花物語

https://ondine-i.net/column/1732 【【連載】「花々の想い…メルヘンと花 5」(華道 2004年5月号)宮澤賢治「貝の火」】より

宮沢賢治の童話では、「貝の火」が一番好きだった。

鈴蘭の葉や花がしゃりんしゃりん音を立てる野原。子ウサギのホモイは、川で溺れかけたヒバリの子を助けてやったお礼に、不思議な玉をもらう。それはとちの実ほどの円い玉で、中では赤い火がちらちら燃えている。

これは貝の火という宝珠だ、とヒバリの母親は言う。持っている人の手入れと心がけ次第では、どんなにでも立派になるのだ。

「玉は赤や黄の焔をあげてせわしくせわしく燃えているように見えますが、実はやはり冷たく美しく澄んでいるのです。目にあてて空にすかして見ると、もう焔は無く、天の川が綺麗にすきとおっています」

貝の火のイメージ源はオパールだという。よほど出来のいいオパールに違いない!

この童話で怖いのは、ホモイの心がけが悪ければ悪いほど──途中までは──貝の火がますます美しく光るというところである。

動物たちにペコペコされてすっかり偉い人のつもりになったホモイは、母親の手伝いで鈴蘭の実を集めるのが嫌になり、モグラをおどかしたり、リスに集めさせたりする。

父親は、鈴蘭の青い実をどっさり持って帰ったホモイを叱る。しかし、おそるおそる貝の火を見ると、玉は前よりもさらに赤く、さらに速く燃えさかっているのだった。

次の日、ホモイが野原に出ると、実をとられた鈴蘭はもう前のようにしゃりんしゃりん鳴らなかった。妖しい玉と清楚な鈴蘭がうまい対比をなしているが、実は鈴蘭はアルカロイド系の毒を含んでいる。ホモイ一家は、鈴蘭の実を食べて大丈夫だったのだろうか。

吉屋信子『花物語』の一篇にも鈴蘭が出てくる。女学校の講堂に置かれた古いピアノ。放課後は音楽の教師が鍵をかけ、鍵を持って家に帰る。ところが、夕方になると無人の講堂でピアノの音が響きわたる。幽霊か? 

講堂に忍び込んだ教師の耳に、「水晶の玉を珊瑚の欄干から振り落とすような」ゆかしい楽の音が聞こえてくる。月光に夢のように浮かび出たのは、異国の少女だった。

次の日、ピアノの上に鈴蘭の花束が置かれ、鍵が結びつけられていた。ピアノはイタリア人宣教師の持ち物で、亡くなったあと女学校に寄贈されたのだ。弾いていたのはその娘。鍵を持っていたわけである。

少女が弾いたのは、どんな曲だったのだろう? S・スミスに、その名も『すずらん』という曲がある。華やかなイントロを持つマズルカ。楽しげにはずむパッセージを弾いていると、鈴蘭の匂いで満たされたホモイの野原がよみがえってくるようだ。


https://ameblo.jp/mouitidoyumewomiru/entry-12694821967.html 【吉屋信子『花物語』より「鈴蘭」(1916)】より

吉屋信子は少女小説の大家。というか始祖かな?

いくら夢想ノ丞が古今東西の書物を集めてるといっても少女小説までは手が回っていない。所有しているのは岩波文庫の『日本児童文学名作集(上)』に入っている「鈴蘭」だけ。

さて、その「鈴蘭」は花にまつわるエピソードがオムニバス形式に集められた短編集『花物語』の中の一作です。

時は明治、東北のある女学校の音楽教師とその娘の笹鳥ふさ子さんのお話。

音楽教師である母はクラシックピアノの蓋に鍵をかけて帰宅する。ところがそのピアノが夜な夜な妙なる調べを響き渡らせる。

これはホラーなのか?はたまたミステリー?

いやいやこれは少女小説なのです。これ以上はネタバレになるので申し上げられません。この顛末が気にかかるという方はご入手されることをお薦めします。


https://note.com/soranitikaiiro/n/nfb4775e90ca1 【花物語】より

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第一話「鈴蘭」の初出は「少女画報」大正5年(1916)、以後断続的に大正13年(1924)年に至るまでに、現在確認されている限りで全52話が書き継がれた。(掲載された最後の2作である「薊の花」「からたちの花」が含まれていないため)。初版は「花物語」大正9年。少女たちの愛や友情、憧れなどを抒情的な筆致でとらえ、当時の少女読者たちを魅了した。

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初夏の夕べ、七人の可憐な少女たちがある邸の洋館の一室に集い、それぞれ「鈴蘭」「月見草」「白萩」「野菊」「山茶花」「水仙」「名も無き花」の花の名にふさわしい「懐かしい物語」に耽っている。彼女たちが語るのは、異国の少女、たまさか出会った少女、生き別れた母親。・・・いずれも今はここにはいない、すでに失われた女性たちの面影・・・。この七話が「花物語」の話形の原型となっている。

📗「鈴蘭」

・・・

一番はじめに夢見るような優しい瞳をむけて小唄のような柔らかい調でお話をしたのは、笹島ふさ子さんというミッション・スクール出の牧師の娘でした。

ー私がまだ、それは小さい頃の思い出でございます。父が東北の大きいある都会の教会に出ておりましたので、私も母といっしょにその町に住んでおりました。その頃、母は頼まれて町の女学校の音楽の教師をつとめておりましたの、その女学校は古い校舎でして種々な歴史のある学校だったそうでしたの。

・・・

🎹

校長室に母が呼ばれた。放課後の誰もいるはずのない講堂からピアノの音が響き渡るという。ピアノの蓋に鍵をかけるのは母であったので、校長は遠回しに母を疑っていたのだ。母は自身の疑いを晴らそうと、幼い「私」を連れて忍びやかに女学校の庭に入る。夏の日の夕方のこと。

「私は母の手に抱き寄せられて息をころしていました。ああ、その時、講堂の中で静かにピアノの蓋のあく音がしました、そして、やがて、コロン・・・コロン・・・と」

その楽曲は伊太利の楽壇に名高い名曲。弾いていたのは・・・。

あくる朝、ピアノの蓋の上には鈴蘭の花。花の根もとには赤いリボンで結びつけられた銀の鍵。封筒には伊太利語で

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 感謝を捧ぐ。

昨夜我を見逃したまえる君に。

 亡きマダム・ミリアの子。オルテノ。

✉️

母はその時鈴蘭の花に心からの接吻をして涙ぐみました。

その日を限りにピアノの音は響くことはありませんでした。

・・・ふみ子さんのお話はかくて終わりました。

・・・少女たちは、たがいに若い憧れに潤んだ黒い瞳を見かわすばかりでございました。

🖋️

「花物語」は少女たちのみによる、甘やかで感傷的な言葉で描かれており、大正期当時のモダンでセンチな少女読者たちを魅了した。吉屋信子は、やさしく、心ひろく、思いやりゆたかな「永遠の少女」を作品に登場させ、少女たちに夢と自立の心を与えていく。「永遠の少女」となった少女読者は、同性との友情を育みながら自我を形成し、やがて母となり、そして我が娘へと「花物語」を受け渡していった。こうして「少女小説」が文学のジャンルとして定着・成長し「住井すゑ、壺井栄、瀬戸内寂聴、田辺聖子、氷室冴子・・・」のちの女性作家へ影響を与える。なかでも大きく影響を受けた氷室冴子は「クララ白書」にてデビュー、以後、昭和末期から再び少女小説ブームが起こり、平成期の少女漫画やライトノベルにその影響が伏流するようになった。

コズミックホリステック医療・現代靈氣

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