http://www.ondoku.sakura.ne.jp/nihongorizumu1onsuritu.html 【日本語表現のリズム】より(1)音数律
日本語表現のリズムといえば、575(俳句)や57577(短歌)がすぐに浮かぶ。七五調や五七調などの定型詩も浮かぶ。日本語表現には、五音と七音との繰り返しの音数律が多い。その他の音数の繰り返しももちろんある。
本稿では、音数律でリズムを形作っている日本語表現を種類別に分けて大雑把な一覧を作成してみようと思う。わたしのコメントはひかえて、一目見て、日本語表現の音数律にはこんなリズムの作品があるんだという資料集を作ってみようと思う。リズムを考える時の資料メモとして、これを作成してみようと思う。
資料として取り上げている俳句、短歌、詩、その他作品は、わたしが目についた出たとこの作品を、その場その場で順不同で拾い出して、書き出している。系統だった採集と配列ではない。今後も、付け加えていきたい。
参考・音数律と拍数
短歌 57577 俳句、川柳 575 片歌 577
旋頭歌 577/577 長歌 57×n+7 連歌 (575/77)×n
仏足石歌 575777 和讃、今様 75×4 または85×4
謡曲 575+75×n 浄瑠璃 75×n 都都逸 7775
★★俳句★★
≪575の音数律をもつ。季語を入れることが原則とする。俳諧の連歌の発句が独立したもの。≫
菜の花や 月は東に 日は西に 与謝蕪村 575
梅雨晴れや ところどころに 蟻の道 正岡子規 575
古池や かわずとびこむ 水の音 松尾芭蕉 575
夏草や 兵どもが 夢の跡 松尾芭蕉 575
やれ打つな 蠅が手をすり 足をする 小林一茶 575
毛布あり 母のごとくに あたたかし 松本たかし 575
さじなめて 童たのしも 夏氷 山口誓子 575
柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺 正岡子規 575
ゆさゆさと 大枝ゆるる 桜かな 村上鬼城 575
赤とんぼ 葉末にすがり 前のめり 星野立子 575
朝顔に つるべとられて もらい水 加賀千代女 575
蜻蛉釣り 今日はどこまで 行ったやら 加賀千代女 575
いくたびも 雪の深さを 尋ねけり 正岡子規 575
★★川柳★★
≪575の音数律をもつ。切れ字、季語などの制約がない。滑稽、風刺が特色。≫
芭蕉翁 ぼちやんといふと 立留り 江戸古川柳 575
はへば立て 立てば歩めの 親心 江戸古川柳 575
本降りに なつて出てゆく 雨やどり 江戸古川柳 575
寝ていても 団扇のうごく 親心 江戸古川柳 575
逃げしなに 覚えて居ろは 負けたやつ 江戸古川柳 575
孝行のしたい時分に親はなし 江戸古川柳 575
★★短歌★★
≪漢詩に対して日本固有の歌を和歌といった。和歌は、長歌、短歌、旋頭歌、片歌などの総称だが、平安時代以降は主に短歌をさすようになった。短歌は、57577の音数律をもつ。≫
東の野にかぎろひの 立つ見えて かへりみすれば 月かたぶきぬ 柿本人麻呂 57577
道の辺に 清水流るる 柳かげ しばしとてこそ 立ちどまりつれ 西行法師 57577
見渡せば 花も紅葉も なかりけり 浦の苫屋の 秋の夕暮れ 藤原定家 57577
ふるさとの 訛なつかし 停車場の 人ごみの中に そを聴きにゆく 石川啄木 57577
みちのくの 母のいのちを 一目見ん 一目見んとぞ ただにいそげる 斎藤茂吉57577
ひぐらしの 一つがなけば 二つなき 山みな声と なりて明けゆく 四賀光 57577
隣屋に 書読む子らの 声聞けば 心に沁みて 生きたかりけり 島木赤彦 57577
楽しみは まれに魚煮て 児らみなが うましうましと いひて食ふ時 橘曙覧 57577
山ねむる 山のふもとの 海ねむる かなしき春の 国を旅ゆく 若山牧水 57577
★★長歌★★
≪長歌は、5音句と7音句とが57575757と交互に続き、最後だけ7となる音数律である。普通これに反歌(多くは短歌形態)を伴った。≫
山部赤人の長歌
天地の 分かれし時ゆ 57 神さびて 高く貴き 57
駿河なる 富士の高嶺を 57 天の原 振りさけ見れば 57
渡る日の 影も隠らひ 57 照る月の 光も見えず 57
白雲の い行きはばかり 57 時じくぞ 雪は降りける 57
語り継ぎ 言い継ぎ行かむ 57 富士の高嶺は 7 ★★旋頭歌★★
≪旋頭歌は、577577の音数律をもつ。和歌の歌体の一つである。元来ふたりによって唱和された三句ずつ二首の問答歌が合わさって一首となったものである。ひとりで作るようになっても問答の性質を残して、第三句と第六句が同じ、または近似したものが多く、第三句は言いきりになっている。≫
柿本朝臣人麻呂の旋頭歌
春日(はるひ)すら 田に立ち疲(つか)る 君は哀(かな)しも 577
若草の 妻なき君は 田に立ち疲る 577
良寛の旋頭歌
やまたづの 向ひの岡に さを鹿たてり 577
神無月(かみなづき) しぐれの雨に ぬれつつ立てり 577
★★今様★★
≪今様とは、当世風・今風という意味である。平安末期に流行した声楽
をさす。75757575の音数律である。この韻律は、現代の唱歌
などに受け継がれている。以下の引用は、「梁塵秘抄」と「いろは歌」
と唱歌からである≫
仏は常に いませども 75
現(うつつ)ならぬぞ あはれなる 75
人の音せぬ 暁に 75
ほのかに夢に 見えたまう 75
遊びせんとや 生まれけむ 75
戯れせんとや 生まれけむ 75
遊ぶ子どもの 声聞けば 75
わが身さへこそ 揺るがるれ 75
「梁塵秘抄」
いろはにほへと ちりぬるを 75
わかよたれそ つねならむ 65
うゐのおくやま けふこえて 75
あさきゆめみし ゑひもせず 75
「いろは歌」
我は海の子
