病児との別れ 俳句で昇華

螢火の明滅脈を診るごとし      死にし患児の髪洗ひをり冬銀河 

モルヒネは鞄の底に桜桃忌       みとりとは生きることなり霜柱 

CTフィルム越しの金環食涼し     安楽死尊厳死の書読み初めに 

インバネス放埒の血も我にあり 


https://www.j-cast.com/trend/2022/08/24444152.html?p=all 【同情より共感 細谷亮太さんが振り返る小児科医のやりがいとは】より

ゆうゆう9月号の「ちょっと休憩、ここで一句」で、医師で俳人の細谷亮太さんが同情と共感の違いについて書いている。それに気がついて、一生が決まったと。

久しぶりに山形の実家に帰った細谷さんは、1960(昭和35)年の懐かしい写真に再会した。小学6年の筆者と級友たちが写っている。町役場を訪れ、町の幹部に荷物を渡している場面だ。歳末助け合い運動か何かで、クラスで集めた生活救援物資だった。

忘れられないシーンだという。それがもとで、細谷さんは「一生を決定する出来事」を経験するからだ。一週間後、級友の親から父親に匿名の封書が届く。送り主の家計は苦しく、助け合い物資を持たせる、持たせないでひと騒動あったと書かれていた。

〈無茶な運動を計画したクラス委員の親はどんな教育をしてきたのか、その顔が見たい〉といった苦情だった。

物資集めは担任が指導し、強制ではなかった。すでに開封されていた手紙を盗み読んだ細谷さんは自ら弁明したいと思ったが、父は何も問うてこない。それきりだった。

「この一件が私に与えた影響の大きさは はかり知れないものだった。人のためになんらかの行動をするということの難しさを初めて思い知らされた出来事だったのだ」

細谷さんは「行わずには居られない気持ちになって行動し、それが多くの人から良しとされるような仕事」を、一生の職業にしようと心に決めた。偽善ではなく、誰にも喜ばれる仕事。医療もその一つだった。あの一件で「同情と共感の違い」を学んだ細谷さんは、専門分野を決める段にも、うわべの同情ではなく、本物の共感にこだわった。

「患者さん本人に共感することができることを第一に小児科を選んだ。二十四歳の私には年配の患者さんに心からの共感を寄せるのは無理だった」

子ども一人ひとりの命は家族にも社会にも、ますます重いものになっていく

悲しみを共有する

細谷さんが病棟で看取った初めての患者は、あやちゃん 3歳。末期の神経芽腫だった。

先輩の手際よさに圧倒されながら、採血や注射などの処置を懸命にこなした。しかし、もっと経験を積んでから担当したかったと、幼い患者を気の毒に思った。

小児がんの権威となり、そんな思い出をメディアで吐露したところ、あやちゃんのお母さんから思いがけず手紙が届く。亡くなって30年以上がたっていた。

〈先輩の先生たちがお悔やみを述べて引き上げられた後も、一番若かった細谷先生は動く事も出来ない様子でした。鼻をすすりながら部屋の隅に長時間立ち続けておられた。それが私たちにはなによりの救いでした〉

「本当に悲嘆のどん底にいる人にとっては、気の利いた慰めの言葉よりも、まずは同じ悲嘆を共有してくれる存在こそが大切という事実を確信させてくれたお手紙だった」

先日、公益財団法人「がんの子どもを守る会」の年次大会がリアル対面形式で開催された。細谷さんは分科会のひとつ「お子さまを亡くされたご家族の交流会」の担当医師を務める。亡くして間もない人もいれば、何十年も通う父母もいる。

「ズーム(代表的なウェブ会議ツール=冨永注)では作れない共感の時間だ。現役を退き小児がん治療最前線からは少し後方に位置を変えた私だが、共感力はまだ若いのには負けない。この方面での活動を続ける意義をつくづく思った」

多忙で貧乏で

細谷さんは東北大学医学部を卒業し、聖路加国際病院に勤務、小児がんの専門医として知られた。聖路加の小児科部長や副院長を経て現在は顧問。喨々の俳号で句作にも励み、「ゆうゆう」での連載は本作で74回を数える。

冒頭のエピソードにある助け合い運動への参加は純粋な善意だったが、まだ子ども。生活に困る人への同情はあっても、共感までは無理だったのかもしれない。

そうした「反省」は、しかし後の職業選択に生かされた。〈心からの共感に突き動かされ、かつ多くが共感できる仕事〉としての小児科医。振り返れば天職だったようだ。

昨今、医学生の進路選びで小児科は人気がないという。信念から小児科を選んだ細谷さんだったが、開業医だった父親もこう釘を刺したそうだ。〈小児科医には多忙と貧乏がついて回る。家族と暮らすのも大変だぞ〉しかし70歳半ばになった細谷さんは思う。

