森の神フンババ

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4964 【メソポタミア神話は、ギリシア神話はじめ世界の神話の原点 メソポタミア神話の基本を知る(1)メソポタミア神話の神々と人間との関係】より

このシリーズでは、「世界の神話の源」ともいわれるメソポタミア神話の基本を理解していく。これまでの鎌田東二先生のシリーズでも、「宇宙・世界・人間の起源、そして文化の起源、さらには死後の世界」などについての考え方から各神話の特徴を見てきたが、メソポタミア神話ではこれらはどのように描かれているのか。第1話では、メソポタミア神話に登場する主要な神々を取り上げながら、全体的な構造、特徴について紹介するとともに、神々と人間の起源と、その関係性について解説していく。(全3話中1話)

≪全文≫

●メソポタミア神話は「人類史上の神話的原点」だといえる

―― 皆さま、こんにちは。

鎌田 こんにちは。

―― 本日は鎌田東二先生に、メソポタミア神話についてお話をうかがいたいと思います。

 先生、どうぞよろしくお願いいたします。

鎌田 よろしくお願いします。

―― メソポタミア神話というと、人類史上でも、そうとう昔のほうの神話ということになりますね。

鎌田 おそらく人類史上の神話的原点といえるものが、このメソポタミアの神話だと思いますね。

―― もう原点というイメージですか。

鎌田 これが人類史上で最も古いものとして残っているテキストなのです。

―― なるほど。

鎌田 そのため、この影響力は非常に大きく、また、私たちが神話を理解するための重要な手がかりとなっています。それこそが、メソポタミア神話なのです。

―― では、具体的にお伺いしてまいります。まずは総括的なあらすじや、その構造について教えていただけますか。

鎌田 これは、簡単にまとめきれるようなものではなく、かなり難物です。それを理解するためには、創造神話として、まずは3つの起源――すなわち宇宙の起源、世界の起源、それから人類の起源をどう語っているか。それから文化の起源。そして、死後の世界をどのように描いているか、という切り口から見ていく。

 複雑で多様な伝承が伝わっているのですが、それらは全て楔形文字で粘土板に書かれています。

 古代シュメールの神話から始まり、アッカド語などいろいろな言葉で伝わっていって、アッシリアや周辺諸国へ、エジプトとの緊張関係もありつつ、のちにはギリシア、そして一部にはアジアにも伝わっていきました。これが人類の神話の発祥にも関わっているともいえるメソポタミア神話です。

●メソポタミア神話の神々と人間の起源

―― 今のお話からは、複雑な神話の中で最初に語られるのは、宇宙や世界の始まりということでしたが、どのようなお話なのでしょうか。

鎌田 この世界の始まりには、たくさんの神々がいる。例えば天空の神、大気の神、水の神、愛と豊饒の神、太陽の神、月の神、大地母神、戦いの神と、さまざまな神々がいます。これらの神々は、エジプトにも似たような神がいるのですが、アンとか、エンリルとか、エン...


https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4965  【ギルガメッシュ叙事詩が描く「森の神」の殺害と死後の世界 メソポタミア神話の基本を知る(2)ギルガメッシュと「イナンナの冥界下り」】より


概要・テキスト

メソポタミア神話というと、『ギルガメッシュ叙事詩』という言葉をよく耳にする。この物語には、英雄王ギルガメッシュが森の神フンババを打ち倒す物語が描かれている。これはまさに、人間の力で自然を征服し、都市文明をつくりあげる象徴的な物語だ。また、死後の世界の物語としては、イナンナ女神の冥界下りという有名なエピソードがある。さらに、ギルガメッシュは、3分の1が人間で、3分の2が神であるために死ぬ運命を背負っていた。それゆえギルガメッシュは、不老不死の薬を探求するのだが……。このようなメソポタミア神話に描かれた世界は、現代のクローン技術や遺伝子工学のルーツともいえるかもしれない。(全3話中2話)

≪全文≫

●『ギルガメッシュ叙事詩』に描かれた森の神フンババの殺害

―― メソポタミア神話というと、聞き覚えがあるものとして「ギルガメッシュ」という言葉があります。『ギルガメッシュ叙事詩』はこの神話の中でどのような位置づけになるのでしょうか。

鎌田 ギルガメッシュという存在は、「実在の人物である」というように描かれているのですが、神話上の英雄のような人物としても考えられます。なぜなら、神々の末端に属しているんですね。(メソポタミア文明の)王様は、神の血も引いている。同時に人間でもある。ですから、そのいちばん最初のモデルになるような英雄神あるいは英雄王が、ギルガメッシュです。一部の伝承では「ビルガメッシュ」という名前にもなっている。

