https://www.yomiuri-osaka.com/lp/taishi1400-10/ 【和のこころを語る—復興への道しるべ
人の和 復興の輪】より
【主催】法隆寺、読売新聞社 KKTくまもと県民テレビ
【後援】奈良県
【協賛】岩谷産業、ビーバンジョア
(2017年3月31日:読売新聞大阪本社版夕刊記事を基に作成)
熊本地震1年「和のこころを語る」
熊本地震の発生から1年になるのを前に、シンポジウム「和のこころを語る―復興への道しるべ―」(読売新聞社、法隆寺、KKTくまもと県民テレビ主催)が14日、熊本市中央区のくまもと県民交流館パレアで開かれた。聖徳太子の1400年御遠忌(ごおんき)(2021年)に向け、法隆寺(奈良県斑鳩町)と読売新聞社が取り組む「聖徳太子1400年の祈り」の一環で、約250人が参加。大野玄妙・法隆寺管長、俳優の紺野美沙子さん、熊本県出身の俳人・長谷川櫂(かい)さんが、聖徳太子が唱えた「和の精神」を踏まえて、地震からの復興をテーマに語り合った。
――まず、熊本への思いから聞かせてください。
長谷川 地震直後、テレビを通じて見た被災者の顔に、力強さを感じました。地震で大変なはずなのに、「何があっても、どうにかやっていく」みたいなところがあって、〈熊本人〉としてとても心強かった。
「君たちが造る故郷の青山河」。昨年、私が地震に寄せて作った句です。故郷の子どもたちが今、地震とどう向き合っているのかと思いを巡らせ、「君たちが、熊本の大地を新たに造らなければいけない」というメッセージを込めました。
紺野 熊本に対して、私たちができることは、まず何気ない触れあいではないでしょうか。特別なことをするのではなく、「くまモンに会いにきた」でもいいんじゃないかと思います。
東日本大震災(2011年)では、被災地を朗読公演で回りました。宮城県の仮設住宅ではおばちゃんらがサンマのつみれ汁を振る舞ってくださった。「励ましに来たのにごちそうになって申し訳ない」と言ったら、「手を動かすと余計なことを考えなくていいから気にしないで」って。よもやま話、世間話が大事だなとつくづく感じました。
大野 新潟県中越地震(04年)の被災地、山古志村(現長岡市)を何度か訪問しましたが、その経験が役に立つかもしれません。
地震から数年たつと、若者は復興に意気込んでいても、お年寄りは「生きている間には戻れまい」と自暴自棄になってしまう。何と言えば良いのか悩みましたが、「皆さんの経験を都会から来る人に話してください」とお願いしました。
その後、訪れると、お年寄りの顔が明るくなっていました。家の前で茶や漬物を勧めながら訪ねてきた人に体験談を一生懸命話している。それを見てこちらが元気をもらいました。
――どのように復興を進めるべきでしょうか。
大野 仏教には「仏法僧(ぶっぽうそう)」という「三宝」の教えがあります。「仏」は目標であり理想。そこに至る方法や設計図を示すのが経典「法」で、それを目指して共に行動する仲間が「僧」です。
目標も持てず、計画も立たず、家族も近所の人も散り散りで生活している。このダメージからどう生活を再建するのか。最初に理想や設計図を説いても受け入れられないでしょう。まず仲間を構築するしかない。被災者らが話し合い、自分たちで計画を決めていけば、今度は「学校や公民館を造ろう」と目標が持てる。復興は「仏法僧」ではなくて、反対に「僧法仏」の順で進むと思います。
紺野 仲間は大切ですよね。宮城県では高齢の方に「シルバー川柳」が人気だそうです。ご家族を震災で亡くした方々が川柳を通じて悲しみの底から立ち直れたと聞きました。川柳や俳句などで言葉を紡ぐのもいいことなんでしょうか。
長谷川 言葉にするということは、心の叫びなんです。自分の言いたいことを言葉にして表すことは、すごく大事なことです。それが人と人とのつながりになって広がる働きもあります。
