https://ono201010chiken.icurus.jp/tenki_no_kotowaza/tenki.html 【天気のことわざ】より
は じ め に
日本は南北に長く四季の変化に富んでいるため、天気の変化も復雑になっています。このため自然に日本人は昔から天気に対する関心が深いようです。 一般に、手紙の初めにはいろいろと天候に関する言葉を用い、また日本独特の俳句には季語を必要としています。日本人がこのように天候に関心をもつようになったのは、 四季の変化のはっきりした日本の風土において当然のことかもしれません。
私たちの日常生活は、天候に大きく左右されているといえます。テレビやラジオでは、毎日天気予報が報道されていますし、また新聞には、その一隅に必ず天気図がのっています。 では、天気予報のない時代にはどうしていたのでしょう。私たちの先祖は、その日の空の様子や動物の行動など自然界の変化から、翌日の天気を推測していたようです。自然界の変化から、 翌日の天気を知る方法(観天望気の法)が行なわれ、この時代を経て、現在あるようないろいろな天気を予測する諺(天気俚諺)が生まれてきています。
私たちと密切に関係のある天気を、少しでも予測できたらどんなに楽しく便利なことでしょう。しかし、私たちにとって、天気図を作成して翌日の天気を予測するということは、 なかなかむづかしいことです。したがって、私たちが翌日の天気を知るには、マスコミの天気予報に頼ることになります。しかし、ここに自分でできる天気予報があります。 それが、この観天望気の法、天気を予測する諺を利用することです。気象衛星が飛びかう今日でも、結構役にたつものも多くあります。諺は、その土地の人々が地形や風向き、 雲の形など、その土地独特の気象条件を細かく観察して、編みだしたものが多いからです。夕焼け、朝雨などの気象現象、動物や植物を用いた諺は、全国的に通用します。 しかし、その土地の山(大野では荒島岳や経ケ岳)を用いた諺は特色あるもので、その地方の人々の間で代々言い伝えられてきています。 そして、その土地独特の諺のなかには、かなり確率の高いものがあるようです。
数多くある天気僅諺のなかには、役にたつものもありますが、全くまゆつばものもあります。そこで、これらの天気俚諺のなかから、全国的に特によく知られているものをいくつかあげ、 役にたつものと、たたないものに、また大野地方独特のもの。などの項目で分類していくことにします。この天気俚諺、簡単に天気を予測する方法として、少しでも利月していただければ幸いです。
この編集にあたり、恩師の小宮先生(明治大学農学部、農業気象学研究室)をはじめ、大野高等学校教諭伊藤一康先生はもとより、大野高校地学クラブの方々、 福井県済生会病院清水勲氏の御協力を得られたことに感謝致します。
日 本 の 天 気
天気に関する諺に入る前に、日本における天気の状態を一度みてみることにします。日本は温帯地帯にあり、 春夏秋冬の四季の変化がかなり激しく、世界でも珍しい地域にあたります。特に梅雨は隣国の中国揚子江流域を除けば、日本独特のものです。 また台風といわれる熱帯低気圧は世界でも数ヶ所みられますが、その規模、回数は特に激しいと言えます。
日本の地理的位置を考えてみれば、中緯度で季節風地帯にあることがわかります。このことが日本の天気を大きく左右しているといえます。 また偏西風帯に位置し、この風にのって高気圧、低気圧が西から東にひんぱんに通ります。 このため天気変化は西日本から東日本にと移っていくのです。低気圧の移動についてみれば、先の低気圧から次の低気圧までの期間は、 だいたい3~5日間あります。この周期的変動のため、晴れが3~5日続けば次には雨やくもりの天気になると考えていいわけです。 夏などの天気の安定期には、この傾向はみられず、小笠原高気圧に日本全体がおおわれる夏には、晴れの好天の日が続くことになります。
