https://kotobank.jp/word/%E5%85%AB%E5%B9%A1%E8%88%B9-115979 【八幡船(読み)ばはんせん】
日本大百科全書(ニッポニカ)「八幡船」の解説
八幡船ばはんせん
日本以外の地、すなわち中国その他に略奪に行くことをバハンといい、また他国へ略奪に行く盗賊の船をバハンブネと称した。中国では「発販」「破幡」「破帆」「波発」「白波」「彭享」とバハンは発音され、日本では「番販」「奪販」「八幡」「謀叛」「婆波牟」、あるいは単に平仮名で「ばはん」があてられた。
バハンの語源については、八幡大菩薩(はちまんだいぼさつ)の信仰に由来するという説と、ポルトガルや中国などの外国語に由来するとの二つの説がある。前者は、江戸時代の1719年(享保4)香西成資(こうざいしげすけ)の『南海治乱記(なんかいちらんき)』が「わが国の賊船が八幡宮の幟(のぼり)を立て、洋中に出て、西蕃(せいばん)の貿易を侵して財産を奪った。その賊船を八幡船とよんだ」と記しているのが出所である。海上安全を祈願して八幡大菩薩の幟を立てたことは一般的な風習だが、そこにバハン船の語源を求めるのは賛成できない。外国語に由来しているとみたほうが妥当であろう。のち、バハンは海賊行為や略奪行為一般をさし、江戸時代には抜け荷もそうよぶようになった。
[宇田川武久]
『田中健夫著『倭寇』(教育社歴史新書)』▽『宇田川武久著『瀬戸内水軍』(教育社歴史新書)』
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精選版 日本国語大辞典「八幡船」の解説
ばはん‐せん【八幡船】
〘名〙
① 室町後期を中心に、朝鮮・中国・南海方面の沿岸で略奪を行なった倭寇(わこう)の船のこと。
※南海通紀(1719)八「我国の賊船各八幡宮の幟を立て洋中に出て、西蕃の市舶を侵し掠めて其財産を奪ふ。故に其賊船を称して八幡船と呼也」
② 国籍のいかんにかかわらず、海賊行為をする船をいう。
※通航一覧(1853)五「近年はオランダのばはん船十三そう」
③ 近世初期海外貿易にあたった朱印船の別称。
※通航一覧(1853)一七〇「豊太閤朱印を賜り〈略〉これを朱印船と唱ふ、然れとも船印は旧によりて八幡の二字を標せしかは、彼国にては猶八幡船と呼へり」
④ 江戸時代、国禁制を破って外国へ渡航する船、また、密貿易をする船。
はちまん‐せん【八幡船】
〘名〙 =ばはんせん(八幡船)
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百科事典マイペディア「八幡船」の解説
八幡船【ばはんせん】
八幡のほか奪販・番舶・破帆とも書く。海賊船の総称。〈ばはん〉という言葉は戦国時代以後使われたが,語源は明らかでない。倭寇(わこう)の船が〈八幡(はちまん)大菩薩〉の幟(のぼり)を立てて航海したため八幡船と称されたとも伝えられるが,その確証はない。江戸中期以後は密貿易を意味した。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「八幡船」の解説
八幡船
ばはんせん
奪販,番舶,破帆とも書く。特に室町時代から戦国時代にかけて現れた海賊船一般をいう。後世倭寇の意味に用いられた。倭寇が「八幡大菩薩」の旗印を掲げたことに称呼の起源があるとされるが,確証はない。江戸時代中期以降では「ばはん」は密貿易を意味した。
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デジタル大辞泉「八幡船」の解説
ばはん‐せん【▽八×幡船】
1 室町時代末から安土桃山時代にかけ、朝鮮・中国沿岸に出没した日本の海賊船。はちまんぶね。ばはんぶね。
2 江戸時代、密貿易船のこと。
はちまん‐せん【八×幡船】
⇒ばはんせん(八幡船)
ばはん‐ぶね【▽八×幡船】
「ばはんせん」に同じ。
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デジタル大辞泉プラス「八幡船」の解説
八幡船(ばはんせん)
山岡荘八の歴史小説短編集。1952年刊行。
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世界大百科事典 第2版「八幡船」の解説
ばはんせん【八幡船】
〈ばはん〉は,戦国時代から安土桃山時代にかけての用例では海賊行為を意味し,江戸時代中期以後では密貿易を意味する言葉。〈八幡〉のほか〈八番〉〈奪販〉〈発販〉〈番舶〉〈破帆〉〈破幡〉〈波発〉〈白波〉〈彭亨〉などの文字もあてられている。《日葡辞書》はBafãと記している。語源は外国語であるという意見が有力である。ただ江戸中期に書かれた《南海通記》が倭寇(わこう)が八幡宮の幟(のぼり)を立てていたので八幡船と呼ばれたと書いたところから,ばはん船は八幡船であり,すなわち倭寇の異名であるとする考えが広く流布するようになった。
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