるはずの人の多くが,BPDとレッテル貼りされてきたと論じている。近年の疫学研究から,複雑性PTSDは単発性のそれに比べ重症であること,そしていわゆる「自己組織化領域」における3つの問題(感情調節障害,ネガティブな自己概念,対人関係上の問題)に特徴づけられることが見出されているが,これらの問題はBPDでも必ずみられるものであり,ここからも複雑性PTSDとBPDの病態が大きく重なり合うものと考えられる。STのモードモデルでは,BPDや複雑性PTSDやDIDは,スキーマに対する回避的コーピングスタイルに基づく「遮断・防衛モード」のスペクトラム上に位置づけられ,BPD→複雑性PTSD→DIDの順に,このモードがより強固になっていくと想定し,BPD,複雑性PTSD,DIDを一続きの病態とみなしている。これらを総合すると,BPDに効果のあるSTは,複雑性PTSDにも奏効する可能性が高いと言える。
そもそも「子ども時代の傷つき体験によってEMSが形成され,それが現在の生きづらさにつながる」というSTの病理モデルそれ自体が,複雑性PTSDのそれとほぼ重なる。しかも,複雑性PTSDに対して提唱されている統合的な治療アプローチ(安全の確保,治療関係の重要性,トラウマを語ることとトラウマ処理,解離へのアプローチ,多様な症状に合わせた経時的で多様なアプローチ,エンパワメント,新たな対人関係の形成など)は,ほぼその全てが統合的なアプローチであるSTに含まれている。となると,複雑性PTSDに対してSTを適応することにはむしろ必然性があると言えるのではなかろうか。そのためにも,今後は複雑性PTSDに特化したSTのエビデンスの積み重ねが不可欠であろう。
文献
1.Young, J. E., Klosko, J. S., & Weishaar, M. E. (2003) Schema therapy: A practitioner’s guide. New York: Guilford Press.(伊藤絵美監訳 (2008).『スキーマ療法:パーソナリティの問題に対する統合的認知行動療法アプローチ』金剛出版)
2.Giesen-Bloo, J., van Dyck, R., Spinhoven, P. et al. (2006) Outpatient psychotherapy for borderline personality disorders: Randomized trial of schema-focused therapy vs transference-focused psychotherapy. Archives of General Psychiatry, 63, 649-658.
3.Farrell, J. M., & Shaw, I. A. (2012) Group schema therapy for borderline personality disorder. New Jersey: Wiley-Blackwell.(伊藤絵美監訳 (2016).『グループスキーマ療法』金剛出版)
4.Cockram, D. M., Drummond, P. D., & Lee, C. W. (2010) Role and treatment of early maladaptive schemas in Vietnam veterans with PTSD. Clinical Psychology & Psychotherapy, 17, 165-182.
5.Younan, R., Farrell, J., & May, T. (2018) Teaching me to parent myself’: The feasibility of an in-patient group schema therapy program for complex trauma. Behavioural & Cognitive Psychotherapy, 46, 463-478.
6.Herman, J. L. (1992) Trauma and recovery. New York: Basic Books.(中井久夫訳 (1999) 『心的外傷と回復〈増補版〉』みすず書房)
*COI:本稿に関連して開示すべき利益相反はない。
0コメント