作詞者・不明
作曲者・不明
我は海の子 白浪の 75
さわぐいそべの 松原に 75
煙たなびく とまやこそ 75
我がなつかしき 住家なれ。 75
蛍の光
原曲・スコットランド民謡
作詞者・稲垣千頴
蛍の光、 窓の雪、 75
書読む月日、 重ねつゝ、 75
何時しか年も、 すぎの戸を、 75
開けてぞ今朝は、別れ行く。 75
花
作詞者・竹島又次郎
作曲者・滝廉太郎
春のうららの 隅田川 75
上り下りの 舟人が 75
かいのしずくも 花と散る 75
ながめを何に たとうべき 75
今は山中 今は浜 75
今は鉄橋 渡るぞと 75
思う間もなく トンネルの 75
やみを通って 広野原 75
どこかで春が
百田宗治
どこかで「春」が 生まれてる、 75
どこかで水が ながれ出す。 75
どこかで雲雀が 啼いている、 85
どこかで芽の出る 音がする。 85
山の三月 東風吹いて 75
どこかで「春」が 生まれてる。 75
お日さん、雨さん
金子みすず
ほこりのついた しば草を 75
雨さんあらって くれました。 85
あらってくれた しば草を 75
お日さんほして くれました。 75
こうしてわたしが ねころんで 85
空を見るのに よいように。 75
★★都都逸★★
≪江戸時代以降に発達した俗謡である。もともと唄うことを前提に作られた
ものなのでリズムを大切にしている。「七、七、七、五」形式の26文字
である。男女の情の機微を表現した内容が多くある。「七、七、七、五」
を更に細かく 「三・四、四・三、三・四、五」の字数に合わせることが
原則になっている。≫
何がなんでも 添わねばならぬ 添うて苦労が してみたい
7(34) 7(43) 7(34) 5
↓
苦労する身は 何いとわねど 苦労し甲斐の あるように
7(34) 7(43) 7(34) 5
↓
あの時あなたに 会いさえせねば わたしゃ苦労の 味知らず
7(34) 7(43) 7(34) 5
寝ても覚めても 忘れぬ君を 焦がれ死なぬは 異なものじゃ
7(34) 7(43) 7(34) 5
★★小唄・小歌★★
≪公的な儀式歌謡の大歌に対して、民間で流行した歌謡のことをいう。気軽
に口ずさめる短い通俗的な民間歌謡のこと。特定の音数律をもたない。≫
お座敷小唄
作詞・不詳
作曲・陸奥 明
1、富士の高嶺に 降る雪も 75
京都先斗町に 降る雪も 75
雪に変わりは ないじゃなし 75
とけて流れりゃ 皆同じ 75
2、好きで好きで 大好きで 65
死ぬ程好きな お方でも 75
妻と言う字にゃ 勝てやせぬ 75
泣いて別れた 河原町 75
船頭小唄
作曲: 中山晋平
作詞: 野口雨情
1. おれは河原の 枯すすき 75
おなじお前も 枯すすき 75
どうせ二人は この世では 75
花の咲かない 枯すすき 75
2. 死ぬも生きるも ねえお前 75
水の流れに なに変ろ 75
おれもお前も 利根川の 75
船の船頭で 暮そうよ 75
★歌舞伎台詞★★
≪七五調が多い。語りに軽妙な感じのリズムが作り出している。≫
「三人吉三」のお嬢吉三の台詞
月もおぼろに 白魚の かがりもかすむ 春の空、つめてえ風も ほろ酔いに 心持よく うかうかと、浮かれ烏の ただ一羽、ねぐらへ帰る 川端で(以下略)
「白浪五人男」の弁天小僧菊之助の台詞
知らざァ言って 聞かせやしょう。浜の真砂と 五右衛門が 歌に残した ぬすっとの 種はつきねえ 七里ガ浜、その白浪の 夜働き、以前をいやあ 江の島で 年季づとめの 稚児が淵(以下略)
「白浪五人男」の南郷力丸の台詞
さてどんじりに 控えたは、潮風荒き こゆるぎの そなれの松の 曲がりなり 人となったる 浜育ち、仁義の道も 白河の 夜舟へ乗りこむ 舟盗人、波にきらめく 稲妻の 白刃でおどす 人殺し(以下略)
★古文★★
作者不明「平家物語」
祇園精舎の 鐘の声、 75 諸行無常の 響きあり。 75
娑羅双樹の花の色、 65 盛者必衰のことわりをあらはす。 854
おごれる人も久しからず、 76 ただ春の夜の夢のごとし。 76
たけき者もつひには滅びぬ、 644 ひとへに風の前の塵に同じ。 466
(七五調のリズムを基本とした対句表現が独特な味をかもし出してる)
紀貫之「土佐日記」
男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。 4335、4364。
鴨長明「方丈記」
ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたる例なし。545、3、333。435、46、465。
吉田兼好「徒然草」
つれづれなるままに、日くらし、硯にむかひて、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。 45、4、44、4543、66、68。
★★童謡★★
≪子どものために作られた歌。子どもがうたう歌。各連内部の各行とそ の順序の音数が一定して繰り返す。≫
赤とんぼ 作詞:三木露風 作曲:山田耕筰
1夕やけ小やけの 赤とんぼ445 85 負われて見たのは いつの日か 445 85
2山の畑の くわの実を 345 75 小かごにつんだは まぼろしか 345 75
待ちぼうけ 作詞:北原白秋 作曲:山田耕筰
1、待ちぼうけ 待ちぼうけ 55 55 或る日せっせと 野良かせぎ 345 75
そこへ兎が とんで出て 345 75 ころり転げた 木のねっこ 345 75
2、待ちぼうけ 待ちぼうけ 55 55 しめたこれから 寝て待とか 345 75
待てばえものは 駈けてくる 345 75 兎ぶつかれ 木のねっこ 345 75
うらしまたろう 作者不詳
むかし むかしうらしまは 335 65たすけた かめに つれられて 435 75
