佐怒賀正美氏

https://www.ne.jp/asahi/haiku/aki/aki-news.htm  【秋のニュース】


https://sectpoclit.com/ginkan-12/ 【神保町に銀漢亭があったころ【第12回】佐怒賀正美】より

白熱句会の思い出など  佐怒賀正美(「秋」主宰)

神保町の交差点から専修大学方面に少し入った小路に「銀漢亭」はあった。オープンした頃、私は近くの出版社に勤めていたので、ふだんの散歩道でもあった。昼間は、両隣の店の間に息を潜めたような薄暗い佇まい。入口には誰もいない小さな木のテラスがしょぼんとしている。だが、夕暮れ頃からは、俳人たちで活気を増す。「天為」の編集室がすぐ近くにあったので、毎月の夜の編集部句会に参加した後、ぶらりと立ち寄ることになった。

しばらくするうちに年4回開催の「白熱句会」にお誘いいただいた。店の奥の小さな細長いテーブルを囲んでの超結社句会である。ここだけスツールのような木椅子がある。メンバーは、伊藤伊那男、水内慶太、小山徳雄、檜山哲彦、井上弘美、藤田直子、木暮陶句郎、佐怒賀正美の8名(近頃、弟の佐怒賀直美が加わり現在では9名)。句会は1人10句持寄り。現代俳句協会員は私のみだったが、皆自分のスタイルは主張しながらも、よい句には共感し率直な感想を述べてくれた。

もちろん、俳句がいちばんの楽しみだが、もう一つの楽しみは伊那男さんの用意してくださる手料理であった。私の座る後ろの壁越しに小さな調理室があり、その覗き窓から料理を手際よく出してくださる。伊那男さんは他の客の料理も作りながら句会に参加してくださった。ここでは地方から送られてくる鮮度よい野菜や魚介などが出される。銀漢亭でいただく海鞘(ほや)やからすみなどは絶品だった。そして煮物などには伊那男さん流の仕込みがされていて、酒との相性が抜群。ほろ酔いながら、よもやま話も加えて、お互いに句会の余韻を夜遅くまで楽しむのだった。

この句会に参加している間にも、いろいろな俳人たちに出合った。檜山哲彦さんの若きパートナー、堀切克洋さんのご家族、など俳人周辺の人々ともお会いできたし、外国人の客が来ていたこともあった。在米の青柳フェイさんも、サンフランシスコからやって来るたびに銀漢亭に立ち寄っては、俳句仲間たちと「歓迎会」を楽しんでおられた。(写真はその折のもの。)

あるいは、久々に店に入ると、カウンターにエプロン姿の天野小石さんや、太田うさぎさんが立っていたり、楽しいサプライズも待っていた。若い俳人も多かったが、大先輩の俳人がべろべろに明るく酔っぱらっていたこともあった。俳句が好き、というだけで分け隔てなく老若問わず、こんなに楽しい時間を共有できることがうれしかった。俳人たちの詩の酩酊への夢を詰めこんだ方舟、そんな銀漢亭の細き奥ゆきをいまは懐かしく思う。

あの壁いっぱいの壁紙のたくさんの蝶たちはどうなったかなあ。伊那男さん、長い間ほんとうに有難うございました。

2014年7月28日撮影 銀漢亭「フェイさん歓迎会」(同上)

左から小川洋(天為)、佐怒賀正美、青柳飛(秋・天為)、竹内宗一郎(街・天為)、伊藤伊那男(敬称略)

【執筆者プロフィール】

佐怒賀正美(さぬか・まさみ)

学生時代より石原八束、有馬朗人に師事。現在、「秋」主宰、「天為」特別同人。現代俳句協会副幹事長・広報部長、専修大学客員教授、NHK俳句教室講師など。句集に『意中の湖』(1998)・『光塵』(1996)・『青こだま』(2000)・『椨(たぶ)の木』(2003)・『悪食の獏』(2008)(以上、角川書店刊)・『天樹』(2012)(現代俳句協会刊)・『無二』(2018)(ふらんす堂刊:2019年第74回現代俳句協会賞受賞)。


https://sengohaiku.blogspot.com/2024/03/hanameguri004.html 【【鑑賞】豊里友行の俳句集の花めぐり4 佐怒賀正美句集『黙劇』 豊里友行】より