 ギルガメッシュが何をしたかというと、「人間の始まり」や「王の始まり」ということになります。まず重要なのは、森の神を打ち破ったということです。

 この世界には、さまざまな「荒ぶる力」や「妖怪のようなもの」「大自然の威力」というものがあります。例えば、現代の私たちの世界では災害が頻発しています。こうした災害を引き起こすのは、昔でいえば、妖怪やモンスターのような神々、すなわち「悪神」という存在です。そうした荒ぶる神を封じ込めなければいけない。これは、スサノオがヤマタノオロチを退治するのにも似て、そうした荒ぶる神々を退治する役割の英雄が登場してこなければいけない。それがギルガメッシュです。

 (ギルガメッシュは)森の神フンババ(あるいはフワワともいいますが)を殺害する。その殺害するときに、エンキドゥという半身が人間のようで、半身が馬のような友人の協力を得て、フワワを打ち倒す。それによって、人間社会の中の統治の構造というか、安定した、コントロールされた都市文明というものを築いていく。

 それは例えば、「森の支配」ということは、木を切り倒していくとか、森や山が水源であったらそこから水を引いて灌漑用水にして農業を行っていくなどです。あらゆる自然が持っている「大洪水を起こす」などといった大きな猛威や力を、人間自身の力でコントロールしていくということの象徴的な表現になります。

●メソポタミア神話における死後の世界――イナンナの冥界下り

―― 人間の場合は「死ぬ」ということになりますが、「死後の世界」は...


https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4966 【ノアの箱舟、ビール…人間の行動の原型とメソポタミア神話  メソポタミア神話の基本を知る(3)大洪水神話のルーツ】より

概要・テキスト

世界の神話には大洪水について語られているものが少なくない。現在、もっとも有名なのは『旧約聖書』に出てくる「ノアの箱舟」だろう。だが、世界中の大洪水神話のルーツは、実はメソポタミア神話にあるという。メソポタミア神話が、ユダヤ神話をはじめ世界各地の神話に様々なかたちで伝承され、大きな影響を与えていったのだ。最終話では、ノアの箱舟の物語について解説しながら、神話から見えてくる人間行動の原型に迫る。(全3話中3話)

●世界の「大洪水神話」のルーツ…「ノアの箱舟」の原型は?

鎌田 それから、もう一つ、これはどうしても語っておかなければいけないのは、大洪水神話です。

 なぜ大洪水神話が重要なのかというと、今、私たちは宇宙に出ていこうという宇宙開発競争の技術開発をしてきたわけです。旧ソ連とアメリカが中心となって、月面着陸なども含めて、1960年代頃から宇宙開発競争がどんどん展開していきました。そして今では、火星移住計画などいうものまで実際にあります。NASAやアメリカなどはそれを強力に推進しています。

 その元をなすのは『旧約聖書』の中にある「ノアの箱舟」の話です。人間が神から離反し、さまざまな悪いことを起こすので、神は人間を懲らしめるために大洪水を起こす。神はそのことをノアに告げます。ノアはそれを皆に話しますが、神を信じない人々は、全く信じません。「ノア、おまえ、頭がおかしくなってしまったのではないか。狂ってしまったのではないか」と。

 誰も信じないので、ノアは、一人で神に指示された通りの箱舟を造り、さまざまな動物の種になるものをそこに運び入れます。

 そうして、みんなから笑いものにされていたノアですが、大雨が降り、大洪水になって、(その箱舟は)40日40夜揺られ続けた後、最後にアララト山に漂着します。そして、新しい世界がノアの子孫で拓かれていく、といった有名な話が『旧約聖書』に出てきます。

 川上さんも読んだことがあると思います。

―― はい、ございます。

鎌田 あの話の元は、実はメソポタミア神話なのです。

―― 同じような筋立てなのですか。

鎌田 「ほとんど同じだ」といっていいと思います。『旧約聖書』を信じる方々には非常に厳しい表現になってしまいますが、ある種、神話も影響されているので、ある種のパクリとかコピペのようなものがあるのですね。そして、その「神話要素」は広く伝承され、伝わっていくのです。

 ですから、メソポタミア神話のあるものは間違いなくユダヤ神話に引き継がれています。ユダヤ神話の中には、エジプトに元々あった一神教的な要素もある。そして、大洪水神話やエデンの園の物語などは、メソポタミア神話の中に原型がある。つまり、メソポタミア神話体系から引き継いでいるのです。

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