https://www.ayurvedalife.jp/about_ayurveda.aspx 【アーユルヴェーダとは】より
アーユルヴェーダとは、その名の通り「生命の科学」「生命の知識」といわれるインド・スリランカの伝統医学であり、予防医学・治病医学にとどまらず、高度な生命哲学としても注目されています。
アーユルヴェーダの発祥の地とされるインドにおいては、5000年以上も昔から人間の身体について研究が行われ、健康に良い食材の性質を熟知し時間や環境・季節などを考慮した食事療法を編み出し、具体的な養生法や治療法、また膨大な量の薬草学について説かれています。
またインドの伝統思想においてアーユルヴェーダは、人がより自然の在り様に近い、心身が幸福に満ちた人生を送る上での「智慧」とされ、日常生活の一部として取り入れることを薦めています。
このような思想は、例えば人が病気になったときに、単に投薬や手術などの対症療法で治療するのではなく、「生き方」そのものを見つめ直すことで、病気のもとを断つという考え方にも繋がっていきます。
ここでいう「生き方」とは、食事・運動、睡眠などの生活習慣全般と、人間関係や考え方などの精神面も含まれます。
人が生きる上で、個人としての健康管理のみに焦点をあてるのではなく、生活する周囲の環境や社会との関係の中で、調和のとれた人生そのものを実現させることこそ、人本来の成熟した生き方であることを、アーユルヴェーダはその目的として定義しています。
アーユルヴェーダの歴史
インド亜大陸の北方地域にやってきた古代アーリア人における「リグ・ヴェーダ」には、既に病気の治療や薬草類に関する賛歌があったとされています。
「ヴェーダ」とはシュルティ(天啓聖典)であり、古代のリシ(聖人)達が神から授けられたものとされ、基本的にヴェーダは口伝でのみ伝承されて来ました。
後に文字が使用されるようになっても、ヴェーダは文字にすることが避けられ、師から弟子へと伝えられていきました。
文献としてのヴェーダは紀元前1200年頃から古代インドで編纂されたとされ、インド最古の文献とされます。
「ヴェーダ」という言葉は、もともと「知る」を意味するサンスクリット語から作られた名詞で「知識一般」を指しますが、後に古代インドにおける宗教的知識が集成された聖典そのものの名称とされました。
ヴェーダは「リグ・ヴェーダ」「サーマ・ヴェーダ」「ヤジュル・ヴェーダ」「アタルヴァ・ヴェーダ」の4種類があり、それぞれに本集(サンヒター)・祭儀書(ブラーフマナ)・森林書(アーラニヤカ)・奥義書(ウパニシャッド)の4つの部門で構成されています。
「リグ・ヴェーダ」は主に神々への讃歌(リチュ)、「サーマ・ヴェーダ」は「リグ・ヴェーダ」と同様に神々への讃歌が中心とされ、「ヤジュル・ヴェーダ」は祭式において唱えられる「祭詞(ヤジュス)」が集められたもの、「アタルヴァ・ヴェーダ」は主に吉祥増益と呪詛調伏の呪文が集められたものであり、「アーユルヴェーダ」はアタルヴァ・ヴェーダの副ヴェーダと考えられています。
古典医学においては、「チャラカサンヒター」をまとめたアートレーヤ学派(内科的治療)、「スシュルタ・サンヒター」を綱要とするダンヴァンタリ学派(外科的治療)があげられます。
後の7世紀頃、ヴァーグバダによって二つの医学派を統合して「アシュタンガフリダヤー」を編纂、多くのアジア諸国に流布されていきました。
チャラカヒンヒターやアシュタンガフリダヤ等にみられる医学八科、つまり古典医学における分類は以下の8部門にわけられます。
1. 身体全般の内科的治療(カーヤ・チキッツァー)
2. 眼・耳・鼻・口など頭部器官の外科医学(シャーラキヤ)
3. 腫瘍や異物の摘出を中心とする一般外科医学(シャーリャ・チキッツァー)
4. 薬物・毒物学、中毒学(アガタ、ヴァリシャ)
5. 魔物が憑りつくことによって起こる病気、鬼神学(ブータヴィッティヤ)
6. 小児医学、産科学(カウマーラブリトヤ)
7. 不老長生法、強壮医学(ラサーヤナ)
8. 強精法(ヴァージーカラナ)
アーユルヴェーダの基本理論においては、ヴァータ(体風素)・ピッタ(胆汁素)・カパ(粘液素)と呼ばれる「三病因素(トリ・ドーシャ)」の働きが定義されていますが、これらの変調が、病気の発生につながるものと考えられています。
例えば、憎悪したヴァータ(体風素)が血液に入り込むと潰瘍を発生させ、それが血管に達するとズキズキした痛みを生み、腱に至ると麻痺と痙攣を起こすと考えられ、ドーシャの変調が症状の原因にあるとされます。
同じようにピッタ(胆汁素)が憎悪し血液に入り込んだ場合は、血液を熱し、出血症状を引き起こす原因になると考えられます。
(ヴァータ/体風素の変調要因の例)
