風に吹かれ、寒さに凍えても、たくましく生きる高山植物

https://www.kyoto-u.ac.jp/kurenai/201603/gakumon/ 【自然・応用科学系科目群 生物学(個体・集団の生物学)植物自然史Ⅱ 風に吹かれ、寒さに凍えても、たくましく生きる高山植物──植物の高山への適応】より

瀬戸口 浩彰先生

国際高等教育院/大学院人間・環境学研究科/総合人間学部 教授

地球上のさまざまな環境に適応して生きる植物たち。環境が気に入らなければ移動ができる動物とは異なり、植物は種子が発芽した場所から動くことができない。生育環境に「適応できるか、否か」は、まさに生死をかけた事柄だ。今回、瀬戸口浩彰教授がとりあげるのは、寒くて風の強い高山で生きる植物たち。植物はどのようにして寒い冬を耐え忍び生きているのだろうか。

きょうのテーマは、植物の高山への適応です。とくに高山植物の寒さへの適応に注目します。植物が寒い冬を耐えて生き残る方法、そして、私たちの身のまわりの植物も同じしくみをそなえていることを学びます。これまでの授業でも特殊な環境下で生きる植物をとりあげましたが、けっして奇をてらっているわけではありません。特殊な環境で育つ植物は、どんな植物もそなえているしくみをとくに強く発現させます。そうした極端な例をみると、植物のしくみをよりわかりやすく知ることができるのです。

高山植物(alpine plants)とは、森林限界よりも高い場所、つまり、高山帯に生える植物のことです。京都大学からもっとも近くで高山植物が見られるのは、北陸地方の白山です。(図1)

高山植物の生育地

図1.高山植物の生育地

日本の高山植物は、緯度が南の地域では標高3,000mちかくの高い場所に、北上するほど2,000m付近の低い場所に生える傾向がある

森林限界とは、文字どおり樹木が生育できる限界です。限界の直前まで生えるのがハイマツというマツ科の植物です。直立できず、横に這う形態で育ちます。ハイマツ帯が終わると高山帯です。本州南部から北海道の順に山を並べると、暖かい南部は森林限界の標高は高く、北に行くほど標高は低くなります。(図2)

高山植物が生育できる範囲

図2.高山植物の生育地

これは研究室の卒業生が撮影した北海道の大雪山の写真です。(図3)山肌は石ばかりで、木が一本もありません。代わりに、チングルマやウルップソウの花畑が拡がります。高山帯ではこのような植生が拡がります。

大雪山(北海道)の高山植生

図3.大雪山(北海道)の高山植生

池田啓(岡山大学助教)撮影

敵のいないすきまを狙う高山植物

じつは、高山帯以外の低地にも高山植物が生えることがあります。北海道の礼文島(れぶんとう)には、高山植物のエーデルワイスが海沿いに咲いています。礼文島に行けば、苦労して山に登らずとも高山植物を見ることができますよ。

礼文島のような北の周極地域では、北極を取り巻くように高山植物が分布しています。グリーンランドやカムチャツカ半島でも、平地に高山植物が生えています。(図4)

周極分布植物の生育地

図4.周極分布植物の生育地

高山植物の敵は森です。森が発達しづらい場所に、高山植物は生えるのです。たとえば、日本は標高が高いほど風が強く積雪も多いので、森が発達しません。森がなければ高山植物の生えるすきまができるので、日本では高地に高山植物が生えます。北の周極地域は、低地であっても寒さで森林が発達しにくいので、高山植物が生えるのです。

ですから、低地に高山植物が生育する北欧やロシアの人にはalpine plantsではなく、arctic alpine plants(周極高山植物)、arctic plants(周極植物)と言わないと通じません。同じ種の植物であっても、彼らにとっては北極を取り巻くように分布している「周極植物」であり、高山植物ではないのです。

森がなければ、標高が低くて暖かい場所でも高山植物は育ちます。日本で高山植物の生える南限は愛媛県です。愛媛県には別子銅山で知られる西赤石山があります。

この銅山の土壌は貧栄養で、銅やニッケル、マンガンを大量にふくんでいます。重金属が土壌に入っていると、樹木は中毒状態になってしまいますし、栄養塩類がないとバイオマスも充分にはつくれないので、森は発達しません。