 句集『黙劇』の佐怒賀正美俳句を読みながらガツンと確かな手ごたえで俳句の未開拓地へ踏み込んでいることに立ち合うようだ。

ながしこむ宇宙のかたち寒卵

 作者の感性の瑞々しさと575の定型のリズムに現代社会の日常から希望の光を見出そうとしている。

 寒卵の楕円形の形がある。

 そこに流し込まれる宇宙の胎動と息吹を具体的なメタファー(隠喩)によって宇宙のかたちを創造した秀句だ。

顔認証でひらくあらたまの宇宙

 顔認証とは、顔かたちに基づいて個人を認証する方式のこと。現代社会では、施設の出入りにおけるセキュリティ管理などで役立てられていて監視カメラなどで活用される。

 此処では顔認証で開かれる自動ドアにも新年の始めの宇宙感を感じ取れる。

 だが「あらたま」を新年として解釈せず人材の発掘として解釈してみると別の俳句が立ち現れてくる。

 顔認証で切り拓かれた新たな社会に適合できる人間だけを選別していく宇宙が拡がっているとしたらどうだろうか。

 この俳句には、未知なるコンピューター社会、AI知能による管理社会の到来への危惧も含まれているようにも受け取れる。

かたつむり窮屈スマホの縦画面

 カタツムリの伸縮は、まるで新体操のしなやかな肢体による芸術のようだ。

 そんな蝸牛でさえ窮屈に感じてしまうスマホの縦画面があるそうだ。

 スマホの縦画面を作者も窮屈そうに指を滑らせずらそうにしている。

タワーマンション一晩で食ふ百の桃

タ ワーマンションとは、一般的に20階以上の超高層マンションをいい、居住者は、プライベートレストラン、食事やイベント用の屋外テラス、23Mの屋内スイミングプール、ジム、サウナ付きスパ、スチーム、マッサージルーム、ライブラリーなど充実した共用設備が設けられているタワーマンションもあるそうだ。

 まさに超富裕層用の住居となって今、若者の憧れの居住地でもあるようだ。

そ んなタワーマンションの視界には、さぞかし現代人の生活圏とは違う星屑の街が見渡せるのだろう。

 サービスにスイート内での食事とルームサービス、コンシェルジュなどそこからどれだけの食生活が繰り広げられるかは想像したこともない。

 一晩で百の桃を食らう。

 そんな現代社会の風貌が百の桃のメタファー(隠喩)に込められているのだろう。

 まるでスタジオジブリの世界のような風刺とユーモアを内包していている俳句だ。

節分の鬼にも見せる赤ん坊

白南風や足で応へる赤ん坊

あらたまの奇声のりのり赤ん坊

 私は、この赤ん坊の句も大好き。

 地域の節分で鬼の面の誰それさんも知った顔です。節分の鬼にも見せる赤ん坊への愛くるしさが満ち溢れている。

 白南風とは、梅雨明けの時期に吹く南風のこと。爽快な夏の知らせを赤ん坊は、足で応答しているようだ。写実の確かさも達人ならでは。

 赤ん坊の新年の奇声は、のりのり。言葉の鮮やかさと眼に入れても痛くないほどの赤ん坊ですよね。

蛇穴を出でて理不尽なる爆死

侵略兵どもにかげろふ粘着せよ

地球いつも戦まじりや夜の虹

ひなげしや空の渚を兵器飛ぶ

蟇鳴くや不条理の世の断裂に

いくさ数多さりとて虹も無尽蔵

 作者の戦争への抗いが怒濤の怒りと共にマグマのように溢れ出す。

 どれも俳句の骨法に乗っ取っていて的確。

 蛇穴を搔い潜ってきたのに理不尽な爆死が待ち受けていた。そこには、死が身近に巣食う戦場がある。

 侵略兵への抗議を蜻蛉たちの束の間の命の饗宴をぶつけるように命まみれにする。

 そこには、戦争によって人間が人間でなくなることで麻痺した命の大切さを覚醒させようとする俳人の戦争への抵抗が見出されている。

 戦の絶えない地球には夜の巨人のごとく虹が彷徨っているのだろうか。

 可憐な雛罌粟の花と空にある渚を兵器が飛び交う無常さ。

 ひきがえるの鳴き声は、不条理の世の断裂の裂け目から聴こえるようだと感受する。

 星空のように戦は数多に繰り広げられていようとも虹も無尽蔵と言い切る。虹は、国境を超えて人と人の心の架け橋にもなるだろう。

春の夜や画面にあへぐ一角獣

 春の夜の家のパソコン画面を覗いてみると喘ぐように一角獣を棲息している。

 現代社会のパソコン画面のスクリーンセーバーのいち場面の写実。

 だが、絵画でいうシュルレアリスム(超現実主義)とも違い写真のような写実を追求しているスーパーリアリズムとかでもないのに現実のリアリティーもありつつ現実にはあり得ない世界が立ち現れるような世界が創造されて秀句だ。

