ボディースキャンと歩く瞑想

http://anzenmon.jp/page/10243164 【その10 ボディースキャンと歩く瞑想】より

 恐怖反応のメカニズムが働くと、脳の扁桃体を通じてあなたの心と体には大きな変化が表れます。

 筋肉がこわばる。胸やのどが締めつけられるような感じがして、息ができなくなるのではないかという恐怖感に襲われる。動悸がして息づかいが荒くなる。汗がどっと出たり、体が震えたりする。体内に蓄積されていた糖が血中に放出される。頭が混乱し、思考力が低下したり、逆にめまぐるしい勢いで働いたりする。心をかき乱すような恐ろしいことばかり考えるようになる、といったぐあいです。

 恐怖反応が働いたときに現れる症状は、「身体恐怖」と名づけることができます。今の瞬間がすべてだというマインドフルネスの考え方で言えば、「身体恐怖が今というこの瞬間に起きている」ことになります。

 身体恐怖は無視しがたいものです。身体恐怖が起きると心が高ぶり、体との情報交換を活発に行うようになります。それにより身体的症状は激しさを増し、警戒心が高まり、あなたの内的世界は緊急態勢に入ります。

 恐怖や不安の感情は、心や体に現れる症状に煽られ、ますます強くなっていくように見えます。言ってみれば火に油を注ぐようなものです。パニックや不安感に火がつき、体の中で激しく燃え盛ると、体はいよいよ緊張を増していきます。するとまたそれが引き金となってさまざまな考えや心配の思いが広がり、心を埋め尽くしてしまいます。あとは延々とそのくり返しです。

 これは、パニック障害の人がよく陥る悪循環です。身体的症状が恐怖感を呼び起こし、それによってさらに症状が悪化するというこの連鎖を断ち切るのは簡単ではありません。けれどもそうしなければ、恐怖や不安、パニックを克服することはできないのです。

 身体恐怖の症状を感じ取り認識するのは、パニック障害の人に限りません。恐怖の原因が何であれ、体の中に現れる症状ははっきりと自覚できます。身体恐怖の症状が起きているとき、あなたは身体恐怖の中で生きているわけです。

 身体恐怖の症状には否応なく注意が引きつけられます。その症状は非常に激しいため、心は体に対する反射的反応にのみこまれてしまうことがあります。それでは、身体恐怖のような強烈で御しがたいものにはどう対処すればよいのでしょうか?

 その答えは、またマインドフルネスのパラドックスにかかわってきます。つまり最大の効果は、望む結果に執着せず、ものごとをあるがままに感じ取ることによって得られるということです。

 マインドフルネスを発揮するには、まず対象物に気づくこと、そして、それをしっかり意識し、その対象物と結びつくことが必要です。不安をかきたてる不快な身体恐怖の症状を、マインドフルネスによって克服するためには、瞬間瞬間の自分のあるがままの体を認識し、きちんと意識を向けてそれと結びつく力を養うことが何より大切です。

 言い換えれば、体に起きているできごとそのものを感じ取り、体験をあるがままに受け入れるということです。このように自分の体を意識して日々の生活を送れれば言うことはありません。こうした意識の持ち方は、「体への気づき」とか「気づきとともに体にとどまること」と呼ぶことができます。

 体に注意を集中する瞑想は、さまざまな場面で行えます。座っていても、歩いていても、立っていても、横になっていても、ありとあらゆる状況が実践の場となります。場所や状況を問わずいつでも今という瞬間の自分の体を感じ取る力が高まれば、身体恐怖が起きたときにも、集中力と柔軟性をもって注意を向けることによりその症状を克服できるようになります。

自分の体をもっと意識する

 あなたは身体恐怖やその他の不快な症状がないときに、自分がいかに体に無関心であるか、考えてみたことがありますか? 普段、頭だけを働かせて過ごしていることがどれほど多いでしょう。また、何かを考えたり、想像したり、思い出したりという心の動きに、どれだけ多くの時間と関心とエネルギーを振り向けているでしょう。

 人間は、食欲、排泄欲、性欲を満たす必要があるとき、痛みをとりのぞきたいときなど、差し迫った欲求に駆られている場合以外は、ほとんど体に注意を払うことがないと言えます。それどころか、そうした切実な欲求を感じているときでさえ、ひとたびその欲望が満たされ始めると、意識はたいてい頭のほうへ戻ってしまいます。

 体に注意を払わず、頭だけを働かせて過ごすという習慣は、だれにでもみられます。実際、人は頭の働きに注意を向けることに相当な労力を費やしています。たとえば、スポーツジムでの風景を思い起こしてみましょう。運動しながら本を読んだり、ヘッドフォンで何かを聞いたりしている人がほとんどではありませんか? 意識はどこに向いているのでしょう。体でしょうか? それとも、未来や過去についての思いや、空想の世界でしょうか? 

