http://sizenkansatu.jp/11daigaku/s_01.html 【カビライフ入門】より
-カビのくらしと形-
講師:細矢剛
講演会場にカビの標本を展示。“へえー、これがカビかぁ”ルーペを覗いて皆興味津々。
右2点はヒバ・アスナロてんぐ巣病 病原菌:Blastospora betulae = Caeoma deformans
今日は『カビ図鑑』の出版記念ということで、この本で言いたかったことを話したいと思います。
おかげさまで、私たちがつくった『カビ図鑑』は好評で、予想以上に売れ行きが良いようです。
●『カビ図鑑』で言いたかったこと
この本では、ふだん街中で見られるカビを、肉眼で見える姿からルーペで見たよううす、そして顕微鏡写真を使って、身近な自然観察の対象として紹介しました。カビのことをちゃんと解ってほしかったのです。
国立科学博物館で実施された大学生のアンケートによるカビのイメージは… 小さい、汚い、怖い、暗い、くさい、といったマイナスのイメージがほとんどでした。
カビを漢字で書くと『黴』で、この字は『微』と『黒』の組み合わせになっています。小さくて黒いということでしょう。黴(=カビ)と 菌(きのこ)で『黴菌(ばいきん)』と言いますがいかにもネガティブなイメージです。
『カビ図鑑』を通して私たちが言いたかったことは…
<<カビだきのこだ、言うんじゃない。カビもきのこも菌類だ>>
<<菌類の生活の一端を理解してほしい>>ということです。
『カビ図鑑』より
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Q:カビときのこが同じ菌だといわれても、たとえばシイタケと比べるととても同じとは思えませんが…
A:そうですね、一見全く違いますね。でもシイタケの軸のところは縦に裂けて、すじがありますね。あのすじが菌糸と考えてください。カサの裏側には胞子ができます。マッシュルームのカサの裏の黒褐色の粉は胞子なんです。
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●菌類の自然界の中での役割
カビやきのこ、酵母といった菌類は、自分では栄養をつくれません。【腐生、共生、寄生】という形で他の植物や動物から栄養を得ています。
【腐生】落ち葉にカビが生えています。死んだ動植物から栄養を得ることを腐生と言います。菌類は死体を分解し、土に戻す重要な役割を担っているわけです。もしも菌類がいなかったら、森はたいへんなことになるでしょう。
【共生1】写真はカラマツの外生菌根です。根の外側を取り巻いているのが菌糸です。菌のはたらきによって、根から吸収した養分がカラマツの全身に効率よくいきわたることが確認されています。菌類はカラマツの根から栄養(光合成産物)を得ていますが、植物の栄養供給を補助するはたらきがあって、成長を促進しているわけです。菌糸は地下で広がり、その範囲は植物の根よりも広がっています。森の地下には菌類の巨大なネットワークがあります。
この菌と植物の共同・共生構造は、農業場面で収量アップに利用されています。
カラマツの外寄生菌根
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Q:マメ科植物の根粒菌は今の話と関係しているんですか?
A:根粒菌は、実は菌ではなく細菌(バクテリア)によるものです。この話は難しくなるのでここではご容赦ください。
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【共生2】これはブナの幹に着く地衣です。地衣は藻類と菌類の共生です。菌類は藻類から栄養を取得し、藻類は菌類によって生存場所を確保しています。
ブナの幹に生息する地衣。右は地衣体と子嚢盤(子実体)
【共生3】今度はシロアリときのこの共生です。
オオシロアリタケというきのこが白アリの巣に寄生して、シロアリの糞から栄養を得ています。
オオシロアリタケとシロアリの巣
【共生4】他にも、内生菌(エンドファイト)と言って、植物内で存在していて、植物には悪影響を及ぼさない菌がいます。内生菌がいることによって、捕食者や他の菌を抑制し手植物を守るという関係にあります。
【寄生】植物や動物寄生する菌というのもあります。
植物に寄生するものは農業生産で問題になっていて、菌類がなければ農作物(のうさくもつ)の収量は11-14%アップするといわれています。
昆虫に寄生する菌は冬虫夏草やハエカビなどです。昆虫寄生菌と言います。
あるいは菌に寄生する菌生菌というものもあります。
これら寄生菌は、増えすぎた生物を抑制するという役割を担っています。
てんぐ巣病(左)とイチゴ灰色かび病(右)
昆虫寄生菌
菌類は、菌だけでは生きていけないですが、腐生、共生、寄生と、生物どうしの仲介者として大切な役割を担っています。
<<菌類は自然界が調和を保つ上で重要な存在!>>ということです。
余談ですが、“森林”という漢字は “木”ばかりで構成されていますが、実際の森林は木ばかりではないですね。“木”“草”それに“菌”が重要な存在です。
木・草・菌による森林
題字:土屋博之 科博認定サイエンスコミュニケータ 第1期生
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Q:マツタケとマツは共生関係と言っていいのでしょうか?