過度な運動・歩行、長期間の徹夜、長期旅行(移動)、辛いもの・酸っぱいもの・刺激物の摂取、曇天や雨天といった天候条件。
(ピッタ/胆汁素の変調要因の例)
怒り・恐怖、脂肪分・発酵飲料の摂りすぎ、気候の暑さ。
(カパ/粘液素の変調要因の例)
運動不足、怠惰、穀物類の摂りすぎ、食事量(回数)の増加、気候の寒さ。
(アーユルヴェーダにおける予防学)
1. 養生法
→沐浴、オイルマッサージ、歯磨き・舌の垢を取る・口内衛生など。
2. 食餌療法
→食事療法(個人の体質、行動、健康状態→季節、時間、量と質に応じた食事)。
3. 不老長生術
→薬草類の使用による製薬。
(アーユルヴェーダにおける薬学知識)
1. 薬用植物(根・茎・葉・実の使用部位)の分類
→長寿薬、滋養薬、やせ薬、排泄促進薬、食欲増進薬、強壮薬、興奮薬、駆虫薬、解毒薬、催乳薬、皮膚軟化薬、発汗薬、催吐薬、瀉下(しゃげ)薬(下剤)、治渇(ちかつ)薬(多食・多飲・消化器治療)、しゃっくり止薬、咳止薬、利尿薬、解熱薬、鎮痛剤など。
2. 動物性薬物・・・肉、脂肪、乳、乳加工品、血・骨・爪・角・尿など。
3. 鉱物性薬物・・・金、銀、鉛、鉄、輝安鉱(アンチモナイト)、鶏冠石(ヒ素の硫化鉱物)、硫酸銅など。
→鉱物性薬剤については、熟練した技術による精製・浄化(無毒化)が必要であり、現代ではあまり用いられていません。
4. 薬物の形態・・・固形薬、粉末薬、煎じ薬、浸出(浸して溶かす)薬、浸漬薬、練り薬、丸薬、糊膏薬(ペースト状の外用剤か)、軟膏薬。
(アーユルヴェーダの治療/外科治療)
アーユルヴェーダにおける外科治療については、紀元前500年以前において、最古の外科手術道具を用いて、すでに開腹・開胸・頭蓋開孔手術が行われていたといわれています。
アーユルヴェーダにおける身体と精神の考え方
アーユルヴェーダでは、身体の健康状態は、個々人の生まれついての体質「プラクリティ」に依るものとされています。
プラクリティは、生まれながらのドーシャのバランスを指しますが、これらのバランスは、生命誕生の折、父母の「受精」の段階で定められるといわれます。
具体的には、皮膚・血液・肉・脂肪・骨髄・心臓・両肺・肝臓・脾臓・胃・腸などは母親から、毛髪系・爪・歯・骨・脈管・精子などは父親から受け継ぐものと考えられています。
その一方で、人の精神面の状態は、「人は精神と身体がひとつとなってはじめて生命として存在する」というインド伝統思想に基づくアーユルヴェーダにおいては、精神に現れてくる様々な現象や症状、そしてその発生時期は、生まれてきた個々の生命固有のものであり、それらは生命が受肉する以前の「生」から受け継いできたもの、と考えるところがあります。
これらはインド哲学における「カルマ」思想に基づくものですが、過去幾たびかの「生」の期間に積み上げられた「行為」「思考」「欲望」が「ヴァーサナー(潜在的傾向・痕跡)」として精神に残り、次の生において「サンスカーラ(業)」として、個々人の生まれつきの性格や行動傾向を決定し、その精神のあり様もまた身体にも影響を与えるとされているのです。
こうした思想は、アーユルヴェーダにおいて健康を考えるとき、単に身体のバランスだけでなく、それぞれの人の人生の過ごし方やそれに伴う心(精神)の状態、つまり生命観そのものを含めた「命」への包括的なアプローチを行っていく、ひとつの理由になっています。
インドにおいては、アーユルヴェーダは特別なものではなく、日々の生活の一部として根づいています。
医療としてももちろんですが、人が生命を受けて誕生した時から年老いて死ぬまでの人生において、どのようにすれば心身共に幸せに健康に暮らしていけるのかを教えてくれるアーユルヴェーダは、 日常生活における食事や睡眠・体調管理などの様々な場面で生きています。
たとえばアーユルヴェーダでは、日の出の1時間程前には起床し、その自然界の精妙なエネルギーに満ちた時間帯から活動することで、活力に溢れる一日を過ごすことが出来るとしています。
食事は「時間」と「場所」が重視され、食事の時間は毎日決まった時間にとること、また食材は出来るだけ自分が住んでいる場所で穫れる旬の食べ物を食べることなどが健康を維持していく上で大切なこととされています。
また1日の時間帯や季節の変化から消化機能は変化するとして、食事をとる時間や季節に適した量や内容(食材や調理方法など)をとるように勧めています。
人間の身体について研究し、健康に良い食材の性質を熟知し、時間や環境・季節などを考慮した食事方法を編み出し、さらには生活習慣までも語る「アーユルヴェーダ」。
5000年以上を経た現在においても、多くの人々の生活の中に深く息づいています。
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