「龍」「竜」「辰」

https://kanjibunka.com/kanji-faq/jitai/q0336/ 【「龍」は「竜」の旧字体だそうですが、元々は「竜」の方が正しいのだという話を聞いたことがあります。本当ですか?】より

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「竜」と「龍」というのは、こだわりを持つ人が多い漢字で、「芥川竜之介」などと書こうものなら、「そんなんじゃ芥川じゃない!」と怒り出す人がいるくらいです。しかしこの2つの漢字、いわゆる異体字の関係にあって、「竜」が新字体、「龍」が旧字体であること、ご質問をくださった方がおっしゃるとおりです。

033601旧字体というからには、当然ながら「龍」の方が古いものと思われます。しかし、最も古い時代の漢字の形を伝えている甲骨文字では、この字は図の左側のような形をしています。さらに、甲骨文字の次に古いとされる金文(きんぶん)では、右側のような形になります。これらの形を見ている限り、どちらかと言えば「竜」の方が本来の形に近いものと思われます。

しかしよく見てみると、甲骨文字では、右側に背びれ(?)のようなものが突き出ていることがわかります「龍」という漢字は、この背びれの部分を強調して書いたものだと言われています。つまり、「竜」は甲骨文字の直系の子孫なのに対して、「龍」はかなり誇張された子孫だ、というわけです。なんだか、紅白歌合戦の某歌手の衣装を思わせるほどの誇張のされ方ですよね。

このように考えると、「竜」と「龍」とは、どちらかが親でどちらかが子という関係ではなく、兄弟の関係だということになります。にもかかわらず、「竜」が新字体で「龍」が旧字体だというのは、歴史的にはずっと「龍」の方が正字だとされてきたからに他なりません。純朴な長男よりも、派手好きな次男の方が世間の受けはよかった、というわけです。

それが第二次世界大戦後の国語改革によって、その書きやすさから、「竜」の方が正字であるとされることになりました。純朴な長男の苦労が、ついに認められるときがやってきたのです。私は実は次男なのですが、この「帰ってきた長男」には、惜しみない拍手を送りたいと思います。


https://www.sankei-shokai.jp/kanji-to-nakayoku/20231217060000.html 【竜が先、後で龍が登場】より

 今回は来年の干支「龍/竜」を見てみよう。

 中国で「龍」は空想上の霊獣を表し、皇帝の象徴ともされたよ。その成り立ちをみると、実は「龍」の略字体「竜」の方が先に生まれたんだ。甲骨文をみると、頭に冠を被る大蛇を象かたどった象形文字となっているね。

 その後、「竜」にはいろんな装飾模様が加わり、甲骨文の後に出てきた金文で「龍」が使われることになったようだ。

 留意すべきは、「竜」や「龍」は中国本土で使われず、知る人も少ないこと。簡体字「龙」が一般的なんだ。一方、台湾や香港など繁体字を使う地域の場合、「龙」ではなく「龍」が日常的だね。

 日本では、「龍」も「竜」も併存。ともに人名に使用でき、例えば、坂本「龍馬」も「竜馬」の表記も認めらているんだ。

(産経国際書会副理事長 勝田晃拓)


https://salon.mainichi-kotoba.jp/archives/201035 【竜の正体は?――「辰」との関係から考えた】より

辰(たつ)年の「辰」には本来、竜を示す意味はありません。ではなぜ、辰にちなむ動物として竜が選ばれたのでしょう。想像ですが、誰もが知っている「あれ」が媒介になったのではないでしょうか。

遅ればせながら2024年のえと「辰(たつ)」について。十二支中、唯一の架空の存在である竜が当てられたのはなぜでしょう。校閲の仕事をきっかけに調べ、定説がないようなので自分で考えてみました。

「辰」は「振」に通じる

えとの「辰」の字は「振」が由来――ある原稿にこんな部分があり、同僚が疑問を示しました。「それに近い記述もネットにはありますが、信頼性が確認できず、手元の漢和辞典にもそんなことは書かれていません」