A:難しい質問です。共生とも寄生とも言えます。
腐生 = 相手が死んでいる
共生 = 相手が影響ないかあるいはプラスに作用する
寄生 = 相手にマイナスの影響を及ぼす
とされていますが、共生と寄生ははっきり分けられません。マツはマツタケによって成長が良くなります。しかしその分寿命が短くなる。生き急がされているということですね。
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〔レポーター注〕
そのほか、カビの様々な形とくらしを紹介いただきました。まとめは次の通りです。
<<菌類は様々な形を持っている。その背景には進化や適応があり、
様々な環境で巧みに生きているさまをうかがわせる>>
詳しくは細矢先生の著書『カビ図鑑』で見ていただくとして、レポートは割愛させていただきます。ご容赦ください。
“『カビ図鑑』は自然観察に新しい切り口を開いた”と
絶賛する岩瀬学長
見えない世界を見る
―電子顕微鏡と紫外線の世界―
講師:浅間先生
講演当日、午前中は千葉県生物学会、午後に自然観察大学で講演、NPO自然観察大学の総会と大忙しでした。
目に見えない世界を知って、自然を見たらどうなるか?
冒頭、浅間先生が話された言葉です。
電子顕微鏡では、人間の目ではとらえられない微細な世界をのぞくことができます。
また、鳥や昆虫などの生物は、人の目ではとらえられない紫外線を見ています。
今回の講習では、浅間先生が撮影された電子顕微鏡、紫外線写真の数々を紹介していただきました。
浅間先生が撮影された写真を紹介する前にまず、予習から。
電子顕微鏡は、見てみたい微細なモノに電子線をあて、その反射や通りぬけた、飛び出してくる電子を検知することで、モノの姿を拡大してとらえることができます。
紫外線写真は、デジカメに市販の紫外線透過フィルターと赤外線カットフィルターを取り付けて撮影します。しかしデジカメ内部には紫外線をカット部分があり、また普通のレンズは紫外線をほとんど通さないので、紫外線写真を撮るには多くの工夫が必要です。
■電子顕微鏡写真
「ニイニイゼミの抜け殻に土がつくのはどうして?」という問いに「毛があるから」と答えたとしましょう。今までの観察会だったら正解です。
しかし、浅間先生の観察会だったら不正解。浅間先生は、電子顕微鏡で毛がないことを確認しています。抜け殻の表面は土がつきやすい材質になっているそうです。
世間一般で言われていることが、本当かうそか、電子顕微鏡でみるとすぐ分かってしまうことがあります。
■クモの糸はどうしてくっつくか?(電子顕微鏡写真)
クモの網(糸)は全てがネバるわけではありません。
クモの網は、主に縦糸と横糸で構成されます。横糸についている粘球がネバり、くっつきます。ウズグモなどの篩板類は真綿のような細い糸がからみつきます。電子顕微鏡写真で粘球をみると。
ギンメッキゴミグモ。中央の丸いものは花粉。粘球は糸についている小さな粒。粘球の成分は糖タンパク質。砂糖をまぶしたあげパンを食べると手がベトベトするのと同じ理屈? それにタンパク質で粘り強く?
カタハリウズグモの網
■クモの隠れ帯は何のためにあるのか
ナガコガネグモの幼体です。
隠れ帯とは、網の中央に見える、白く太い帯状になっている箇所のことです。
ウズグモで報告されたのは、隠れ帯のうずまき状と帯状での張力の違いです。
空腹の時は隠れ帯をうずまき状にして網をピンと張ります。すると網の振動がクモに伝わりやすくなります。小さな餌がかかったのに反応できます。満腹の時は帯状にして張りを弱めます。大きな獲物の時だけ反応します。
他のクモの隠れ帯の役割は何でしょうか?