りゅうぐうじょうへきてみれば 723 77 えにもかけないうつくしさ 345 75
おとひめさまの ごちそうに 75 75 たいや ひらめの まいおどり 345 75
ただ めずらしく おもしろく 255 月日の たつのも ゆめのうち 445 85
はなさかじいさん 石原和三郎作詞
うらのはたけでぽちがなく 345 75 しょうじきじいさん ほったれば 445 85
おおばん こばんが ザクザクザクザク 44888
いじわるじいさんぽちかりて 445 85 うらのはたけを ほったれば 345 75
かわらや かいがら ガラガラガラガラ 44888
ももたろう 作者不詳
ももたろうさん ものたろうさん 77 77 おこしにつけた きびだんご 75 75
一つ わたしに くださいな 345 75
やりましょう やりましょう 55 55 これから おにの せいばつに 435 75
ついて 行くなら やりましょう 345 75
いっすんぼうし 巌谷小波
ゆびに たりない いっすんぼうし 347 77小さな からだに 大きな のぞみ 4443 78 おわんの ふねに はしの かい 4332 75
京へ はるばる のぼりゆく 345 75
京は さんじょうの だいじんどのに 357 87 かかえられたる いっすんぼうし 77 77 ほうしほうしと お気に入り 345 75 ひめの おともで きよみずへ 345 75
いなばのしろうさぎ 石原和三郎
大きな ふくろを かたにかけ 445 85
だいこくさまが 来かかると 75 75
ここに いなばの 白うさぎ 345 75
かわを むかれて あかはだか 345 75
だいこくさまは あわれがり 75 75
「きれいな 水に みをあらい 435 75
がまのほわたに くるまれ」と 345 75
よくよく おしえて やりました 445 85
★★物語文★★
≪定型の音数律をもつ物語詩または散文詩とでも言えるかも。子どもたちは
口当たりのよさ、調子よさ、リズム感の快さから、楽しんで読む≫≫
羽曽部 忠「おむすび ころりん」(光村 1年上)
むかし むかしの はなしだよ。 345 75
やまの はたけを たがやして、 345 75
おなかが すいた おじいさん。 435 75
そろそろ おむすび たべようか。 445 85
つつみを ひろげた その とたん、 445 85
おむすび ひとつ ころがって、 445 85
ころころ ころりん かけだした。 445 85
まて まて まてと おじいさん、 2235 75
おいかけて いったら おむすびは、 545 95
はたけの すみの あなの なか、 435 75
すっとんとんと とびこんだ。 75 75
のぞいて みたが まっくらで、 435 75
みみを あてたら きこえたよ。 345 75
おむすび ころりん すっとんとん。 446 446
おむすび ころりん すっとんとん。 446 446
これは これは おもしろい。 335 65
ふたつめ ころんと ころがすと、 445 85
きこえる きこえる おなじ うた。 445 85
おむすび ころりん すっとんとん。 446 446
おむすび ころりん すっとんとん。 446 446
夏目漱石「草枕」の導入部。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とか
くに人の世は住みにくい。 75、75、75、455.
★★唱歌★★
≪明治以降、学校の音楽教育でうたわれた歌。文部省唱歌のこと。音
数律は、童謡と同じ。≫
「夕焼け小焼け」
作詞:中村雨紅
作曲:草川 信
夕やけ 小やけの 赤とんぼ 445
おわれて 見たのは いつの日か 445
夕やけ 小やけの 赤とんぼ 445
とまって いるよ さおのさき 445
「ふじの山」
作詞:巌谷小波
文部省唱歌
あたまを 雲の 上にだし 435(75)
四方の 山を 見下ろして 435(75)
かみなりさまを 下にきく 435(75)
ふじは 日本一の 山 372
青ぞら 高く そびえたち 435(75)
からだに 雪の きものきて 435(75)
かすみの すそを とおくひく 435(75)
ふじは 日本一の 山 372
★★わらべうた★★
≪昔から子どもに歌いつがれてきた歌。遊戯唄、子守唄などが多い。作詞
者不詳が多い。特定の音数・韻律はもたない。「わらべうた」のリズム
にあわせて、体を動かし、遊び楽しみながら、音読することができる。≫
ホー ホー ほたるこい 25
あっちの水は 苦いぞ 74
こっちの水は 甘いぞ 74
うさぎ うさぎ 33
何見て はねる 43
十五や お月さん 45
見て はねる 23
かくれんぼするもの よっといで 95
じゃんけんぽんよ あいこでしょ 75
もういいかい まあだだよ 55
もういいかい まあだだよ 55
もういいかい もういいよ 55
ねんねん ころりよ おころりよ 445
ぼうやは よい子だ ねんねしな 445
ぼうやの おもりは どこへ 行った 445
あの山 こえて 里へ 行った 445
★★軍歌★★
≪軍隊の愛国心と士気を高めるために作られ、歌われた歌。七五調が多いが、
ほかもある≫
暁に祈る
作詞:野村俊夫 作曲:古関裕而
1、
あぁ あの顔で あの声で 75
手柄頼むと 妻や子が 75
ちぎれる程に 振った旗 75
遠い雲間に また浮かぶ 75
2、
あぁ 堂々 の 輸送船 75
さらば祖国よ 栄えあれ 75
遥かに拝む 宮城の 75
空に誓った この決意 75
ラバウル小唄
作詞:若杉雄三郎 作曲:島口駒夫
1
さらば ラバウルよ また來るまでは 77
しばし 別れの 涙がにじむ 77
戀し懷し あの島 見れば 77
椰子の 葉かげに 十字星 75
2
船は 出てゆく 港の沖へ 77
いとし あの娘の 打ちふるハンカチ 78
