https://www.longtail.co.jp/~fmmitaka/cgi-bin/g_disp.cgi?ids=19970227&tit=%8Ft%82%CC%96%B6&tit2=%8BG%8C%EA%82%AA%8Ft%82%CC%96%B6%82%CC 【季語が春の霧の句】より
愚図愚図と熟柿の息の春の霧
金子兜太
たまには、こういう句と格闘する必要がある。読解力の切っ先が鈍らないように……。三十分ほどにらんでいるうちに、句意が二転三転してしまう。苦痛でもあるが、人間ならではの遊びの境地でもあるだろう。「春の霧」というからには「霞」にまでは至らない早春の大気のありようである。その清冽な大気のなかで、自分自身の息を「熟柿」のように感じるというのだから、体調がよろしくない、あるいは憂鬱な心のありさまを嘆いている。元気な人は、まず自分の息遣いなど意識することはない。以上、私なりの鑑賞ですが、いかがでしょうか。入学試験の答案だと、0点かもしれませんが。『皆之』所収。(清水哲男)
https://note.com/celibi1961/n/n1c26d6c0957b 【日々俳句鑑賞⑤ 金子兜太「愚図愚図と熟柿の息の春の霧」】より
霧といえば、秋。俳句歳時記を開けば「秋の霧」「朝霧」と並んでいる。熟柿もまた、言うまでもなく秋の季語だ。しかしこの句では、それらをあえて「春」の一句の中に置いている。
これは金子兜太の俳句である。
俳句の型を知り尽くしたうえで、なお型を打ち破る凄技。そうとでも言いたくなる一句だ。
「愚図愚図」という重たげな語感は、まるで生きもののように春の霧を這わせる。そして次の「熟柿の息」。これは鮮烈である。熟れすぎて崩れかけた柿から立ちのぼる、あの甘ったるく、少し発酵したような気配。その匂いを“息”と名づけたとき、柿がまるで呼吸をしているように感じられる。擬人法でありながら、生理的な感覚にまで沈み込む比喩だ。
しかしこの句の真骨頂は、その息がそのまま春の霧へと転じていくことにある。
ミクロな「熟柿の息」が、マクロな「春の霧」へとつながっていく。その跳躍には詩的な魔法がある。甘く、重く、どこか不快感すら帯びた湿りけが、春の空気にまで広がっていく。
思い出されるのは、T.S.エリオット『荒地』の冒頭だ。
> 「四月は最も残酷な月」
冬の死の静けさから無理やり生命が目覚めさせられる、その暴力的な春の到来。まさにこの兜太の句もまた、そうした「胎動する春」「濁った息づかいの春」を描いているように思える。
霧はもはや幻想的な風景描写ではない。熟柿の息と混ざり合い、生きもののように、愚図愚図と、曖昧に、濃密に、大気中にうごめいている。
ストラヴィンスキーの《春の祭典》の冒頭――
もぞもぞと、土の下で蠢きはじめる生命たちのざわめきが、ふと脳裏をよぎる。
春は、光と花の季節というより、むしろ濁って、混沌として、得体の知れない生の気配が立ちのぼる季節なのだと、兜太は語っているのかもしれない。
季語の約束を逸脱しながら、それでもなお「俳句」として成立している。いや、型を破ったからこそ、逆説的に季節の真の相貌があらわれたと言えるのだろう。
小さな柿からの“息”が、やがて大気を濁らせ、世界を曖昧に包み込む――
たった17音の中に、詩の力と俳句の革新が凝縮された一句である。
https://blog.goo.ne.jp/gooksky/e/a65b0b4ae6f839b8d82739ee0ed29024 【熟柿】より
熟した柿を食して、柿の種類を思う。それで辞書を引いてみたら、うみがき を、はじめとして、読みがずらりとあった。さらに、あおがき うみがき ともに、慣用句があった。
1. うみ‐がき【熟柿】 日本国語大辞典
〔名〕熟した柿の実。《季・秋》*散木奇歌集〔1128頃〕秋「心してこのみもをらんゆふされはよをうみかきにあらし吹く也」*俳諧・井華集〔1789〕「熟(ウミ)柿の ...