隠れ帯を紫外線カメラで撮影してみました。
ナガコガネグモは何処に?
幼体時の隠れ帯
隠れ帯・体は紫外線を反射
紫外線を反射して体を隠す
ナガコガネグモのお腹具合は?
また、隠れ帯が目立つことで、鳥が巣に突っ込むことを防いでいる、と考えることもできます(大半の鳥は紫外線を見ることができます)。
紫外線写真で、いろいろと想像が広がります。
ちなみに、隠れ帯の電子顕微鏡写真です(→)。
隠れ帯の糸。3対の糸いぼから出るいろいろな太さの糸が絡まっています。
■モンシロチョウ
一瞥では、雄雌の見分けが難しいモンシロチョウも紫外線下では、はっきりと区別ができます。電子顕微鏡でそれぞれの翅を見ると、雌雄で構造が異なっていることも分かります。雄の鱗粉内の小さな顆粒が紫外線を吸収しているのです。
雄(左)と雌(右) 紫外線写真
雄鱗粉 雌鱗粉
構造の違いが、見え方の違いに反映されています。
■青色は青色? ~構造色
翅の青が美しいモルフォチョウ。見る角度によって様々な青が現れます。この青は色素の色ではなく、光が鱗粉のミクロの構造にあたり回折と干渉を起こして見える色です。
他のチョウ類やタマムシ、CDの虹色なども構造色で、色素のように年を経ても色がなくなることはありません。
アエガルモルフォチョウ
アエガルモルフォチョウ:ラメラ-薄膜型
ミドリシジミ:薄膜ラメラ型 ツバメシジミ:チンダルブルー型
■花粉
花粉を電子顕微鏡でのぞいてみました。
大きさ、形は多様です。ほぼ科ごとに、同じような形をしています。風媒花の花粉は小さく風に乗りやすい形に、虫媒花は大きい傾向があるようです。
大きい花粉:カボチャ 空を飛ぶ:アカマツ
小さな花粉:クリ アカバナ科:ユウゲショウ
自分でスライドガラスをつくり、電子顕微鏡を操作している浅間先生は、ナノレベルの違いを実感しているようです。
右の写真は、単為生殖をするセイヨウタンポポの花粉です。
形と大きさが不揃いです。正常な花粉は形が揃っているのですが・・・。
どうして、形や大きさが違うのでしょうか?
ヒントは、単為生殖、です。
考えられること:セイヨウタンポポは、受粉しなくても種子ができるので、花粉の競争がなく、選択されないから。
■紫外線写真
我々哺乳類は恐竜の時代に細々と暗闇の中で活動をしてきました。その結果紫外線を見る細胞やもう一種類の色を見る細胞を失ってしまいました。昼間活動するようになったサルの時代にもうひとつの色を見る細胞を獲得し、ヒトは赤・青・緑の色を見ることはできます。しかし、残念ながら紫外線の世界は見ることはできません。鳥・昆虫・クモ・魚などは紫外線を見ることができます。
他の生き物はどのような世界を見ているのでしょうか。
コヒルガオ コヒルガオ
セイヨウタンポポ ツツジ
花の中心部が黒くなっています。蜜のありかを示しています。
アズチグモ アズチグモ:紫外線写真
アリグモ アリグモ:紫外線写真
肉眼とは異なる模様パターンが見えたり、アズチグモのように紫外線反射率を変えるクモもいます。
サギ類 サギ類:紫外線写真
カワセミ カワセミ:紫外線写真
アオサギ・ダイサギ・コサギがいます。コサギの嘴の黒色は、ダイサギの黄色い嘴と同様に紫外線を反射しています。カワセミの腹部の黄色は紫外線を吸収しています。
■ネイチャーテクノロジー
近年、自然物の構造を模した人工物の研究・開発が盛んです。
例えば、カタツムリのミスジマイマイ。野外で汚らしいカタツムリを見かけないのは、殻の表面についた油などの汚れは、水をかけると流れるような構造になっているからです。
この構造はトイレなどに応用されています。
ハスの葉の表面です。きれいな水玉が転がるハスの葉ですが、電子顕微鏡で除くと表面を小さな突起が覆っているのがわかります。表面張力で水玉が出来、ホコリも一緒に取り去ります。
この構造は窓ガラスに応用されています。
ミスジマイマイ 表面
トイレ掃除が楽チンですね!