でも、漢字の由来には諸説あるのが常。原稿の筆者が見た辞書類にはたまたま「振」が由来と書いてあったのかもしれません。念のため、職場にある漢和辞典で少なくとも7冊あたってみましたが、「振→辰」説を記す記述は見つかりませんでした。

しかし、振と全く関係がないわけではなく、ある漢和辞典には「意味を共有する」とありました。冒頭の文は「『振』に通じる」という直しを同僚が提案し、その通りに直りました。

さて、十二支の辰に当てられる動物は竜(龍はいわゆる旧字体なのでここでは用いません)。つまり辰という字がまずあり、それに竜という概念が当てはめられたわけですが、なぜ竜が選ばれたのでしょうか。

直接関係ないので「竜年」とは書かない

十二支とそれにちなむ動物の関係は、大漢和辞典の諸橋轍次も「十二支物語」(大修館書店)で

なぜ、多くの動物の中から鼠や蛇などを選んだかは、さっぱりわかりません。

と、さじを投げています。それぞれ十二支に当時の音が近い動物が選ばれているという話もあるようですが、それにしても意味上の関連はないとされています。

だから一般的に「竜年」とは書きません。あくまでも、2024年は「辰年」です。

ただ、全く関係のないものが任意に選ばれるのも不自然なので、現代人にはうかがい知れない何らかの関連があるのかもしれません。

多くの漢和辞典は「辰」は二枚貝が足を出して動く形の象形文字としています。辰は蜃(しん)の字に変化し大ハマグリを表すようになりました。蜃気楼はこの貝の息といわれました。「後西遊記」にその伝説をもとにした妖怪が登場します。

一方、蜃は竜の一種との説もあります。この説に従うと

「辰」→「蜃」∈竜

というつながりが見いだせます。

「震」はなぜ雨かんむり?

ちなみに、辰の字は「振」と似た意味の「震」も構成します。中国最古の字書「説文解字(せつもんかいじ)」には、辰は「震也(なり)」とあるそうです。大地が振動したら「地震」。二枚貝も一見動かないものに見えますが動くときは意外に活発ですよね。本来動かない大地が動くという地震とイメージが似ていると思います。

でも、なんで「雨かんむり」なのでしょう。その疑問は円満字二郎さんが「雨かんむり漢字読本」(草思社)でときあかしてくれます。

円満字さんはまず「辰」について、「『辰』を含む漢字には、“揺れ動く”という意味を含むものが多い。『振動』とは、“細かく動く”ことだ」と書きます。やはり「辰は振に通じる」とした直しは適切だったと改めて思います。その上で「二枚貝は、足を細かく揺れ動かす。それで、『辰』に“揺れ動く”という意味があるのだ」という通説を紹介します。で、雨かんむりで「震」となったのはなぜ?

「震」とは、もともとは“カミナリが落ちる”ことを意味する漢字なのだ。カミナリは、多くの場合雨を伴い、そうでなくても雲から落ちてくる。「震」という漢字に「雨かんむり」が付いているのは、そのためなのである。

ただ、『史記』や『春秋』には、「地震」という熟語も何度も登場する。つまり、当時から、「震」は現在と同じ意味でも用いられていたのだ。それは、カミナリが当たったときの衝撃から、意味が転化していったものなのだろう。

「辰」と竜をつなぐのは「震」かも

と、いうことは――。私は雷に打たれようにひらめきました(おおげさ)。辰の字と竜には、蜃というえたいの知れないものを仲立ちにするより、もっと目に見えるものが関係しているんじゃないか? 雷の光跡はまるで竜のように見えますよね。雷が「震」だとすると、その字を媒介に

「辰」→「震」→雷→竜

というリンクが成立するのではないでしょうか。

調べると、中国の後漢時代の「論衡」という著書では、「雷竜同類」という文言があります。これは「雲竜」の間違いだともいわれますが、それにしても雷が起こると竜が天に昇るという伝説が(批判的にですが)書かれていますので、雷と竜には密接な関係があったようです。

また、日本の「今昔物語」にも少なくとも2話、竜が出てくる話で雷が発生します。中国の影響かもしれませんが、海を越えてもやはり竜と雷がセットというのは面白いですね。

雷光に竜の片りんを見たのでは?

