「あるがまま」について

森田療法における重要な仏教的用語(2)―「あるがまま」について(1)―


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 遅くなりましたが、仏教をルーツとする語、「あるがまま」についての稿を掲げます。

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森田療法における重要な仏教的用語(2)―「あるがまま」について(1)―

1.はじめに―森田療法と「あるがまま」―

 「あるがまま」は、森田療法が重視する人間の生き方を示しており、まさしく本療法の要諦であると言える。従って「あるがまま」は、森田療法の本質を表すものとして、療法のキーワードのような扱いをされている。では「あるがまま」とは何かと言うと難解であり、説明しようとするほど「あるがまま」に観念的にとらわれて、「あるがまま」から遠ざかるという逆説に陥ってしまう。

 そのため「あるがまま」については、安易な解釈や、誤解や、困惑などの反応が起こりうる。そこで、言語的に説明できることの限界を知りつつも、「あるがまま」の本質へのアプローチがより可能になればと願って、「あるがまま」をめぐる諸問題の整理を試みる。

 なお「あるがまま」の類語として「ありのまま」があるが、両語のルーツは異なる。ところが、両語は、明治期以後に仏教的な意味あいを帯びる中で、類語となった。「あるがまま」や「ありのまま」にはそのような背景があり、従って以下、「ありのまま」も含めて、主に仏教的な視点から述べることになろう。

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2. 「あるがまま」と「ありのまま」―両語の異同―

 森田は「あるがまま」と教えたけれども、「ありのまま」と言ったりもしている。彼は両語を使い分けたのかどうか、明確ではない。また一般に、これら両語間の異同はどうなのか。語源と語義の歴史を知っておくことも必要である。そのため、いくつかの辞典に当たってみた。

 まず気づくのは、「ありのまま」は、平安時代より用いられてきた古語であるが、「あるがまま」は明治期以後の近・現代に、仏教との関係で新たに使用されだした用語であったことである。つまり明治以後の仏教思想に対応する新たな用語として、古語の「ありのまま」を当てる以外に、新たに「あるがまま」が現れたのである。そこで「ありのまま」と「あるがまま」は類語化して、かなり混同して用いられるようになる。このように「あるがまま」は、意外にも新しい用語だったので、現代の辞典に収録されるほどの市民権は、十分に与えられずに今日に至っている。たとえば、「広辞苑」では、最新の第七版(2018年)に「あるがまま」は漸く収録されたばかりである。

 そこで以下に、 ―

①まず辞典に収録された「ありのまま」の語とその説明を列挙し、―

②頻度は少ないが、辞典に収録された「あるがまま」の語とその解説も取り上げ、―

③さらに、解説文に「あるがまま」や「ありのまま」を含む仏教語の見出し語とその説明を拾い上げる。

 これらについて、順を追って記すことにする。

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①「ありのまま」

☆日本国語大辞典(縮刷版)第一巻(小学館、1979)

ありのまま【有儘】《名》(ラ変動詞「あり(有)」の連用形と格助詞「の」と、形式名詞「まま」の結びついたもの)

 あるとおりのさま。事実のとおり。ありてい。あるがまま。

※蜻蛉-中・天祿元年「おはしまして、問はせ給ひつれば、ありのままになんきこえさせつる」

※源氏-蛍「その人のうへとて、ありのままに言ひ出ずることこそなけれ」

※栄花-もとのしづく「かかりける晴の事に<略>ありのままの姿どもにて参れど」

※浮世草子・西鶴織留「つまる所は、喰ねばひだるいひだるいといふにぞ、ありのままなる法師とて、人皆勧進をとらせける」

※夜明け前<島崎藤村>第二部「地方(ぢがた)御役所で叱られてきたありのままを寿平次に告げに寄ったのは」

☆角川古語大辞典 第一巻(角川書店、1982)

ありのまま「有りの儘」形動ナリ

飾らずに、あるとおりのままであるさま。

「寺院の号…昔の人は…ただありのままにやすく付けるなり」〔徒然草・116〕

「人の物を問ひたるに…ありのままにいはんはをこがましとにや」〔徒然草・234〕

☆岩波古語辞典 補訂版(岩波書店、1990)

ありのまま【在りの儘】

(1)事実のとおり。あるがまま。

「ありのままに、『はや出でさせ給いひぬ。これかれも追ひてなむ参りぬる』と言ひつれば」<かげろふ中>

(2)あるもの全部。ありたけ。

「子どもをありのまま引き具して、夫婦もろともに左右門殿へ御礼にぞ参り給ひける」<伽・弥兵衛鼠>

☆広辞苑 第七版(岩波書店、2018)

ありのまま【有りの儘】

事実のまま。実際のありさまの通り。ありてい。

「ありのままに正直に答える」

<「ありのまま」の語についての注> : 辞典に現れた以上のような記載より、「ありのまま」は、平安文学においてすでに見られた和語であり、事実のとおりのことを示すとともに、ありてい、ありたけ、というもうひとつの意味も有していて、内面の開示と非開示の境界線上で意味を持つ言葉であることがわかる。また、ラ行変格活用のこの語の「あり」は連用形であり、時間の経過が含まれている。

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②「あるがまま」

☆大辞林 第三版(三省堂、2006)

在るが儘

実際にある、その状態のまま。ありのまま。

☆広辞苑 第七版(岩波書店、2018)

あるがまま【有る儘・在るがまま】

存在する通り。ありのまま。あるまま。

<「あるがまま」の語についての注> : この語は日常的に用いられているにもかかわらず、その仏教的な意味あいの難解さゆえか、公的に承認されず、一部の辞典にしか収録されていない。広辞苑では、第七版(2018)に初めて見出し語として取り上げられた。2014年に映画『アナと雪の女王』とその主題歌「レット・イット・ゴー~ありのままで~」が大ヒットしが、それにより、「ありのまま」の類語である「あるがまま」にも光が当てられたのであろうか。

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③「あるがまま」や「ありのまま」を解説文に含む仏教語の見出し語

・如実【岩波仏教辞典 第二版(岩波書店、2002)】

あるがまま、あるがままに、という意。(中略)<如実知見>はその真実・真如を真実・真如のままに知見すること、すなわち本当の智慧(般若)を表す。

・真如【岩波仏教辞典 第二版(岩波書店、2002)】

[サンスクリット tathatā]原義は、その通りであること、あるがままの道理。漢訳語は、真の、あるいは真であることの意で、無為自然の道を真として、俗世に対立させる老荘の真俗観をふまえた表現。

・自然法爾【大辞泉(小学館、2012)】

仏語。

(1)もののありのままの姿が真理にのっとっていること。

(2)浄土真宗で、阿弥陀仏の本願のはからいの中に包まれていること。

・自然法爾【浄土真宗辞典(本願寺出版社、2013)】

自然と法爾とは同義語で、ともに自ずからあるがままにあること、そのようにあることをいう。

<本項についての注>

代表的ないくつかの仏教関連の見出し語を挙げるにとどめたが、それらの語と「あるがまま」や「ありのまま」との関連を通して、両語は仏教思想と深く重なることがわかる。ただし、仏教思想は歴史的にいくつかの流れがあるので、どの流れと結びつくかで、「あるがまま」や「ありのまま」の意味の不一致も起こりうる。

コズミックホリステック医療・現代靈氣

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