声をしのんで こころで泣いて 77
両手 合わせて ありがとう 75
★★ことわざ(かるた)★★
≪音数律は自由であるが、一文節や連文節や一句全体が7音節を形成するの
が多い。7音に集結するのが、おさまりが一番いいからのようだ。
「かわいい子には旅をさせ」「かわいい子には旅をさせよ」の「よ」を
カットしているのは、7音結句がおさまりがいいからと考えられる。ま
た、句末が5音になっている個所も多い。5音も、おさまりがいいから
と考えられる。2音、3音、4音は、一単語としての区切りとなっている≫
い 犬も歩けば棒にもあたる 347(77)
ろ 論より証拠 43(7)
は 花よりだんご 43(7)
に にくまれっ子世にはばかる 66
ほ 骨折り損のくたびれ儲け 77
へ 下手の横好き 34(7)
と 灯台下暗し 45(9)
ち ちりも積もれば山となる 345(75)
り 良薬口に苦し 433(46)
ぬ ぬかに釘 32(5)
る 類は友をよぶ 35
お 老いては子に従う 424(46)
わ 笑う門には福来たる 345(75)
か かわいい子には旅をさせ 435(75)
よ 宵っぱりの朝ねぼう 65
た 旅は道ずれ、世は情け 75
れ 礼もすぎれば無礼になる 3442(76)
そ 損をして、得をとる 55
つ 月とすっぽん 34(7)
ね 念には念をいれ 45
な 泣きつらに蜂 52(7)
ら 楽あれば苦あり 53
む 無理が通れば道理引っこむ 3434(77)
う 嘘から出たまこと 423(63)
の のど元すぎれば熱さ忘るる 4434(447)
お 鬼に金棒 34(7)
く 臭いものには蓋 342(72)
や 安物買いの銭失い 76
ま 負けるが勝ち 42
け 芸は身を助ける 36
ふ 武士は食わねど高楊枝 345(75)
こ 転ばぬ先のつえ 432(72)
え 縁の下の力もち 335(65)
て 出る杭は打たれる 54
あ 頭かくして尻かくさず 76
さ 猿も木から落ちる 333
き 聞いて極楽見て地獄 3423(75)
ゆ ゆだん大敵 34(7)
め 目の上のたんこぶ 54
み 身から出たさび 52(7)
し 知らぬが仏 43(7)
ひ 人のふり見て我がふり直せ 3443(77)
も 門前の小僧習わぬ経を読む 5345
せ 急いてはことを仕損じる 435
す 好きこそものの上手なれ 435(75)
住めば都 33(6)
猫に小判 33(6)
善は急げ 33(6)
馬鹿のひとつ覚え 333(36)
煮ても焼いても食えぬ 343(73)
馬鹿も休みやすみ言え 3332(362)
時は金なり 34(7)
怪我の功名 34(7)
なくて七癖 34(7)
鬼に金棒 34(7)
うそも方便 34(7)
月とすっぽん 34(7)
顔にどろをぬる 35(8)
類は友を呼ぶ 35(332)
恩をあだでかえす 333
負けるが勝ち 42(6)
論より証拠 43(7)
知らぬは仏 43(7)
ひとはたあげる 43(7)
急がば回れ 43(7)
高みの見物 44(8)
びんぼうひまなし 44(8)
たなからぼたもち 44(8)
火中の栗を拾う 433(46)
転ばぬ先のつえ 433(46)
枯れ木も山のにぎわい 434(47)
飛ぶ鳥後をにごさず 434(47)
箸にも棒にもかからない 445
立板に水 52(7)
焼け石に水 52(7)
身から出たさび 52(7)
七転び八起き 53(8)
習うより慣れろ 53
ぬれぎぬをきせる 53
猫の手も借りたい 54
どんぐりの背比べ 55
雨降って地固まる 55
飼い犬に手をかまれる 524(56)
石橋をたたいて渡る 533(56)
早起きは三文の得 57
井の中のかわず大海を知らず 5353(88)
一寸の虫にも五分の魂 5434(97)
親の心子知らず 64
縁の下の力持ち 65
案ずるより産むがやすし 66
聞いて極楽見て地獄 75
飛んで火に入る夏の虫 75
渡る世間に鬼はなし 75
触らぬ神にたたりなし 75
安物買いの銭失い 76
人のふり見てわがふり直せ 77
帯に短したすきに長し 77
おぼれる者はわらをもつかむ 77
壁に耳あり障子に目あり 77
坊主憎けりゃ袈裟まで憎い 77
落は苦のたね苦か楽のたね 77
おぼれる者はわらをもつかむ 77
無理が通れば道理がひっこむ 78
★★標語★★
≪標語は、警句の働きが最大の役割だから、倒置文が多くみられる。先頭に
来ると、その語が強調される。意味内容では、問いかけ文や誘いかけ文で
始まる標語が多くある。また、標語には、同音数の繰り返しが多い。「5
445」「575」などが多くある。第一句が「5」音で始まり、第二
句が「4」音か「3」音の場合は第四句まであり、第二句が「7」音の場
合は俳句5・7・5で結句している標語が殆どである。標語は、口でころ
がして言ったときの、リズム調子のよさ、軽快さ、爽快感があるリズムの
文句が多い≫
とびだすな はしる車が かみつくぞ 575
はみがきで むしば やっつけ きれいな歯 575
おかあさん へやの そうじは ぼくがする 575
ちりひとつ ひろう子 いい子 いい心 575
もういちど よく見てわたれ 手をあげて 575
よく見たね 車こないね わたれるね 575
あわてるな 黄色は すぐに 赤信号 575
じてんしゃも、いちじていしで、みぎひだり 575
待つゆとり ゆずる心に 事故はなし 575
あんぜんは 一人一人の 思いやり 575
ふみきりだ 鳴らせ 心の 警報機 575
ポイ捨ては しぜんはかいの はじまりだ 575
わすれるな あそんだ あとの あとしまつ 575
おいかけた ボールのさきに じこがまつ 575
歯みがきが ごちそうさまの しめくくり 575
いそぐとも 守れスピード 車間距離 575
