https://www.asahi.com/articles/ASP877VYRP87TIPE016.html?oai=ASP8M64K2P8MPTIL01C&ref=yahoo 【注目の「抗体カクテル療法」とは 効果あるのは確かだが】より
テレビをつけるとオリンピックの番組が放送されています。アスリートたちの活躍には尊敬の念を覚えますが、同時に新型コロナの流行が心配です。緊急事態宣言下のはずなのに関連情報を表示するL字放送にもなっていません。第5波は(この原稿を書いている時点では)治まる気配を見せません。直接的にはともかくとして、間接的にはオリンピックが感染拡大に影響したのは確かでしょう。
菅首相はオリンピック開催と感染制御の両立に苦労しているようです。新たな治療薬として、「抗体カクテル療法」について言及しました。日本では今年の7月に承認されたばかりの治療法です。新型コロナウイルスは、スパイクたんぱく質が細胞の表面にくっつくことで細胞内に侵入します。このスパイクたんぱく質をブロックすれば感染が抑えられます。ワクチンはこのスパイクたんぱく質に対する抗体を体につくらせることで働きます。
抗体カクテル療法は、体に抗体をつくらせるのではなく、外部から抗体を体に入れることで効果を発揮します。2種類の抗体を同時に使うので「カクテル」です。1種類の抗体だけだとウイルスが変異したときに効果が落ちますが、スパイクたんぱく質の異なる部位にくっつく2種類の抗体を同時に使うことでウイルス変異による耐性が起きにくくなります。2カ所同時に変異が起きる確率は小さいからです。
抗体カクテル療法の効果はいくつか海外で報告されていますが、日本で承認されたカシリビマブとイムデビマブを組み合わせた製剤は、入院や死亡のリスクを70%減らすと報じられました。該当する論文を探して読んでみました。「プレプリント」といって専門家による詳細な検証前の論文です。
REGEN-COV Antibody Cocktail Clinical Outcomes Study in Covid-19 Outpatients(https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.05.19.21257469v2別ウインドウで開きます)
論文によると、18歳以上、症状が出て7日以内、新型コロナ陽性と診断されて72時間以内、重症化リスク因子を1つ以上を有している外来患者に対して、抗体カクテル製剤を点滴投与した群と、生理食塩水を点滴投与した対照群とをランダムにわけ、28日間フォローアップして比較しました。2400mgおよび1200mgをそれぞれ対照群と比較したのですが、両者とも似た結果になりました。承認された用量である1200mg群(カシリビマブとイムデビマブそれぞれ600mg)では736人中7人(1.0%)が、対照群では748人中24人(3.2%)が入院または死亡しました。素直に考えると抗体カクテル療法は入院または死亡を約70%減少させると言えます。
他の研究でも抗体カクテル療法が家庭内感染を防ぐことも示されており、効果があるのは確かでしょう。うまく使えば入院患者を減らすことができ医療のひっ迫をやわらげることができそうです。ただ、現時点では供給量が限られており、また投与対象者やタイミングの選択が難しく、第5波を乗り切る切り札にするには難しいでしょう。
厚生労働省の事務通達では「本剤は、現状、安定的な供給が難しい」ため、当面の間、入院治療を要する者を投与対象者として配分を行うとされ、高齢者施設や自宅、ホテル療養中の患者さんは投与の対象になりません。しかし、ご存じの通り、医療ひっ迫のため、酸素投与を必要としない患者さんは入院が困難になりつつあります。
酸素投与が必要なほど悪化した患者さんに抗体カクテル療法が効くかどうかはわかっていません。原理的には効きにくいと考えられます。酸素投与が必要になる前の軽症のうちに投与したいところですが、現在の医療体制ではそうした軽症の患者さんは自宅療養を基本とする方針になっています。医学的にはなるべく速く投与するのが望ましいので、外来にストックしておき診断がついた時点ですぐに投与したいところですが、現在は供給量が少なく在庫の確保はできません。うまく有効活用できるようになればいいのですが。(酒井健司)