「父が心配したとおり経済的には恵まれなかったが、建前と本音がかけ離れることのないこの仕事を選んで本当に良かった」

小児医療を「市場」と考えれば、最大の逆風は少子化かもしれない。しかし逆から見れば、子ども一人ひとりの命は家族にも社会にも、ますます重いものになっていく。

連載に毎回添えられる一句は、1960年当時の細谷家の日常を詠んだものである。子どもが街にあふれていた往時の日本、町医者に頼る夜間の急患も多かったのだろう。

〈往診の父の夜食に子が集(たか)る〉     冨永 格


https://www.yomiuri.co.jp/yomidr/article/20110905-OYTEW60732/ 【[細谷亮太さん]病児との別れ 俳句で昇華】より

「自然の移ろいや無常な人の世、思いやりにユーモア。17音にいろんなことを盛りこめるのも俳句の魅力ですね」(東京・中央区の聖路加国際病院で)=中嶋基樹撮影

 <寝転んで 臍へそのあたりを 流れ星>

 小児がんの子どもたちと一緒にキャンプをしたときのことを詠んだ句だ。空気の澄んだ夜空に一瞬、流星群が見えたという。

 東京・中央区の聖路加国際病院で小児科医として働いて約40年。専門は小児がんで、子どものターミナルケア(終末医療)などに力を注いできた。病気の子どもたちとの交流を描いた心温まるエッセーなどの著書も多い。

 最近は、俳人としての活動も増えてきた。俳号は、喨々りょうりょう。「亮太の亮に口を付けたんですよ。無口でなくて、話し好きだから」。そう言うと、子どものように無邪気に笑う。

 山形県河北町で開業医をしていた祖父も父も俳句が好きで、高校生の頃から俳句を作るようになった。サクランボの名産地で、近くを最上川が流れる風光明媚めいびな地。「当時は、自然の移ろいを五七五でノートの端にメモをしていた感じでした」

 仙台の大学から、東京の病院に。好奇心旺盛で、スキーや楽器、茶道など色々な趣味を持ってきたが、還暦を過ぎた今も続いているのが俳句だ。ただ、小児科医として年月を重ねるうちに、自分にとって俳句の持つ意味が変わってきたという。

 専門の小児がんは、治りにくい病気とのイメージが強いが、現在は7~8割の患者は治癒するようになった。しかし、いまだに2~3割は亡くなってしまう。これまでに300人もの子どもの最期をみとってきた。

 「立て続けに病棟の子どもに死なれることが何よりもつらい。この仕事を続けられるだろうかと考え込んでしまうこともありますよ」

 <生キ死ニの はなしを子らに 油照でり><みとること なりはひとして 冬の虹>

 悲しみに耐えられず、「何度もバーンアウト(燃え尽き)しそうだった心」を支えてくれたものの一つが俳句だった。「詠むことで自分自身を客観的に見て、悲しみを昇華できる。俳句に大きな力をもらってきたんだなあと、このごろ改めて実感しています」

 俳句を詠むというきっかけがあるからこそ、自然や季節の移ろいに敏感になれる。楽しかったことを思い出し、元気になることもあるという。

 数年前からは、病院の後輩医師などに頼まれて、句会などで俳句を指導する機会も増えてきた。あと1年余りで病院の定年を迎える。その後は、医師として病気の子どもと向き合いながら、現在、北海道滝川市で整備中の難病児専用キャンプ場や、神奈川県大磯町で建設中の子どものホスピスの運営などに尽力するつもりだ。

 もちろん俳句も続ける。「人生を豊かにしてくれる俳句の魅力を、たくさんの人に知ってもらえたらうれしいですね」(竹之内知宣)

 ほそや・りょうた 聖路加国際病院副院長、小児科医。1948年、山形県生まれ。東北大学医学部卒業。98年から毎年、ボランティア団体の代表として、がんを告知された子どもたちのキャンプを主催している。今年、闘病する子どもの姿を細谷さんの俳句を通して追ったドキュメンタリー映画「大丈夫。」が公開された。


https://kodomo3.com/cancer/cancer-book/2551 【「君と白血病 ~この1日を貴重な1日に~」細谷亮太 訳】より

赤色の表紙と「白血病」の文字が目を引く1冊の本。1cmほどの厚さがあり子ども向けの本には見えませんが、これほどわかりやすく丁寧に身体・病気・治療について記載されている本はないと思います。ただ単に病気や治療の説明だけで終わることなく、患児自身が病気と向き合い、身体も心も健康になるように今何ができるのか考えられる内容になっています。