じてんしゃの ライトをつけて じこぼうし 575
しめようね シートベルトは いのちづな 575
かていゴミ ぶんべつすれば しげんゴミ 575
とびだすな 車は急に とまれない 575
やめようね あぶない自転車 一人のり 575
あんぜんは 車と 人のゆずりあい 575
ねらってる あなたのバック かごの中 575
きえたかな 気になる あの火 もう一度 575
ゴミひろい にっこり わらう よい子ども 575
みぎ ひだり しっかり 見てから わたろうよ 5445(585)
あぶないよ かけだし とびだし まがりかど 5445(585)
しめたかな げんかん うらぐち まどのカギ 5445(585)
しょくじまえ 手あらい さっぱり きもちいい 5445(585)
かみくずを ひろって こころも さっぱりと 5445(585)
すききらい なんでも たべよう のこさずに 5445(585)
すてきです しろい歯 かがやく その笑顔 5445(585)
やめようね じぶんに されたら いやなこと 5445(585)
むしばはね はみがき ひとつの こころがけ 5445(585)
防犯は 鍵かけ 声かけ 心がけ 5445
手を合わせ にっこり 笑顔で「いただきまーす」5447(587)
あそびません こわい 車の とおる道 6345
なかよし よい子は おそうじ じょうず 4443
「どうしたの」 さしのべようよ やさしい心 577
おはようの 声ひびきあう 朝の学校 577
はやね はやおき よくねむれ 345
マッチ一本 火事のもと 75
よい子はここで遊ばない 75
注意一秒 けが一生 76
命落とすな スピード落とせ 77
飲んだら乗るな 乗るなら飲むな 77
★★キャッチコピー★★
≪七五調、五七調、短歌や俳句だけでなく、通常文や宣伝意図をずばりと言
い得たフレーズのキャッチコピーが多い。最近は、後者の宣伝文が多くあ
る。以下には音数律をもつキャッチコピーを列挙してみた。最近のキャッ
チコピーは、以前ほど音数律にこだわらないのが多くなった。≫
ありがとう、いいくすりです 57 太田胃散
目指してる 未来がちがう 57 シャープ
くしゃみ三回ルル三錠 76 ルル
セブンイレブン いい気分 75 セブンイレブン
コクがあるのにキレがある 75 アサヒスーパードライ
痛くなったら すぐセデス 75 セデス
三井住友ビサカード 75 三井住友銀行
明日の自分に借りるのだ 75 アコム
セブン・イレブン・いい気分 75 セブンイレブン
三井住友VISAカード 75 三井住友銀行
歯並びなんて 気にしない? 75 はならびジャパン
お口くちゃくちゃモンダミン 75 モンダミン
貼ってすっきりサロンパス 75 サロンパス
ゴホンといえば 龍角散 76 龍角散
キンチョーの夏、日本の夏 77 キンチョウ
何も足さない 何も引かない 77 サントリー
おいらはボイラー 三浦のボイラー77 三浦ボイラー
それにつけても おやつはカール 77 カール
電話でネット、そんぽ24 77 そんぽ24
24時間 戦えますか 77 リゲイン24
スカッとさわやかコカ・コーラ 85 コカコーラ
ラッパのマークの正露丸 85 正露丸
目のつけどころがシャープでしょ 85 シャープ
お口の恋人 ロッテガム 85 ロッテ
100人乗ってもだいじょうぶ 85 稲葉物置
んーっまずい、もういっぱい 66 キューサイ青汁
ピッカピカの一年生 66 小学館
お尻だって洗ってほしい 67 TOTO
清く正しく美しく 345(75) 宝塚歌劇団
目の疲れは、奥へ奥へと攻めて来る 675 Q&Pコーワアイ
六十代 寒い夜ほど よく起きる 675 ノコギリヤス
わんぱくでもいい たくましく 育ってほしい 857 丸大ハム
いいもの、ゴロゴロ、ワウワウ 444 WOWOW
ぶり返す、その痛み、ちゃんと治したい! 558 痛散湯
高麗人参で ピンピン強く逞しく 775 金氏高麗人参
折れない自信 あの喜びが甦る! 775 金氏高麗人参
美ックリするほど ぐっぐっーと アップ 863
サッとひと塗り 白肌マジック 78 ラモーナ化粧品本舗
★★語呂合わせ★★
≪暗誦用の唱えコトバ。日本史、西洋史、暦、電話番号などに多くある。
唱えるのに調子がよく作成されている。言葉の語呂合わせなので、5音7音
は上記したものと比べて格段に少なくなっている。2音、3音の組み合わせ
が多い。4音、5音、6音、7音、8音が多い。同数音の繰り返しも多くあ
る。どの語群が年号であるかを知ることが大事となる。≫
日本史の例
538年 仏教伝来 「ごみ屋が拾った仏教」 84
593年 聖徳太子が摂政となる 「国民のため、と太子立つ」 76
607年 小野妹子が遣隋使となる 「群れなすカモメ妹子行く」 75
645年 大化の改新 「蒸し米炊いて祝う大化の改新」 738
701年 大宝律令 「大宝律令縄一つ」 85
710年 平城京に遷都 「なんと綺麗な平城京」 76
794年 平安京遷都 「鳴くよウグイス(坊さん)平安京」 76
894年 遣唐使廃止 「白紙に戻す遣唐使」 75
1192年 源頼朝が鎌倉に幕府 「いい国つくろう鎌倉幕府」 87
1333年 鎌倉幕府滅亡 「鎌倉の一味散々敗れたる」 575
1549年 キリスト教伝来 「以後よく広まるキリスト教」 86
1600年 関ヶ原の戦い 「誰でも知ってる関ヶ原1600年」 4458
1603年 徳川家康が江戸幕府開く「江戸に広まる三河の家康」744
1853年 黒船来航 「いやーござったペリーさん」 75
1868年 明治維新 「一つやろうや明治維新」 76
1871年 廃藩置県 「もう言わないで藩の名を」 75
1872年 学制・富岡製糸工場「いや、何をおいてもまず学べ」275
1889年 大日本帝国憲法公布「アジアでいち早く憲法を作る」 457