酒井健司
酒井健司(さかい・けんじ)
内科医
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/7c5bc33e0658f4061384c06e92b354b60c8e0a49 【抗体カクテル療法導入の病院「重症化ゼロ」 院長「効果ある」】より
宿泊療養施設での利用が始まる新型コロナウイルスの抗体カクテル療法について、7月末から導入しているコロナ専門の大阪市立十三市民病院は、治療した全員が重症化していないことを明らかにした。西口幸雄院長は朝日新聞の取材に「効果がある」と語った。
【写真】大阪市立十三市民病院の西口幸雄病院長。「抗体カクテル療法には効果がある」と話した=2021年8月17日午後4時2分、大阪市淀川区、本多由佳撮影
抗体カクテル療法は、二つの中和抗体を組み合わせた点滴薬を使って重症化を防ぐ。これまでは入院患者に限られていたが、宿泊療養施設での治療も認められるようになった。
西口院長によると、7月29日に同療法での治療を開始し、8月16日までに20~90代の男女計36人に投与した。投与時の症状は軽症か、酸素投与が必要のない「中等症I」だったが、17日時点で重症化した例は確認されていないという。
15日までに投与した32人のうち28人は、投与後に熱が下がったり倦怠(けんたい)感がなくなったりするなど症状が改善。残る4人は一時、酸素投与が必要な「中等症II」に悪化したが、いずれも重症化せずに改善した。
同療法は、50歳以上か、49歳以下でも糖尿病や肥満など重症化リスクのある患者が対象となる。今回投与されたのは、年代別では50代が最多の17人で、次いで60代が7人だった。
https://news.yahoo.co.jp/articles/548bb4f1325abfbf0281c229e7d8a7514173cc27 【「点滴1回だけでいいんです」医師会キーマンが語る抗体カクテルの“意義”】より
『制御不能』とされる新型コロナウイルスの感染急拡大。そんな中、都内の宿泊療養施設で始まった抗体カクテル療法とはどのようなものなのか。東京都モニタリング会議のメンバーで、東京都医師会の猪口副会長に話を聞いた。
抗体カクテル療法の投与対象となるのは、
●50歳以上で、発症から7日以内の軽症者
●基礎疾患などがある50歳未満の軽症者
これらの人に投与すると、重症化リスクを70%減らすことが可能。50歳以上の感染者で、酸素投与を受けていない人は、文句なく使える。
抗体カクテル”ステーション”を作るべき
猪口副会長:
現在、病院に入院しているのは、酸素投与を受けるような中等症、重症者がほとんど。入院待機ステーションでさえ“入院レベル”の中等症患者ばかりで、全員酸素投与を受けている。軽症患者が治療を受けている所で投与することに意味がある。自宅療養者など軽症者を集めて、抗体カクテル療法の点滴を行う”拠点”を作ることが重要。
「点滴1回だけでいいんです」
猪口副会長:
抗体カクテル療法は、2つの中和抗体を生理食塩水に溶かし、それを20分から30分かけて点滴する。回数は1回だけでいい。その後24時間経過観察する。副作用として気持ちが悪くなったり、熱が出る人もいると言うが、それで回復が遅れる訳ではない。一方で、次の日からすごく元気になった人たちもいると聞いている。
同意書必要、『点滴してくれてありがたい』と涙ぐむ人も
猪口副会長:
抗体カクテル療養を受ける場合、同意書が必要。患者はチェックリストに記入し、患者と医師の双方が署名する。同意書には
●抗体カクテル療法が『特例承認』により承認されたこと
●有効性や安全性が改めて評価される予定であること
●同意しない場合でも不利益は一切受けないこと
などの項目がある。
『不利益は一切受けない』とは、仮に抗体カクテル療法を拒否しても、療養施設から追い出されるなどの不利益はないと言うこと。都内の宿泊療養施設で抗体カクテル療法を行っているのは、現在1カ所。今月13日に、軽症者4人に対して投与した。「こういうところで点滴してくれて本当にありがたい」と感激して泣いている人もいた。200人分を確保しているので、さらに投与を進めたい。
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