大野盆地のなりたちイメージ 日本の天気については、非常にたくさんの要因があり全部をとりあげることができません。 ここでは、単に天気俚諺に入る前の序章のような意味で、極めて簡単に日本の天気変化の概略をみてみました。 尚、日本の天気など気象に関する文献は、あとがきに書き添えてあります。簡単に入手でき、読みやすいものもありますので、 興味のある方は是非読んでみてください。
よ く 使 わ れ る 天 気 僅 諺
雨とか虹の気象現象や雲形、雲向きを観測する観天望気の法は、その土地に特有な天気のくせが諺の中に折り込まれており、 かなり確率が高くよく使われているものが多いといえます。一口に天気俚諺と言ってしまうには、その数たるや相当なものです。 気象現象の変化を中心にしたものから、動植物に関するもの、音に関するものなど。また予測する天候の変化が数時間後、 あるいは数十分後に起こるという極めて近い先のものから、数日後、長くは季節を単位とするような先のものまであります。
このように数限りなく、またいろいろな内容をもつ諺のうちから、特によく使われるもの、全国的に通用するものをピックアップして、 その内容によって分類してみます。
1. 光 ・ 音 に 関 す る も の
ここでは、夕焼けや虹に関するもの、また音に関するものを中心に集めてみます。 特に光に関する気象現象は夕焼けなどのようによく目につく現象で、比較的わかりやすく、利用しやすいものがあるようです。
『夕焼けは晴れ、朝焼けは雨』
この諺は最もよく使われているようです。日の出、日の入りのときには、太陽光線はより長い空気の層を通ることになります。 このため、空気の分子や塵のために短い波長の光(青い光)が散乱され、主に長い波長の光(赤い光)だけが空気層を通ってきて、 目に入り赤く見えます。このようなわけで、夕焼けが見られる時は、西の空が晴れている証拠で、その翌日も晴れることが予測できます。 この場合は黄色味を帯びた夕焼けについてで、黒味を帯びている時は西の空に雲が多い場合で、むしろ天気は悪くなります。 反対に、朝焼けが見られる時は、澄んだ空気の層が東に去ったとみることができ、今後天気が悪くなることが予測できます。
『日がさ・月がさが出ると雨』
一般に絹層雲(巻層雲)に月や太陽の光が当たると、雲の中の氷晶によって屈折され、光源のまわりに光の輪ができます。 これか日がさ・月がさと言われるものです。また、この絹層雲は低気圧の前面に現われるのか普通で絹層雲が見られることは 低気圧の接近を示しています。即ち、低気圧の接近に伴って、次第に天気かくずれてくることを示しています。 この諺の確率はかなり高いようで、かさが見られた翌日に雨の降る確率は60~80%くらいです。 この諺は世界各地でも古くからよく言われています。
When the moon or sun is in the house,
There is rain without.
『朝虹は雨、夕虹は晴れ』
虹は、空気中にある雨滴に日光が当った場合、その光線は雨滴で屈折、反射されて、スペクトルに分解されます。 そして、色の光の帯となって目に見えるものです。ここで、朝、虹が見られるのは西の空で、西の空に雨滴がある証拠で、 湿気を含んだ空気が東に移動してくることを示しています。したがって、天気はくずれてきます。夕方、東の空に虹が見られるのは、 湿気を合んだ空気が東に去ったしるしとなり、天気は回復してくると予測できます。西洋にも同じような諺が見られます。
Rainbow at night, Travelers'delight:
Rainbow in the morning, Travelers take warning.
