https://www.manekineko-network.org/patient-power/2019/11/23/%E7%AC%AC9%E5%9B%9E-%E5%82%BE%E8%81%B4%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%86%E3%81%88%E3%81%A7%E5%A4%A7%E5%88%87%E3%81%AA%E3%81%93%E3%81%A8/ 【傾聴するうえで大切なこと】より
はじめに
ピアサポートでは、よく傾聴することが大切と言われていますが、聴いているだけで本当に相手に役に立つだろうかと疑問に思っている人も多いのではないでしょうか。また、相手が話しているときに、次に自分が話す番になったら何を教えてあげればよいかと気もそぞろになって、相手の話をよく聴けていないということはないでしょうか。あるいは、相手が考え込んでしまい沈黙してしまうと、こちら側があわててしまって、何か話題を振ってあげなければと考えていませんでしょうか。
このような疑問をもってしまうのも、ある意味で当然ではないかと思います。それは、傾聴することの意味についてあまり教えられていないという背景があるからではないでしょうか。
今回は、ピアサポートとしての傾聴の意味について考えてみたいと思います。
スピリチュアルケアを担うのは誰か
おそらく、ピアサポートする中でも最も難しいと感じるのはスピリチュアルな苦悩に関しての傾聴ではないでしょうか。
スピリチュアルな苦悩とは、「なんでこんな病気になってしまったのか」「死んでしまうとどうなってしまうのか」「自分には生きている意味などあるのだろうか」「自分の人生は一体何だったのか」などの、生(いのち)の根源的な苦悩を指します。
スピリチュアル・ケアなんて、素人の、トレーニングも受けていないような自分ができることではないと考えておられませんか。しかし、世界の中でも最もスピリチュアルケアのシステムが医療に組み込まれていると考えられる米国において、スピリチュアルケアは誰が担っているかについて調査した研究では、1番が家族・知人であり、2番目が医療者であり、3番目にチャプレンと呼ばれる病院付きの宗教者だったのです(1)。つまり、職業的にトレーニングを受けた人やその専門家ではなく、身近な人が最も役立っていたという結果であったのです。
ですから、家族として、友人として、スピリチュアル・ケアが必要なときに、どのようにできるかを知っておくことはたいへん重要なことなのです。
傾聴することの意味
信頼関係を創る
それでは、傾聴する意味について考えてみましょう。スピリチュアルケアに限らず、ピアサポートでは傾聴することが大切となりますが、傾聴することの1番目の意味は、相手との間に信頼関係を創ることです。
この人は私の話を聴いてくれようとしている、この人は私のことに関心をもってもらえていると、相手側に感じてもらうことが大切なのです。こちら側を信用してもらおうと気をつかい饒舌になる必要はないのです。まずは、相手の話を真剣に聴こうとすることによって、この人は私の味方なのだという信頼をえることができます。
その患者さんがどんな苦しみを抱えているのか、何を不安に思っているのか、何が辛いのか、どうしたいのかなど、相手の話す内容に聞き耳を立ててみましょう。
傾聴するときに、トレーニングを受けたという人がおかしやすい間違いとして、繰り返し(リピート)の多用があります。相手の言う言葉をオウム返しにし、それを繰り返すということは、機械的な技術となります。それならロボットにでもできます。オウム返しを繰り返している対話は、不自然でもあり、話している側にも心地よくなく、決して聴いていることを示す姿勢ではありません。
オウム返しにする、こういうときにはこう答える、こういう質問をすればよいなど、傾聴をマニュアル化できるテクニックやスキル(技術)としてとらえること自体が間違いなのです。
「はい」「そう」「そうですか」「そうなんですね」「へー」「ふーん」などと簡単な返事で肯くだけで十分です。自然な返事を返すことによって、「あなたの言ったことを聴きましたよ、それで次は」というサインを送り返すのです。
オウム返しをすることは、どう返事してよいかわからず困ってしまったときのために、わたしはとっておいています。「辛かったでしょうね」「そんなに痛いんですね」などと相手の感情に思いをはせて受けとめるという返事もよいでしょう。しかし、「ああ、それは○○ですね」「わかる、わかる」「そんなこと、よくありますよね」「ああ、わたしもそうだったわよ」など、自分はあなたのことをよく理解できているんだ、共感していると言わんばかりの表現は避けた方がよいと思います。
自分の方から「あなたの言っていることに共感しました」などという表現はとるべきではありません。相手の方が共感して聴いてくれたと思ってくれたときが、共感的な傾聴なのです。相手の本当の気持ちは、自分には決してわかることはできない。それでも、相手の思いを少しでも理解したいという態度で聴くことが大切なのです。
