夕立や百葉函が咲いている 五島高資

Facebook鈴木 茂雄さん投稿記事

<夕立や百葉函が咲いている 五島高資>

この句は、一見静謐な日常の断片を切り取りながら、詩的な感性によって自然と人工の調和を鮮やかに描き出した秀作である。百葉箱という科学的な道具と、夕立という自然現象、そして「咲く」という生命的な動詞を結びつけることで、読者に鮮烈なイメージと深い詩情を喚起する。以下、句の構造と表現の妙を丁寧に紐解き、その魅力を探る。

まず、百葉箱(句中では「函」と表記)とは、気象観測のための装置であり、温度計や湿度計を風雨や直射日光から守るために設計された木製の箱である。学校の校庭や気象台に設置されるこの箱は、四方の壁と屋根が二重構造で、風通しを確保するすのこ状の設計が特徴だ。外壁は白いペンキで塗られ、地上1.5~2メートルの高さに木の脚で支えられている。このような百科事典的な説明を踏まえると、百葉箱は無機的で機能的な存在として認識される。しかし、作者はこの実直な道具を、詩の舞台装置として見事に昇華させている。

句の冒頭、「夕立や」の切字「や」は、夏の激しい雨の情景を一気に呼び込む。夕立は、突然降り出し、短時間で止む夏特有の雨である。その勢いと一過性の性質は、「や」の詠嘆とともに読者に強く印象づけられる。この「や」は、単なる情景の提示を超え、夕立の降り始めから止むまでの時間の流れを凝縮し、句全体にリズムと緊張感を与えている。さらに、「夕立」は自然の力強さと一時性を象徴し、後の「百葉函」との対比を際立たせる。

「百葉函が咲いている」という後半部分は、句の核心であり、詩的飛躍の極致である。「百葉函」は、通常、単なる観測機器として静的で無機的な存在だが、ここでは「咲いている」という動詞によって、突如として生命感を帯びる。「咲く」は花や植物に用いられる動詞であり、百葉箱にこの表現を適用することで、五島高資は無機物に有機的な生命を吹き込む。この擬人化とも言える表現は、夕立後の清新な空気の中で、白い百葉箱がまるで花のように輝き、生き生きと存在しているかのようなイメージを喚起する。

特に、「百葉」の文字がこの句に独特の視覚的効果を与えている。「百葉」は、百の葉を連想させ、箱のすのこ状の構造や、夕立に濡れた表面から立ち上る清涼なイメージと響き合う。夕立が止んだ直後の情景を想像すると、雨に洗われた白い百葉箱は、水滴を湛えながら夏の陽に輝き、まるで緑の葉が箱から伸び出すかのような錯覚を呼び起こす。この「早送りのビデオの映像」のような動きは、詩人の鋭い感性がとらえた瞬間であり、静止した百葉箱に動的な生命感を与える。

さらに、「咲いている」という表現は、百葉箱そのものが一輪の白い花のように感じられる詩的直観を表す。白いペンキで塗られた百葉箱は、夕立後の清澄な光の中で、純粋で神聖な存在感を放つ。この花のイメージは、人工と自然の融合を象徴し、俳句の伝統である「自然の中の人間」を超えて、「自然と人間の作りしもの」の調和を描き出す。百葉箱が気象を観測する道具であることを考えると、夕立という自然現象を「測る」存在が、逆に自然に溶け込み、花として開花する逆説的な美しさが際立つ。

この句の詩情は、単なる視覚的イメージにとどまらない。夕立の激しさとその後の静けさ、百葉箱の無機性と「咲く」ことの有機性、そして科学と詩の交錯が、読者に深い思索を呼び起こす。

https://suzutano.com/hyakuyou/ 【百葉箱の語源を探ってみました】より

はじめに

先日,職員室でU先輩から「百葉箱(ひゃくようばこ)ってなんで百葉っていうのかご存じですか」と質問されました。以前,私も同じようなことを考えていたことがありました。でも,自分で調べることもなく「たぶん,あの隙間のある板が葉っぱみたいにたくさんあって,それで100とか使っているのだろう」というくらいに思っていました。そこで,そのときも,