『星がチラチラすると雨』
星がまたたくようにチラチラと見えるのは、大気が不安定な証拠といえます。高気圧におおわれれば、 大気は安定していて星もよく見えますが、大気が不安定になってくると、対流が激しくなり星がチラチラと光って見えるようになります。 大気の不安定は、普通低気圧の接近によって起こるため、天気がくずれてくることを示していると言えます。 しかし、大気の不安定は低気圧の接近によってのみ起こるものでもないので、全面的に当るとは言えないようです。 同じように星を使ったもので、『星の光揺ぐは風の兆』というのもあります。
『遠方の鐘の音や汽笛の音がよく聞こえると雨』
音波の速さは、空気の絶対温度(T=t+273 ;tはその時の気温)の平方根に比例します。 〔V=331.45√T,331.45は空気0℃における音速〕したがって、大気の下層の気温が上層の気温より低い時(気温の逆転※)に、 音波の屈折が起こり、遠方の音がよく聞こえます。つまり上層に暖気がはいってきた時、即ち温暖前線が近づいてきた時に、 遠方の鐘の音などがよく聞こえるようになります。この場合、前線が近づいているのですから、当然天気はくずれ、 雨になることが予測できます。しかし、晴天無風の日の早朝などにも、この気温の逆転は起こります。 この場合は晴天となります。したがって、この諺は晴天無風の早朝を除けば、ほぼ全面的に利用できるものと言えます。 同様のものとして、『谷川の水音がよく聞こえると雨』というのもあります。 【※一般に気温は、対流圏内では高いところにいくほど下がります。地上気温を0℃とすると、最低は約-70℃まで下がります。】
◎その他 『積雪をふんでキュキュと音がすれば寒くなる』
『山が近くに見えれば雨になる』
2. 風 に 関 す る も の
風向きはその土地の地形などにより影響を受けて場所によって異なります。ここでは、このような局地的な風ではなく、 気圧配置によって決まる大気の流れとしての風をとりあげることになります。 風は気圧の高いところから低いところに向かって吹くため、風向きから大体の気圧配置を知ることができます。 (バイス.パロットの法則※)例えば、冬には北または北西の風が吹きます。これは西方に高圧部があって、 気圧の低い東の方向に大気の流れがあることを示しており、冬の気圧配置、西高東低と一致することがわかります。 このように風向きによってその時の 気圧配置を知り、天気の予測が可能なわけです。 尚、諺のなかで、東西南北の各方向が言われていますが、諺が意味している方向は、東なら真東というわけではなく、 ある程度の範囲をもっていることに注意する必要があるようです。 したがって、東の風といっても、東寄りの風と解釈したほうがよく、極端に言えば、 南東風なども東寄りの風として扱われる場合があるようです。 【※暴風雨の中心は、北半球においては風を背にして立てば左斜め前方にある。という法則】
『煙が西へなびくと雨、東へなびくと晴れ』
北半球においては、低気圧のまわりに左まわりの風が吹きます。また、低気圧は西から東に移動します。 このため、低気圧が接近すれば東寄りの風が吹くようになり、煙は反対の西方になびきます。低気圧が通りすぎてしまうと、 風は西寄りに吹くようになり、煙は東方になびくようになります。したがって、西寄りの風が吹くようになることは、 天気が回復してくることを示していると言えます。外国にも同じことを言っている諺があります。
Winds blowing from the East
Bode no good for man or beast,
Winds blowing from the West
Please evergone the best.
『夏の南風は晴れ』(日本海側)
夏には太平洋高気圧が勢力を増し、南風がよく吹くようになります。 このため、太平洋側地方では湿気を含んだ大気の侵入によって雨となりますが、日本海側では、 湿気のない乾いた空気が中央山脈を越してくることになり、天気は晴れとなるわけです。 したがってこの諺は日本海側地方にのみ通用することになります。一方、大平洋側地方ではこれに対して、 『南風が吹くと雨が近い』などの諺となっています。冬は夏とは逆になり、日本海側では『北風は雪の兆』となり、 太平洋側では『北風吹けば、あすも晴れ』というように使われています。
『北風が南に変わると雨。南風が北に変わると晴れ。』
『南風は雨、北風は晴れ』