ところで、またある原稿の話ですが、竜は恐竜の化石から実在が信じられたという趣旨の文があり、本当かなあと思いました。確かにある種の恐竜や首長竜には竜に似たところはあるし、中国は恐竜化石の大国なので、一理はあります。

でも、化石が完全な原形をとどめて出てくるなんてめったにはないだろうし、仮にあったとしても、そこから生まれた竜のイメージが、化石に縁のない地方まで共有されていたというのも、ちょっと信じがたい気がします。疑問を呈して、一つの可能性という感じの控えめな文に変えてもらいました。

ただ、どこからイメージされたかは別として、竜の実在が信じられていたというのはいかにもありそうです。「龍の世界」(池上正治著、講談社学術文庫)によると現代でも実在説を唱える人がいるそうなので、いわんや古代においてをや。

それにしても、十二支に配された動物はほとんど中国人にとって身近なもので、実在か架空かはともかく竜は異質です。しかし、その片りんを大昔の人は雷光に見いだしていたのかもしれません。それなら十二支に選ばれるのも無理はないかも――もとよりそんな証拠はないのですが。

専門家でも何でもない一介の校閲者の空想とお笑いください。ただ、新聞記事としては、大昔の証明できないことを事実のように伝えるのは気をつけなければならないなと思います。一見納得できそうな説でも、別の可能性を追求することを妨げてしまいますから。竜頭蛇尾の文章でした。


https://mag.japaaan.com/archives/67025 【竜は実在した?干支で唯一実在しない動物「辰=竜」が含まれているのは何故?】 より

十二支の動物は「実在の動物」。あれ・・・?

今年の干支の「戌=犬」をはじめ、十二支の動物として選ばれているのは、ほとんどが実在の動物です。でも1つだけ実在していない動物「辰=竜」が含まれています。

毎年の年賀状も、「戌年」や「午年」などには誰が見ても犬や馬と分かる絵や写真の葉書が送られて来ますが、「辰年」だけは「タツノオトシゴ」「ドラゴン」「恐竜」「トカゲ」など、様々な「竜っぽい生き物」の画像付きの葉書が送られてくることもしばしば。

なぜ、誰も見たことのない架空の動物が、十二支に選ばれることとなったのでしょうか?

架空の動物である竜は恐竜の化石?

竜が干支の動物に選ばれた理由は、干支の起源である古代中国では「竜が実在する」と信じられていたためです。生きている竜を見た人はさすがにいなかったでしょうが、中国には古代から「竜の骨が見付かる」と言われる場所があったのです。それもそのはず、中国は現在でも、世界的に恐竜の化石が多く発見されることで知られる国なんです。

古代中国で恐竜の骨が見付かり、それが「竜の骨」と信じられていても、全く不思議ではありません。しかも発掘調査が進む前の地層では、鳥とも爬虫類とも言えないような大きな生物の化石が、ほぼ全身分そのまま発見されることもあったでしょう。

そんな竜は、中国やその文化的な影響を受けた朝鮮半島、琉球王国などで、長い間神獣・霊獣とされ、皇帝・国王の象徴とされていました。神聖な生き物である竜を十二支に入れないということは、考えられなかったのですね。

https://hugkum.sho.jp/558698 【今年は辰年!「辰」は「たつ」だが「竜」ではないってどういうこと?【知って得する日本語ウンチク塾】】より

国語辞典編集者歴37年。日本語のエキスパートが教える知ってるようで知らなかった言葉のウンチクをお伝えします。

干支は、動物の意味ではない

十二支は暦法で使われた語で、子(し)・丑(ちゅう)・寅(いん)・卯(ぼう)・辰(しん)・巳(し)・午(ご)・未(び)・申(しん)・酉(ゆう)・戌(じゅつ)・亥(がい)の12です。