森が発達しないので、たった標高1600メートルの暖かい地域にもかかわらず高山植物が生えるのです。同じように山頂部付近や岩場の多い鳥取県の大山や紀伊山地の大峰山は樹木が育ちにくいので、標高が低くても高山植物が生えています。

厳しい環境で生きのびる知恵

高山植物に作用する環境要因は、基本的には土壌ですが、温度と風と雪の三つの要素は、高山植物にプラスにもマイナスにも働きます。寒さ、風、雪のプラス面は、敵である森の発達を妨げて、高山植物の生えるすきまをつくってくれること。しかし、これは高山植物にとっても厳しい条件です。厳しいなかで一所懸命に耐えるしくみを、高山植物は発達させています。

まず、温度に注目しましょう。標高が100メートル上がるごとに気温は0.6℃下がります。たとえば、富士山は標高3776メートル。静岡県の焼津港を海抜0メートル、0℃の冬の朝だとすると、富士山の山頂はマイナス23℃です。家庭用の冷凍庫内の温度です。冬の焼津港の昼間の気温は平均15℃くらいですが、富士山頂は氷点下のままです。山は夏も低温です。春の訪れが遅く、冬の訪れが早いので、山の植物の生育期間は短くなる。植物にとってはこれが深刻な問題なのです。

コマクサという10センチメートルほどの小さな植物がいます。コマクサと同じケシ科の仲間にタイツリソウという花があります。(図5)この二つは、同じケシ科に属する近縁な植物です。タイツリソウは高さ30センチメートルから60センチメートルほどに育つのですが、コマクサは10センチメートルにしかなりません。花茎も葉も根元から出るだけで株立ちはしない。系統上は近縁でも、体の大きさとつくりがずいぶんと違うのです。

コマクサ(右)とタイツリソウ(左)

図5.コマクサ(右)とタイツリソウ(左)

これには、生育期間の違いが大きく関係しています。コマクサが青森県の八甲田山に生えているとすると、6月に雪がとけて、10月に雪が降りはじめます。生育期間は6月から10月までです。いっぽう、平地のタイツリソウは3月から11月までが生育期間です。(図6)

コマクサとタイツリソウの生育期間

図6.コマクサとタイツリソウの生育期間

ファイトマー

図7.ファイトマー

植物はファイトマーという単位で構成されます。葉と葉のあいだの節間と腋芽(えきが)をあわせてファイトマーとよびます。光を受けるためにファイトマーを何段も積み重ねて、上にむかって伸びてゆくのが植物の基本生態です。(図7)

ところが、高山植物は生育期間が短いので、ファイトマーを積み重ねる余裕がありません。短い期間に早く花を咲かせて実を結ぶために、ファイトマーの数を減らします。タイツリソウが5段、6段と積み重なるのに対し、高山植物は「1段、2段、3段、おしまい」。あわせて、ファイトマーのサイズを小さくする「矮小化」を起こします。大きな葉をつくる余裕のないコマクサは、細い葉をたくさん出して小さなサイズのファイトマーを形成し、体を小さくするのです。

花の量もタイツリソウより少なめです。矮小化することで、短い生育期間に適応するのです。賢い方法だけれど、花の量が減ると残す子孫の数も減ってしまう。生存競争には不利ですが、しかたがない。ここで生きるにはそれしか方法がないのです。健気ですね。

野生動物が高山植物を食べる?

高山植物の生息地は厳重に保護されています。研究用の採集にも、環境省、所轄の県や市、地権者の三者の許可が必要です。手間をかけて、「数枚だけ」という条件で許可を得たのに、すぐ横でニホンジカがのんきに葉を食べている。(笑)以前は、シカやサルが里山に下りて畑などを荒らすことが問題でしたが、近年、里山の食糧が減って、食糧をもとめて野生動物が高地にやってきています。野生動物による食害から高山植生をどう保護するかは重要な問題です。

凍結から身を守る凝固点降下のしくみ

温度に適応するもう一つの方法が、凍らないようにすることです。春に咲く花は、冬には花芽がつぼみの中にできています。生殖細胞をつくる分裂(減数分裂)は低温の影響を受けやすいので、寒い春先では分裂に支障をきたすおそれがあります。そこで、暖かい夏から秋のうちに花芽をつくっておくのです。

