https://www.yomeishu.co.jp/genkigenki/crudem/190425/ 【谷間の百合と呼ばれる可憐な「スズラン」】より
かつては強心・利尿薬、今は毒草
「五月がやってきた こんじきの光と絹のような微風と かぐわしい匂いをつれて したしげに白い花々で誘いかけ…」
ドイツの詩人ハイネは、『神々のたそがれ』(ハイネ著・井上正蔵訳『歌の本』岩波文庫より)の中で、5月をそんな風に詩っています。春から初夏へと移り変わる5月は、若葉が萌え、薫風が頬を通り過ぎていく、美しい季節です。ハイネの詩に出てくる花の香りは、スズランの香りを連想させます。ドイツ語で「Mai-blumen(5月の花)」と呼ばれることから、ドイツではスズランが5月にふさわしい花として愛されていることがわかります。
スズラン
スズランはユリ科の多年性草本で、日本では北海道から中部地方の日当たりのよい高原や草原、林の下に分布し、関西以西の九州などでは山地に生えます。
膜質のさや状葉の間から2~3枚の尋常葉が出て、5月ごろ、さや状葉の中に高さ15~25cmほどの葉よりも低い仮軸が1本出てきます。その上部に総状花序を付け、可憐な白色の小花を開き、芳香があり、秋には赤い果実を結びます。植物全体が清らかで可憐に見えることから、多くの人々に好まれています。
観賞用に植える人も多いのですが、観賞用の多くは「ドイツスズラン」です。ドイツスズランは日本産のスズランと違い、全体が大型で、葉の表が粉末を帯びた緑色、裏は濃緑色、花茎が葉と同じ高さに成長するので判別は容易です。
日本人は古来、あまり強い香りの花を好まず、スズランが詩歌に詠まれるようになったのは、西欧文化が入ってきた明治以降です。
山の上に 心伸々し 子等二人 鈴蘭の花を 掘りて遊べる 島木 赤彦
鈴蘭や 葉陰に咲いて 隠れがち 村上 鬼城
鈴蘭の リリリリリリと 風に在り 日野 草城
漢名の植物名である「鈴蘭」については、花の垂れ下がる形を鈴に例え、全形が蘭のように見えることに由来するようです。別名に「君影草(キミカゲソウ)」「谷間の姫百合」「真珠梅」などがあり、いずれも花の形や英名「Lilly of the Valley」「May lilly」から生まれたと考えられています。
学名はConvallaria majalis var. keiskei (Miq) Makino で、属名は「Convallis(谷)」と「leirion(ユリ)」の合成語、種小名は「5月に咲く」の意で、「5月に谷に咲くユリ」という意味になります。keiskei(伊藤圭介博士)、Makino(牧野富太郎博士)は植物研究者の名前で、日本産のスズランが変種であることを示しています。
花が階段状に咲くので「天国への階段」というロマンチックな名で呼ばれることもあります。かわいらしい花の姿から、バルザックの『谷間の百合』など小説や詩歌の対象にもよく選ばれてきました。島崎藤村は『千曲川のスケッチ』の中で、「谷の百合は一名を君影草とも言って、『幸福の帰来』を意味する…」と紹介しています。
一方、スズランは毒草でもあります。以前、強心や利尿の薬として利用されてきましたが、血液凝固や心不全を起こす副作用があるので、現在は使用されていません。スズランが挿してあったコップの水を飲んで中毒を起こした事件や、新芽のスズランを行者ニンニクの葉と間違えて料理に用いて中毒を起こした報告もあるので、注意が必要です。
スズランは北海道・札幌市では市花に、スウェーデンでは国花になっています。
花言葉は「きっと幸福になります」で、西欧では5月1日にスズランの花束を贈ると、その人に幸福が訪れると言われています。
出典:牧幸男『植物楽趣』
https://tsuchikaze.jp/blogs/dryflower/suzuran?srsltid=AfmBOoqwS86USXfF5oANxfOHugxJvbUMXQzl1zfihkclCf1sL3qNoGpL 【スズランの日は5月1日。大切な人に幸福を!【起源や意味も解説】】より
スズランは純白の花びらと下向きの姿が愛らしい花で、5月1日は「スズランの日」として知られています。
ガーデニングで楽しむ花や、プレゼントに最適な花として人気です。
フランスでは、大切な人へ感謝の気持ちを込めてスズランを贈る「スズランの日」の風習があります。
5月1日の「スズランの日」を前に起源や花の特徴、魅力などを紹介します。
この記事を読めば、「スズランの日」や花の存在がどれだけ特別か理解を深められるでしょう。
スズランの日とは?
