https://honz.jp/articles/-/14748【『俳句いきなり入門』で、個性について考えてみる】より
俳句と言えば何を思い浮かべるだろうか。年寄り趣味の代表格、自分のメッセージや感動の自己表現、五七五や季語を入れるなどルールが多そう……。そういった先入観をいったんチャラにして、俳句を「自分の外に出るためのゲーム」として捉えなおそう、というのが著者の提言だ。
その第一歩は「俳句は自己表現の手段」という考え方を否定すること。そもそも人間の「言いたいこと」なんて高が知れているが、自分の「言いたいこと以外のこと」は無限だ。
俳句は自分の意図ではなく言葉に従って作るもの。自分で思いつかない表現・自分の発想の外側に着陸し、無限から引き出した発想が17音の中に集約される。そうして出来た作品には奥行きや味わいが生まれ、読む人により多様な解釈が可能となる。
「高度に知的な言語ゲームである」とも言われる俳句の醍醐味は句会にある。句会では、数人で俳句を持ち寄り(投句)、どれがだれの句かわからないようにして人気投票し合い(選句・披講)、ああでもないこうでもないと評を述べ合う(句評)。
句会のいちばんのおもしろさは、じっさいに俳句を作ることにはない。他人の俳句を読んで人気投票したり、みんなであれこれ評しあったりすることにある。句会にとって「より本質的な」楽しさは、作句ではなく句評にある。だからそっちを味わってみるのが先決だ。
初心者にも配慮し、本書では「俳句経験ゼロでも、一句も作らなくても、句会を開く方法」が紹介されている。俳句は参加者が詠むかわりに『現代の俳句』のようなアンソロジーを用意。そして「高浜虚子」「中村汀女」など、アンソロジーに名を連ねる特定の俳人を自分の代役に立てれば十分だ。
この句会、興味はあるが取っ掛かりがつかめないものでも、仲間うちでワイワイ親しむうちに自ずと良し悪しや好き嫌いのセンスが磨かれてくるという、よく出来たシステムだ。ワインのテイスティングや日本酒の利き酒など、俳句以外の応用も我々には馴染み深い。
俳句を作ってみようという段になると、初心者は「言語論的転回」を経るという。
“
第一段階 自己表現期 「こういう内容を言いあらわそう」と考えて、それを表現するために言葉を捜す。意味が全部分かりすぎの、読み手としては「で?」っていうしかない俳句か、舌足らずで意味不明なボケボケフレーズができる。
・・・・・・<言語論的転回>・・・・・・・・・・
第二段階 自動筆記期 意味不明の自動筆記のような句ができる。
第三段階 前衛俳句期 意味不明だが読者たちが想像でいろいろと補える句が出来る。
第四段階 伝統俳句期 読者たちが想像でいろいろと補って、単一のもしくは複数の意味に回帰する句ができる。
”
ソシュールや構造主義言語学や記号論や言語哲学が20世紀思想に与えた深甚なコペルニクス的影響を言語論的転回という。それまで、言葉は考えを表現するための透明なツールだと考えられていた。
ところが20世紀には、言語は透明なツールではなく、人間が知ることができることすべてを条件づける不透明な存在であるとか、人間が言語を使って考えるというより言語が人間を使って考えているのではないか、というような考えに転換した。
俳句初心者に置きかえると、個人の内部ではこんな意識の変化が起こっていると言える。
“
第一段階 結果より自分の意図(言いたい内容)が大事。
・・・<言語論的転回>・・・・・・・・・・・・・・・
第二段階 自分の意図(言いたい内容)はどうでもよくなる。
第三・四段階 いい結果を出すことが自分の意図。それ以外の意図(言いたい内容)は二の次。
”
言語的転回を経た人は、自分の着想のために言葉を捜すのをやめ、「XXXという言葉を使おう」と考え、それにあわせるために別の言葉を捜すようになる。人参煮てないのに煮たことにしちゃうし、そもそも蒟蒻干したことないのに干したことにしちゃう。俳句的にはそれが正しいのだ。
これも俳句に限ったことではない。本当に創造的で心からおもしろいと思えるものは、頭で考えてひねり出すのではなく、自分の意図とは関係なく「手段先行・素材ドリブン」で生まれてきてしまうのではないだろうか。旬の食材から創作料理を作り出す料理家、文学・絵画に霊感を受けて名曲を生み出す作曲家、ビジネスでは「プランド・ハップンスタンス理論」もこの考えに近い。
それでも、「俳句って字数制限キツイし季語とか切れとか定型とかルールがきついんだからただでさえ個性なんて出ない……」と制約ばかりに気を取られる方も多いかもしれない。しかし、俳句ではその「お約束」ゆえに「全員に制服を着せたらかわいいことそうじゃない子が残酷なくらいはっきり分かっちゃう、というような意味で」個々の言語センスが測られてしまうことになる。
しかも測るモノサシはひとつだけではない。「ダメな句は全部似ているが、いい句はそのよさが一句一区違っている。」自分を捨て言葉に徹し、「お約束」の枠内に自分のエッセンスを凝縮し、ここにきて本当の「個性」というのが現れてくるのだ。
何かに行き詰まりを感じたとき、現状を変えたいときにも「転回」でアプローチしてみよう。私にとっては読書もそれ自体が目的の娯楽。文章は人間より偉く、レビューも自分の外にある言葉で作るのが「読書論的転回」。自分に最も縁遠いと思われるテーマの本を読む「濫読」の醍醐味もここにある。
