https://ameblo.jp/yujyaku/entry-12496070734.html 【ちりちりと咲いて風呼ぶ花楓】より
ちりちりと咲いて風呼ぶ花楓 ( ちりちりと さいてかぜよぶ はなかえで )
3月終わり頃から、近所の楓(かえで)が芽吹き、花をつけ出した。花といっても非常に貧弱なものだが、よく見れば小さく細い花弁と蕊をちゃんと備えている。本日の掲句は、そんな楓の花を見て詠んだ句である。
楓は風媒花なので、虫を呼ぶための大きな花をつける必要はない。中七の「風呼ぶ」はそんな花の印象から使った。そういえば、「楓」という漢字は、「木」+「風」でできている。
ところで、花楓に関しては、毎年同じような景を見て、以下のような句を詠んできた。
【関連句】
① 花かえで遠慮深げに咲きにけり ② もみじにも塵のようなる花の咲く
③ ちりちりとちりのごとくにもみじさく
このように並べてみると、あまり変わり映えしないが、作者本人としては、多少違う視点から詠んだつもりである。
すなわち、①は、中七の「遠慮深げに」という言葉に、秋の美しい紅葉に比べて、いかにも控え目だという意味を込めた。②は、楓は、新緑や紅葉ばかり注目されるが、もみじ=かえでも塵のような花をちゃんと咲かせているという句意。③は、②とほとんど変わらないが、今年もちりちりとした花を健気に咲かせたという感慨を詠んだ。
考えて見れば、同じものを見て句を詠む場合、似たような句ができるのは当然である。だから、無理に全く違う視点を求めて、句を詠む必要もないと最近思うようになってきた。
以前の句が良ければ、それはそれで良いのであって、それを今度は読み手として鑑賞すれば良い。気に入らなければ、修正したり、あるいは改作して、より良いものにしていけば良い。
話は戻って、楓は花を咲かす前に鮮紅色の芽を吹き、そこから赤みを帯びた小さい葉を出す。これらを「楓の芽」という。花はその後に咲くが、これを「楓の花」といい、「花楓」「もみじ咲く」などとあわせて春の季語になっている。
花が散った後は、よく見られるプロペラ状の種子ができるが、「楓の種」は季語にはならず、夏の季語としては「楓若葉」「青楓」などが使われる。更に秋には「楓紅葉」が季語となる。
参考句の方は、「楓の花」、「花楓」で詠んだものをいくつか掲載した。
【楓の花などの参考句】
子雀に楓の花の降る日かな (長谷川かな女)
花楓風の汀の近づけり (岸田稚魚)
御手洗に楓の花のこぼれゐし (柴山つや子)
雨粒を溜めて夕日の花楓 (河本好恵)
花楓水屋に若き声はづむ (椎橋清翠)
https://www.haiku-kigo-ichiran.net/kaede/ 【季語/楓(かえで)を使った俳句】より
「楓」を使用した俳句についてまとめてみました。
季語「楓」について 【表記】楓【読み方】かえで【ローマ字読み】kaede
子季語・関連季語・傍題・類語など
・かえるで(かえるで:kaerude)・高尾紅葉(たかおもみじ:takaomomiji)
・高尾かえで(たかおかえで:takaokaede)・いろはかえで(いろはかえで:irohakaede)
・山紅葉(やまもみじ:yamamomiji)・縮緬かえで(ちりめんかえで:chirimenkaede)
・きれにしき(きれにしき:kirenishiki)・羽団扇かえで(はうちわかえで:hauchiwakaede)・名月かえで(めいげつかえで:meigetsukaede)
・麻の葉かえで(あさのはかえで:asanohakaede)・板屋かえで(いたやかえで:itayakaede)・唐かえで(とうかえで:tokaede)・嶺かえで(みねかえで:minekaede)
・三つ手かえで(みつでかえで:mitsudekaede)・一つ葉かえで(ひとつばかえで:hitotsubakaede)・楓紅葉(かえでもみじ:kaedemomiji)・紅楓(こうふう:kofu)
季節による分類
・「か」で始まる秋の季語・「秋の植物」を表す季語・「晩秋」に分類される季語
月ごとの分類・10月の季語
楓を含む俳句例
錆流す廃鉱昏し夕楓/松本幹雄 山陰の楓林や閑古鳥/会津八一
秋あれも過て楓の照葉哉/久蔵 楓稀に漆多くは紅葉す/福田把栗
都びし色や楓のつまはづれ/素外 同型の楓紅葉の全しや/高澤良一
苦楓交み雀を滾しけり/石塚友二 山雨に暮れゆく庭の楓かな/流木
楓橋は知らず眠さは詩の心/支考 本丸や楓片枝紅葉して/高澤良一
楓の穴惑めく走り根よ/高澤良一 灯の色の楓を前や初風炉/小川正策
かつら子の髪にさゝばや薄楓/可南 姿鏡に映る楓の夕日かな/井上井月
楓橋の乏しき木に筏かな/島田五空 観楓の人をうつして神の池/溝口直
照りそめし楓の空の朝曇/石田波郷 朝方の楓翼果に風湧ける/高澤良一
滝殿や木鉢へ植ゑし楓の実/飯田蛇笏 沼楓色さす水の古りにけり/臼田亞浪
俳句例:21句目~
ひとりづつ渡る木橋や夕楓/丹羽啓子 岩抱いてもみづる楓養老谿/高澤良一
楓林に落せし鬼の歯なるべし/高浜虚子 楓橋をくぐりいづこへ日覆舟/大島民郎
散る前のしるけきひかり夕楓/廻富士野 幹たたくもみぢ遅るる楓の樹/辻田克巳
紅楓深しみなみし西す水の隈/高井几董 でで虫や楓の木肌浄ければ/小原菁々子
観楓の日をうちすかす梢かな/西島麦南 観楓の風をいたみて精舎かな/飯田蛇笏
雀子の末引き枝折る楓かな/野澤羽紅女 いろは楓を凌ぐくれなゐ唐楓/藤原たかを
くぐりたる楓に染まる稚児の列/白井爽風 楓林にかゞやく秋日遠からぬ/高橋淡路女
独特の板谷楓もみぢの明るさで/高澤良一 観楓のしはぶきこぼす酒盞かな/西島麦南
丹楓の一葉うごくも眼にはある/佐野良太 観楓やいたはりあうて老夫婦/高橋淡路女
観音へ火となる楓ありにけり/横山美代子 涼暮月楓の朱葉濡れしたたり/長谷川かな女
俳句例:41句目~
神の留守青き楓樹の情なかり/長谷川かな女 蜂とがる径の楓かろく垂れ/飛鳥田れい無公
もみづれる楓のいろは兵火のいろ/高澤良一 くれなゐをしぼりて楓冷ゆるかな/鷲谷七菜子
櫨/楓まだ散らずして風たてばから紅に庭動きそむ/三宅千代
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