ともに南風は雨といっており、前述の諺と相反していることがわかります。しかし、この諺も前述のものも正しいものです。 前述の諺は解説でわかるように、気圧配置における大気の大きい流れを示しているのに対して、 この諺は低気圧に伴う風の向きを扱っているわけです。日本海を低気圧が通るとき、低気圧のもつ性質から、 始め南風が吹くようになります。低気圧が通りすぎるにつれて、風は北寄りの風に変わり、天気が回復してくるわけです。
注: 同じ低気圧の風について言っているものに『煙が西へなびくと雨、東へなびくと晴れ』と『南風は雨、北風は晴れ』 の2種類の諺があり、疑問に思われるかもしれませんが、この風向きについては観察者のいる場所と、 低気圧の左まわりの風との関係を考えてみれば、すぐ理解することができると思います。 このように、各諺のなかでの低気圧と風向きの関係は、観察者のいろ場所と低気圧の中心との関係によって変わることに注意が必要です。
『煙がまっすぐ立ち上がるは晴れ』
この諺はよく聞かれますが、意味している天気はこれから先の天気ではなく、今、現在の天気の状態を示していると言えます。 煙がまっすぐ上るのは、その地域が風もなく平穏であるためで、すでに高気圧におおわれているためと考えられます。 したがって、先の予測とは言えないかもしれません。 しかし、煙がまっすぐ立ち上がるように大気が安定しているときは、 その大気状態がしばらく続くことが考えられますから、晴れの天気が続くとも言えます。 ただ大気が平穏になるのは、 高気圧におおわれたとき以外にもみられるため、風の強さだけを頼りにして予測するのは、少し危険な感じも受けるようです。
◎その他 『南東風は嵐の兆』(雲の項参照)
『西風は日暮れまで』
「夏に海陸風が乱れるのは台風の兆」
3. 雨・霧・雲 な ど に 関 す る も の
雲の種類・形は気象現象に大きく左右されるため、その時の雲の状態から、気象状態をだいたいつかむことができます。 このため、雲に関する諺は特にたくさんみられるようです。さらに、これらの諺は比較的よく使われ、 全くのまゆつばものというのはないようで、確率の高いものが多いと言えるでしょう。
『朝雨は女の腕まくり』
朝の雨は日が上がる頃にはやむからたいしたことがない。という意味で、この諺は海岸地方で特によく使われ、 また当る率もいいようです。この諺は陸風と海風の関係からいわれるもので、性質の違った2つの空気の接触により不連続面を形成し、 雨を降らせるわけです。しかし、日が昇り、大気全体の温度が等しくなると、この不連続面も消えて雨があがり晴れてきます。 海岸地方の海陸風のみに適応されるわけでもなく、内陸の山風・谷風のあるところでも同じような現象がみられるようですが、 海岸地方ほど顕著ではないようです。
『朝霧あれば晴れ』
霧の発生については種々の要因がありますが、一般に空気の冷却によって発生すると考えられます。 地形によっても発生の様子は違いますが、内陸での場合を考えれば、晴天無風時の早朝によくみられます。 これは晴天無風の夜に地面が冷却し、これに接触している空気も冷えて霧を発生させるわけです。 この場合、大気安定の晴天無風の気象状態ですから、今後しばらくはこのまま天気が続くと考えられます。 しかし、前にも書いたように霧の発生には種々の要因があるため、晴れと断定することはできないようです。 霧が温暖前線の前面にあらわれるときもあり、地方によって『朝霧は雨の兆』とあるのもこのためと考えられます。
『雲脚はやければ大風の兆』
暴風雨を伴った低気圧が近づいてくると、地上ではさほど風がないのに、上空の雲の動きの非常に速いのがみられます。 これは、低気圧の中心に周囲からかなり強い風が吹いている証拠といえます。したがって、上空の雲の動きの速いときは、 暴風雨を伴った低気圧の接近を示しており、しだいに地上でも風が強くなってきて暴風雨になることが予想できます。 このように雲から暴風雨を予測する諺は、科孚的にみても正しいものが多いようです。
『上層の雲と下層の雲が相反して飛ぶのは暴風雨の兆』
熱帯低気圧の構造を考えてみると、下層では低気圧の中心に向かって空気が流れ込み、上層ではこの空気が周囲に吹き出されます。 このため下層と上層で雲の勣く方向か逆になるわけです。このような現象が見られるのは熱帯低気圧が接近したとぎで、 暴風雨を伴った台風の場合は特に顕著に見られるようです。
『南東風は嵐の兆』
『黒雲が北西にいくと暴風雨となる』
