https://kotaro-note.com/taiyounomon/ 【「太陽の門」がおもしろい!~日本経済新聞朝刊に連載中の小説~】より
「太陽の門」という小説がすごくおもしろいです。
これは日本経済新聞の朝刊に掲載されている小説で、毎日少しずつ物語が進んでいきます。
いまも連載中なのですが、昨日の掲載分までで物語は「ひとつの区切り」をむかえました。
そのラストシーンがあまりにもよくて、私は思わず泣いてしまったほど。
これだけワクワクしながら読めて心を揺さぶられる新聞小説ははじめてなので、この作品について書くことにしました。
2020年7月18日掲載分までのあらすじをお伝えしつつ、感動のシーンの魅力を少しでも伝えられればと思います。
もし日経を購読しているにも関わらず「太陽の門」を読んでいない人がいれば、今日から読んでみてほしいですね。
この記事は作者の赤神諒さんに見つけてもらい、ツイッターでコメントまでいただきました!
「太陽の門」は新聞連載小説
「太陽の門」は、作家の赤神諒さんによる小説。2020年2月21日から連載が始まりました。
それまで日本経済新聞の朝刊に掲載されていた小説が筆者の病気のため連載できなくなって中断され、その代わりとしていきなり始まったのです。
私は新聞小説を読むのが昔から好きで、これまでにたくさんの新聞小説を最初から最後まで読んできました。
そのなかには、おもしろい作品もあればつまらないと感じる作品もあります。
直前まで日経に掲載されていた作品はあまりおもしろくなかったので、いきなり連載することになった「太陽の門」にもあまり期待していませんでした。
ところが、読みはじめてみるとこれがおもしろかったのです!
毎日読むのがどんどん楽しみになっていきました。
特にここ数週間は物語が一気に盛り上がってきて、つづきを読むのが待ちきれないほど。
ここまでの話を読むかぎり、私の中では新聞連載小説の最高傑作だと言えます。
物語の舞台は1930年代のスペイン内戦(スペイン戦争ともいう)です。
映画「カサブランカ」から着想を得て、その主人公のリックの前日譚というつもりで筆者は書いているようです。
スペイン内戦については私はほとんど知りませんでした。
スペイン内戦について私が知っているほぼ唯一のことは、ピカソの「ゲルニカ」という作品の題材だということ。
こちらは私がパリのピカソ美術館を訪れたときに撮影した「ゲルニカ」の写真です↓
ピカソの「ゲルニカ」
大勢の人々が苦しんで死んだことがこの絵にも表現されています。
「太陽の門」はフィクションですが、スペイン内戦の流れ自体は史実にもとづくもの。
小説を楽しみしながら歴史の勉強にもなっています。
小説のタイトル「太陽の門」というのはマドリード中心部にある広場のことで、作品中にも何度も登場します。
いまでは人気の観光地のようなので、いつか旅行で訪れてみたいものです。
「太陽の門」のあらすじ
主人公のリックはアメリカの元軍人。戦争が心底イヤになって軍人を辞めましたが、もともと優秀な指揮官です。スペイン内戦に参加して戦うか国外に逃げるか迷いつつ、酒を飲んでタバコを吸うだけの日々を過ごしていました。
そんなリックの周りには魅力的な女性が2人いて、序盤の物語全体が華やかです。
一人はブランカで、民兵組織の一員。
物語の冒頭で誤った情報をもとにリックを殺そうとしましたが、それが失敗してからはリックを共和派の仲間に引き入れようとします。
リックは嫌がりましたが最終的にはブランカの望んだとおりになり、ブランカとリックは同じ部隊で戦うことになりました。
もう一人の女性はゲルダで、戦場カメラマンです。
ゲルダとリックは色々あった末に恋人どうしになったのですが、その直後にゲルダは
いきなりやってきた爆撃機からの機銃掃射で死んでしまいます。
これをきっかけにして、リックは再び戦場に戻ることを決意したのです。
物語の序盤はまだ戦火がおよぶ前のマドリードが舞台なので、わりと平和。
リックとブランカやゲルダの会話のシーンが中心です。
リックは皮肉ばかり言っているのですが、それがなぜだかカッコいい。
女性との駆け引きのような会話がうまく描写されていて引き込まれました。
平和に過ごしていたリックたちでしたが、だんだんと内戦に巻き込まれていきます。
スペイン内戦は、自由で民主的な政府を求める「共和派」とファシズムの「叛乱軍」の戦い。
