https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtappij1955/52/3/52_3_407/_pdf 【俳 句 の 国 際 化】より
伊 藤 通 弘
今 日の 日本 人の生 活様 式 は,急 速 に西欧 化 が進 ん できて い る。 文芸 や 小説 な どへ の影 響 の他,ス ポー ツの世 界 で も,野 球 やサ ッカー は国民 的 人気 を得 て い る し,日本 の柔道 はオ リンピ ックの種 目にな り,相 撲 も海 外巡 業 で は喝 采 を博 して い る。 ご多分 に もれず 我 々の俳句の分 野 で も,こ れ に興味 を もつ外 国 人が増 えつ つ あり,こ れ らの 人 々 との交 流 の場 と して国 際俳 句 交流 協会が 設立 され て いる。私 も以 前 に海外 関係 の 仕事 を して いた こ と もあ り,さ る知 人 に勧 め られ て約1年 前 に入会 して みた ので,ご 参考 まで に,そ の状 況 につ い て記 す こ とにす る。
国際 俳句 交流協 会は,有 馬朗 人氏 を会 長 に して, 会員数 は 日本 在住 者585人,海 外在 住者172人,準 会員425人(1997年3月 末)と な って い る。 機 関誌 「HI」が 年6回 発行 され,国 内外 か らの投 句が 外国 語訳 を並記 して掲 載 され る。 外国 人 の場 合 は,自 国 語(英 語,独 語,仏 語 な ど)の3行 詩 の形 で送 られ た もの を, 協会で俳 句 に直 して載せ る。 日本 人の場 合 は,な るべ く外国語 訳 を付 す こ とが望 まれ るが,そ う しない時 は 入選 作 のみ に外 国語訳 が付 け られ る。俳 句 を外 国語 に訳せ ば,日 本 人特 有 の俳譜 の味 が失 わ れ るこ とは避 け られ な いが,興 味 を もつ 外人 がそ れな りに理解 して くれれば よい としな くては な らな い。 国 際交流 とは そ ういうもの と割 り切 るほか ない。
ガール フ レ ン ドボ ー イフ レ ン ドソー ダ水
この句 は,平 成9年 度 俳 句カ レンダー に掲 載 され た轡 田進 主宰(春 郊)の 句 で あ る。 日本 人に通 じる この横 文字 俳 旬 も,そ の まま直訳 したの で は,外 国人 に は詩 的情 緒 は理解 しに くいだ ろ う。 従 って,例 えば 次のよ うに英 訳 してや らな くて はな らな い。
Many boys and girls
Together with friends
Enjoy taking soft soda drinks.
(通 弘訳)
最 近 で は,芭 蕉 の 「奥 の細 道」 の翻 訳書 も何 冊 か あり,英 語訳 で も9種 ほ ど公刊 され て い るが,時 代 を異に した古 典俳 旬 は外 人 には理 解 しに くい ら しい。従 って,生 活 様 式が共 通 化 され た現 代 俳 句の 方が理 解 しやす く,親 しみ を感 じてい る よ うに見 られ る。
昨 年(1997)年 の4月,米 国 俳 句協 会 の代 表 者 20数 名を招 い て江東 区清澄 庭 園 で 日米 合 同俳 句大 会が吟行 を兼ね て開催 され た。私 も出席 して み たが,最 近 の米 国 にお け る俳 句 につ い て,米 国側 か らア メ リカ 人,カナ ダ 人で俳 句 を詠 む人が 増 加 しつつ あ り,北 米 で は二 大俳 句雑 誌 が発 行 され発 展 を遂 げて い るな ど興 味 ある報告 が な され た。 また,日 本 側 か らは,各 種 の俳誌を 主宰 されて い る 多数 の 人達 の出席 が あ り,金 子兜 太,鷹羽 狩 行氏 らの講演 もあ って盛 大 に行 われ た。
有馬 会 長の 「アメ リカ と私 の体験 」 と題 した講演のなかの 次 の話 は面 白か っ た。
啄 木 鳥 や時 に音 たて尼 僧院
A woodpecker
Occasionally subtle sounds
in a convent
この 句 は,会 長 が イス ラエル の あ る教 会 で,き つつきが幹 を叩 い て い るの を見 て 作 っ た写生 句 で あ るが,後 で 「教 会 に は啄 木鳥 は い ませ ん」 と叱 られ たの で,隠 語辞 書で調 べ た ら啄木 鳥 に は悪魔 とい う意味が あ るこ とを知 った そ うであ る。 文化 の違 いか ら変 な 誤解 を招 くこ と もあ る とい う事 例 で あ る。
ここで,「HI」 誌 に掲 載 され た俳 句 の一 例 を示 してみ る。
先ず は,外 国人 の句 の一例 。
full moonalong old railroad ties
dandelion fluff.
Ralph, George (U.S.A.)
望 月や
古 し鉄路 に
絮 たんぽ ぽ
次 は,日 本 人の場 合。
竹 落葉浴 び い て命 た しか な り 宇咲 冬 男(東 京)
Discovered my life
Bathing amid bamboo leaves,
Surely continues.
一 般 的 には,日 本 人の 古 い生活 習慣 に関係 す る言葉は外 人 に理解 しに くいの で,簡 単 な説 明 を付 けて お くこ とが望 ま しい。
外 国 の有 名 な詩 人に は,俳 句 に興味 を もって学 んでい る人 も多い と聞 く。 それ は,彼 等 が 自分 達 の短 詩のな か に新 しい境地 を取 り入れ た い との願望 が あ るための よ うで あ る。 これ とは逆 に,日 本 の現 代 俳句 で も,西洋 詩 に兄 られ る新 しい感覚 を求 め る こ とが あ って もよいで あろ う。 それ が本 当の 意味 で の国際 的文 化交流とい うこ とか もしれ な い。
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