1923年 関東大震災 「震災で人、国散々」 544
1941年 太平洋戦争始開戦 「行くよ、一途に真珠湾」 345
世界史の例
870年 フランク王国分裂 「離ればなれのフランク王国」 78
1096年 第一回十字軍 「イスラムととっくむ十字軍」 545
1453年 東六間帝国滅亡 「いーよ、降参」 7
1492年 コロンブスのアメリカ大陸到着「コロンブス石の国発見」59
1688年 名誉革命起こる 「色はやっぱり名誉革命」 77
1840年 アヘン戦争 「アヘンは、嫌よー」 44
1914年 第一次世界大戦勃発 「行く意思あるのか一次大戦」 447
1917年 ロシア革命 革命得意なソビエト政権 4444
1920年 国際連盟成立 「平和には特に大きな国際連盟」 578
1939年 第二次世界大戦開戦 「戦苦しい二次大戦」 77
暦の例
西向く士は小の月(さむらい、十一月のこと) 455
電話番号の例
テレビショップで語呂合わせで申込電話番号を紹介している。また、友人、
知人、会社、学校などの電話番号を語呂合わせで暗誦している。
例。344-5710(みよしー来ないわ)
541-4141(こよいーよいよい)
441-1942(よよいー行くように)など
数学の例
円周率=3.14 159265 358979 32 38 46 26
43 38 3279 5028 841971
産医師(4)異国に向こう(7)産後厄なく(7)産に(3)産婆(3)四
郎(3)次郎(3)死産(3)産婆(3)産に泣く(5)御礼には(5)早
よ行くない(5)
ルート2の平方根 ひとよ(3)ひとよに(4)ひとみごろ(5)
ルート3の平方根 人並みに(5)奢れや(4)
ルート5の平方根 富士山麓(6)オウム鳴く(5)
ルート7の平方根 菜に虫イナゴ(7)
★★地口★★
≪だじゃれの一種のコトバ遊び。唱えるのに調子がよい。5音7音が多い≫
言わぬが花の吉野山 75
驚き桃の木山椒の木 445
アイムソーリー、ヒゲソーリー、髭を剃るならカミソーリー 7575
願ったり叶ったり、晴れたり曇ったり 5545
馬勝った(美味かった)、牛負けた 55
「いずくも同じ秋の夕暮れ」→「水汲む親父秋の夕暮れ」 77
「しづ心無く花の散るらむ」→「しづ心無く髪の散るらむ」 77
★★定型詩★★
≪全体の行数や、一行の音数に一定の形式をもっている詩。≫
初恋
島崎藤村
まだあげ初めし前髪の 7・5
林檎のもとに見えしとき 7・5
前にさしたる花櫛の 7・5
花ある君と思ひけり 7・5
やさしく白き手をのべて 7・5
林檎をわれにあたえしは 7・5
薄紅の秋の実に 7・5
人こひ初めしはじめなり 7・5
千曲川旅情の歌
島崎藤村
小諸なる古城のほとり 5・7
雲白く遊子悲しむ 5・7
緑なすはこべは萌えず 5・7
若草も藉くによしなし 5・7
しろがねの衾の岡辺 5・7
日に溶けて淡雪流る 5・7
あたたかき光はあれど 5・7
野に満つる香も知らず 5・7
浅くのみ春は霞みて 5・7
麦の色わづかに青し 5・7
旅人の群はいくつか 5・7
畠中の道を急ぎぬ 5・7
落葉松
北原白秋
からまつの林を過ぎて、 5・7
からまつをしみじみと見き。 5・7
からまつはさびしかりけり。 5・7
たびゆくはさびしかりけり。 5・7
からまつの林を出でて、 5・7
からまつの林に入りぬ。 5・7
からまつの林に入りて、 5・7
また細く道はつづけり。 5・7
からまつの林の奥も、 5・7
わが通る道はありけり。 5・7
霧雨のかかる道なり。 5・7
山風のかよふ道なり。 5・7
(以下略)
てがみ
寺山修司
つきよのうみに 7
いちまいの 5
てがみをながして 8
やりました 5
つきのひかりに 7
てらされて 5
てがみはあおく 7
なるでしょう 5
ひとがさかなと 7
よぶものは 5
みんなだれかの 7
てがみです 5
おたまじゃくしは なかないね
宮沢章二
おたかじゃくしは 7
なかないね 5
ぷる ぷる ぷるっと 8
みずのなか 5
あかちゃんなのに 7
なかないね 5
おたまじゃくしは 7
なくんだよ 5
けろ けろ けろっと 8
かえるさん 5
おおきくなって 7
なくんだよ 5
きりんは ゆらゆら
ぶしか えつこ
きりんは ゆらゆら 8
よってくる 5
うえから そっと 7
よってくる 5
かおだけ ぼくに 7
よってくる 5
からだは むこうに おいといて 8・5
きりんは ゆらゆら 8
よってくる 5
なぜだか ぼくに 7
よってくる 5
やさしい め して 7
よってくる 5
こえも むこうに おいといて 7・5
びりの きもち
坂田寛夫
びりのきもちが わかるかな 7・5
みんなのせなかや 足のうら 8・5
じぶんの鼻が みえだすと 7・5
びりのつらさが ビリビリビリ 7・6
だからきらいだ うんどうかい 7・6
まけるのいやだよ くやしいよ 8・5
おもたい足を 追いぬいて 7・5
びりのきもちが ビリビリビリ 7・6
https://haikudai.com/post-1149/ 【第七回 『文字が俳句になるまで 韻文と散文のちがい』】より
第七回 『文字が俳句になるまで 韻文と散文のちがい』
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みなさんこんにちは。
『俳句大学 文法学部』の第七回講義です。
ここからは二階教室となります。
一階教室が入門編だったのに対し、二階教室は句作を経験した初級者向けの位置づけに変わります。
ここでは文法と俳句の関係を解説します。
先へ進む前に
『文法学部 一階教室』
『表現学部 一階教室/二階教室』
の各項目に目をとおしておくことをお勧めします。
目次
1. 俳句ってどんな文章のこと?
