https://ono201010chiken.icurus.jp/tenki_no_kotowaza/tenki.html 【天気のことわざ】より
5. 日 常 生 活 に 関 す る も の
私達が生活しているうえで、身近なところに天気を予想するカギがあるものです。今までにあげた気象現象・動植物もその一つですが、 もっと身近なものをとりあげてみます。日常生活から生まれた諺をみるとわかりますが、すべて湿度に関したもので、雨・晴れの予想をしています。 これらの諺は大気状態がそのまま目の前に写し変えられたようなもので、理論的説明もなされ、その信頼度も高いといえるようです。
『飯粒が茶椀につけば晴れ、きれいにとれれば雨』
私達の日常生活で一番目につく現象です。あたたかい御飯粒が茶椀につくのは、御飯粒がかわいてとれにくくなるわけです。 これは空気が乾燥しているためで、高気圧の圏内にはいっている証拠となり晴れます。また逆に、御飯粒がすぐとれるときは、低気圧の圏内、 また接近を示しているわけで、雨が近い証拠となります。
『塩が水をすえば雨』
塩は潮解性(水分を吸収して、しめる性質)があるため、湿度が高いときには空気中の水分を吸収してしめっぽくなります。 したがって塩がしめっているとき、言い換えれば空気中の湿度が高いときは、低気圧の接近、または圏内を示しており雨の予測ができます。 これとは逆に『塩の堅きはお天気つづき』は、空気が乾燥している証拠で高気圧圏内を示しており、晴れる証拠となります。
『炭火のよくおこるは晴れ』
塩と同様に炭も吸湿性が強いため、湿度の高いときには火がつきにくく、空気が乾燥し炭も乾燥しているときは火のつきがいいわけです。 したがって、塩の場合と同じように解釈することができます。ただ注意しなければならないことは、炭も塩も乾燥状態が数日続いたために堅くなり、 火がっきやすくなったわけで、今まで晴天が続いた証拠です。今後もこのような晴天が必ずしも続くとは言えないわけですが、 発達した強力な高気圧の圏内の場合は、今後もしばらくは晴天が続くとみることができます。
『雨戸があきにくいと雨、楽にあくと晴れ』
塩、炭ほどではありませんが、木も吸湿性の強いほうです。空気中の湿度が高いときは、雨戸の木が水分を吸収してわずかに伸びており、 反対に乾燥しているときは、木の水分が蒸発してわずがに縮んでいます。したがって雨戸が伸びているときはあきにくく、 乾燥して縮んでいるときは楽にあくわけです。この場合も乾燥して縮んでいるのは、今までが晴天だった証拠になるわけで、 今後の天気については注意が必要です。
◎その他 『かつお節を削るとき柔かければ雨』
『たばこがかわくと天気がよい』
6. 季 節 に 関 す る も の
季節に関する諺には、長期を予想しているものがみられます。全国的によく言われている諺もいくつかありますが、 科学的な裏付けはつけがたく、そのような傾向があるとして認めることができるだけのようです。 したがって、そのようになる。と言い切ることはできないと言えるでしょう。だからといって全く信用できないというのでもなく、 ただ参考になり得るように思われるということです。
『冬寒気厳しき年は、夏干ばつあり』
『冬寒ければ、夏暑い』と言い換えることができます。冬に寒いのは大陸の高気圧が発達しているときで、 夏に暑いのは太平洋高気圧が発達しているときです。このような大きい高気圧の盛衰は、地球全体の大気循環と関係が認められます。 このため冬の高気圧が発達するときは、夏の高気圧も発達しやすい傾向にあるようです。 『寒中の寒さ厳しき年は、土用はひでり』も同様のものです。
『空梅雨は土用蒸し』
空梅雨は太平洋高気圧の発達が強く、時期も早かったためで、このような年には自然梅雨も早くあがることになります。 早くから発達した太平洋高気圧は、夏になるにしたがってその勢力を増々強め発達することが考えられます。 このため土用にも雨が降らず、南の大気が日本に吹き込むこととなり、暑い日の続く夏となります。
『霜の多く厚き年は大雪なり』
霜が多くおりているのが見られるような年は、夜間の温度が例年より下り冷え込んでいる証拠です。 夜間、冷え込みが厳しいような年は、それだけ大陸高気圧の勢力が強いわけです。このため、 このような年には雪が多く降ることが予想できます。
◎その他 『鏡餅のわれが多いと、ひでりがある』
『春彼岸に雨あれば、秋彼岸に洪水あり』
7. ま と め