出ては隠れ月の兎に新たな仔

吹抜けを彩ひてホログラム滝よ

地上絵のごとく鮟鱇ぺつたりと

黴一面しばらく星図めくままに

 月に棲む兎の仔の発見。

 吹抜けのホログラムの滝。

 黴一面の星の図。

 地球の地上絵のような鮟鱇の存在感。

 特筆すべき点は、写実に止まらない観察眼と感性の徹底的な練磨による超リアリティーを内包している。これらの観察眼には、現代俳句の大きな岩がまた僅かずつ前進するように動いたように私には、感じられた。

恐竜も鬼神も遊ぶ子の柚子湯

冬の大型ビジョンに獣めく星雲

ビル包む鉄骨ブルース初日の出

 ビルを組み上げていく鉄骨ブルースと初日の出。

 遊ぶ子の柚子湯や獣めく星雲の比喩の斬新さだけでなく徹底した観察眼に裏打ちされつつも俳句の醍醐味であるずばり物の本質を云い切れる佐怒賀正美俳句の力量は、並々ならぬものがある。

 そしてこのように大きな俳句の仕事を成していく俳人たちの俳句には、「座の文学」の力があるように私は感じている。

 本句集「黙劇」の「あとがき」には、多くの俳句の座に招かれて出会ってきた俳友たちのことが綴られている。

 そして大切な妻や家族のことも。ここでは、俳句の座も含めて拡大解釈されていく「家族」もである。

「俳句創作を通じて「いま」を共にしてきた俳誌「秋」の仲間たちや、月例の「木曜会」(主宰・小林恭二)をはじめとする友人たちに、心から感謝を申し上げる。」

 素晴らしい俳句の師を経て、「蛇穴を出て先師に迎へらる」のいただきで再会されたり、句友の惜別の句「初夢の翼で世去り美酒提げて」などがいくつもある。

 巻末の俳句の英訳(英訳協力:青柳飛)も俳句の世界への飛翔感を感じさせる。

 「乗るによき父の背いつか天の川」「子の辞書に宝島の絵クリスマス」「二階にはもう隠れない帰省の子」など家族への愛燦燦も。

 「たちまちに金木犀の句座となる」など沢山の出会いの財産を持つ「座の文学」の力があるからこそ本句集「黙劇」は、佐怒賀正美俳句をかけがえの無いものに成しているのではないだろうか。

 下記に共鳴句をいただきます。

白南風や街角に透くタピオカ店

新涼やタピオカ吸ひ上げる二人

晩秋を群れて憑きくるてんとう虫

絵本から画面から春野からモグラ

データ飛ばし合へる授業や鰯雲

夜の鳥の百の気配にまむし草

紅梅や疫禍すりぬけ生まれきぬ

這ひ上がる蝌蚪にうすうす宇宙塵

ゆく春や屋上ペンギンたちの異郷

千万(ちよろづ)のデータ蘇生や青葉の夜

生も死も溶くひぐらしの祝祭感

家内感染なり秋風のうらおもて

たつぷりと虚のある我や天の川

鳥渡る魔境を知らせ合ひながら

人工衛星よぎり枯野にもぐら穴

葦原をうねる臓腑の枯むぐら

宇宙も洞なり地球こそ灯

マンホールの底の地脈や年の暮

豆を撒く園児わんさか鬼のまま

天体を愛撫せんとやミモザ湧く

青嵐や骨のみで立つ電波塔

【参考資料】

「俳句αあるふぁ」(2015年8-9月号)の「佐怒賀正美の世界」(P67)より

句集『黙劇』(佐怒賀正美、2024年1月31日刊、本阿弥書店):豊里友行

佐怒賀正美(さぬか・まさみ)。

本句集『黙劇』(2024年1月31日刊・本阿弥書店)は、佐怒賀正美第8句集にあたる。

佐怒賀正美句集は、『句集 意中の湖』角川書店(1998年6月)。

『句集 光塵』角川書店 (1996年5月)。

『句集 青こだま』角川書店(2000年2月)。

『句集 椨の木』角川書店(2003年12月)。

『句集 悪食の獏』角川書店(2008年9月)。

『句集 天樹』現代俳句協会(2012年10月)。

『句集 無二』ふらんす堂(2018年10月)で2019年度第74回現代俳句協会賞を受賞。

俳誌「秋」主宰、俳誌「天為」特別同人。




コズミックホリステック医療・現代靈氣

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