Facebook船木 威徳さん投稿記事【 自分に合った仕事と職場 】
数日前のこと、地元の行きつけの喫茶店が非常に混んでいて40~50代のお姉さんたちが3人ほど話し込んでいる隣のテーブルに座りました。
「でさ、○○さんやめたんだよね」「あの新しい△△さん、ちょっと愛想ないよね」そんな話をしているうち、話題は「給与」について、に変わりました。
「あのさ、明細書のCって書いているの、あれなに?」「あ、あれね、BとかAになると1万とか手当がつくらしいよ。知らないの?」「普通はC。でもたくさん休んだりしたらDとかEに
なるんだって。」「えー。そうなんだ。じゃあさ、どうやったらAとかBになるんだろ?」
「あの、ときどきあるじゃん。なんとか講習とか、休みの日にやってるやつ。あれを何回だか、ちゃんと受けたら、よくわからないけど、BやAがつくんじゃない?」
「えー・・・。だって講習ってさ、出ても、お金もらえないんでしょ。だったら、いいや。
私Cのままで・・・。」私は「(会社の)講習に出ても、お金もらえないんでしょ。」の部分で、飲んでいるアイスコーヒーを吹きそうになりました。
「講習に出てもお金もらえないし・・・、じゃないでしょ。
会社は、その「講習」を通じて、社員の知識やスキルをアップさせるために「お金を払っている」んですよ。
あなたたちは、社員の特権として、そこにタダで参加できて、力をつけたら、給料も増えるのだから、せっかくの機会を生かさない手はないと思うのだけど・・・。」とは、言いません。
私には無関係な人たちですから。ただ、もったいないなあ、と。
私も、中学生のころから、いろいろなバイトをしましたし、学校を卒業して、医師になってからは勤め人として15年程、さまざまな病院や診療所、企業で給料をもらって暮らしていました。10年前にクリニックを開いてからは、今度は給料を出す側の経営者として、悩みながらやってきました。
だからこそ、給料を払う人、給料をもらう人の、両方の立場にある人、それぞれの気持ちが
充分にわかるように思います。
この、社会に大きな影響を与えた新型感染症が短期的に変えたのは、人々の仕事であり、
給料を含め、仕事を通じて営まれる、人々の日常生活でしょう。
(もともと幻想に過ぎないのですが)明日も、来年も、同じ仕事をして、同じ給料がもらえる、支払えると「信じて」きたいわば、私たちが無意識に求めている「安定」思考の基盤が不確かなものだとはっきり見せられてしまったからです。
簡単に言えば、これから、さらに仕事を失う人が増えるであろうことが容易に、予想されるということです。
私たちの法人では、ほとんど年中、求人をしており、多いときは、毎週のように、私も面接を行います。その全員を採用するわけではありません。
就職してくれても、早々にやめてゆく人もいます。私は、そのたびに、この人が、できるだけ早期にご自身に合った仕事を見つけられるといいなと願うばかりです。
もしかしたら、いま、現に仕事を探してあちこちに履歴書を送っている人もおられるかもしれませんし、今の職場の将来に強い不安を抱えて日々を過ごしておられる方も少なくないでしょう。「自分に合った仕事・職場」を見つけたい、というのは誰もが願うことです。
その具体的な考え方、方法を、科学的に説明した本の内容を抜粋して紹介します。
「4021の研究データが導き出す科学的な適職」
(鈴木祐 著、クロスメディア・パブリッシング)という1冊で、私は、面接を行う前に必ず読む本。
社会の状況がますます厳しくなっても人間にとって「働く」というのは、生活費を稼ぐ手段として以上に価値があり、それ自体が、天が与えるギフトだと思います。
その、すばらしい仕事や職場に早く出会えるよう、参考にしてもらえたら幸いです。
この本は、「なぜ私たちはキャリア選びに失敗するのか」という筆者の考察に始まり、
「正しい職業選択のための5ステップ」として、具体的な方法をまとめています。
●ステップ1: 幻想から覚める ~仕事選びにおける7つの大罪
●ステップ2: 未来を広げる ~仕事の幸福度を決める7つの徳目
●ステップ3: 悪を取り除く ~最悪の職場に共通する8つの罪
●ステップ4: 歪みに気づく ~バイアスを取り除くための4大技法
●ステップ5: やりがいを再構築する ~仕事の満足度を高める7つの計画
この5ステップを 幻想から覚める(Access the truth) 未来を広げる(Widen your future)
悪を取り除く(Avoid evil) 歪みに気づく(Keep human bias out)やりがいを再構築する(Engage in your work)の頭文字をとってAWAKE(真に幸福な仕事への目覚め)としてまとめています。かっこいいですよね。
このAWAKEを使う最大の目的は
① 意思決定の精度を上げて正しい仕事を選ぶ ② 正しい仕事を通じて人生の幸福度を上げる
という2点だと断言しています。
まず、その目的を達成する前に、自分自身の状況を知る必要があります。
その最初は、Q. こうすべきと思い込んでいませんか?
