https://toyokeizai.net/articles/-/250888 【超簡単!辛口・夏井先生と学ぶ「俳句ドリル」
「レディー・ガガ」から「下痢」まで自由自在】より
まずは「古池や」の「古池」を別の言葉に変えて別の句を作ってみましょう。ヒントとして同じく芭蕉の「閑さや岩にしみ入る蝉の声」を取り上げます。この句をまねて「閑さや蛙飛びこむ水のをと」とするとどうでしょう。シーンとした池の水面にポチャンと一匹、蛙が飛びこんだという趣です。
(解答問答)
夏井:「○○○○や」の「○○○○」に言葉を入れてみましょうっていう一種の言葉遊びですよね。
岸本:そうです。
夏井:でも、芭蕉様の名句をそんな扱いをしてもよいのかと恐れ入る人もいると思う。「本当にいいんですか。こんな言葉遊びを楽しんでも罰は当たらないんでしょうか」と。でもね、俳句ってもともと一種の言葉遊び。チーム裾野よ、「みんなで遊ぼうぜ!」ですよね。
心に残ったことや驚きに「や」をつけてみる
岸本尚毅さん(写真:岸本さん提供)
岸本:芭蕉の句のどこがどう素晴らしいかを説明しようとすると難しいけれど、「古池や」の「や」がこの句のキモであることは間違いない。「古池や蛙飛びこむ水のをと」と、「古池に蛙飛びこむ水のをと」の違いは絶大です。
ポチャンをきっかけに幻の「古池」が心の中に立ち現れてくる。そう鑑賞すると、決して平坦なだけの句ではないことがわかります。このような読みは、「○○○○や」が「や」で切れる、そこに断絶があることを強く意識したものです。
夏井:「○○○○や」を埋めていく遊びのなかで、上五の「や」で断絶する感覚を体感するわけですね。
岸本:「空腹や」「恋人や」のように、まず驚いたことや心に残ったことに「や」をつけていくと、面白い上五が見つかるかもしれません。
解答例
夕暮れや 失恋や
夕暮れや蛙飛びこむ水のをと
失恋や蛙飛びこむ水のをと
俳句の型 その2 上五に季語を入れてみる
お題 「○○○○○旅に下痢する弱法師」
岸本:「弱法師」は、弱々しい足どりで歩くお坊さんという意味です。旅先の水が合わなくて腹を下したお坊さんですね。昔は旅先での腹下しは命取りになったかもしれません。
現代にひきつけるなら、不慣れな海外出張を命じられたひ弱な男がどこかの途上国で体を壊して心細い思いをしている、というイメージも可能でしょう。弱々しく、もの悲しい人物像をどのように演出するかが上五の考えどころです。
俳句を始めるのはハードルが高そうに思えるが、ある方法で初心者でも楽しく俳句が学べる秘訣があるという
今、俳句がブームです。人気を牽引しているのが、テレビ番組『プレバト‼』(MBS/TBS系)の辛口先生・夏井いつきさん。夏井さんは、高校生のための俳句大会「俳句甲子園」の創設にかかわり、数々の俳句イベントでも活躍。俳句の裾野を広げています。
本稿では、NHK俳句の選者である俳人・岸本尚毅さんと、夏井いつきさんのお二人から、俳句上達の秘訣をクイズ形式で伝授していただきます。この記事を読むだけで、あなたも一句作ってしまうかも? ぜひ挑戦してみてください。
穴埋め式のドリルで俳句を楽しく詠む
こんにちは、夏井いつきです。私はこの30年間、“百年俳句計画”を掲げ、“俳句の種まき”運動を続けてきました。俳句が100年後も富士山のように高くて美しい山であり続けるために必要なのは、豊かで広い裾野だと考えているからです。そして俳句に興味を持ち始めている人を「チーム裾野」と勝手に呼んで応援しています。
今回、俳人の岸本尚毅さんが保有する膨大な俳句データと、私が経験してきた初心者の陥りやすい失敗や心配などのデータを合体させた『「型」で学ぶ はじめての俳句ドリル』を上梓したのですが、今回の記事ではその中から一部をご紹介します。
私も初心に帰って楽しんで学んだ俳句ドリル。皆さんもぜひ、楽しんでチャレンジしてみてください。
俳句の型 その1 「○○○○や」を自在に変えてみる
岸本:俳句とは五七五の言葉の固まりです。俳句の面白さは五七五のリズムにあります。指を折って数えていたものが、五七五の形で言葉がスムーズに出てくるようになると、がぜん、俳句が楽しくなります。
とはいっても、やみくもに俳句を作るだけでは上達への道は遠いままです。そこでおすすめなのが、型を使った練習です。
たとえば芭蕉の「古池や蛙飛びこむ水のをと」の最初の五音(「古池や」)を「上五」、真ん中の七音(「蛙飛びこむ」)を「中七」、おしまいの五音(「水のをと」)を「下五」と呼びます。
さて、お題です。
元の句は、僧・喜笛の「月青し旅に下痢する弱法師」。1919(大正8)年の句です。青白い月が法師の顔を照らしている。青白い顔をして、たよりない腹をさすりながらわが身と旅の行く末を案じているひ弱な法師に、月の青さをぶつけた秀逸です。