ハスの葉表。
水切れの良い窓ガラス。水垢を気にしなくて良さそうですね!
自然を学び、自然を役立てることも一つの視点です。と浅間先生。
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●ほかに著者サイン会、またHPのトピックス『ヒマラヤスギの雌花を探して…』の白拍子さんが貴重な標本を公開してくれたり、あるいは唐沢先生の新刊『赤木姫、早春に舞う』の現物紹介など、話題が満載、おかげさまで大盛況でした。
貴重なヒマラヤスギの若い球果の標本を公開する白拍子さん(どの人かわかりますか?)
そして最後にサプライズがありました。自然観察大学設立10周年を迎え、これまでリードしてくださった岩瀬学長へ感謝状と記念品をお贈りしたのです。
●最後にサプライズがありました。自然観察大学設立10周年を迎え、これまでリードしてくださった岩瀬学長へ感謝状と記念品をお贈りしたのです。
喜んでいただけたものと思いますが、岩瀬先生は照れていたのか、いくぶん渋い表情でした。
複雑な心境だったのでしょう。NPO会員の全員で決めたことですが、ご本人にはヒミツだったのですから… 岩瀬学長には内緒ではかりごとをして申し訳ありませんでした。
岩瀬先生への感謝状。
このほか記念品のルーペをお贈りしました
唐沢副学長の閉会あいさつの中で、話題が岩瀬学長のことに転ずると、学長の顔色が変わってきました。
知らぬは本人ばかりなり、です
多くの方から岩瀬学長に感謝の言葉をお寄せいただきました。その一部を紹介します。
(一部改変させていただきました)
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・第一回の観察会に参加させていただいて、まさに目からうろこが落ちる体験をさせていただきました。その後も大変興味のあるお話を伺い、今年はどのような話を聞けるのかと毎年楽しみにしております。(K.T.さん)
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・この会に参加できて本当に良かったと思っています。植物のこと、昆虫のこと、野鳥のことなど、1回の観察会でその地域の自然をいろいろな角度から捉える事ができて毎回充実でいっぱいです。
いつも柔和で冷静な岩瀬学長と、お茶目でオ××ギャグ連発の唐沢副学長との組み合わせも最高です。これからもますますお元気で、私たちに自然の素晴しさ、楽しさを教えて下さい。(S.Y.さん)
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・先生の自然との付き合い方、自然の見方については、ご著書『校庭の雑草』の序文に次のように書かれています。
「・・・雑草はじゃまものという見方は根強いですが、身近な自然の重要な一員です。攪乱された土地の緑の修復のスタートをになうのは雑草群です。地球規模の環境を考えることも大切ですが、足もとの雑草にも目を向け環境との関わりを考えてみたいものです。雑草に親しむのは自然観察の入り口です。その意味で私たちは「校庭の雑草」の語に市民権を認めてきました・・・」 (2009年6月 著者を代表して)
足元の「じゃまもの、嫌われもの」と思われている雑草に市民権を認めたい。これこそ岩瀬流自然観の基本であり、自然観察大学の礎でもあります。「雑草をカラスと置き換え、カラスにも市民権を認めたい」「アブラムシやクモ、ハチ、シダにも市民権を認めたい」ともいえます。この大学の講師陣は、日頃そんな思いを懐いている者が先生のもとに集まった、ともいえます。観察会や講習会の参加者の皆さんもまた、「あらゆる生物を、その生物として偏見なしに観察する」という先生の考え方に共感していただけたものと確信しています。
繰り返しますが、自然観察大学はこの10年、岩瀬先生と共に歩んで参りました。足元の生物に注目し、その生活や環境との関わりを観察し、自然を大いに楽しんでこられたのも先生のお蔭です。これからも、末永くご指導いただきたくお願い致します。大学設立10年という記念の年にあたり、改めて先生にお礼と感謝を申し上げます。(K.K.さん)
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●参加いただいたみなさん、講師の先生方、いろいろ準備してくださったみなさん、ありがとうございました。
そして岩瀬先生、これからもよろしくお願いいたします。
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