気温があまりに下がると、植物は凍結して死んでしまいます。独身時代、私はこんな経験をしました。暑い夏にトマトを冷やそうと、輪切りにして、マイナス20℃の冷凍庫に入れておいたのです。数分のつもりがそのまま忘れて、翌日、冷凍庫を開けたらトマトが凍っていた。夏なので、室内で解凍したのですが、トマトの汁はお皿にあふれ出て、残った果肉は高野豆腐みたいに中がスカスカ。もとの姿にはもどりませんでした。中途半端な温度で凍ると、大きな氷の結晶ができて細胞膜を壊してしまうのです。そこから細胞液が外に出て、細胞は死んでしまう。

器官外凍結のしくみ

図8.器官外凍結のしくみ

植物たちが冬に凍らないためにどうするかというと、細胞内の水を、つぼみとつぼみを守る鱗片のすきまに排出します。すると、細胞中の溶質の濃度が高くなって、凝固点降下が起こるのです。これを器官外凍結といいます。(図8)

凝固点降下の原理を覚えていますか。たとえば水は0℃で凝固しますが、水に砂糖を混ぜると0℃では凍らず、マイナス10℃くらいで凍りはじめます。同じように、植物も凝固点降下を起こせば、冬の京都の気温くらいならば充分に耐えられるのです。えらいですね。

生殖医療では、生殖細胞をマイナス200℃ぐらいの液体窒素の中で保存します。氷の結晶がとても小さくなって、細胞を壊さずにもとの姿にもどるので、生殖細胞を生かしつづけることができるのです。家の冷凍庫がもしマイナス200℃だったら、トマトを解凍してもきちんと食べられたということです。(笑)

死なないために甘くなるニンジン

体内のデンプンをブドウ糖に変えて溶質濃度を高くすることで、凝固点降下を起こす植物もいます。デンプンは不溶性物質なので、溶質の濃度には影響しませんが、デンプンを酵素で分解して、水溶性のブドウ糖などに変えれば、溶質の濃度を上げることができます。

秋に収穫されない野生のニンジンは、冬のあいだにデンプンを分解して凝固点降下を起こします。そうして、溜めた栄養分をつかって翌春に芽をだすのです。野生のニンジンはそうして生きています。彼らは死なないために甘くなるのです。そのしくみを応用して栽培されている「ふかうら雪人参」という青森県産のニンジンがあります。冬に雪の中から収穫するこの甘いニンジンは、リンゴほどの糖度があるようです。

冬といえば鍋。鍋の冬野菜がおいしいのも凝固点降下の影響です。畑で栽培されるネギやハクサイも凍え死にしたくないので、ブドウ糖を体内にたくさん溜めるのです。

冬野菜がおいしいのは、植物が死なないためのくふうで、私たちはその恩恵にあずかっているのです。これから鍋を食べるときは、「よくがんばったな」と野菜たちへのねぎらいの気持ちを忘れずに残さず食べてあげてください。(笑)

飢饉を引き起こした「やませ」の冷気

お米は受粉によってできる作物ですから、冷気にさらされて異常な減数分裂が起こると、お米は実りません。東北地方では、イネの花の減数分裂のはじまる6月ころに「やませ」が吹きます。やませは、飢饉を起こす原因になりました。江戸時代は米中心の経済ですから、熱帯性のイネを東北でもむりやり育てていたそうです。低温耐性をそなえた品種が開発されていたのですが、それでも打ち勝てないほどのやませにさらされて、「天明の飢饉」などを引き起こしました。植物の生態から日本史をひもとくこともできるのです。

環境に適応して樹形を変えるカラマツ

カラマツ(直立木)、カラマツ(旗状樹型)、カラマツ(テーブル状樹型)

図9.右 カラマツ(直立木)、中央 カラマツ(旗状樹型)、左 カラマツ(テーブル状樹型)

つぎに、高山植物にとってとくに大きな要因となる「風」について考えましょう。高い場所ほど風は強くなります。風の強い日本の高山では、樹木は上に伸びれば伸びるほど強い風を受けますから、幹や枝を横に伸ばしテーブル状になることで強風に耐えやすくなります。風速10メートル毎秒を超えると、風の抵抗に負けて、芽を出すことができず、枝は成長できなくなります。すると、樹型に変化が起こる。

