Facebook・相田 公弘さん投稿記事 写真家・星野道夫氏の詩をご紹介します。
これはマッキンレー山の麓のルース氷河で夜営中、無線で初めての息子の誕生を知り、眠れぬままテントの中で書いた詩だそうです。
ご存知の方も多いでしょうが、星野さんはTBS「動物奇想天外」撮影の時に、熊に襲われて亡くなりました。
千葉県市川市ご出身で、私も長年市川に住んでて、写真展があった時に奥さまの直子さんとお逢いしました。
「ワスレナグサ(Forget-me-not)」
十一月のある晩、吹雪の北極圏で、初めての子どもの誕生を知った。
強風のためか、無線の声は遠かったが、スイッチを切った後、身体の奥底からふつふつと力がわいてくるような気がした。
シュラフにもぐり込んでも、なかなか寝つくことができず、さまざまな思いをめぐらせてていた。
ヘッドランプを消すと、夜の闇の中から、ゴォーッと唸るような風の音だけが聞こえていた。
アラスカを旅するようになって、いつのまにか十六年が過ぎていた。
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結果が、最初の思惑通りにならなくても、そこで過ごした時間は確実に存在する。
そして最後に意味をもつのは、結果でなく、過ごしてしまった、かけがえのないその時間である。
頬を撫でる極北の風の感触、夏のツンドラの甘い匂い、白夜の淡い光、見過ごしそうな小さなワスレナグサのたたずまい・・・ふと立ち止まり、少し気持ちを込めて、五感の記憶の中にそんな風景を残してゆきたい。
何も生み出すことのない、ただ流れゆく時を、大切にしたい。
あわただしい、人間の日々の営みと並行して、もうひとつの時間が流れていることを、いつも心のどこかで感じていたい。
そんなことを、いつの日か、自分の子どもに伝えてゆけるだろうか。
いつまでも眠ることができなかった。
風の音に耳をすませながら、生まれたばかりの、まだ見たことのない生命の気配を、
夜の闇の中に探していた。
「旅をする木」星野道夫著
自分のいのちは、自分のものであると同時に、種を越え、時を越えて連綿と続く大きないのちの繋がりの中に生かされている。
「いかに些細にみえることでも、それ単独で起こっていることなど、この世にはなにひとつない。全てはあらかじめ繋がって起こってりる。だから、繋がっているか否かなど思い煩うことなく、自分にできることを自分の場で、ただ誠心誠意行なっていればよいのです」第二番の出演者、ダライ・ラマの言葉
https://kobunkan.com/c_book/book_review_016.html 【地球交響曲 第三番 魂の旅 龍村仁著(角川書店・1,600円)】より
ドキュメンタリー映画「地球交響曲」(ガイアシンフォニー) は不思議な作品である。1992年の「第1番」から、95年の「第2番」、97年の「第3番」、そして2001年の「第4番」までのシリーズ。見た後にここまで心穏やかにさせてくれる作品は、今までお目にかかっていない。龍村仁監督と会って話を聞いたことがあるが、「霊」に敏感な人で、この人だからこその作品だと感じた。
いずれの作品も、インタビュー形式の中に世界の素晴らしい自然を織り込んでいる。 第1番では、世界的な登山家メスナーや元宇宙飛行士ら、第2番は海洋冒険家ジャック・マイヨール、青森・岩木山の麓で生きる老女、佐藤初女ら、第3番は宇宙物理学者フリーマン・ダイソン、写真家の星野道夫が登場する。 もっとも、第3番に出演が決まっていた星野道夫の撮影10日前にカムチャッカでクマに襲われて亡くなった。龍村監督はその衝撃を乗り越えて「星野道夫編」を仕上げていく。その過程で、不思議な巡り合せに次々と遭遇する。神話を語る先住民のシャーマン、南太平洋を古代カヌーで渡った男…。龍村監督は出演者と互いに「あの記憶」を甦らせることを願ってつくった映画だという。あの記憶とは、「自分のいのちは、自分のものであると同時に、種を超え、時を超えて連綿と続く大きないのちの繋がりの中に生かされている」という身体感覚だという。
映画を見たら、その感覚が伝わってくる。「自分が地球(ガイア)の大きな生命の仕組みの中で、その小さな一部として生かされている」というメッセージだ。20世紀になって次々起こってきた環境問題、異常気象、不可解な事件、人心の荒廃、これらがみな、自然を「物」と見、「物」として扱ってきた我々の生き方に起因しているのではないか、と龍村はいう。
星野の死が、「クマに詳しい動物写真家が、慣れからつい注意を怠り、失敗して命を落とした」とマスコミに受け止められていることに対し、 「星野道夫という人は、人がクマに殺されるということが、本当に異常なことなのか、人の失敗なのか、ということを自分の全存在をかけて問い続けた人だ。その痛ましいまでに誠実な問いが、そのまま彼の生き方となり、文章となり、写真になっていた。だからこそ我々は彼の人柄にうたれ、写真に身震いし、文章に涙するのだ」 と書いている。星野への挽歌である。
この地球交響曲シリーズは、全国で180万人を動員し、現在も全国で自主上映会が続いている。
【ジャーナリスト・枡田勲/2003.01.09 】
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