「あのブラインドの板が葉っぱみたいからではないですか」

と答えておいたのですが,さて,本当のところはどうなのでしょう。

 自分だけの疑問ならわりと放っておくのですが,他人様も同じことを疑問に思っているのなら…ということで,辞書やネットで,ちょっと調べてみることにしました。

『広辞苑(第5版)では

 こういう時には,まず『広辞苑』を繰ってみるというのが,純粋培養タイプ教師のやるべきことです。そこで,私もそれに則って調べてみました。ただし,電子辞書版ですが。

気象観測用の白ペンキ塗り鎧戸(よろいど)の箱。天井に通気筒を設けて通風をよくし,温度計・湿度計などを入れておき,気象要素を観測。ひゃくようばこ。

と書いてありました。なんと,この読み方は「ひゃくようそう」で「ひゃくようばこ」では「見つかりません」と出てきました。私は今まで「はこ」と言っていたのに…。いきなり新しい発見があったのです。

ウィキペディアで語源を

 ついで,私がよく使うネット上の百科事典サイト「ウィキペディア」で語源を検索してみました。すると,以下のように載っていました。

「百葉」とは八重の花びら,牛や羊の胃のことを指し,箱の壁の様子が牛の胃袋に似ているところから「百葉箱」と名づけられたといわれている。ちなみに英語では「SCREEN」と言い,「簾,網戸」という意味がある。

 ほほ~,「百葉」に「牛や羊の胃のこと」という意味があったのですね。納得です。英語のスクリーンにも,「廉,網戸」という意味もあったというのも驚きです。それで翻訳する時に「スクリーン=百葉」と訳したのでしょうか?

 ついでに,「エキサイト翻訳」というネット上の機能を使って「百葉」を日中翻訳してみると「胃袋」って出てきました。なるほど,言うとおりです。

「Yahoo!知恵袋」の投稿から

 「Yahoo知恵袋」というサイトで,kamechan_369という人が,こんな質問をしています。

気象観測用の小屋形の木箱のことを『百葉箱』って言いますよね。

観測箱でもいいと思うのですが,なんで「百葉箱」と言う名前になったのですか?

 それに対し,「ベストアンサーに選ばれた回答」として, kanariakajinさんの発言が出ていました(「回答日時:2006/9/15 09:55,回答番号:31,202,458」)。

清代の離宮で使われた「百葉窓」=ガラリからきているようです。

「ガラリ」はご存じですね。風だけは通して雨はとおさない仕組みになっている窓です。

そのせいか知りませんが,広辞苑では「百葉箱」と書いて「ひゃくようそう」と項をたてています。

 ここでの発見は,「百葉箱」=「百葉窓」から来ているらしいということです。確かに,それならば「ひゃくようそう」って読んでも不思議ではありません。

 でも,このガラリってのが分かりません(本当にオレって何も知らないなあ)。

ガラリって何?

 「ガラリはご存じですね」って言われても,そんなん知らないよね。

 そんな知識のない私は,ちゃんと調べてみました。すると「楽天」や会社の通販のサイトがたくさん引っかかってきました。

 通販のページを見るだけで,おおよそどういうもののことを『ガラリ』って言うのか想像はできるのですが,ちゃんと説明してあるページがないかと思って調べてみると「Yahoo!不動産」というところに載っていました(下図もこのサイトより:2022年現在このサイトはありません)。

ガラリ【がらり】

外部に対して目隠しをしながら換気ができるように,ドアや窓などにもうけた通気口のこと。「鎧窓(よろいまど)」「ルーバー」ともいう。建具の全体につける場合と一部につける場合がある。また,通気口に平行に取りつける「羽板」そのものや,「ガラリ戸(鎧戸)」を省略して単にガラリと呼ぶこともある。ガラリの形には,斜め下を向く形で連続して張る「片流れガラリ」と,上下からの角度の違う光や視線を遮ることができる「山形ガラリ」がある。

2022年追加

最近の新築・改築の家庭では,部屋と外との間にガラリを設置することになっているようです。右の写真のようなものを見たことがあると思います。換気ガラリと呼ぶそうです。

これなら見たことありますよね。

画像は『家仲間コム」より

 ガラリってどこの言語かも気になるのですが,あまり深入りするときりがないので,このあたりでおいておきます。

 今までのところ,

  百葉箱=百葉窓(ひゃくようそう)=牛や羊の胃の様子=ガラリ

というところまではたどることができました。だから,最初の質問に答えるとすれば,

「百葉箱」の外側の壁の形が牛や羊の胃の壁(それを昔,中国では『百葉』と呼んでいた)に似ていると言うことで,百葉窓とつけたのが,「箱」になった。

という感じでしょうか。

「日本における百葉箱の歴史と現状について」という論文を発見

 以上のことを調べたのが20日ほど前(2時間ほど,ネットサーフィンしました)。

 その後,今回,再調査に出かけてみると,「論文情報ナビゲータ 国立情報学研究所」というサイトに,上記のようなタイトルで「百葉箱」について次のような論文の抜粋が載っていました。