復興について言えば、元通りの姿に戻すだけでは意味がない。例えば熊本城なら、築城当時のように木造で作り直すなど、地震前の熊本を超える街を目指していってほしいですね。
――被災地では互いが思いやり、助け合いました。「和」の精神が実践されたように思います。
紺野 国連開発計画(UNDP)親善大使として貧困撲滅のため途上国を回っていますが、先進国との圧倒的な格差を解消するために自分に何ができるかと言えば、なかなか答えは出ません。ただ言えるのは、自分が笑顔でいれば、周りの家族や友人に笑顔のおすそ分けができるということ。周りに笑顔を増やせば、いずれは大きな世界の和につながるはずと信じています。
長谷川 誰かがどこかで困っていたら助けてあげる。そういう余裕が社会に必要だと感じます。そんな助け合うシステムが、熊本地震でも機能しました。今まで眠っていた近所との付き合いが地震を機に目覚めたんですね。それも和の心ではないでしょうか。
大野 思いやりや助け合いの心は、私たちが先祖から受け継いだ日本人の精神だと思います。だから震災が起きれば自然にスイッチが入って、色々な支援をする人たちが出てくる。いわば仏教の「菩薩(ぼさつ)の行」。ですが、最近の日本人は豊かさを追求し、そういう心を失いかけているようにも映ります。いま一度、太子の「和」を見つめ直す機会だと思います。
奈良県も情報発信
聖徳太子1400年御遠忌に向けて、奈良県も情報発信に努めている。
昨年7月には、奈良市や斑鳩町など県内20市町村とともに「聖徳太子プロジェクト推進協議会」を設立。太子をテーマとしたシンポジウムや連続講座を開いたほか、人物像、ゆかりのスポットをまとめたパンフレットを作った。
今後、他府県との連携も検討しており、担当者は「聖徳太子は政治、宗教、文化と幅広い分野で日本の基盤を築いたスーパースター。多くの人にファンになってもらうような仕掛けをしたい」と話している。
全半壊住宅の解体 完了は1年後
熊本県内では今も随所に被害の爪痕が残っており、復興はまだ道半ばだ。
地震では県内30市町村で約4万2000棟の住宅が全半壊し、うち約3万3000棟が公費解体されると想定される。だが解体済みの住宅は2月末にようやく5割に達し、完了は来年3月までずれ込む見通しだ。
南阿蘇村では、大規模な土砂崩れで国道57号やJR豊肥線などの交通網が寸断されたまま、今も復旧のめどが立たず、観光などへの影響の長期化が心配される。
熊本地震では、地震の影響に伴う「震災関連死」も含め、222人(今月30日現在、うち3人は大分県)が亡くなっているが、関連死は今でも各自治体で審査が続いており、今後も増えるおそれがある。
熊本県は、4月7~23日を「復興祈念ウィーク」と位置づけ、追悼式典やシンポジウムなどを予定。「いただいた支援への感謝の気持ちと復興する熊本の姿を広く発信したい」(蒲島郁夫知事)としている。
絵本「ASO」朗読
鼎談(ていだん)に続き、紺野さんが熊本市出身の絵本作家・葉祥明(ようしょうめい)さんの「ASO~阿蘇、ぼくの心のふるさと~」(佼成出版社)を朗読した=写真=。山の緑や空の青が印象的な絵本の各ページが会場のスクリーンに映し出され、参加者が静かに聴き入った。
紺野さんは2010年から「紺野美沙子の朗読座」を主宰、東日本大震災の被災地でも披露してきた。一方、葉さんは国内外の児童図書コンクールで数々の受賞歴を持つ作家で、「ASO」は子どもの頃から眺めてきた阿蘇山の美しさを、自身の原風景として描いた05年の作品だ。
「おかにのぼって、耳をすませば、小鳥がさえずり、草がそよぎ、虫の声がきこえてくる。なんてしずかな、なんて平和な世界だろう!」と、紺野さんが気持ちを込めて朗読し終えると、会場から拍手が起こった。
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