この本は、子どもに語りかけるような文章で不安や恐怖も受け止めてくれる言葉が所々に散りばめられ、聞いたことを書き込める白いページも用意されているので気持ちの整理をしながら読み進めることができます。白血病になったお子さんとそのきょうだいに、現状とこれからの話をするときに大変役立ちます。お子さんが白血病と診断されたご両親におすすめしたい一冊です。

「君と白血病」の目次と内容・感想や体験談

内容は申し分なくとても良い本ですが、値段が2,800円(税別)もするため購入に躊躇される方も多いと思います。下記に内容を記載しましたので、購入を検討していらっしゃる方の参考になれば幸いです。

君と白血病 この1日を貴重な1日に 細谷亮太

君のからだ

細胞

細胞のイラストやDNAのモデルなども掲載されていて一見難しそうに感じますが、難しい言葉、たとえば「細胞」は「君の部品」、「遺伝子」は「君をつくりあげる計画書」など、子ども向けにわかりやすく表現されています。

器官とその系列

エネルギーのもとをつくりだす「消化器系」とそれを利用できるように酸素を運ぶ「呼吸器系」。成長のもととなるホルモンをつくる「内分泌系」、いらなくなった老廃物を捨てたり再利用する「排泄系」、統制をとるための司令室が「神経系」、からだの中の道路「循環器系」、そして、骨・筋肉・皮膚、血液。これらひとつひとつを例え話やイラストを使って説明しているので、幼稚園年長だった長男でも興味を持って話を聴いていました。

血液

血液の役割

赤血球、白血球、血小板の働きと、それがうまく機能しなくなったとき(貧血、血小板減少症、感染症)はどうなるのか書いてあります。さらに「顆粒球」「単球」「B-リンパ球」「T-リンパ球」についても働きの違いがイメージしやすいように表現されていて、自分の身体の中にいるたくさんの戦士の存在に気づかせてくれたページです。

血液はどこでつくられるのか?

血液の工場「骨髄」とそこにある「幹細胞」について。幹細胞を1人の兵隊に見立てて、成熟するまでの過程や未熟なままだとどうなる?子どもたちと一緒に考えながら、話は進んでいきます。

君と白血病 この1日を貴重な1日に 細谷亮太

「血液の役割」31~31頁。白血球がなかったら、ばい菌はやりたい放題。

そして白血病

白血病とは?

5行目に「白血病は、白血球の癌」とハッキリ書いてあります。しかも「がん」とふりがな付きで戸惑いましたが、「癌=死」のイメージを持っていない、そもそもガンが何かさえわからない長男は気にすることなく、弟のからだの中にいるばい菌マンがどんな悪さをするのか気になっていました。

白血病の原因は?

次男の病気がわかり、後悔と自責の念に押し潰されそうになっていた私を救ってくれた言葉。前に進もう、進むしかないと思えるようになった瞬間でした。

君が白血病になったのは

誰のせいでもないし

誰にもどうしようもなかったんだ。

環境因子

遺伝子と染色体、白血病の発病に何らかの関わりをもっていると思わせること。

環境因子

染色体やDNAが傷つく原因「放射線」「化学物質」「ウイルス」について、わかっていることを丁寧に解説し、わからないことに関しては「科学者たちもあきらめないで研究を続けている」と記されているので心強かったです。

免疫学的因子

この子のからだに欠陥があったから白血病になったの?その疑問に対する答えがあります。「世界中の人たちが白血病の原因を見つけようと努力している。君達のために!希望をもとう!」この言葉にも支えられました。

白血病のいろいろ

急性リンパ性白血病(ALL)と急性骨髄性白血病(AML)の説明と違いについて。

先生たちはどんなふうに君の白血病を診断するのか?