<職業選択にありがちな7つの大罪>
大罪1: 好きを仕事にする 大罪2: 給料の多さで選ぶ
大罪3: 業界や職種で選ぶ 大罪4: 仕事の楽さで選ぶ
大罪5: 性格テストで選ぶ 大罪6: 直観で選ぶ
大罪7: 適性に合った仕事を求める
というものですが、もしかしたら、そのほとんどに当てはまるという人もいるかもしれません。
次の質問はQ. どのくらい満たされていますか?
<仕事の幸福度を決める7つの徳目>
徳目1: 自由 仕事内容や働き方に裁量権がある
徳目2: 達成 前に進んでいる感覚を得られる
徳目3: 焦点 モチベーションタイプに合っている
徳目4: 明確 なすべきこと、ビジョン、評価軸が明確
徳目5: 多様 作業内容にバリエーションがある
徳目6: 仲間 組織内に助けてくれる友人がいる
徳目7: 貢献 どれだけ世の中の役にたっているかわかる
このチェックリストは、新しく就職しようとしている職場に関して、詳細を尋ねる上で非常に
重要なことがつまっていますし、あるいは、いまの職場を辞めるかどうかを冷静に考えるひとつの基準にもなるでしょう。
私は、経営者として、職員たちの仕事の現場づくりに参考にしています。
さらに、Q. どのくらい当てはまっていますか?
<最悪の職場に共通する8つの悪>
1位: ワークライフバランス崩壊 2位: 雇用が不安定
3位: 労働時間が長い 4位: シフトワーク
5位: 仕事の裁量権がない 6位: 周囲からのサポートがない
7位: 組織内に不公平が多い 8位: 通勤時間が長い
とありますが、もしここに複数あてはまる職場なら早々に考え直す必要があるでしょう。
このAWAKEを使う上で、非常に多くの質問が著書には用意されており、実際に行うべき作業も多い本です。
ですから、もし求職で、本当によい選択をなさりたいのであれば、実際にこの本を買って、
こうすべきということを実際に行ってもらうのが一番いいと思います。
ただ、ひとつだけ、書いておきたいことがあります。
結局のところ、転職にせよ、普段の買い物にせよ私たちは「選択」を繰り返して生きています。その「選択」の結果、1年後、5年後、10年後、なににつながり、何が起きるのかなど、
慎重に予測することしかできません。
著者は、現代の求職については、「親友や同僚などの『強いつながり』」こそが非常に役に立つと説明します。
なぜなら、インターネットで簡単に情報を集めることができるようになった分、新たな問題が出始めているからです。それは、●選択枝が多すぎるせいで目移りし、バイアスに飲み込まれやすくなる●同じ仕事に大量の応募が殺到するため、ライバルとの差別化をはかるのが難しい
からであり、だからこそ、これらの現代的な問題を解決するために、あなたのことをよく知っている(人間は自分のことは意外に客観視できていない)親しい同僚や上司、クライアントや親友などに相談する方が、成功率は格段に高くなると言います。
私が学ぶ、経済に詳しい先生は、2023年以降、日本の失業率は最大60%まで悪化するのではないかとさえ言っています。
私は、いまこそ、人の困りごとを、真心からなんとか助けてあげたいという「仕事」の基本に
戻るべきだと考えていますし、「人の困りごと」など決して尽きることはないはずです。
人が人を助けたい、幸せにしたいと思い合える世界では、むしろ仕事は増えてゆくと考えています。
まずは、これを読んでおられるみなさんが最高の「適職」に出会えますよう。
「人生に成功する秘訣は、自分が好む仕事をすることではなく自分のやっている仕事を
好きになることである」(ゲーテ・ドイツの詩人)
「見るべき場所を見ないから、それで大切なものをすべて見落とすのさ」
(コナン・ドイル イギリスの作家)
~王子北口内科クリニック院長・ふなきたけのり
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