2. うんだら‐がき【熟柿】 日本国語大辞典
〔名〕熟しきった柿(かき)。《うんだらがき》栃木県198 群馬県佐波郡242 埼玉県南埼玉郡054 《うんだれがき》千葉県印旛郡054 《うんだら》和歌山県西牟 ...
3. じく‐し【熟柿】 日本国語大辞典
〔名〕「じゅくし(熟柿)」に同じ。*易林本節用集〔1597〕「熟柿 ジクシ」易林【熟柿】易林 ...
4. じゅく‐し【熟柿】 日本国語大辞典
〔名〕熟した柿。よく熟して柔らかくなった柿。きざわし。ずくし。じゅくしがき。《季・秋》*権記‐長保元年〔999〕一〇月一〇日「又奉熟柿二荷」*蔭凉軒日録‐寛正六 ...
5. じゅくし‐がき【熟柿】 日本国語大辞典
〔名〕(1)「じゅくし(熟柿)」に同じ。*仮名草子・仁勢物語〔1639〜40頃〕上・二五「じゅくしがきとも云はざりける柿の、さすがに旨(うま)かりければ」(2) ...
6. ずく‐し【熟柿】 日本国語大辞典
〔名〕熟した柿。じゅくし。*寝白粉〔1896〕〈小栗風葉〉四「突慳貪(つっけんどん)に窘(たしな)むる宗太郎の息は、例(いつ)にも無く熟柿(ヅクシ)のやうに臭か ...
7. うみがき が 熟柿(じゅくし)を弔(とむら)う 日本国語大辞典
似た境遇のものが相手の身の不幸を慰めることのたとえ。*浮世草子・竹斎狂歌物語〔1713〕下「つえにすがりてこれまでまいるも御客達の、御すがたもよしある人のなれの ...
8. じゅくし‐くさ・い【熟柿臭】 日本国語大辞典
〔形口〕じゅくしくさ・し〔形ク〕熟柿のようにくさい。熟柿のようなにおいである。酒を飲んだ人のくさい息を形容していう語。*虎明本狂言・抜殻〔室町末〜近世初〕「是 ...
9. じゅくしくさ‐さ【熟柿臭─】 日本国語大辞典
〔名〕(形容詞「じゅくしくさい」の語幹に接尾語「さ」の付いたもの)熟柿のようなにおいのすること。また、その度合。*御伽草子・福富長者物語〔室町末〕「九献にこそよ ...
10. じゅくし‐くび【熟柿首】 日本国語大辞典
〔名〕(熟柿は木から落ちやすいところから)落ちやすい首。相手をののしって、その首をいう語。*浄瑠璃・吉野都女楠〔1710頃か〕五「じゅくし首ゆすり落し踏みつぶし ...
11. じゅくし‐しゅぎ【熟柿主義】 日本国語大辞典
〔名〕(熟した柿が自然に落ちるのを待つように)時機の来るのを気長に待つ主義。*現代新語辞典〔1919〕「熟柿主義(ジュクシシュギ) 政友会が寺内内閣に対し是々非 ...
12. じゅくし‐ぼうず[:バウズ]【熟柿坊主】 日本国語大辞典
〔名〕熟柿のように赤い顔の僧。*浄瑠璃・吉野都女楠〔1710頃か〕五「をのれこそ赤面(あかづら)のじゅくし坊主」ジュクシボーズ[ボ] ...
13. あおがき が 熟柿(じゅくし)弔(とむら)う 日本国語大辞典
弔う者も弔われる者も、格別の差はないの意にいう。五十歩百歩。*随筆・それぞれ草〔1715〕中「いつしか人知ず果行くは、あはれなる青柿(アヲガキ)の熟柿(ジュクシ ...
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