https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/234 【原爆忌と芸術平和学 -瓜生山歳時記#12】より
尾池 和夫 高橋 保世
原爆忌の傍題に原爆の日、広島忌、長崎忌がある。1945(昭和20)年8月6日、世界で初めて市街地の市民に向けて原子爆弾が投下された。最初の4か月間で13万人以上の人命が失われたと言われる。さらに8月9日、長崎の街の市民に向けて原子爆弾が投下され、6~7万人の人命が失われた。これら両日を原爆忌という。立秋が8月7日ごろだから、広島忌は夏の季語、長崎忌は秋の季語として詠む。広島忌には、広島市の平和記念公園で平和祈念式典が行われ、長崎忌には、長崎市を中心に全国的に平和祈願、核廃絶の呼びかけが行われる。
原爆投下後72年の8月6日、平和祈念式典で松井一實広島市長が、7月に国連で採択された核兵器禁止条約に触れ、各国政府は「核兵器のない世界」に向けた取り組みをさらに前進させなければと述べた。日本はこの条約に不参加で、首相はこの日、この条約には触れなかった。
広島忌振るべき塩を探しをり 櫂 未知子
首上げて水光天に長崎忌 五島 高資
東北芸術工科大学の建学の理念である「藝術立国」を柱として、芸術と平和、生命の尊さを学びつつ、人間としていかに生きるべきかを自ら考えるという「芸術平和学」が開講されている。この講義を創設した当時の宮島達男副学長は、大勢の人たちが芸術を学んだという誇りを胸に、地域社会のなかで文化と芸術がもつエッセンスを輝かせながら生きていくことができたら、平和で豊かな社会が生まれるだろうと言う。価値観も思想も違う人同士が、町内の盆踊で提灯の灯に集まってきて、一緒になって自然に踊りだすというのが文化と芸術の力であり、それが平和を生み出す原動力になり得ると彼は言う。
同じ建学の理念を持つ京都造形芸術大学文明哲学研究所の田中勝准教授は、東北芸術工科大学での経験を活かしながら、瓜生山学園でも「芸術平和学」を展開しようとしている。彼は広島の被爆二世で、1973年に設立された日本平和学会の「平和と芸術分科会」の責任者である。平和の価値の創造のために芸術が果たす可能性は計り知れないと彼は言う。
草も木も空も大地も原爆忌 和夫
https://tenki.jp/suppl/miyasaka/2016/08/06/14541.html 【折鶴にいのち吹き込む原爆忌―句と歌からあらためて平和を願う夏】より
長崎平和公園の平和祈念像
8月6日に広島、8月9日に長崎が、被爆から71年となる「原爆の日」を迎えます。俳句の世界では、このふたつの日はほかに「広島忌」「長崎忌」「浦上忌」「平和祭」「爆心地」などの季語として、たくさんの人に追悼を込めて詠まれてきました。改めて平和の意味が問われるこの夏に、その作品の一部を思い出してみたいと思います。
弯曲し火傷し爆心地のマラソン
原爆ドームと元安川
俳句では季語としては、8月6日の「広島忌」は夏ですが、間に立秋をはさみますので、8月9日の「長崎忌」は秋となります。歳時記によっては、「原爆忌」としてまとめて、夏または秋のいずれかになっている場合もあります。いずれにしても、8月の灼熱の地獄絵の光景は、終戦直後から現在まで、17字の世界でさまざまに描かれてきました。
弯曲し火傷し爆心地のマラソン 金子兜太 ※1
金子兜太(1919~)氏は、かつて長崎の爆心地の近くに住んでいました。一帯を歩き回り、次々に脳裏に現れた映像イメージをまとめながら字引を引き、この有名な句を完成させたそうです。
子を抱いて川に泳ぐや原爆忌
浦上天主堂遺壁
子を抱いて川に泳ぐや原爆忌 林徹 ※1
作者は広島在住だったそうですが、説明が無くとも、平和や不戦への想いが力強く想起される句ですね。この普遍性が俳句の素晴らしさなのでしょう。そんなふうにイメージ訴求に満ちた句を、いくつかご紹介します。
ひろしま忌空を残して人かはる 小原啄葉 ※1
電工のいちにち高し原爆忌 秋元不死男 ※2
手がありて鉄棒つかむ原爆忌 奥坂まや ※2
原爆忌乾けば棘をもつタオル 横山房子 ※2
首上げて水光天に長崎忌 五島高資 ※2
ぴかどんを辞書に遺せし原爆忌 神田長春 ※2
立葵朱に咲き上る広島忌 金箱戈止夫 ※2
大空をつなぎ蝉鳴く原爆忌 大岳水一路 ※2
広島忌平和の鐘を撞く少女
広島の原爆ドーム
俳句だけではありません。短歌の作品もご紹介します。
原爆とふ死の灰とふ嘆くべき詞消えざらんわが国語辞典に 佐佐木信綱 ※3
白い虚空とどまり白き原子雲そのまぼろしにつづく死の町 近藤芳美 ※3
幾千の人のすみとほる聖歌のこゑ被爆の壁を祭壇として 木俣 修 ※3
木俣氏の歌には、「長崎浦上天主堂の原爆記念日の夜の弥撤を詠む。」と添えられています。
