https://mayonez.jp/topic/1030663 【無心の意味|古文/禅語/仏教用語・「走れメロス」の無心の意味】 より
言葉の意味
古文や禅語・仏教用語などに用いられ、良い意味・悪い意味どちらにも使われる「無心」とは?いろいろな文や対義語、短編小説「走れメロス」などを例に、どのような意味にもとれる不思議な言葉「無心」について考えてみました。ぜひ、参考にして下さい。
無心の意味とは?
「無心」にはいろいろな意味があります。
①邪念がない。 ②金品を人にねだる。 ③意志・感情などの働きがない。
④仏語。 ⑤思慮に欠ける。 ⑥狂歌(こっけいな・くだけた表現の短歌)
⑦情緒を理解する心がない。 ⑧思いやりがない。無情。
無邪気である
「無心であること」を意味する「無邪気」には三種類の意味があります。
①素直で悪気がない・いつわりや作りごとがない ②あどけなく可愛らしい
③思慮に欠ける
子供が「無邪気」であることは、可愛らしく微笑ましい場合が多いのですが、大人の「思慮に欠ける」言動は、他人に迷惑をかける・心を傷つけるなど、周囲の人々を困らせてしまうことがあるので気をつけましょう。
意志や感情などの働きがない
「無心」とは、意志・感情が普通の状況や状態であれば無意識のうちに湧き上がってくる思いが感じられないことです。
【意志】
強くはっきりとした意向。行動を起こすまたは起こさない、という積極的な心構え。
【感情】
<快・不快、好き・嫌い、恐怖・怒り>など、物事に感じて起こる気持ち。
対人関係を円滑に送るために「無心」であることが必要な場合もありますが、自分の意志や感情を抑えすぎて大切なことを伝えられず、ストレスがたまることもあるので要注意です。
人に金品をねだる
「無心」の意味には、子供・幼児に対して用いられる場合は<あどけない、可愛らしい・邪気がない>など、よい表現で使用しますが、意外にそれとは逆の意味で使われることも多く、その中でも一般的によく耳にする言葉が「金を無心する」ではないでしょうか?
「金を無心する」とは<親に小遣いをたかる>という場合に使われることが多いのですが、意味は<金銭や物品を遠慮なくねだり得ようとする・思慮なく金銭を無理にねだる>ということです。
「金の切れ目が縁の切れ目」という<ことわざ>が示すように、人との大切な縁をお金で切ってしまわないよう、金銭の貸し借りには注意が必要です。当然ながら人に金品をねだるような行いはしない方がよいでしょう。
古文で用いられる無心の意味とは?
古文で用いられる「無心」は「心無し」と表現し、読み方も<こころ-な・し>のほかに<うら-な・し>があります。
【無心:名詞】
・無心連歌(むしんれんが)
滑稽(こっけい)を主とする連歌で、反対の言葉に優雅な連歌を意味する<有心連歌>があります。連歌とは、和歌を使った文芸の一つで上の句(五・七・五)と、下の句(七・七)を多人数で交互によみ、一つの詩になるように競い合って楽しみます。
【無心:形容動詞】
・むしんなり
分別がない、考えが浅い、無風流、情緒を理解しないなど。
思慮に欠ける・気が利かない
古文で使われる「無心」の中でも<思慮に欠ける・気が利かない>は分別に欠ける、浅はかなどの意味で用いられます。
【枕草子】
頭の弁:弁官で蔵人頭(くろうどのとう)を兼ねている人
「まろなどに、さることいはむ人、かへりてむしんならむかし」
<訳>私などに、そんな歌などをよみかける人は、かえって分別がないというものでしょうよ。
【源氏物語 蓬生(よもぎう)】
「さやうのことにもこころおそくものしたまふ」
<訳>そのようなことにも気が利かなくていらっしゃる。
無風流である
「無風流(ぶふうりゅう)」とは「※風流」の反対の意味です。古文に「無風流」を意味する言葉を使った詩歌があります。
【新古今集 秋】
平安時代から鎌倉時代の武士・僧侶・歌人<西行(さいぎょう)>によって詠まれました。
「こころなき 身にもあはれは 知られけり 鴫(しぎ)立つ沢の 秋の夕暮れ」
<訳>俗世間から離れた私のような身であっても、しみじみとした趣は自然と感じられるものだなぁ。鴫(しぎ)が飛び立つ沢の夕暮れよ。
※風流
①上品な趣がある・みやびやか。
②美しく飾る・数奇(風流の道:特に茶の湯を好む)をこらす。
③世俗から離れて、詩歌・書画など趣味の道に遊ぶ。
④先人の残したよい流儀。
西行が、自身を無風流であるという意味の「こころなき」を使い詩をよんでいますが、逆の意味の風流を感じます。
無情である
無情である・思いやりがない、という言葉を含む詩歌が古文にあります。
【万葉集 一七】
額田王が近江の国に下るときに詠んだ歌の一部です。
「しばしばも 見放(さ)けむ山を 心なく 雲の 隠さふべしや」
<訳>何度もみたい山なのに これほど情け容赦なく 雲が隠してよいものか
【源氏物語】
末摘花の言葉です。
「おもひやり少なう、御心のままならむも」
<訳>思いやりが少なく、お心のままであるのも。
禅の世界の無心の意味とは?