 もちろん、人が体に意識を向けない理由は一つではありません。仕事を山ほど抱えていて、一度にいくつもの用事をこなさなければならないといったことから、今に身をおくことの大切さがわかっていない、体に根深い苦痛や不快感があるといったことまでその原因はさまざまです。また、体と心が離れているような落ち着かない感覚を覚えてしまうことが理由である場合もあります。

 このようないわゆる心と体の乖かい離りがあるときには、放っておいてはいけません。そうした感覚やその原因となる心の傷があまりにもひどいときには、マインドフルネス瞑想とあわせて、きちんとカウンセリングを受ける必要があります。けれどもそこまで重症でなければ、ものごとに意識を向けない、上の空、体に注意を払わないなどの習慣化した状態は、マインドフルネスを実践するだけで正せるかもしれません。いずれの場合も、自分の体に注意を集中する力を養うことで、癒しや変化が大いに促されます。

 この章では、ボディースキャン、そして歩く瞑想と呼ばれる瞑想を紹介します。マインドフルネスの考え方を取り入れた体の動きを伴う精神修養法には、このほかにもヨガ、太極拳、気功などがあります。その詳細については本書では特に触れませんが、そうした分野については優れた書物やビデオが数多く出ていますし、都市近郊ではヨガの教室もたくさん開かれています。

 体に注意を集中する瞑想を体験した人の多くは、自分の体との結びつきを新たにし、以前には感じたことのない新鮮な感覚を覚えたと話しています。「自分の体のなかに存在する」「自分の体とともに存在する」という好ましい状態はここから生まれます。けれども残念なことに、私たちの多くはこのようなすばらしくポジティブな体験を味わうことなく今に至っているのです。

瞑想トレーニング

<ボディースキャン>

 ボディースキャンでは、すべてを受け入れる心と思いやりの気持ちをもって、判断も努力もせずに、自分の体そのものに注意を集中します。体の各部分にできる限り入念に、細かいところまで注意を払うのです。注意を集中する場所を体系的に移動させながら、体中にくまなく意識を向けていきます。このとき、呼吸が体の各部分の感覚に意識をつなぐ役割を果たします。それぞれの場所で息が出入りするのを意識しながら、内側から自分の体の感覚を深く感じ取るわけです。

 体に注意を集中すると、体との一体感が深まり、体をより意識できます。そして安定した深い落ち着きとリラックス感のなかで注意を集中し、「自分の体内に存在している」という実感が得られます。この瞑想を行うことで、今に身をおき、体のどの部分であれ注意を集中する力が飛躍的に高まるはずです。また体自体に深いリラックス感が得られる場合もあります。

 こうした効果のすべてが、身体恐怖が生じても、注意を集中することでその症状に向き合い、対処する力を生み出す強固な基盤となってくれます。

ボディースキャンの手順 

 1. 楽な姿勢でいすに座るか、頭とひざの下に枕を敷いて床に仰向けに寝ます。床に寝る体勢を好む人が多いですが、この瞑想はあくまで目覚めた状態で行うものであり、眠ってしまうのでは意味がありません!

 部屋は適度な暖かさを保ちます。ゆっくりとトレーニングを行えるよう、時間は少なくとも三〇分はとり、慣れてきたらさらに時間を増やしていきます。準備ができたら目を閉じます。

 2. 落ち着いたら、マインドフルネスの基盤となる七つの基本姿勢を復習しましょう。特に、努力しない、判断しない、受け入れるの三つは、今この瞬間のあなたの体の状態に気づくためにとても大切です。

 3. 息が体に出入りする感覚を感じましょう。リラックスして、自分の全身を感じ取ります。その重み、体がいすや床に支えられている感じを意識しましょう。そして、何かを変えようとする気持ちを捨て、今感じている感覚をあるがままに受け入れます。今というこの瞬間に集中し、体に起きているできごとをただありのままに感じるのです。この瞑想の目的は、体を感じ取ることであり、体について考えることではありません。