今年は5月に、オバマ大統領が現職のアメリカ大統領として、初めて被爆地・広島を訪問。広島市の平和記念公園で原爆死没者慰霊碑に献花し、広島と長崎を含む第二次世界大戦のすべての犠牲者らに、哀悼の意を示すスピーチを行いました。そしてオバマ大統領自らが折ったという折り鶴は、寄贈された広島平和記念資料館で、9日から8月末まで公開されます。
改めて、世界が平和に向かうことを願って止みません。
広島忌平和の鐘を撞く少女 吉田未灰 ※4
折鶴にいのち吹き込む原爆忌 平岡しづこ ※4
<引用と参考文献>
※1 宇多 喜代子 (編集), 中原 道夫 (編集), 片山 由美子 (編集)『読んでわかる俳句 日本の歳時記 秋』小学館 (2014)
※2 角川学芸出版 (編集)『角川俳句大歳時記「秋」』角川書店 (2006)
※3 飯塚書店編集部 (著)『短歌表現辞典 生活・文化編』飯塚書店 (1998)
※4 廣瀬 直人 (監修), 松田 ひろむ (編集), 有馬 朗人『ザ・俳句十万人歳時記 夏 』第三書館 (2008)
https://ameblo.jp/masanori819/entry-12501921832.html 【一日一季語 原爆忌(げんばくき) 【夏―行事―晩夏】】より
背泳ぎに空を見ている原爆忌 大森理恵
*2016年7月の広島にて
昭和20年8月6日は広島に、9日には長崎に原爆が投下されました。
この句に出てくる作者は、背泳ぎをして、空をみているだけ。
句集『ひとりの灯』、第一回一行詩大賞を受賞した句集に収められている句である。
この句の作者の『言葉は平明に想いは深く』の言葉を借りるまでもなく、平明な言葉の中にある深い思いを、日本人として、忘れてはならないでしょう。
【傍題季語】
原爆の日(げんばくのひ) 広島忌(ひろしまき)
長崎忌(ながさきき)
【季語の説明】
昭和二十年八月六日。広島市に世界最初の原子爆弾が落とされ、最初の四か月間で十三万人以上の人命が失われた。八月九日には長崎にも投下され、両日を原爆忌という。八月六日を「広島忌」、九日を「長崎忌」とも。広島では平和記念公園で平和祈念式典が行われる。
八月九日。昭和二十年八月六日の広島市に続き、長崎市にも原子爆弾が投下された。六、七万人の人命が失われたと推定される。六日・九日の両日ともに「原爆忌」というが、九日を「長崎忌」ともいう。この日は長崎市を中心に全国的に平和祈願・核廃絶の呼びかけが行われる。
→ 原爆忌(夏)
【例句】
広島忌振るべき塩を探しをり 櫂未知子
赤ん坊のつむじより風広島忌 嶋田麻紀
首上げて水光天に長崎忌 五島高資
太陽が鳴らすオルガン長崎忌 脇本星浪
手がありて鉄棒つかむ原爆忌 奥坂まや
岸蹴つてボート押し出す原爆忌 黛 まどか
【忌日俳句】
芭蕉忌、河童忌、桜桃忌、俳人を初めとして有名な文人などの忌日は、歳時記に取り上げられています。
季重なりは避けるべきという向きもあるようですが、忌日を詠んだ句には季重なりのものが多くあり、季重なりを容認している傾向があります。一般に忌日俳句からは季節感が淡くなるということからかもしれません。
原爆忌、震災忌などを、忌日俳句、という分野にしていいのか。反対を唱える方も数多くいらっしゃることと思います。
ここでは、こうした賛否はあえて避けておきます。
【広島忌=晩夏 長崎忌=初秋】
「広島忌」、広島の「原爆忌」のことです。8月6日なので、季語として用いる場合は〈夏〉となります。
長崎の「原爆忌」は9日です。「長崎忌」とも呼びます。どちらも原爆忌なのですが、長崎のほうを〈秋〉の季語とする歳時記もあります。
8月8日頃が立秋となるので、秋になるのです。
【2018年】
「広島・原爆の日」の2018年8月6日
広島市で開かれた平和記念式典がNHKで中継される中、民放各局は別の報道に終始したことが、話題となった。
73度目の原爆忌。広島市の平和記念公園では朝、平和記念式典が開かれ、被爆者や遺族ら約5万人が参列。松井一実市長は平和宣言で、核兵器の廃絶に向けた取り組みを続けるよう訴えた。
全国ネットで式典のもようを中継したのは、NHK総合だ。通常の番組編成を変更して8時、中継特番の放送を開始した。原爆を投下した時刻の15分、遺族代表らによる「平和の鐘」の音が鳴り響くと、1分間の黙とう。安倍晋三首相のあいさつも放映した。
中継を終えたのは、8時38分。通常より38分繰り下げて朝ドラ「半分、青い。」の放送を開始した。その後、夏の全国高校野球の中継に移った。
民放各局はこの時間通常のワイドショー番組を放送していた。
TBS系は「ビビット」、テレビ朝日系は「モーニングショー」、フジテレビ系は「とくダネ!」、日本テレビ系は「スッキリ」だったそうです。
平和記念式典は、いずれのワイドショー番組にも映らなかった。広島「原爆の日」に関連するニュース自体、放送していなかったのということです。
2019年はどうなるでしょう。
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