こうした現象は、富士山のカラマツに見られます。一合めに育つカラマツは直立木です。(図9右)森林組合が植林や間伐などの管理をし、生長すれば伐採し、木材として出荷されています。

登山客が歩いて登りはじめる六合め、2500メートル付近になるとカラマツはこんなかたち。(図9中央)かっこいいでしょう。富士山は風の方向は一定で、つねに上から下に吹いています。すると、強い風の吹き降りる斜面側には枝が出ないのです。上に伸びることはあきらめていないけれども、片側は枝を伸ばすことができなくなった。これを旗状樹型といいます。

2600メートルあたりになると、テーブル状樹型になります。(図9左)上に伸びることができずに、地上を這っています。このカラマツも一合めの直立したカラマツと種類は同じです。富士山のカラマツは、直立木からテーブル状樹型まで連続的に変化しています。遺伝的な分化があるかを調べましたが、遺伝的にはまったく同じ。どの形に育つかは、環境で決まるようです。

高地にとりのこされたハイマツ

日本でこの現象がみられるのは、富士山と富士山の近くの山の二か所だけ。これは、富士山が比較的新しい山であることに起因しています。

このことを教えてくれるのはハイマツです。図10はカラマツではなく、ハイマツです。寒冷地に分布するハイマツは、およそ2万年前の氷期に北方から南下して、北陸の白山まで拡がりました。氷期が終わり、暖かくなると、ハイマツをふくめた寒冷地の植物は、北の地域や高地に逃げたと考えられます。その結果、ハイマツは北アルプスの乗鞍岳など、山の頂上付近にだけ生き残っています。

ハイマツ

図10.ハイマツ

富士山はこのあと約1万年前から噴火をくり返して、いまの山容が形成されました。1万年前にはハイマツはすべて高山にとりのこされていましたから、富士山には入ってこられなかったのです。そして、富士山の空いた場所に、まるでハイマツのような樹型に変化したカラマツが入りこんできた。植物はじつにしなやかで、適応力があるのです。植物ってすごいでしょう。

さいごに少し、雪の話をしておきましょう。日本の雪は重く、1立方メートルの雪はおよそ300キログラムです。大陸からの空気が日本海を通過するときにたっぷりと水を吸い込むからです。水を吸って湿った空気が上空に拡がり、冷やされて大量の雪を降らせる。これが、重い牡丹雪になります。

雪の重みで枝が折れたり、寒さで樹木が生えなくなると、高山植物の敵である森林が発達しなくなります。高山植物が生きのびるために、雪は重要な役割を果たすのです。来週はここからスタートしましょう。

高山植物が厳しい環境に耐える能力は、けっして特殊なことではありません。鍋を食べるとき、「冬野菜がうまいのと同じだ」と思いだしてくれたら、きょうの私の目標は達成です。


Facebook森井 啓二さん投稿記事

チングルマ。あちこちで満開の時期を迎えています。山に行く人はご存知でしょうか?

とても小さな可憐な花を咲かせる高山植物です。花言葉は「可憐」。これはほとんどの人が草だと思っています。実はチングルマは、立派な樹木なのです。

ほとんどの時期を雪の中で過ごすという過酷な環境で生きています。樹高はわずかに10cm~20cm。たんぽぽよりも小さな樹木。

木の幹がマッチ棒ほどの太さにまで成長するためには10年以上の年月が必要です。

直径5mm程度の幹でも20年近くかかるといわれています。過酷な環境の中で美しく可憐で逞しく生きる高山植物を静かに見ていると見習うべき心の在り方を感じます。


https://note.com/specialflow0318/n/n58229e3eaf5f 【チングルマの秘密】より

                           中尾佳貴 よしきんぐ

山を愛するもののほとんどが高山植物を愛する。

そして、高山植物を愛する人にとってチングルマはとりわけ人気者である。

チングルマの綿毛が涼風になびく姿は可愛らしいばかりか優雅でもある。森林限界を超えた過酷な環境にも関わらず、気品漂う姿に人々はカメラをついつい向けたくなる。

このチングルマの綿毛は実は種子である。決して花ではない。タンポポの綿毛のようにこの種子を飛ばして命のタネをばら撒くのである。そのためチングルマはタンポポの仲間だと思っている人がいるが、同じキク科ではなくなんとバラ科である。