全国的に通用する諺をいくつかみてきました。天気の諺は一つ一つみれば非常にたくさんみられますが、 その内容を吟味してみると表現形式が異なるだけで、予想している天気については同じものが多くみられます。 したがって、それらの代表的なものをいくつかここに掲げてきました。
雨・虹などの気象現象に関するものや、雲・風に関する諺については、科学的証明がなされその信頼度も比較的高いと言えるでしょう。 しかし、動植物に関する諺や季節に関する諺については、科学的衷付けがむづかしく、 利用するにあたっては参考程度とみたほうが無難なように思われます。
大 野 地 方 特 有 の 天 気 俚 諺
ここでは大野地方に特有の天気の諺をいくつかみていくことにし、合わせて福井県に主にみられるものもみてみます。
大野地方特有の諺の内容を調べてみると、荒島岳・経ヶ岳・飯降山が使われ地方色を表わしています。予想している天気については、 全国的に通用する諺を言い換えているものが見られます。大野市街から見た場合、東西南北の方向のかわりに、 東方は荒島岳、北方は経ヶ岳、西方は飯降山を使用しているようです。また大野は盆地地形であるため、 気象現象がかなり複雑になっていることが考えられます。盆地は、気温については一般に夏は日中が蒸し暑く、 冬は非常に寒いという特徴があり、さらに風向などもかなり影響されるようです。 京都・奈良などの盆地がその例で、大野も例外ではありません。
『荒島岳(1,523m)方向に雲がいくと晴れ』
全国的な諺の『煙が西へなびくと雨、東へなびくと晴れ』と同類のものと言えます。低気圧の接近に伴う雲の動きを言ったもので、 大野で見た場合の一般的な雲の動きは、低気圧の接近、通過につれて、経ケ岳方向→飯降山方向→荒島岳方向と雲がいくわけです。 荒島岳方向に雲が流れるようになれば低気圧は去ったとみていいわけで、今後天気の回復が期待できます。 大阪地方で言われている『雲が天王寺参りをすると天気良くなる』も同じような諺で、天王寺は大阪市街から見ると、 ちょうど大野市街から荒島岳を見たのと同じような位置にあります。
注: 雲の流れは、低気圧が日本海側を通るか、太平洋側を通るかによって多少変わります。
『経ヶ岳(1,625m)方向に雲が流れると雨』
前述の諺の説明でもわかるように、経ヶ岳方向に雲が流れるときは低気圧の接近を示しているわけです。 風としては南寄りの風が吹いているわけで、全国的な諺の『南風は雨、北風は晴れ』と同類のものといえます。
『荒島岳の頂上に雲がかかると晴れ』
全国的な諺の『高い山に笠雲がかかると雨』と相い反している諺です。しかし、この諺が間違っているというわけでもないようです。 荒島岳の頂上に雲が生じるのは主に雨が降ったあとに多く、このとき荒島岳に雲を発生させる大気は、低気圧が去ったあとの湿った空気で、 荒島岳方向に流れて山膚を吹き上がり、雲を生じさせていると考えられます。 低気圧が接近している時は経ヶ岳方向に湿った空気が流れるわけで、経ヶ岳に雲が生じると考えられます。 荒島岳頂上の雲は低気圧が去ったことを示しており天気の回復が期待できます。
『荒島岳の中復に雲がかかると雨』
『飯降山がはちまきをすると雨』
不安定な大気が山膚に沿って上昇していくと、温度が下がり膨張して雲を生じます。 このとき低気圧が接近していて上空に暖気が入り気温の逆転(音に関する諺の項参照)が起っていると、 冷却して生じた雲は上層の温度が高いため消えてしまいます。このため山の一部に輪になったようた雲が見られることがあります。 暖気の侵入は低気圧の接近を示しており、次第に天気がくずれてきて雨となることが予想できます。 同じ内容のもので『富士山が帯を結ぶと雨』というのが静岡県地方で、また熊本県では『温泉腰巻、阿蘇頭巾は雨』と言われており、 温泉岳の裾を雲がまくときと阿蘇山に笠雲がかかると雨、というのがあります。
『飯降山の頂上に3回雪が降ると根雪になる』
飯降山は標高884メートルのあまり高くない山です。この頂上が何度も雪におおわれれば、 その回をますごとに冬型の気圧配置が強くなってきているといえます。山頂だけの雪がしだいに低いところまで降るようになり、 この諺の「3回」という回数は、たんなる目安として考えたほうがいいようです。大野市街にも雪が降るようになれば、 それだけ寒気が強くなった証拠でいよいよ根雪の時期になるとみることができます。 高田(新潟県)では『妙高山に3度、南葉山に1度雪がくれば、次に里にもくる』と全く同じような諺が見られます。
『宝慶寺の雨は間もなくやってくる』