風が南東、雲が北西に向かって飛ぶときは、低気圧とか台風が近づいている時といえます。前述の風の項にあげた 『南風は雨』というのも低気圧の接近による雨を示していますが、ここで特に南東風と細かく言っているのは、 この時の低気圧は普通以上の場合が多いことを意味していると考えられます。 したがって、黒雲が北西方向に飛ぶときは、暴風雨になる可能性があると言えるでしょう。 しかし、雲の動きはその土地の地形に少なからず影響されるため、日本全国に通用するとは言い切れないかもしれません。
『カギ状絹雲がでると強風が吹く』
『カナトコ雲がたつ時は暴風雨』
絹(巻)雲は俗称「すじ雲」と呼ばれるもので、この雲は雲の中で最上層のものです。 この雲がカギ状になって端を糸を引いたようにのぱしているのは、強風の到来を示しています。 また、カナトコ雲もも同様に強い風の存在を示すものです。カナトコ雲は垂直に発達した雄大積雲の頂上部が、 強い風のため横に吹き流されているものです。その形が鍛治屋で使うカナトコに似ているところから、この名前がついています。 上層部の風は時間と共に地上にも吹くようになり、強風、暴風雨の予想ができます。
『レンズ雲が見られると風が強くなる』
強い風が山を越したときに、気流が乱され乱気流を生じます。この乱れた気流の上昇部分で、 空気中に含まれていた水蒸気が凝結して雲を生じます。乱気流の上昇部の一部にできたこのような形の雲は大きく発達せず、 気流の乱れにはさまれたような形で形成されるため、レンズ状になって見えるわけです。この雲も上空の強風を示しており、 地上でも風が強くなってくる前兆といえます。
『高い山に笠雲がかかると雨』
山に当った風は、その山膚に沿って吹き上がります。山頂付近まで吹き上げられた空気は冷却され、 空気中に合まれている水蒸気が凝結して、そこに雲を生じます。山を越えた風は山膚を吹き降りるにしたがって、 気温が高くなり雲は出来なくなります。このため、山頂付近に帽子をかぶったように雲が見られるわけです。 笠雲が見られるのは、風が強く吹いている時で、西方に低気圧があることを示しています。 この低気圧が接近するにつれて天気は悪くなり、雨となります。笠雲が見られてから24時間以内に雨が降る確率は、 6割強とかなり当ると考えられます。
『羽雲(絹雲)は雨の兆』
『羊雲(高積雲)は雨の兆』
『うねり雲(波状雲・層積雲)は雨の兆』
これら3つの諺は、いずれも雲から雨を予測しています。これらの雲が現われるのは、普通、低気圧の前面で、このような雲が見られる時は低気圧か近づいている証拠と見ることかできます。 したがって、しだいに天気は悪くなり、雨が降りだしてくることが予測できるわけです。ただ、低気圧の接近の時にのみ、これらの雲が見られるというわけでもありませんから、 全面的に当るとは言えないようです。
低気圧の接近から雨になるまでの雲の変化は、絹雲・絹層雲→高積雲→高層雲→層積雲→乱層雲・積乱雲=雨となり、低気圧には必ずこれらの雲が伴なわれますから、 予測の目やすとしての利用価値は高いといえます。
◎その他 『太陽や月にかさがかかると天気が悪くなる』(光・音の項参照)
4. 動 植 物 に 関 す る も の
これまでにいくつかの諺をみてきましたが、それらはすべて科学的に何らかの根拠をもち、裏付けがありました。 したがって利用価値もあり、また十分利用し得るものでした。次には、動植物に関する諺をいくつかみていくことにしますが、 これらの諺には、今までのように科学的裏付けのされるものはほとんどないと言えます。 一般に『雨蛙がなくと雨』など、動物を利用した諺がよく言われていますが、それらの証明となるとはなはだむづかしいようです。 動植物に関する諺が生まれてきた背景としては、動植物の習性をとりあげているようです。 現在では、まだこの習性を科学的に説明し切れないため、その諺が信用できるものかどうか決めかねるのが現状のようです。 理屈の上から説明できるものもありますが、心細い限りでしょう。また、現象の予想ではなく、その現象がすでに起ったために、 今そうなった。というのもみられるようです。例えば『野ねずみが人家に集まる時は大洪水の兆』などで、 雨が降り洪水になってきたため、野ねずみが人家に一集まるわけで予想とは言えないものです。
動植物に関する諺では、人がよく目にする生物が使われており、動物では蛙・つぼめ・とびなど、植物では、 そば・麦などが主なもののようです。
『雨蛙が嶋くと雨』