しかし、チングルマの花を見ればバラ科であることは一目瞭然だ。バラ科の代表種桜のように5枚の花びらが整然と並んでいるのを見ると、確かにバラ科だと納得するだろう。ちなみにバラ科ダイコンソウ属に分類されるだけあって、茎葉は大根の葉にそっくりである。

バラ科の高山植物の多くは木苺のように可愛らしく、そして美味しい実をつけるのだが、チングルマはそんなものはつけずに綿毛をつける。

実をつける植物は動物、特に鳥類や哺乳類に種子散布を託すが、チングルマは気まぐれな風に任せる。その風に乗って種子が散布されたからこそ、チングルマの群落には清い風がなびく。だから登山者たちは火照った身体をチングルマを見つめがら癒すことになる。

チングルマの秘密はまだ別にある。チングルマの群落には必ず共通点がある。それは尾根筋の登山道であり、必ず緩いU字の谷のような地形をしているのだ。(写真を参考に)

この地形は規模こそ全然違うが、紅葉の名所で大人気の涸沢や千畳敷のカールの地形とそっくりなことが分かる。こういった地形にこそ、チングルマは群落地を作り出す。カールが氷河期時代の氷河が削り出した地形であるように、このU字谷は冬の間の雪渓が作り出した地形である。

日本海の湿った空気が重たい雪となって降り積もる高山地帯では雪渓の重みによっても、何度もV字の地形が削り出されて、こういった小さなカール地形U字谷が生み出される。

雪の重みによって地形が削られていく。これは里山では想像できないほどのパワーで大地を削っていく。そのため、そう簡単に生物が生息することができない。実はこういった環境こそ、高山植物が最も得意とする環境なのだが、その話はまた別の機会に。

そこで暮らしていた植物たちが自然の脅威によって破壊されることを自然撹乱と呼ぶ。その自然撹乱の後に真っ先に生えてくる植物をパイオニアプランツと呼ぶ。そのパイオニアプランツの代表種こそ、バラ科である。

日本の里山にも奥山にも自生しているバラ科の植物が多いのは日本が急峻な地形をしている上に、降水量が世界平均の2倍もあるためだ。それによって毎年のように土砂崩れや洪水など大きな自然撹乱が生まれ、それによってバラ科は生息地を増やし、さまざまな種に進化・適応ているのである。

日本の里にはサクラが多く植栽され、巨木になる程成長するのはこの日本の気候と地形のためである。その特性を生かして、江戸時代の頃から河川敷に治水目的で植栽されてきた。サクラはその粘り強い根っこで大地を掴み、河川を守りながらも集落を守ってきたのだ。だから、サクラの名所は河川敷であることが多い。

そう、チングルマは重たい雪が削り出す自然撹乱のあとに進化・適応したバラ科の高山植物である。冬の間に重たい雪が降り積もり、雪解け水によってさらに地形が削られ、夏は強い日差しと乾燥、そして大雨が秋まで続く。

そういった環境には植物はおろか動物たちもまた生息するのが難しい。だからこそ、チングルマは大群落を作り、気まぐれの種子散布を任せているのである。

4月にサクラが大満開になって人々を魅了するように、高山登山シーズンがはじめる7月にはチングルマの大満開が登山者を魅了する。そして短い夏を終えると一気に綿毛の大満開が登山者の足元を覆う。

チングルマが居なくなれば、日本の高山の自然撹乱はもっと増えているだろう。チングルマが自然撹乱の後にすぐに成長し、数少ない土を根っこで捕まえ、茎葉をロゼット型に広げて大地を覆う。そのおかげで日本の高山の自然撹乱の数は減っているはずだ。そして登山者は安心して道を歩めているのである。

チングルマに私たち山好きは魅了されている。それは日本人がサクラに魅了されてきたのと同じように。サクラを見上げて季節を感じるように、チングルマを見下ろして季節を感じる。彼らによって守られている安心感に包まれて。





コズミックホリステック医療・現代靈氣

吾であり宇宙である☆和して同せず  競争でなく共生を☆

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