2. 万国共通のカテゴリー
3. 韻文と散文
4. 五・七・五なら何でも俳句?
5. 詩情で決まる! 俳句の定義
6. 抒情詩にも叙事詩にも叙景詩にもなる俳句
7. 韻文と散文まとめ
俳句ってどんな文章のこと?
“What kind of a sentence is HAIKU ?”
俳句に興味をもつ外国人から、英語でこんな質問をされたら、どう回答しますか?
ときに直球すぎる海外のクエスチョンは、返事に困りますよね。
ふつうなら実物を見てもらうのが一番ですが、俳句は日本語で書かれているので、そういうわけにもいきません。
例句を読めるくらいなら、そもそも英語で質問をしてこないでしょう。
したがって言葉でコンセプトをまとめるしか解決法はありません。
しかし、俳句の特徴をひとつずつ説明しようとすると、とうてい語り尽くせないのも事実です。
たとえば「俳句は五・七・五です」と言えば字余りや破調が漏れますし、「俳句には季語があります」と定義すると無季の句が説明できなくなってしまいます。
この方法では、概略をまとめるのに何日もかかるに違いありません。
そこで切り口を変える必要があります。
それが万国共通のカテゴリーに当てはめる方法です。
万国共通のカテゴリー
「よくある常套手段だよね」と思うかもしれませんが、ちょっと待ってください。
外国人に説明するというのは、あくまでも作り話。
真の目的は、文法的なカテゴリーに当てはめて俳句そのものを定義することにあります。
なぜ俳句を詠むのにそんな面倒な確認をする必要があるのでしょうか?
そのメリットは明白です。
「俳句は○○に分類される文章です」と定義すれば、自分が句作するときの指針になるからです。
ゲームに喩えると「パックマンはアクションに分類されるパズルゲームです」と言うようなものでしょうか。
操作方法とか画面の見方とか、細かな特徴を語らずとも、一発でコンテンツの概略が分かります。
おなじように、俳句を標準規格に当てはめると、文法的にどのような立ち位置にあるかを概念で把握できるようになります。
文法的なカテゴリーはゲームのジャンルよりずっと厳格なので、どういう文章を俳句と呼ぶかが明瞭にイメージ化されます。
すると、自然と創作の方向性も明確になる――というわけでです。
自分のなかに論理的なコンセプトを確立しておけば、今後の作句活動において羅針盤のような役割を果たすでしょう。
そこでまず 「俳句は○○に分類される文章です」 の「〇〇」を何にすれば良いか、そこから考えてみましょう。
韻文と散文
俳句は何に該当する文章なのか――
具体的に定義するには、まず文法上のカテゴリーを知らなければなりません。
そこで登場するのが、韻文と散文です。
あらゆる文章をカテゴライズする国際的な指標で、明確に区分されているため、水と油のように交わることがありません。
辞典で調べると、それぞれ次のような意味になっています。
韻文:一定の韻律と形式を伴った文章。一般に韻文すなわち詩と考えられているが、仮に韻文で書かれていても、そこに詩精神がなければそれは詩とはいえない。
引用:『日本大百科全書』より抜粋
散文:普通の文章の意。散文の「散」というのは、この場合、制限がない、という意味で、詩歌のように字数や韻律やによって規制されることのない文のことである。
引用:『日本大百科全書』より抜粋
簡単にまとめると、韻文とは韻律を有する形式文のこと、散文とはそれ以外の自由文のこと、と分けられます。
俳句はどちらに該当するでしょうか?
『文法学部 一階教室 第一回講義』で説明しているように、俳句は音数による韻律を有しています。
いわゆる五・七・五です。
これは「一定の韻律と形式を伴った文章」に当たりますから、韻文か散文かで言えば、韻文に区別されることになります。
したがって<俳句 = 韻文>という方程式が成立します。
冒頭のクエスチョンに戻るなら、文法的に正しい答案の一例は、「俳句は韻文に分類される文章です」というものになります。
五・七・五なら何でも俳句?
結論が出たのでまとめ――に行く前に、ここで再び立ち止まってください。
韻文の定義にはもうひとつ「一般に韻文すなわち詩と考えられているが、仮に韻文で書かれていても、そこに詩精神がなければそれは詩とはいえない」という条件が付いていました。
韻文で書かれていても韻文と呼べない場合がある――これはいったいどういう意味でしょうか?
俳句に置き換えると、五・七・五の韻律を持っていても俳句と呼べない場合がある、という意味になりそうです。
そして、俳句が俳句であるためには、詩精神が不可欠とも述べられていることになります。
しかし、文法上の定義が精神論で変化すると言われても、どういう状態を指すのかロジックに理解できません。
具体的に何によって区別すれば良いのでしょうか?
それを確かめるために、ちょっとしたお遊びをしてみましょう。
筆者の詠んだ俳句のなかに、それを確かめる丁度良い素材があります。
つぎのふたつの文章を見比べてみてください。
・ 流氷が数を減らしてゐる地球
・ 流氷が途方に暮れてゐる地球 豊島月舟斎
どちらも季語「流氷」を含む五・七・五で、形式的な違いはありません。
地球温暖化の事実を見たまま写生している点でも、内容的におなじものです。
ところが文章から受け取るメッセージはどうでしょうか?