そして、これらに12の動物をあてはめて、日本では、鼠(子(ね))・牛(丑(うし))・虎(寅(とら))・兎(卯(う))・竜(辰(たつ))・蛇(巳(み))・馬(午(うま))・羊(未(ひつじ))・猿(申(さる))・鶏(酉(とり))・犬(戌(いぬ))・猪(亥(い))と呼ぶようになりました。

中国では古くから、十二支に動物を当てはめていたのですが、なぜこれらの動物が選ばれたのか、実はよくわかっていません。十二支で使われる漢字には、もともと動物の意味はなかったのです。

「辰」と「竜」もともとは何の関係もない漢字

今年は辰年(たつどし)です。動物では、「竜」のことですが、「辰」と「竜」も、もともとは何の関係もない漢字でした。では「辰」はどういう意味の漢字なのでしょうか?

「辰」という漢字のもともとの読みは「シン」です。

「辰年」のように「たつ」と読むのは、十二支に動物を当てはめたとき、5番目の「辰」を「竜」と考え、日本でこれを「たつ」と読むようになったからです。従って「辰」という漢字も、他の十二支の漢字と同じように、動物の意味はありません。

では「辰」はどういう意味の漢字だったのでしょうか。『新選漢和辞典』(小学館)によると「辰」の字源は、

「辰は、三月、房星の支配する農業の時季になり、草木が芽を出して変化するとき、雷が震(ふる)うことをいう。房星をもさす。他の説に、農具ともいい、貝殻の中から肉が出て動いている形ともいう」

と説明されています。「房星」は中国古代の星座で、蠍(さそり)座の頭部にある四星をいいます。「辰」の字源は諸説あるわけですが、何かしら農業と関係のある字だったようです。「農」という漢字には「辰」があります。「農」はこの「辰」が部首なのです。「辰」が「竜」と何の関係もない漢字だったことは、これで明らかでしょう。

ちなみに、「辰」が使われている漢字には、「唇」「娠」「宸」「振」「晨」「蜃」「賑」「震」「辱」などがありますが、「辰」が部首なのは最後の「辱」だけで、他の漢字の部首はすべて違います。クイズ問題にできそうですね。

さらに「辱(ジョク)」以外はすべて字音は「シン」です。「辰」が音を示しているのです。

「竜」は「龍」の省略形の俗字

ところで「竜」という漢字のことです。「竜」は常用漢字ですが、旧字は「龍」です。似ても似つかぬように思えますが、「竜」は「龍」の省略形の俗字だと考えられています。ただ15、6世紀の辞書にも「竜」の字が載っていますので、かなり古くから使われていたようです。

「芥川竜之介」でもまちがいじゃあないんだけど…やっぱり「芥川龍之介」がしっくりくる!

現在は「竜」が常用漢字表に載せられていますので、新聞などでは「竜」の方が使われています。でも、常用漢字表では「龍」も「竜」のところで括弧に入れて示していますので使ってはいけないわけではありません。私も「坂本竜馬」「芥川竜之介」と書くのはどうしても抵抗があるため、「坂本龍馬」「芥川龍之介」と書いています。

ワニも「竜」のモデル?

では「辰=竜」に該当する生物は、化石となって発見された恐竜ということでよいのでしょうか?

実は「竜のモデルでは?」と考えられている生物としては、他に「ワニ」が知られています。長江・漢江・黄河など、巨大な河川がいくつも流れている中国には、古代から巨大なワニが数多く生息していたようです。

獰猛なワニの姿を見たら、「これが竜のモデル」と言われても、思わず納得してしまいますね。次の辰年が巡ってきたら、年賀状では他の干支の年にはできない楽しみ方ができるかもしれませんね。

コズミックホリステック医療・現代靈氣

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