蛙は皮膚呼吸で皮崩はたえず湿っており、皮膚が乾けば死んでしまいます。このため蛙は湿った環境を好み、 晴天の日には水の中にいることが多いわけです。しかし湿度の高い日には、水中から出て勁きまわるようになり、 その鳴き声を間く機会が多くなります。空気の湿度が高くなれば当然雨の可能性があり、雨を予想することができます。 しかし、一応理屈的に解釈することができても、その科学的根拠はほとんどないといえるようです。
『つぼめが低く飛べば雨』
つぼめに限らず鳥は、小さい虫を餌にするため空中を飛びまわっています。この餌となる小さい虫は、 晴れている時は空高く飛んでいますが、湿度が高くなると地上近くを飛ぶようになり、物陰などに身を隠して雨を防ぐと考えられます。 そこで、この小さい虫を追って、つぼめも低空を飛ぶようになると解釈できます。また、湿度が高くなると地上の昆虫の動きも活発になり、 これをねらって低空を飛ぶようになります。このように空気中の湿度が予測できます。
『と(ん)びが高く飛べば風』
暴風雨の原因となる低気圧が接近すれば、地上はさほど風が強くなくても上空ではかなり強い風が吹いています。 このため、風を利用して飛びまわると(ん)びは、その習性からこれらの風にのって飛ぶため、自然と高い所を旋回するようになります。 したがって、とびが高い所を飛んでいる時ほど、暴風雨の可能性があるということができます。
『つぼめが早く帰る年は大雪』
暖を求めて渡ってきたつぼめが、早く帰るということは、その地方が早く寒くなってきた証拠といえます。 早く大陸の高気圧が発達し冬型の気圧配置になったためで、このような年には根雪に入る時期も早いと考えられます。 このため冬の期間が長く、雪の多い年になると予測することができます。
『麦の発芽早ければ大雪の兆』
麦の発芽が早いときは季節の進みも平年より早く、このため早く芽が出たと考えられます。季節の進みが早い年は、 大陸の高気圧も早く発達したとみることができます。大陸高気圧の発達の早い年は冬に入る時期も早く、長い冬が予想でき、 雪も多くなると解釈することができます。
『そばのたけ高きは大雪の兆』
作物は雪にうずもれないように、たけが高くならなければならない。というような感じから生まれた諺のようです。 しかし、細くたけが高くなるのは、そばの成長期に雨が多く降った影響のようです。雨の多い年には雪も多くなることがあり、 全くでたらめとも言えませんが、その解釈にはかなり無理な面もあるようです。
『かぼちゃのつる多い年は大風多し』
植物があらかじめ先を予想してそれに備えているようにみられますが、植物にそのような予想する力があるとは考えられません。 かぼちゃのつるが多くなったのは、その成長期に強風を受け、槙物体自体が影響を受げたために、つるを多くつけるようになったと考えられます。 したがって予想というのではなく、結果をしめしていると解釈できます。無理に理屈づければ、今まで強風が多かったのだから、 これからも多いのではないかと考えられますが、科学的根拠は少なく信頼性は簿いようです。
『ハコベの花がとじると雨』
ハコベは春の七草としてよく知られています。小さな白い花をたくさんつけるこの植物に、雨を予測する力があるかどうかについては、 はなはだ疑問で、今のところ科学的証明はなされていないようです。五枚のがくをもったこの小さな花が雨を予測するとしたら、 その生理作用において、花が何らかの形で湿度を感じ、雨から身を守る働きをすると考えられます。解釈づければこのようになりますが、 現在ではまだ正しい根拠がなく推測の域を出ていないようです。しかし、この諺が全国的にみられることから考えれば、 ある程度の信頼性があるだろうことは認めざるをえないようです。
◎その他 『魚が水面に出てパクパクしていれば雨が近い』
『蜂や鳥の巣が物陰にあれば大風の兆』
『ネコが手をしきりになめて、顔をこすると雨』
『蟻が巣をかえるのは大雨の兆』
『モズが高い所にカエルや虫をさしておくのは大雪の兆』
ここには動植物に関するもので、全国的にみられるものをあげましたが、これらの諺の科学的根拠は全くないと言ってもいいかもしれません。 だからといって、全く当らないと決めてしまうのも気がひけるようです。植物に関するものについては、動物以上で、 信頼性については心細いと言うほかありません。無理に解釈ができないことはありませんが、これら動植物に関する諺についてだけみれば、 テレビ・ラジオ等の天気予報のほうが当ると言えるかもしれません。
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