それぞれの文章の主旨に、微妙なニュアンスの違いを感じませんか?
事実、上の文章は散文、下の文章は韻文で、ふつう前者を俳句とは呼びません。
つまり、前者には詩精神がなく、後者には詩精神があると判断されることになります。
……見た目の違いは中七の五文字だけですが、たった五文字でなぜ詩精神のあるなしを判断できるのでしょうか?
ここが今日の本番です。
詩情で決まる! 俳句の定義
韻文と散文の境界線については、すでに答えが出ています。
詩精神の有無こそが両者の分かれ目です。
問題なのは「どこに詩精神があるのか?」という点。
そこで、ふたつの例文から受け取るメッセージ性の違いに注目してみてください。
上の例文のほうは、状況説明以外の成分がいっさい存在しません。
もし一物仕立なら、未発見のアイデンティティや一瞬のシャッターチャンスを捉えていなければなりませんが、そのようなシンパシーは存在せず、写生としての構図が工夫されているわけでもありません。
要するに報告書です。
ニュースや新聞とおなじ、既知の事象を簡潔にまとめたレポートに該当します。
つまり、たまたま音数が五・七・五に収まったというだけで、詩精神はどこにもありません。
ですから散文になるわけです。
一方、下の例文はどうでしょう。
こちらには、目前の事象からすくいあげた心の動きが表現されています。
数少なくなった流氷に寄せる思いを描いている、というと分かりやすいでしょうか。
あからさまな不安感をあらわす言葉が使われています。
作者の感情とは、すわなち詩精神です。
そこが分岐点となって、韻文に分類されるわけです。
このように、構文や内容がどれほど良く似ていても、詩情をあらわす表現になっているかどうかで文章の主旨は変化します。
韻文か? 散文か? という分類は、表現の仕方しだいということです。
これは、表現の違いによって文章全体の文法的な立ち位置が変化するという実例です。
詩精神が欠かせない、という定義の具体的な意味が、何となく掴めたでしょうか?
抒情詩にも叙事詩にも叙景詩にもなる俳句
さて、ここまで紙面の大部分を割いて、韻文の特徴を詳しく追ってきました。
「詩に詩情があるのは当たり前」と頭で分かっていても、短い表現ひとつで文法的な立ち位置が決まってしまう俳句の世界では、意外と見落としがちなポイントになります。
じつは筆者もそうなのですが、プレゼンに慣れたビジネスマンなどは、とくに散文化しやすい傾向にあります。
論理的な思考ルーチンの染みついた人ほど注意したほうが良いでしょう。
作句の筆をとる前に、ぜひ一度『表現学部 二階教室 第七回講義』とあわせて確認してください。
ところで――
・韻文である俳句には詩の精神が欠かせない
・ゆえに表現が散文化しないよう気をつけなければならない
と考えると、一見めんどうな制約のように見えます。
人によっては、「散文にならないよいうに気を付けなくちゃ!」と気にするあまり、萎縮してしまう向きもあるかもしれません。
ところがこの定義は、じつは幅広いアイディアの可能性を示唆しているのです。
特定の目的に縛られたビジネスレターより、よほど自由に自己表現できる可能性があります。
なぜなら「詩精神さえあれば内容を問わない」という逆の意味にもなるからです。
そこで最後に、俳句の柔軟性について言及しましょう。
<韻文 = 詩>という方程式が成り立つ以上、そのなかには、
・ソネットや詩歌などの「抒情詩」
・『イリアス』『オデュッセイア』に代表される「叙事詩」
・景観にフォーカスした「叙景詩」
をはじめ、さまざまな種類の詩型がふくまれます。
俳句はそのすべてになり得ます。
言い換えると、「文法的にどんな詩型も表現できるほど自由度が高い」ということになるでしょうか。
近代俳句の祖、正岡子規はこう言っています。
引用:wikipedia
「けだし俳句は叙情詩なるもあり叙事詩なるもあり又叙景詩なるもあり」
子規によると、俳句は抒情詩にも叙事詩にも叙景詩にもなり得ます。
つまり、ほぼ制約が存在しません。
実際、アイドルグループの曲の歌詞になった俳句(!?)さえ存在します。
そこまでいくと、「戯曲」と言っても差し支えないでしょう。
このように、「およそ俳句で作れない詩型はない」と断言して、とくに問題を感じません。
それほど汎用性が高いわけです。
まとめると、「詩であるべし」という俳句のコンセプトは、制約よりもむしろ可能性の大きさをあらわしています。
どういう詩型の俳句を詠むかは、あなたの表現しだいになるでしょう。
韻文と散文まとめ
ざっくりと今回のおさらいをします。
俳句とはどのような文章なのか、カテゴリーから概念化を試みました。
その結果、
「俳句は韻文に分類される文章である」
と定義付けました。
韻文には、単に韻律を持つ文章と言うだけでなく、詩精神を内包した文章という意味があります。
したがって、たとえ五・七・五で季語があったとしても、詩情がなければ俳句として成立しません。
詩情を持たせるためには、心の動きを読み手に伝える表現が必要です。
表現によって文法上の立ち位置が変化します。
その結果、
「ある文章を俳句と呼べるかどうかは表現の仕方しだい」
というのが結論となります。
また、俳句は抒情詩にも、叙事詩にも、その他あらゆる詩型になれる柔軟性をあわせ持っています。
どんな詩型にするかは完全に自由なので、目的意識に縛られることなく、想像の翼をひろげてゆくことができるでしょう。
最終的にどう分類されるとしても、定型詩としての体裁に詩情がともなっていれば、「それが俳句である」ということになります。
以上が今回のまとめです。
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