「禅」の世界の「無心」とは、心がない空虚状態ではなく、山・川・樹・草・虫・華、一つの命が大自然の中でありのままにいのちを輝かせています。煩悩妄想をすべてなくすことはできないけれど、少しでもそのようなことから離れて、自分らしく精一杯生きることです。
「無心」が尊いのは、心に邪悪なもの(俗欲・妬み・怒り・差別・愚痴など)が一切なく、極めて美しく、完全に善であり真実であるからです。
①【黄檗希運(おうばくきうん)禅師】「無心は一切心なきなり」
②【蘭渓道隆(らんけいどうりゅう)】「無心とは一切愚痴の心なきをいう」
「禅」のいうところの「無心」とは無情・思いやりがない・無分別・無風流など、という意味ではなく、自我の執着から離れ、なにものにもとらわれない自由な心を示しています。
仏教用語の無心の意味とは?
仏教用語でいう「無心」とは、一切の邪念・妄念から解放された心を意味します。「無念無想」ともいい、この状態で仏道修行している人のことを<無心道人>といいます。
仏語で<真理の顕現(けんげん)した大乗仏教最高の境地(心境・場所など)>ということで、難しい言葉がでてきましたが、一つ一つ説明します。
【真理】真実で永遠不変の道理にかなった法則
【顕現】はっきりと姿が現れること・物事をはっきりとあらわすこと。
【大乗仏教】心をもつすべての存在を、救済する目的の仏教
永遠に変わることのない合理的なきまりで神仏が姿をあらわし、心をもつすべての存在を救う最高の心境・場所、という意味です。
無心の対義語である有心の意味
「無心」に対して「有心(うしん)」は真逆の意味で使います。
①思慮・分別のふかいこと。 ②和歌(無心=狂歌に対して) ③心あり。
④仏語。物にとらわれた心。妄念(迷いの心・誤った思いから生まれる執念)
仏語での「無心」は邪念や妄念から解放され、修行には不可欠な大事なことであるのに対して「有心」は物にとらわれた心や迷い・執念など、良くないものとされています。
無心を使った文章
「無心」とは、使い方によってまったく違う意味の文章になります。
「無心の境地を求める」こと
「無心の境地」とは<雑念を払い、物に対して執着しない>という意味で、何も考えないということではなく、今やるべきことに打ち込むことで「不安・悩み」を自然に解決できる、ということです。
「無心の境地を求める」とは、人はさまざまな悩み(仕事・経済的なこと・人間関係など)に苦しみ、不安に押しつぶされそうなときも幾度となくあるでしょう。しかし、その苦しみを乗り越えることで大きく成長していきます。
大変つらく悲しい出来事であっても、神仏の観点からすると人間は常に自分の運命を生きていて、苦しみも悲しみもその人の一生のうちの大事な一コマなのです。どのような境遇にあろうとも、運命を素直に受けとめ、今を精いっぱい生きることで人は成長し、良い方向に人生が開けていくことでしょう。
「親に金を無心する」こと
「親に金を無心する」とは「お金を貸してほしい」とお願いするのではなく、返さないことを前提に「お金をちょうだい」とねだることです。
相手が親に限ったことではなく、親類・友人・知人など、今は親が子供に「金を無心する」こともあります。お金の問題は大きなトラブルの原因にもなりますので「人に金品をねだる」ような行いはしないようにしましょう。
「走れメロス」の文中の無心の意味とは?
「走れメロス」は、太宰治の短編小説です。処刑されるのを承知の上で友情を守ったメロスが、人の心を信じない王に信頼することの尊さを悟らせるお話です。
「今だって、君は私を無心に待っているだろう」の無心とは?
「今だって、君は私を無心に待っているだろう」の「無心」とは、メロスの立場からセリヌンティウスの気持ちを考えれば<邪気がない、素直な心で・疑わない心で>待っていてくれる。と、思っていることでしょう。
確かに、メロスのセリフの部分だけの「無心」はセリヌンティウスがメロスを信じて、疑わずに待っている、と解釈できます。しかし、セリヌンティウスの立場で考えると「無心」の別の意味である「意志・感情などの働きがない」という状況も考えられます。恐怖や怒りなどの感情を押し殺してメロスを待っていた、とも考えられませんか?
多くの意味がある「無心」普段の生活の中で「無心」という言葉を聞くと<金の無心>という悪い印象の言葉を思い浮かべがちですが、色々な意味や使い方を知るほどに、一つの言葉でこれほど印象が異なるものがあることに驚くことでしょう。
古文での「無心」は<思慮に欠ける・無風流・無情>など、良くない印象で使われることが多いのに対して、禅や仏教では<心がない虚無状態ではない・自分らしく生きる>などの、前向きな気持ちを示しています。
「無心」は、会話で使うことはほとんどありませんが、この言葉をきっかけに<禅の世界・仏教・古文>などに興味を持ち学んでみるのもよいでしょう。
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