 4. 左足のつま先に意識を向け、そこで生じる感覚を感じ取ります。しばらく続けたら、今度は、つま先で呼吸をしているつもりになります。息がつま先を通って全身をめぐる感覚を意識しましょう。心のなかでイメージを描かないこと。できるだけリラックスして、呼吸やつま先の感覚とどれほど結びつけるかを感じましょう。つま先を通じて呼吸をすることで、つま先の感覚により注意を集中します。つま先の感覚を息で包み込むことによって、今という瞬間に集中し、その感覚を意識する力がさらに高まるのです。

 5. つま先に何も感じられなければ、ただ単にその事実を認識し、「何も感じない」という感覚を味わいます。感じないということについて何か心に思いが浮かんだら、それを認識し、その思いをやりすごしましょう。そしてつま先に意識を戻します。

 6. つま先に感じる感覚の変化を味わいます。気温、靴下や靴、空気に足が触れている感じを意識しましょう。できるかぎり注意を集中します。なるべく詳細に、できれば指の一本一本の感覚まで感じ取りましょう。呼吸の感覚とともに、生の体験を味わいます。さまざまな感覚が、生じては消えていくのを感じ取り、それらを自然に放します。

 7. 十分につま先の感覚を感じ取ったら大きく深呼吸して、つま先から意識を放します。そして二、三度注意を集中して呼吸をしたあと、今度は足の裏に意識を向け、4、5、6の要領でボディースキャンを行います。その後同様に、呼吸と体の感覚両方を感じ取りながら、かかと、甲、足首の順で注意を移していきます。それぞれの場所の感覚に注意を向けながら呼吸をし、そこから息が出入りしているという感じを意識しましょう。各部で感じる感覚を息で包み込むようにして呼吸をします。この瞑想で注意を集中するおもな対象は、体の感覚です。その感覚を感じながら呼吸をすることで、今に意識をつなぐことができるのです。

 8. 左足の足首から股関節に向けて、注意を移していきます。引き続き呼吸を意識すると同時に、下肢、ひざ、上肢、など各部の感覚に注意を集中しましょう。感覚を感じ取ったらそれを放し、しばらく呼吸だけに集中したあと、ほかの部分へと移ります。気持ちがそれたときはそのつど忍耐強く、今まで意識を向けていた部分と呼吸に静かに注意を戻します。

 9. 同じように、体のほかの部分にもゆっくりと注意を移していきます。右足の先から、脚の付け根へ。骨盤、腹部、腰、胸、背中へ。肩まできたら、今度は左右、それぞれの手の先から腕へと向かい、再び肩に戻ります。その間、常に注意は体の感覚と呼吸に向けていましょう。そしてさらに、首、のど、頭、口の中なども含めた顔のすべての部分に注意を移動させます。

 

10. 体のすべての部分をスキャンし終えたら、そのまましばらくあるがままの呼吸と体の感覚を感じましょう。頭のてっぺんに大きな穴があいていて、そこから空気が入り込み、体全体を通って両方のつま先から出て行くといった感じで呼吸をします。それを好きなだけ続けたら、今度は逆に、足の先から入った空気が体中を通って、頭のてっぺんから出て行くというつもりで呼吸をしましょう。こちらも好きなだけ続けます。

 

11. この段階までくると、体の感覚がなくなったような感じがするかもしれませんが、気にすることはありません。ただ、今の瞬間に感じる静けさと落ち着きに身を任せます。ボディースキャンで得られる深い心の平安を感じるのです。自分の中にどれほど心身をコントロールする力があるかに気づきましょう。

 

12. 瞑想を終了する準備ができたらそのことを認識し、何度か大きく深呼吸をします。そして目をあけ、体をゆっくりと動かします。

 一日に一度はこのボディースキャンを行いましょう。特にトレーニングを始めて間もないころは、毎日続けることが肝要です。体全体でなく、何箇所か特定の部分に限って行うのもよいかもしれません。

 たとえば、顔や腰など一箇所ここと決めて、その部分について一センチ単位、一ミリ単位で注意を移し、細かく感覚を感じ取っていくのです。自分なりのトレーニングスタイルを作ってください。そして、自分の体と結びついているという、安らぎと自信を感じましょう。

瞑想のトレーニング

<歩く瞑想>

 歩くという行為は、今という瞬間に注意を集中する絶好の機会となります。歩く瞑想とは、歩く行為そのものに注意を集中して歩くという瞑想法です。気づきの呼吸と同様、歩くという感覚や体験が心と体を今に結びつけます。

 また、注意を集中して歩くことにより、あなたは動いている自分の体とより意識的に一体感を持てるようになります。

 歩く瞑想は、正式なトレーニングとして行うこともできますし、体を動かしながら今に意識をつなぐ手段として普段から気軽に行うこともできます。歩く瞑想の原理は、ヨガなど、マインドフルネスの手法を取り入れた体の動きを伴うその他の精神修養法にも応用できます。