叛乱軍はもともと共和国の正規軍でしたが軍事国家を作りたくて叛乱を起こして、内戦が始まりました。
そのため叛乱軍は職業軍人が中心で、戦車や機関銃などの装備も充実。
対して共和派の方は寄せ集めのシロウト民兵がほとんどで、戦力は大差でした。
リックたちの戦いの目的は首都マドリードを守ること。
ただ、まともに戦っても勝ち目はないので、攻め寄せてくる叛乱軍を足止めして「国際旅団」という援軍がマドリードに入るまで時間かせぎをしようとします。
リックは参謀として部隊長のマチャード大佐を補佐し、作戦を次々に成功させます。
ゲリラ戦を仕掛けて、犠牲者を最小限に抑えながら時間を稼いだのです。
それでも少しずつ消耗してボロボロになりながらも、なんとか国際旅団が到着するという「約束の日」まで持ちこたえました。
ところが、いよいよマドリードに帰還しようというときになって、問題が起きます。
まず、作戦本部に報告に行ったマチャード大佐が政治的なゴタゴタに巻き込まれて逮捕されてしまいました。
しかも、国際旅団の到着が「約束の日」から2日も遅れるというのです。
そして作戦本部からは、「さらに2日間、時間をかせげ」と命令が下りました。
ムチャな命令にリックは怒ります。
もう装備も食料もなくて、まともに戦える状態ではないのです。
しかも、撤退を進めてきたためもうゲリラ戦ができるような場所はなく、戦えば確実に死にます。
でも、誰かがこの場に踏みとどまって戦わなければ、マドリードはあっさりと占領されてしまう・・・。
そこでリックは悩んだすえ、ブランカを含む女性民兵、少年兵、負傷者を
マドリードに返し、残った民兵と共にラス・ロサスという街で待ちかまえて必ず死ぬ戦いを決行することにします。
残りの民兵はわずか100人ほどで、機関銃すらなさそうなありさま。
対して敵の数は50倍ほどで、戦車も戦闘機も爆撃機もあり、兵器も装備も段違いです。
この状況で2日間の時間をかせぐことができるのか。
その「2日間」をめぐる物語が新聞上ではここ数週間で展開されました。
ラス・ロサスでの物語に感動した理由
このラス・ロサスでの「2日間」のお話が、昨日で終わりました。
この物語に私は感動したのですが、どうして私はこんなに感動したのか自分で分析してみました。
思い浮かぶ理由は以下の3つです。
①絶望の中でも作戦を成功させた
②結末が一部だけわかっていた
③ミゲルとラモンの対比と一致
これらについて、順番に書いていきます。
理由①絶望の中でも作戦を成功させた
まず最初の理由として、絶望の中でも作戦を成功させたというのが大きいです。
100人の民兵は文字どおり「死ぬ気で」抵抗をして、2日間を耐え抜きました。
これも民兵たちがリックのことを心から信頼して、その指示にしたがったおかげです。
最初のころはリックはアメリカ人ということもあって信頼されていなかったのですが、
共に戦ううちにリックと民兵の間には強い絆が生まれていました。
リックはそんな民兵たちに生き延びる方法はないとわかっている命令を出して、民兵たちも死ぬことがわかったうえでそれに従う。
そうやって本当にみんな辛い思いをして、実際にみんな死んでしまって、それでもなんとか時間をかせいだ。そして、作戦を成功させた。
ムダ死ににはならなかったことがうれしくて、感動したのです。
理由②結末が一部だけわかっていた
2つ目の理由は、結末が一部だけわかっていることでよけいにハラハラしたということです。
「太陽の門」は回想のような形で物語が進むためリックがスペインから脱出した後の姿も
描かれています。
だから、いくら絶望的な状況でもリックはラス・ロサスでの戦いでは死なないという結末はわかっているのです。
結末がネタバレされているせいで話が盛り上がらないのではと私は最初は思っていたのですが、どんでもありませんでした。
最後まで死なないとわかっているのはリックただ一人だけです。
リックは生き延びるとして、他の民兵はどうなるのか。それが気になって、より物語にのめり込んだのです。
ラス・ロサスの戦いでは、生き残りは最後に3人になります。リックの他に、ミゲルとラモンです。この二人は部隊では伍長という立場で、ここまでの物語のなかでも何度も描写されてきました。私を含む読者たちもこの二人には愛着を持っています。
はたしてミゲルとラモンは、リックと共に生きてラス・ロサスを脱出できるのだろうか?