日本における百葉箱の歴史と現状について

                山口 隆子,東京都環境科学研究所基盤研究部

 日本における百葉箱の歴史と現状について調査した結果,以下のことが明らかになった。19世紀中頃のイギリスで開発が始まった百葉箱は,1874年に日本へ導入され,1875年からの観測に使用したものが最古の記録であり,1886年までに「百葉箱」と命名されていた。百葉箱の読み方は,「ひゃくようそう」と「ひゃくようばこ」が混在しているが,小学校理科教科書に関しては,1969年以降「ひゃくようばこ」もしくは振り仮名なしで統一されていた。百葉箱の現状であるが,現在,気象庁の観測では百葉箱は使用されておらず,教育現場においては,1953年の理科教育振興法公布以前から設置されている.また。その設置状況は,東京都のヒートアイランド観測を行っている106校の東京23区内の小学校に関して,設置地表面状態に関してはほとんどの学校が気象庁の設置方法に準拠しているものの,日当たりに関しては37%,風通しに関しては43%,扉の向きに関しては37%の学校しか準拠しておらず,設置基準全ての項目を満たしている学校は106校中4校のみであった。さらに,理科の授業における使用状況は32校中24校で使用しているものの,観測を実施している学校は2校のみであった。

 この論文は,A4で11ページのものです。PDFで読むことができます。興味のある人はご覧下さい。

 それによると,以下のことが書かれていました。私なりにまとめてみました。

○2006年4月までで発見されている文献では1874年に導入し,1875年から観測にしようした百葉箱の記録が最古である。

○日本語としてはじめて「百葉箱」と記載されているものは,1886年に制定公布された『気象観測法』である。

○「百葉箱」という訳語は,考案者を特定することはできないが,当時の状況から東京気象台職員が考案したものと考えられる。

○日本語には「百葉箱」以外に「百葉」という言葉は使用されていないことから,中国語の「百葉」(周の時代に牛の胃の内壁を表しており,その後,ものがたくさん重なっている様子を表すようになった)や「百葉窓」(西洋ガラリ,板廉の意)が関係していたものと推察される。

○「百葉箱」という訳語が作られた当時の読み方を示す文献はない。読み方は,現代でも「ひゃくようそう」か「ひゃくようばこ」か混在している。

おまけ

「あら,いいそこまちがいヨ 日本語を読み書きするときにおかすマチガイを中心にした読み物」というブログに,「百葉箱」をどう読むのか,いろんな辞典で調べたという話が紹介されていました。最後にそれを引用しておきます。

▽『広辞苑第1版』には“ひゃくようそう”で掲載されております。意味のところには“ひゃくようばこ”と書かれておりますが,見出しにはありません。

▽『広辞苑第2版第4刷(昭和45年11月18日)』でもおなじです。送りがなのおくりかたと図が追加されている点に差があるだけです。

▽『日本語大辞典第1刷(1989年11月6日)』では,逆でして,“ひゃくようばこ”は掲載されているのですが“ひゃくようそう”は意味のところにも見出しにもありません。

▽『新明解国語辞典第4版第20刷(1994年2月20日)』も“ひゃくようばこ”だけです。ただ,意味のところに“ひゃくようそう”が記載されています。

▽『NHK 日本語発音アクセント辞典新版第1刷(1998年4月25日)』は“ヒャクヨーバコ”のみを掲載しております。

▽『大辞林電子版(2003-02-14)』では,予想どおり,“ひゃくようそう”で検索してもヒットしませんでした。“ひゃくようばこ”の意味のところに記載はされております。

 まあ,そんなわけで,「百葉箱」には深~い深~い意味があったのでした。

 今回,調べてみようと思ったのもU先輩の一言があったからです。いや~,おもしろかった。

 今回の収穫は「百葉箱」という言葉がどうのということより,日本や海外で出された論文の一部を読むことができる「論文情報ナビゲータ」を知ったことですね。

コズミックホリステック医療・現代靈氣

吾であり宇宙である☆和して同せず  競争でなく共生を☆

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