いちばんよくある白血病の症状と特徴のほか、血液と骨髄検査方法とその結果どのようなことがわかるのか、血液検査は8ページ、骨髄穿刺は10ページにわたって詳しく書いてあります。先生や看護師さんが、患児や親が理解できるような形でどのような処置をするのか説明してくれればよいのですが、実際は口頭で処置の流れを説明されるだけで終わることも少なくありません。

血液検査と骨髄検査は治療中に何度も行う痛みを伴った検査ですので、次男が何をされるか知らず恐怖で泣き暴れることが少なくなるように、どうしたら安全に痛みを少しでも軽く短くすることができるのか、このページを3歳の次男と一緒に読んで考えて検査に備えました。もちろん検査を怖がり嫌がりましたが、抱っこして採血したり、麻酔が効くまでそばにいてやったりしたこともあり、何も知らないまま検査を受けたときとは大違い。落ち着いて処置を受けられました。

先生たちは白血病をどう治療するのか?

いろいろな薬を使う「多剤併用療法」と、それよりもきつい「骨髄移植」について。「民間療法」について考えるページもあります。

白血病の合併症

「貧血」「血小板減少症」「感染」「中枢神経白血病」「骨の痛み」「腎臓での問題」「性腺への浸潤」について。親にはとても気になる項目ばかり。読みながら暗い気持ちになりそうですが、ここでも最後に心のスイッチを切り替えてくれた言葉があります。

この合併症の項は 君を心配させるために書いたんじゃないんだ。おこるかもしれない いろんなことがらを知っていて 生活することは だいじなことだからね。

(中略)

何かおかしいな と思ったら 先生に連絡してよね。

それからね 知ってるかい?

先生たちは とくに何か特別なことがおこらなくても 君たちから調子がいいよと 元気だよっていう連絡をもらうと とてもうれしいんだ。

「合併症は必ず起きることではない、元気に暮らせる日が続くことを信じて進もう!」そう思えるようになりました。

この一日を貴重な一日に

白血病といっしょにに生きていくということ

「この章のほとんどは 君がつくるんだ。君自身のためにね。」この言葉から始まり、白紙ページの使い方が記され、「もし 君の白血病が完全に治ったら(中略)その日がきたら どんなにすばらしいだろう。」で結ばれています。ネガティブな私が専門書を読むと、いつも絶望的な思いで本を閉じるのですが、この本は違います。現実を突きつけられても、「だいじょうぶ、治る」自分に言い聞かせることができます。

抗がん剤の副作用と対処法、脱毛した時はどうする?長生きできないの?そのような不安にも丁寧に向き合っています。また、病院にはどんな仕事をする人がいて誰に何を聴いたらいいのか、同じ病院で治療を受けている友だちやきょうだいとの関わり方についても参考になります。

治療

知りたいけど話を聞いてもわからないだろうと思っていたものについて説明した章です。

化学療法

薬剤の効能と副作用。ビンスクリチン(オンコビン/VCR)、プレドニソン(プレドにソロン/プレドニン/デキサメサゾン/デカドロン)、L-アスパラギナーゼ(ローナーゼ/Aps/L-ASP)、ダウノルビシン(ダウノマイシン/ルビドマイシン/DNR)、メソトレキセート(アメソプテリン/MTX)、6-メルカプトプリン(ロイケリン/プリネトール/6-MP)、サイトシンアラビノシッド(キロサイド/アイレチン/アラビチン/サイタラビン/サイトサー/Ara-C)、6-サイオグアニン(6-TG)、5-アザシチジン(5-アザ)、サイクロフォスファマイド(サイトキサン/CTX)、ビス-クロロエチルニトロスリア(ガーマスチン/BCNU)。

中心静脈カテーテル

中心静脈カテーテル(CVカテーテル)はどのようなものなのか、どのように身体に取り付けるのか、カテーテルのケアについて。

腰椎穿刺

中枢神経白血病の予防や治療のため脊髄に抗がん剤を入れる髄注処置時の流れや、先生が何を調べているのかわかります。検査の前日は次男とこのページを読んで事前準備をしました。

君と白血病 この1日を貴重な1日に 細谷亮太

「腰椎穿刺」156~157頁。処置中の体勢と、背後で先生たちが何をしているのか説明。

放射線療法

放射線量の計算、照射部分、処置の流れ、副作用について。ここにも、子どもが不安にならないような工夫があります。

輸血

輸血による肝炎と免疫の問題、副作用について。血液型の説明もあります。

骨髄移植

骨髄移植の流れ、問題点、GVHDについて。

免疫療法

この本が発刊された当時に、どのような研究をしていたのか紹介されています。

そして月日は流れ、36年後・・・今、名古屋大学と信州大学小児科合同チームが研究する免疫療法「キメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T)療法」が注目されています。光が見えてきました。

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