これが気になって、私は毎日ハラハラドキドキしたのです。
そして、そうしてドキドキしてきたことでラス・ロサスでの戦いのラストシーンの感動が増しました。
理由③ミゲルとラモンの対比と一致
感動した3つ目の理由はミゲルとラモンの対比と一致です。
この二人は対照的な人物として描かれていたのですが、最後に二人の思いは一致しました。
ミゲルはブランカの育ての親のような存在。
誰よりも早くリックの指揮官としての実力を認め、つねにリックの右腕として活躍。
リックのことを「アメリカさん」なんていう呼び方をしながらも命令には素直にしたがい、ずっと手助けしてくれました。
一方のラモンは好戦的な性格で、リックに対して反抗的でした。
リックの命令を無視して敗走する敵を追撃したりして、そのせいで死者がでたりも。
一時期はラモンの暴走のせいで部隊全体が危なくなるほどの危険人物だったのです。
それでも戦いを重ねるうちにラモンとリックの間にも信頼関係ができて、すごくいい間柄になりました。
仲良くなってみると、ラモンは本当は頼りになるいいヤツだったのです。
ラス・ロサスでいよいよ追い詰められたリックたち。
時間かせぎはできたものの街は完全に占領され、わずかに生き残った民兵は叛乱軍に捕まって処刑されていきます。リックたち三人に逃げ場はありません。
最後の抵抗をしようにもライフルの弾丸すらなく、あとまともに使えるのは手榴弾が5つだけ。おまけにリックはケガをして右腕が動かせません。
そんな絶望的な状況で、リックはミゲルとラモンにイチかバチかの作戦を提案します。
トラックを奪うのは敵の警戒が厳重でムリだが、騎兵隊の馬なら希望がある。
馬を奪って3人がバラバラの方向に逃げれば誰かは助かるかもしれない、というのです。
その前に、ミゲルとラモンが馬に乗れるかどうかも確認しました。
ミゲルとラモンはいったん顔を見合わせてから馬に乗れるとうなずき、リックの提案に乗りました。
そして、最後の作戦を決行します。ラモンが別の場所で手榴弾を爆発させて敵の注意を引くうちにリックとミゲルは馬を奪うことに成功しました。
でも、ラモンも馬を奪ってあとにつづく段取りだったのに、ラモンは来ません。
逃げるリックとミゲルにも追手が迫っていました。そして、馬に乗って逃げる二人の前に分かれ道があらわれます。ここで、私が泣いたシーンを引用します。
2020年7月18日掲載分からです。
「ミゲル。生きて、また会おう」疾走するリックの背に、ミゲルの大きな濁音が飛んだ。
「ラモンは馬に乗れねえんだ。アメリカさん、達者でな。後は頼むぜ!ブランカによろしく!」
驚いて馬上で振り返ると、ミゲルが、辻で馬を止めていた。リックが逃げる時間を稼ぐために、ラモンと計ったのだろう。常にリックの作戦に愚直に従ってきたミゲルが、ラモンと二人で最後に犯した、心憎い軍律違反だった。戦友たちが捧げてくれた命を、無駄にはできない。軍馬を疾駆させた。はるか後方で爆発音がする。街を駆け抜けてから、リックは振り返った。ラス・ロサスの雨上がりの空には、見事な虹が場違いに大きく架かっていた。
虹というのは、ラモンが「死ぬ前に虹が見たい」と語っていて、それに対応した描写です。
ずっとハラハラして読んできたけれど、ミゲルもラモンも死んでしまったか・・・。
しかも、リックを逃がすのために自分たちの命をなげうつとは・・・。
ミゲルとラモンという対照的な二人がとった息の合った最後の行動は私の胸を打ちました。
これまでも「太陽の門」はおもしろいと思って読んでいましたが、このシーンを読んでこの新聞連載小説は私の中で特別な作品になりました。
まとめ
・「太陽の門」は日本経済新聞朝刊に連載中の小説
・物語の舞台は1930年代のスペイン内戦
・私の中では新聞連載小説の最高傑作
・最近掲載のラス・ロサスでの物語に感動した
「太陽の門」には、まだ回収されていない伏線が残されています。
リックはどのようにしてスペインを離れることになるのか。
ブランカやマチャード大佐はどうなってしまうのか。
この物語を毎日ちょっとずつ読み進めていくのがとても楽しみです。
すごくおもしろい小説なので、日経新聞を購読されている方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
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