言葉の表現はいろいろありますが、主に阪谷地区で言われています。阪谷から見た宝慶寺地区はほぼ南西方向にあり、 天気の変化が西から東に移っていくことと大体一致します。低気圧が太平洋側を通過するときには、大野では厳密に言うと西からというより、 南西方向からの天気のくずれが見られるのが主なようです。 この確率はかなりいいようで、局地的降雨の場合をのぞけばほぼ当るとみることができます。
◎その他 『西の空か明るいと晴れ』
『大門山に雲がかかると雨』
『ミソサザイ(サンダイ:チッチとも呼ばれる鳥)が来ると雪が降る』
『フキアゲカゼが吹くと翌日は天気になる』(和泉村地区)
『山うるしが色づくと 60日目に雪が降る』(和泉村地区)
次に主に福井県下を中心として用いられている諺をあげてみます。全国的に通用するものとしても利用できますが、 風向や雪に関するものは、ある程度場所が限られます。
『東雷は雨降らず』
雨を降らす低気圧は、普通西から東へと移動していきます。雷雲もこれと同様で、雷が東の方向から聞こえてくるときは、 その雷雲が東方に去ったとみることができます。雨を降らせる雲も同様に去ったとみることができ、雨の心配はないと予想できます。
『アイの風は雨、北風は晴れ』
アイの風は、春や夏に日本海側に主に吹く風の古称で、福井では南風を示しています。 この諺は全国的な諺の『南風は雨、北風は晴れ』と全く同じものです。アイの風については、地方によってその風向がまちまちで、 山陰地方では東北東風のことを示しているようです。
『ハチの巣が高い所にあれば大雪』
動植物が先の天候を予想する能力があるとは考えられません。この諺のハチも同じです。しかし、この予想ははずれてもいないようです。 秋に大陸の高気圧が早く発達して、日本をおおった場合、天気はよくなり夜間の地表付近の気温が非常に下がることが考えられます。 このため、ハチが比較的暖かいある程度地面から離れた高い所に巣を作るようになります。秋の頃から大陸高気圧の発達がみられる年は、 冬にも高気圧の発達が考えられ、冬型気圧配置が強まることが予測できます。したがって、そのような年は、 概して雪が多くなるとみることができます。
あ て に な ら な い も の
役にたたない諺もかなりみられます。主に動植物に関する諺に多くみられるようで、ただ、 そのような傾向があると認められるものもいくつかあります。また流星や星の諺については、そのときの天気の状態を知ることはできますが、 先の天候を予想するものとしては、信用し難いといえるでしょう。ゲタやテルテル坊主については、言うにおよびません。
『ねこが騒ぐと嵐』
『からすが騒ぐと大風あり』
『すいかの豊作、大風となる』
『木の実の少ない年は大風吹かず』
『かやの穂の出、少なきは大風の兆』
『なすの花のよく咲く年は、大雨、大風』
『返り花の多き年は大雪となる』
『かきのみのりの少ない年は小雪』
『流星があると風が吹く』
『流星がつづくと天気が良い』
『流星が多いと大風になる』
これら流星に関する諺は、信用し難いとみていいでしょう。流星については1年のいつごろに多く見られる。ということがわかっています。 冬(12月13~14日頃)の双子座流星群、夏(8月12~13日頃)のペルセウス流星群などその例です。 しかし、別の点から解釈することもできます。流星が見られるようなときは空か澄んでいるときで、高気圧におおわれている場合です。 このように、その時点の気象状態を知ることはできます。
『アリを殺すと雨』
『テレビの調子が悪くなると雨』
『ゲタが表になると晴れ、裏になると雨』
『テルテル坊主をつるすと晴れ』
あ と が き
天気俚諺としていくつかの諺をあげてきましたが、これら以外にまだたくさんあります。身近なものでは、 神経痛と雨の関係から農産物の豊作・凶作を予想するものまで巾広くみられます。しかし、ここでは簡単に天気を予想する方法として、 主な天気俚諺だけにとどめました。なお、最後に大野地方の過去10ヶ年の特別日を選んで天候を表にしました。 これらの諺とともに少しでも参考にしていただければ幸いです。
参 考 文 献
『ことわざの真実』 大後美保著 三省堂
『気象』(月刊) 気象庁監修 日本気象協会
『日本のお天気』 大野義輝著 大蔵省印刷局
『日本の天気』 高橋浩一郎著 岩波新書
『雲の表情(カラー)』 伊藤洋三著 保育社
『気象学概論』 山本義一著 朝倉書店
『気候学概論』 福井英一郎著 朝倉書店
○ 編 者 長谷川俊基
○ 発行者 前田裕一
○ 発行所 大野地球科学趣味の会
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