スズランの日は、大切な人にスズランの花を贈る特別な日のことです。スズランの日の起源や歴史について紹介します。
スズランの日の起源
スズランの花束
スズランの日は、16世紀のフランス王シャルル9世の時代に始まったとされる古くから伝わる祝日です。起源は1560年、10歳のシャルル9世が側近からスズランの花をプレゼントされたことにあります。幸運を呼ぶとされるスズランの花言葉を知ったシャルル9世は大変感動しました。スズランの象徴的な意味を広めたいと思い、毎年5月1日に宮廷の女性たちにスズランの花を贈るように。これが「スズランの日」の始まりです。
シャルル9世の時代から続くこの風習は、幸運や始まりの象徴として、フランスだけでなく世界中で親しまれています。今も多くの人びとに大切にされており、スズランの花を交換することで幸運を願い新たなスタートを祝います。
5月1日のスズランの日は2つの意味を持っている
ピンクのスズラン
5月1日は、フランスにおいて2つの意味があります。
世界中で労働者の権利を祝うメーデーとして、労働者は公平な労働条件や適切な賃金を求めて声を上げ、デモを行います。同時にスズランの日として、スズランの花を贈り合って幸運と愛を祈るのです。1976年から、メーデーのデモ参加者はスズランをシンボルに採用しています。
スズランの日は街中でスズランの花が売られている ブリキのじょうろに飾られたスズラン
スズランはフランス語で「ミュゲ(Muguet)」。
スズランの日のことを「ジュール ドゥ ミュゲ(jour de muguet)」 と呼びます。
また、スズランの花束は「ブーケ ドゥ ミュゲ(bouquet de muguet)」です。
フランスの街中でスズランの花が売られるスズランの日。
3つの条件を守れば、一般市民も自由にスズランの花を売ることが認められます。
切り花であること 根が付いていないもの 花屋さんとは一定の距離を保つこと
フランスの文化や伝統と深く結びつくスズランの日は、フランスの春の風物詩です。
街中がスズランの花でいっぱいになり、その香りと美しさが人びとを魅了します。
スズランの花言葉
スズランは日本においても「幸福の再来」「平穏」「自然な美しさ」など、さまざまな花言葉があります。色によっても異なる花言葉を以下に紹介します。
白いスズランの花言葉
白いスズランの花言葉は「純粋」「純潔」「純愛」「希望」などです。
一般的にも白い花は「純粋」「無垢」といった意味を持ち、白いスズランは特にそのイメージにふさわしい花です。白いスズランは可憐で清らかな印象を与える花として知られています。
ピンクのスズランの花言葉
ピンクのスズランの花言葉は「愛らしい」「かわいらしい」です。
スズランの花の特徴とピンク色の印象をそのまま表現したような花言葉に、花と色の女性的な魅力がはっきり表れています。
スズランに関する豆知識
ここからは知っておくべきスズランの豆知識を2つ紹介します。
スズランは3大フローラルノートの花
スズランとアロマの瓶
スズランの香りは、バラ、ジャスミンと並び3大フローラルノートに名を連ねます。
香りが強いこれらの花は、香水やアロマテラピーなどによく使用されます。
スズランは日本の花々の中でも特別な存在です。
俳句にも頻繁に詠まれるスズランの、清らかで洗練された香りは遠くまで、春の訪れとともに届くことがあります。また、神聖な香りは神事など宗教儀式にも用いられます。
日本の豊かな自然と文化に深く溶け込んだスズランは、心を豊かにしてくれる花です。
スズランには毒がある
スズランは、コンバラトキシンやコンバロシドという強い毒物を含んでいる植物です。
特に毒が多い根や花を食べたり飲んだりすると、吐き気や頭痛、めまい、低血圧、心筋麻痺などの重い症状が起こります。
発症は早ければ1時間以内にもなり、最悪の場合は命を落とすことも。
スズランを生けた花瓶の水も毒が溶け出しているので、飲むと中毒になる可能性があります。
また、植え替えや植え付けの際には、ゴム製の手袋を着用するなど、皮ふとの直接接触は避けてください。子どもやペットが近くにいない環境での作業をおすすめします。
スズランにまつわる逸話
見た目の美しさと心地よい香りで多くの人に親しまれているスズランには、数々の伝説が残されています。スズランの花言葉は花の見た目や特徴だけではなく、物語での役割にも影響されているようです。
聖母の涙
涙の形にも見えるスズラン
あるキリスト教の伝説から、スズランには「聖母の涙」という別名がつけられています。
イエス・キリストが十字架にかけられ母マリアが涙した時、その涙が流れ落ちた地面からスズランが咲いたそうです。
スズランが春に咲くこと、花の白さが純真さを象徴していること、形が涙のようであることから聖母マリアの純粋さや悲しみを表しているとされています。
スズランはただの花ではなく、深い意味を持つ花として大切にされています。
アイヌの伝説
群生するスズラン
アイヌの伝説によると、酋長の娘「カパラペ」と勇者「キロロアン」は互いに惹かれ合っていました。
キロロアンは毒矢を携えて山へ熊狩りに行き見事に熊を仕留めるも、自らも重傷を負い、血まみれで息絶えてしまいます。
カパラペはキロロアンのそばに駆け寄り、自らの喉を突き刺して命を絶ち、二人の血は周囲のスズランの花を真紅に染め上げました。
この伝説により、スズランは愛と犠牲の象徴となったのです。
森の守護神セントレオナード
スズランのブーケ
かつてヨーロッパの深い森の中で、守護神セントレオナードは凶暴な大蛇と遭遇しました。
戦いは三日三夜に及び、森はその激しさに震えました。
セントレオナードは勇敢に戦い、ついに大蛇を倒しますが、深い傷を負い血がしたたり落ちます。やがてその血が染み込んだ場所から、純白のスズランが息吹を得て花開いたと言われています。この伝説は勇気と犠牲、そして新たな命の誕生を象徴する物語として語り継がれてきました。
おわりに
スズランの日の起源や花の特徴、魅力などについて紹介しました。
フランスでは5月1日のスズランの日は一般的ですが、日本ではまだあまり知られていません。
この特別な日に大切な人への感謝の気持ちを込めてスズランの花を贈ってみてはいかがでしょうか。
心からのメッセージを添えれば、素敵なサプライズになること間違いなしです。
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