https://www.chunichi.co.jp/article/34738 【【能楽おもしろ鑑賞法】25 能「翁」 豊作願う水の流れや籾の力】より
「とうどうたらりたらりら」と謡い出す能「翁」のシテ(右から2人目)。笛も特殊な譜を吹く=2008年4月26日、石川県立能楽堂で
金沢能楽会の新春一月定例能は、八年連続となる「翁(おきな)」で開演する。神事の趣がある特別な能。一昨年十二月十日付の本欄では鼓のリズムに着目してその不思議を探った。今回は笛に焦点を当て鑑賞の助けとしたい。
笛方は着座してすぐ「座着き」を吹く。小鼓方が準備する間、せかせかとした演奏ぶりで祈祷(きとう)の開幕を告げる。
シテの謡が始まる。「とうどうたらりたらりら。たらりあがりららりどう」。意味不明だが、哲学者梅原猛氏は豊かな水流を連想する。この後、千歳(せんざい)が「鳴るは滝の水。日は照るとも絶えずとうたり。ありうどうどうどう」と謡うからだ。
このシテ謡に重ねて吹くのが「八調のユリ」。ウラーウラーウラウラウラーウとゆったり揺れる音が耳に残る。これも水の流れか。翁はまず、豊作をもたらす水を呼んでいるのだ。
若い千歳が大地を踏みしめ、翁も天地人の拍子を踏んで舞う。笛はリズムを離れ、軽やかに、厳粛に舞を彩る。
一転、三番叟(さんばそう)の舞「揉(もみ)ノ段」「鈴ノ段」になると、バリバリに乗りだす。中でも鈴ノ段は、緊迫感のあるスローテンポで始まるが、後半はどんどん加速する。「揉は籾(もみ)であり、とてつもない生命のエネルギーの表現」と、ある狂言師。鈴ノ段では種まきのしぐさもある。
天下泰平、国土安穏とことほぐ翁、ひらすら舞う三番叟。ともに土に根差した喜びを味わいたい。 (笛)
◇一月定例能番組(1月6日午後1時、石川県立能楽堂)
▽能「翁」(シテ渡辺荀之助、千歳藪克徳、三番叟炭光太郎)
▽能「鶴亀」(シテ広島克栄)
▽狂言「三本柱」(シテ能村祐丞)
▽能「葛城」(シテ藪俊彦)
http://simpleenergy.g1.xrea.com/noh48.htm 【能の用語解説 今回のテーマ~《「シオリ~感情表現」》】
「能の独特の表現」でもとりあげていますが、ここではこのことに関わるその他のことも交えて解説します。
▽「能面のような顔」というと、喜怒哀楽を表さない、ちょっと人間離れしたような表情のことですが、実は、「能面」というのは、たいへんに“表情”を持っています。
▽なかなか、一素人が、能面を手に取ってながめる機会などはないのですが、舞台上でシテがかけている面が、舞台(照明)の位置や、シテが顔の向きを変えることによって、その演じる人物の感情を見事に表現しているのです。
▽といっても、顔の角度を変える“演出”には、「照ラス」と「クモラス」の二つしかありません。
「照ラス」は、面を少し上に仰向きにすること。喜びを表現します。
「クモラス」は、面を伏せて、物思いに沈んだり、悲嘆に暮れることを表現します。
▽あとは、面の眉のあたりに、指をそろえた手を近づけてゆく「シオリ」です。泣くことの表現です。この時、男は右手、女は左手を使うのが原則です。
▽NHKテレビの能楽の舞台中継を見ていて、いつもがっかりするのは、固定され、角度の決まったたカメラで、シテの面が「アップ」になることです。演者の感情表現は、「身体全体」で表現されるので、「顔」だけをじーっと映されても、何のおもしろみも感じられませんよね。
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