(解答問答)
夏井:「下痢」も「弱法師」という人物が設定されると、めっちゃおかしいですね。
岸本:諸国一見の僧は健脚のイメージがあるんだけど、この坊さんは息も絶え絶えで、じゃ、上五に何をつけましょうかという話です。
俳句はなんでもあり
夏井:腹下しをしたお坊さんの苦しさを思いやれる季語ならなんでも合いそうです。それにしても、俳句に「下痢」を入れてもOKだという、そこですよね。「古池や」に畏まっちゃうチーム裾野たちは、「え? 『下痢』いいの?」みたいに驚いてしまう。
岸本:「秋風や痢してつめたき己が糞 飯田蛇笏」という句があるんです。
夏井:かの蛇笏先生も……。
岸本:「痢してつめたき己が糞」ってものすごく格調高いでしょう。
夏井:こういうの見たら、「旅に下痢する○○○○○」っていう句も作りたくなりますね。
岸本:「弱法師」という、お能の演目にもある雅やかな言葉と「下痢」とが一句に同居している、そのエネルギーがすごい。
夏井:弱法師が風雅だから「下痢」でもOKなのかと思えば、そうではない。風雅だけじゃなくて、蛇笏先生の句のように「秋風や」で格調あるウンチの句もある。
岸本:佐藤鬼房の「夏草に糞放(ま)るここに家たてんか」なんて句もあるんですね。
夏井:俳句ってなんでもありなんです。
解答例
桜散る 汗も出ず 雪深し
桜散る旅に下痢する弱法師
汗も出ず旅に下痢する弱法師
雪深し旅に下痢する弱法師
お題 「○○○○や蛙飛びこむ水のをと」
俳句の型 その3 下五の体言止め
岸本:下五の体言止めは「五月雨をあつめて早し最上川」など、芭蕉の句にも多く見られます。俳句らしい、安定感のある形です。次の句の下五を体言止めで埋めてみましょう。
お題 「踊髪よべのまゝなる○○○○○」
「踊」は盆踊りのことで秋(初秋)の季語です。「踊髪」は盆踊りのために結った髪、「よべ」は昨夜で、「踊髪よべのまゝなる」はとは、盆踊りの翌日、前の晩に盆踊りを踊ったときの髪型のままでいる、という意味です。
現代風に置き換えてみるともっと面白い
元の句は「踊髪よべのまゝなる選炭婦 房山」です。作者は筑前の人で1929(昭和4)年の作。選炭婦とは炭鉱で石炭の選別を行う婦人労働者で若い女性が多かったそうです。炭鉱の厳しい環境で働く女性が、年に一度の盆踊りを楽しみにしていたことが想像できます。
(解答問答)
岸本:昨夜の盆踊りのためにきれいに結った「踊髪」がそのまま朝になってしまったという場面を想像するのですが、下五は「朝の道」や「村娘」より、もっと飛躍ができるんじゃないかと思います。「熱帯魚」でも面白いかもしれませんね。季重なりだけど。
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夏井:「踊髪よべのまゝなる熱帯魚」はすごい。
岸本:「熱帯魚」は夏の季語です。すると踊髪も盆踊りじゃなくて、クラブで踊ってたとかね。
夏井:下五に季語を入れない形のほうが、読んでいる人は納得ができると思うんです。まずは「踊髪」が季語ですから、今どきの情景で「踊髪」が「よべのまゝなる」何か。
岸本:「踊髪よべのまゝなる歌舞伎町」とか。
夏井:確かに、場所もありますね。
岸本:「踊髪よべのまゝなるおばあさん」もあるね。
夏井:老いらくの恋、すごい。「レディー・ガガ」もいけますね(笑)。
解答例
熱帯魚 朝の道 村娘
踊髪よべのまゝなる熱帯魚
踊髪よべのまゝなる朝の道
踊髪よべのまゝなる村娘
いかがでしたでしょうか。ここに紹介した型は、基本中の基本。ぜひ、さまざまな俳句を作って、楽しんでみてください。
https://ouchidehaiku.com/contents/workbookhaikuresult 【ドリルde俳句】抜粋
〈◯◯てこそ◯◯◯◯〉
〈怒りとは◯◯◯◯◯◯◯雪ましろ〉
〈◯◯◯◯や◯◯◯に◯◯と◯◯と◯◯〉
〈◯◯◯◯◯なんと◯◯◯◯日和かな〉
〈揺れやみて◯◯の◯◯◯◯◯◯知りぬ〉
〈向日葵よ◯◯◯◯◯◯◯◯なりにけり〉
〈◯◯◯◯◯がんばった子の汗◯◯◯〉
〈夏嵐◯◯◯◯◯◯◯飛び尽す〉
〈◯◯◯◯や汝とならば◯◯◯◯も〉
〈◯◯◯◯や今◯◯◯◯の声す也〉
〈馬は◯◯牛は◯◯◯◯耕しぬ〉
〈馬は◯◯牛は◯◯◯◯耕しぬ〉
〈春夕焼◯◯にひとつの◯◯◯◯◯〉
〈両の手◯◯◯◯◯◯◯◯クリスマス〉
〈◯◯◯◯◯靴が◯◯◯◯冬はじめ〉
〈団栗や置きっぱなしの◯◯◯◯◯〉
https://www.youtube.com/watch?v=zmbx7lEGY2g
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