Facebook玉井 昭彦さん投稿記事
(一語一会)生命誌研究者・中村桂子さん 三菱化成生命科学研究所初代所長の江上不二夫さんからの言葉
■わかるわけないでしょ。考えるのよ
それは1970年、大学の恩師で生化学者の江上不二夫さんから「生命科学という新しい学問をつくるから手伝いなさい」と声がかかった。
細分化する生物学と違い、生命科学はあらゆる学問を総合し、人間も対象という。海をただ大量の水とみなして水銀を流したから公害を招いたが、多くのいのちの場とみる生命科学なら違っただろうとも。当時30代。深い意味がぴんとこなかった。
三菱化成の出資で創設される生命科学の研究所に誰を招き、何をするのか。東京・丸の内のビルの一室でそう尋ねると「わかるわけないでしょ。考えるのよ」。びっくりした。
江上さんには策があった。「あらゆる分野の賢人の意見をまず聞こう」。物理、医学、哲学など11分野の第一人者を4、5人ずつ招いてシンポジウムを1年間続けた。この約50人が生涯を通じたブレーンになる。
その頃米国ではライフサイエンスが誕生。医学への応用を念頭に生命現象を機械の仕組みのように分析する手法は、期待の科学技術と脚光を浴びた。一方こちらは、細切れにすれば見失いがちな生命全体の姿を、科学的事実で記述する立場。「実利優先の科学技術はいつか限界がくる。本当の生命科学を確立しておかなければ、おかしなことになる」。それが師の危機感だった。
ところが82年、江上さんが死去。米国型生命科学が医学的成果を次々に上げて優位となる中、心に残る「考えるのよ」を支えに模索を続けた。そんな時、ゲノム(全遺伝情報)が登場した。ヒトゲノムには遺伝子以外の塩基配列まで人間の全部が含まれ、いのちの40億年の進化も刻まれている。ゲノムを基本単位に考えれば、個々の遺伝子にとらわれずにいのち全体を科学の言葉で語れる。
「これが江上先生への答えだ」。ゲノムが秘めたいのちの物語をみんなで楽しむ場として、JT生命誌研究館を創設した。それから三十余年。恩師の声は今も消えない。「チャットGPTなんて使っちゃいけない。だって考えるのが人間でしょう?」(織井優佳)
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1936年東京生まれ。東京大大学院生物化学博士課程修了。三菱化成生命科学研究所人間・自然研究部長、早稲田大人間科学部教授、JT生命誌研究館館長などを歴任。
https://digital.asahi.com/sp/articles/DA3S16138733.html
朝日新聞1月30日
https://mekuruto.nishinippon.co.jp/card/1282/ 【軽妙な語り口と説得力
「自分と対話」法話行脚】より
めくるとをご覧いただき、ありがとうございます。このサイトがスタートした昨秋から毎日欠かさず日々の言葉「一語一会(いちごいちえ)」を取り上げている、皆様おなじみの大谷徹奘(てつじょう)・薬師寺執事長。
奈良の薬師寺と言えばユネスコ世界遺産「古都奈良の文化財」の構成資産の一つで、修学旅行先としても大変人気があり、老若男女問わず全国的に知られたお寺です。一体どんなお話をされるのか。1月下旬、福岡市内で開かれた大谷さんの市民向け法話に参加してきました。
「人間はね、仮面ライダーやウルトラマンのように、簡単に変身して、強くはならないんです。涙流して、汗かいて、だんだんと強くなるんです。時間がかかるんです。それが、人間なんです」
「私はいつも、若い人たちに言ってるんです。〝今だけ、金だけ、自分だけ…〟と考えることは仕方がないことなんだ。ただし、4本目に〝未来のため、人のため〟という柱を持って生きてきた人と、柱を持たずに生きてきた人は全く違うんだよ」
大谷さんは1963年、東京都出身。17歳で高田好胤・薬師寺元管主(故人)に師事して、奈良の薬師寺の僧侶になりました。99年からは「心を耕そう」をスローガンに全国を飛び回り、法話行脚を続けられています。学校や少年院にも赴くなど、幅広い世代に「自分との向き合い方」を説いています。また、東日本大震災や熊本地震の際には被災地で支援活動をしたり、今年元日に発生した能登半島地震の被災地支援のために義援金を呼びかけたりと、復興支援をライフワークにされています。
「私たちの親世代は戦中・戦後の中で大変苦労してこられ、私たちはその恩恵を享受している。リレーで言うと、今は自分がバトンを持って走っている。自分の現在の行動が、未来の子孫たちに繋がるということを忘れちゃいけないよ」
私は法話を聴くのは初めてでしたが、大谷さんの語り口が軽妙且つ、心に訴えかけてくるようで、すぐに引き込まれました。30名ほどの参加者たちと終始うなずきながら、あっという間に時が過ぎていきました。
個人的に、一番印象的だったのは「私たちはスマホによって一日中、情報攻撃にさらされている。便利な情報で外向きの五感は研がれるけれど、内向きに自分の心と向き合う機会が疎かになっていないか。昨年、白昼の銀座で発生した若者による強盗事件をはじめ、心の使い方を忘れてしまっているのではないか。〝物で栄えて、心で滅ぶ〟と感じる機会が増えている」という問いかけでした。一定の間は情報を断ち、写経をするなど自分自身と向き合う時間を持つ必要性を勧めています。
私も満員の通勤電車でついイライラしてしまうときなど、一旦スマホの画面から顔を上げて周囲に気を配るなど、普段の暮らしの中でも心にゆとりを持ちたいと思いました。
大谷和尚②
私はめくるとをスタートする前、「サイトを訪れた人に元気を与えられるような、機知に富んだ言葉を毎日発信している人はいないか」と探す中で大谷さんの「一語一会」を知りました。高尚な人物ながら、物腰が柔らかく、めくるとでのコラボにも快く応じていただきました。正直、日々の言葉だけでは魅力を100%お伝えすることはできないと思います。
大谷さんは20年近く、毎年1月に説法のため福岡を訪れています。「(次回まで)1年も待てない!」という読者の皆様にも、お話を生で聴く機会をお伝えしたいと思います。続報をお待ちください!
めくるとでも取り上げている日々の言葉が気になる方は、作品集『日々のことば』(お仏壇のはせがわ)が7集まで出版されています。こちらもお買い求めください。
(宮下雅太郎)
◎参考に、この法話の一部を撮影した動画がこちらです。
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