歩く瞑想の手順

 1. トレーニング用のスペースとして、人目を気にせずに、一五歩から二〇歩まっすぐに行ったり来たりできる場所を探します。

 2. その一方の端に立ち、体に注意を集中します。今という瞬間に体が感じているさまざまな感覚を意識しましょう。腕は、胸の前や体の後ろで組む、体の横にたらすなどして、楽に構えます。まず足先に注意を集中し、そこで感じられる感覚を味わいましょう。

 3. 片足をゆっくりと上げて歩き始めます。最初のうちは特に、ゆっくりしたペースで歩くとやりやすいでしょう。歩行中の足先や脚部の感覚に注意を集中します。足先が上がり、前方に動き、床や地面に着くときの感覚を細かいところまで意識します。また、一方の足から他方の足に体重が移ってゆく感じにも注意を払います。脚部の感覚、体全体の動きにも意識を向けましょう。注意がそれたり、心がさまよいだしたら、静かに意識を足先と脚部の感覚に戻します。

 4. 注意を集中しながら歩き、向こう端についたら止まります。

 5. 今度は、止まるという体験に意識を向けましょう。体の声に注意深く耳を傾けます。また体を動かしたいとか、向きを変えたいとか、歩行を再開したいという気持ちが起きたら、それを意識しましょう。何かをしたいという思いがわきあがってくることに注意を集中するのです。体が無意識に動いてしまうときも、その前に必ずそういう思いが生じているはずです。止まるという体験に十分注意を集中できたら、体の向きを変えて、またその場にとどまります。体と足先の感覚を感じましょう。そして一歩を踏み出します。体にどんな変化が起きましたか? それはどんな感覚ですか?

 6. トレーニングはできれば一五〜二〇分以上は続けてください。その間に起きるできごとはすべて意識しましょう。さまざまな思いが浮かんできたり、音が聞こえるなど、ひどく気が散るときは、いったん歩くのをやめ、意識をそらしているものに注意を集中します。そうすることで注意を集中しているという状態を保ち、その後足先に静かに意識を戻して再び歩き始めます。

 7. はじめはゆっくりしたペースで歩きますが、トレーニングに慣れてきたら、普通の速度、速めの速度、といったように速さをいろいろ変えてみてもかまいません。ひどく動揺していたりいらいらしているときは、最初は速めに歩き、集中力が高まって今に注意を集中できるようになってきたら速度を落とすというやり方をとります。速く歩くときは、右足が上がる感覚、左足が床や地面につく感覚など、どれか一つの感覚に的を絞るといいかもしれません。その特定の感覚に注意を向け、歩行中の集中力を保ちます。「どこかへ向かう」ときには、できるだけ注意を集中して歩いてみましょう。速度は自由ですが、速く歩く場合は注意を向ける対象を一つに絞るとやりやすいでしょう。たとえば、足を上げるときの感覚や、床や地面につけるときの感覚などを注意を集中する対象として選び、今に意識をつなぎます。こうして日常の行動にマインドフルネスを取り入れていきましょう。そして日々の生活との結びつきが深まるのを感じてください。自然の中、森、海辺、どこにいても、せっぱつまって急いでいるとき、恐怖や不安を感じているとき、どんな場合でも、注意を集中して歩き、自分の中に今という瞬間を生きる力があることに気づきましょう。

まとめ

 この章では、恐怖にとらわれているときに私たちの体が示す激しく御しがたい反応について、さらに詳しく見てきました。この強烈な反応をマインドフルネスによって克服するには、体に注意を集中することが習慣化されていなければなりません。ボディースキャンと歩く瞑想は、体に注意を集中する習慣を身につけるためのトレーニングの二本柱となります。

 日ごろから体に起きているできごとに意識を向けていると、身体恐怖もまたその体験の一つにすぎなくなってきます。呼吸を意識して身体恐怖に注意を集中することで、人生に制約やゆがみを与える恐怖の影響力から解放されることができるのです。

著者等紹介

ジェフ・ブラントリー

医学博士。デューク大学医学部精神医学科顧問医師。同大学統合医学センターの「マインドフルネスに基づくストレス緩和(MBSR)プログラム」の創始者、ディレクターでもある。ラジオ、テレビ、新聞、雑誌などでMSBRプログラムに関する数々のインタビューに応じている。

コズミックホリステック医療・現代靈氣

吾であり宇宙である☆和して同せず  競争でなく共生を☆

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