不登校

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必死に勉強をして入った娘の進学校での学校生活は、1年もたたずに終わった。

 高校から送られてきた書類には「退学」の2文字。

自ら決めたことだったが、関東地方の40代の母親は涙をこぼし、こう思わずにいられなかった。

「コロナが、一斉休校がなければ……」 昨年4月7日、娘は新しい制服に身を包み、入学式を迎えていた。

 感染予防のため保護者の参加は1人に限られ、母親が出席。

式の後、教室で担任はこう告げた。「明日から2カ月間休校します」

 この高校に進学したのは同じ中学からは娘だけ。新しいクラスメートと談笑する時間もないまま解散した。

 その後、自宅にレターパックで送られてきた課題をこなす毎日となった。

 英語、数学、国語……。大量の課題は初めて学ぶ内容も多く、なかなか終わらない。

クラスメートの顔や名前もわからず、娘には進み具合を相談する相手もいなかった。

 そんな姿を見て、母親は異変を感じていた。

 これまで、夏休みの宿題などは、口出しをしなくても、自分でペース配分をしながら期限までに終わらせていた。

 それなのに、娘は「課題が終わらない」と泣き出してしまった。

 コロナ禍の一斉休校は、子どもたちの生活に大きな影響をもたらしました。

待ち望んでいた学校再開を迎えても、女子生徒は徐々に体調を崩し、追い詰められていきます。待ち望んだ学校再開なのに…「まさか、うちの子が」

 6月に分散登校が始まった。娘にとっては待ち望んだ学校再開のはずだった。

 だが、慣れない電車通学をしたあと、夜中まで課題に取り組む日々となった。

 同じ時間に登校するのはクラスの半分で、弁当の時間はひとりで黙って食べる。

 もともとシャイな性格で自分から話しかけるのが苦手だったが、感染対策のため、さらにクラスメートと接する機会が減ってしまった。

 変化はまもなく娘の体調に現れた。はじめは微熱が続いた。熱が下がって登校しようとすると、気持ちが悪くなった。 次第に顔色が悪くなり、食欲が落ちた。

朝の登校の準備には1時間以上かかるようになった。 保健室に行くことが増え、教室に入れない日が続いた。「学校に行きたくない」。6月末、娘は母親に告げた。

 小中学校では皆勤賞をとり、休んだのはインフルエンザにかかった時くらいだった。

 いじめやトラブルがあったわけでもない。

「まさか、うちの子が」。母親には、どうして娘がそこまで追い込まれているのか、

わからなかった。

 つらそうな姿を見て、しばらく学校を休ませることにした。

娘から届いたLINE、大急ぎで駅へ

夏休みが明けると、娘はまた登校するようになった。「行きたくないけど、行かなきゃ」。そう言いながら自分を奮い立たせているようだった。

 しかし、徐々に学校へ行けなくなり、心療内科を受診。

精神安定剤を服用しながら登校したが、保健室に足が向いた。

 担任からは、出席日数が足りないことを示唆されていた。「教室に来てくれないと、学校は何もできません」。母親は突き放されたように感じた。

 「もう死にたい。学校に行きたくない」11月中旬、母親が自宅でLINEを見ると、娘からメッセージが届いていた。あわてて、娘が今いる場所を聞くと、地元の駅にいるという。

大急ぎで駅に迎えに行くと、娘は泣きながら立っていた。「行きたくない」。

あと数日休めば、単位を落とす段階になっていた。

 「私なんか生まなきゃよかったじゃん。何の役にも立ってない」

 娘は、親の期待に応えられない自分を責めているようだった。

家族で話し合い、退学することを決めた。履修単位数「0」、退学の文字に涙止まらず

 今年3月、退学願を学校に郵送した。

 返ってきたのは、退学したために就学支援金の受給資格が消滅したという通知だった。

 履修単位数は「0」。

娘が課題を泣きながらこなした日も、なんとか学校に通った日も、単位としては計上されなかった。

 何よりショックだったのは、入学した時には想像もしなかった「退学」という文字だ。

母親は涙が止まらなかった。

 ほとんど着ていない制服は処分した。町中で同じ制服を着た子を見かけると、母親は

「あの子とうちの子の何が違うんだろう」と考えてしまう。

 中学時代、娘は親友の存在を支えに学校生活を送っていた。

 知り合いのいない高校に入学し、同級生と仲を深める前に休校になってしまったのが、心のバランスを崩す引き金になったのかもしれない――。

母親は思いをめぐらせ、こう考えてしまう。 「コロナがなかったら、一斉休校がなかったら……」

自宅で過ごす娘へ 母の願い

 娘が心のバランスを崩した時に、頼れる制度は見つからなかった。

 通っていた高校のスクールカウンセラーに相談した時、娘は尋問のように感じて

心の内を吐露することはできなかった。

 娘はいま、心療内科に通いながら自宅で過ごしている。

 少しずつ落ち着きを取り戻し、笑顔を見せてくれる時もある。

趣味の音楽やイラストにも打ち込むようになった。

 母親はそんな娘を見守り、「生きて欲しい」とだけ願っている。

 「子どもが不登校になったらどうしたらいいのか、自分で調べるしか方法がなかった」

と母親は振り返る。

心療内科や私立の通信制高校に行くのは金銭的に大きな負担となる。

 「不登校で中卒になってしまい、自宅にいる子どもたちの相談機関や行き場を国がバックアップして欲しい」と訴える。

高校を中退した子ども、受け皿は

 高校を中退したり、通学先が合わずに転校を検討したりする子どもの受け皿は様々あるが、それぞれ注意すべき点や課題もある。

 主な受け入れ先は通信制高校だ。

通学が最小限で済み、卒業資格も得られる。近年はニーズが高まり、今年は過去最多の約21万8千人が通う。

 ただ、一部では教員免許がない人が指導していたり、100人を超える生徒に教員が1人で面接指導していたりと、不適切な運営が発覚した。

文部科学省の有識者会議が、教育の質を確保するための方策を議論している。

 民間のフリースクールに通って高卒認定試験を受ける選択肢もある。

ただ、まとまった費用がかかることが多いのが現実だ。

文科省は交通費などの実費を支給するしくみを検討しているが、まだ調査研究の段階で、本格導入は見通せない。

 東京都内には、不登校経験者らが通う定時制高校「チャレンジスクール」も5校ある。

登校時間を選べるのが特徴だが、対面授業が前提で、小中学校とは違って登校できないと卒業できなくなる。

 5校の一つ、都立世田谷泉高校では、生徒約600人のうち約100人が現在、不登校となっている。

 沖山栄一校長は「かつての不登校経験から、次に挫折した時に『やっぱりだめだった』とあきらめてしまう。どう励ますか、日々悩んでいる。

対面授業を原則とするこれまでのしくみを変える時期が来ているのではないか」と話す。

 2020年度の文科省の問題行動・不登校調査では、高校での不登校は全体の1・4%にあたる4万3051人。

このうち約4割は、学校や外部機関での相談や指導を受けていなかった。

 高校を中退した人は全体の1・1%にあたる3万4965人いた。

理由別では、4割が別の高校や就職を希望するなどの進路変更、3割が学校生活や学業への不適応だった。

(阿部朋美)

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