おじさんの顔が空に浮かぶ日

http://u-moa.jp/event/ojisora2013/index.html 【おじさんの顔が空に浮かぶ日 - 宇都宮美術館】

https://www.jafra.or.jp/library/letter/backnumber/2014/238/5/1.html 【栃木県宇都宮市 宇都宮美術館 館外プロジェクト 「おじさんの顔が空に浮かぶ日」】より

12月21日、宇都宮市である異変が起こった。上空にぽっかりと巨大な“おじさんの顔”が浮かんだのだ。夜になると月のように光り、まるで誰かの夢の中に迷い込んだようだった。

  おじさんの正体は高さ15メートル×幅10メートルほどの巨大なバルーン。宇都宮美術館が2013年度から2年がかりで取り組んできた館外プロジェクト「おじさんの顔が空に浮かぶ日」のフィナーレとして揚げたものだ。主導したアーティストは、現代芸術活動チーム目【め】。個人で活動していた荒神明香とwah document(*)の南川憲二、増井宏文が、荒神の感性を軸に新しい芸術表現を実現するために2012年に立ち上げた3人のクリエイトチームである。

  宇都宮美術館の「館外プロジェクト」は、展示室の外でも美術を楽しむ機会づくりとして13年度から始まった。担当となった学芸員の小堀修司さんは、学生時代から地域プロジェクトに参加しており、「アーティストと市民が『共につくる』ことを第一に考えて」、以前から活動を見ていたwah documentに声をかけた。ちょうど目【め】への転換期であったが、よりパワーアップすると確信し、ぜひにと依頼した。

  目【め】では、アートのビジョンが荒神、プロジェクト化が南川、制作が増井という役割分担になっている。まず荒神と南川が宇都宮にリサーチに入ったが、まちの人に声をかけると「アートプロジェクトは見に行きたい人が行くものでしょ」との声が返ってきた。困った荒神の頭に浮かんだのが、中学生の頃に見た「おじさんの顔が空に浮かんでいる」夢だった。

  ─圧倒的な風景をつくることで、興味のある人にもない人にも、美術の力を体感してもらえるのではないか─

  荒神の夢では具体的な顔がわからなかったため、市民に呼びかけて「顔収集隊」を立ち上げ、宇都宮市に住む自称おじさんの顔を集めるところからスタートした。この時点では、プロジェクトがどこに帰着するのか全く見えていなかった。それでも、「わからないけど、面白そう」と年齢も職業もバラバラな20人ほどが集まり、9月に中心市街地に「顔収集センター」をオープン。さらに撮影用の屋台で街中を巡り、計218人の顔を収集した。

  一方で、実際の制作計画は難航する。イメージどおりのバルーンを製作することは技術的に可能なのか、空に浮かべることができるのか、増井は美術館とともに奮闘するも、活動が停滞気味になっていく。

Photo15.jpg

宇都宮市錦地区上空に浮かんだ巨大なおじさんの顔(12月21日)。河川敷に見物客が見える。

 顔あげ隊(元顔収集隊)のひとり、渕野結美子さんは、「その頃はプロジェクトのどこに自分の気持ちをもっていけばいいのかわからなくて。夢の風景といわれても、私には具体的なイメージが湧かなかった」という。南川は、「とてもつらい時期でした。その時、市民リーダーの渡邊博紀さんが、僕たちに本音で話し合う場をつくってくれたんです」と振り返る。

  「なぜ自分がこのプロジェクトに関わるのか」を互いに語り合うと、それぞれの人生の迷いや生き方にまで話が及んだ。「夢は誰にも説明できないでしょ。それは『自分がなぜここに存在しているのか』を説明できないのと同じ。その“わからなさ”に向き合うことと、“おじさんの顔が浮かぶ”ことが結びついたんです」(南川)

  こうして荒神の夢から「なぜおじさんなのか」「個人の顔が空に浮かぶとは何か」といったコンセプトを掘り起こしていくミーティングを重ね、段々と参加者も「浮かぶ日」に向け団結した。また、浮上予定地に大きな風船を浮かべ、見えるポイントを探す視点ワークショップ、市民の発案による顔カフェづくり、広報など活発な活動を重ねていく。巨大なバルーンに67万個ものドットを塗り付けておじさんの顔を描く作業にも、顔あげ隊のメンバーが献身的に関わった。

  そして、当日。町中の人がそれぞれの場所で思い思いに、空にぽっかり浮かんだ“おじさんの顔”を眺めていた。渡邊さんは「信じられない風景が目の前にある。言葉にはできないですが、これに関わったメンバーの心は通じ合っている。アートには根本を揺るがす力があると確信しました」と感無量の様子だった。

  膨大な努力でおじさんの顔を空に浮かべ、世界を変えた日に立ち会えた幸せを感じずにはいられなかった。

(アートジャーナリスト・山下里加)

●宇都宮美術館館外プロジェクト「おじさんの顔が空に浮かぶ日」

[主催]宇都宮美術館、公益財団法人うつのみや文化創造財団

[企画]宇都宮美術館、現代芸術活動チーム目【め】、顔あげ隊

[実施日・会場]2014年12月13日:宇都宮市道場宿緑地(芝生自由広場)/12月21日:宇都宮市錦地区(宇都宮市錦小学校)

*wah document

各地で一般市民から得たアイデアを即興的に実行する活動を展開していたアートユニット。

コズミックホリステック医療・現代靈氣

吾であり宇宙である☆和して同せず  競争でなく共生を☆

0コメント

  • 1000 / 1000