医療者の間では、傾聴するときに、相手のもつ苦しみを分類しようとする試みがなされることがあますが、わたしは、分類しながら傾聴しようとすることは賛成できません。
この人は、〝自律性の喪失に〞、〝時間の継続性の断絶に〞、〝関係性の消失〞に悩んでいるんだと分類することは、対話の後で振り返るときならよいのでしょうが、対話をしている最中に分類しようとすることは弊害があると考えます。その聴き方が分析的になってしまいやすいし、分類してしまうことによりその人の苦しみを早々に理解したと思い込み、聴く耳を閉ざしてしまう結果になりかねないからです。
あくまでも、この方は、何を苦しみ、何を希望しているのかに焦点を当てて聴きとろうとすることに専念するのが大切なのです。その行為の中で、傾聴する人とされる人の間に、信頼感が創られるのです。
意味や新しい価値観を創る
傾聴することの2番目の意味は、傾聴することによって相手の価値観が再構築されることを支援することです。今までの価値観では上手くいかなくなったのであれば、その人の過去や現在を振り返る中で新しい価値観をもとうとする作業に同伴するのです。
相手が、今までの人生の中で何を最も大切にしてきたのかを見つめ直し、現在の状況にいることを前提に、今何ができるのかと思考を転換していくことを支援するのです。この際にも、主役はあくまで相手であり、こちらが相手に期待することを押しつけてはいけないのです。
現在の状況に対して、どのような感覚をおぼえ、どういう感情をもち、どのように思考してきたかを傾聴する中で、その人が心の底から望んできたことが何であるのかを一緒に考えようとするのです。その願いは、実は本人も気がついてこなかったことかもしれないのですが、傾聴されている間に気づくチャンスが生まれるのです。
今までは、こういうことを大切だと考えてきたけれど、本当はこういうことを希望していたのだと、その人が考えを組み直せることが目標になります。それまで生育してきた周りの環境や他人の意見に影響され、本心とは違うことを自分が望んでいるかのように考え、そのことにとらわれていたのかもしれません。
そんな気持ちで、心の底から望んでいることを見つけ出そうとすることができれば、その人は一歩前に進む準備ができたのかもしれないのです。
エリカ・シューハルト博士の「魂のらせん階段」文献(2)p83より改変
エリカ・シューハルト博士の「魂のらせん階段」文献(2)p83より改変
新しい価値観のもとに活動していく
3番目は、その人の本心からの願いを見つけ出したうえで、それでは一体これから何をできるのかを考えることに同伴します。そこに、病気の受容(甘受)を経た後の、〝活動〞が始まるのです。そして、活動する中で世の中の人とのつながりをもち連帯することになるのです。
エリカ・シューハルト博士の魂のらせん階段で、第6ステージの甘受を超えて、活動、連帯に至る時と、第1ステージから第5ステージまでの時では、その傾聴の仕方は当然異なってくるのです。しかし、それはその人がどのステージにいるのかを分析的に考えたうえで行うということではなく、相手のその時の関心事に焦点を合わせていると、自然にその傾聴の仕方も変わってくるのだと考えた方がよいでしょう。
沈黙は禁なのか
以上、傾聴の意味について述べてきましたが、最後に、対話中に訪れる沈黙の時間の意味についても考えておきたいと思います。
日常会話では、沈黙すると気まずい空気が流れてしまうために、沈黙があると何か別の話題をみつけて取りつくろおうとします。しかし、スピリチュアルなケアとして傾聴しているときの沈黙は、話題をそらせてはいけません。沈黙の時間は相手にとって考えるための大切な時間なのです。
したがって、沈黙の時間を耐えてじっと我慢し、相手が口を開くまでの時間を待ち、沈黙の時間を共有することが大切なのです。相手が一人きりで考えることには、気力もいるし、辛いかもしれないので、その考える時間を一緒に共有することによって、相手が考えようとすることへの支援ができるのです。
もっとも、相手が疲れてしまい自分の大切な問題に向き合えなくなって沈黙となってしまったのであるのなら、一度対話を終了し、またの機会をもつことの方が有効かもしれません。
まとめ
今回は、単なる情報提供を求めてきたピアサポートではなく、本人が苦しんで相談に来たときの傾聴の仕方について、考えてみました。傾聴することの意味を理解することにより、傾聴はよりよいものになるのです。
加藤 眞三 さん プロフィール
1980年慶應義塾大学医学部卒業。1985年同大学大学院医学研究科修了、医学博士。1985~1988年、米国ニューヨーク市立大学マウントサイナイ医学部研究員。その後、都立広尾病院内科医長、慶應義塾大学医学部内科専任講師(消化器内科)を経て、現在、慶應義塾大学看護医療学部教授(慢性期病態学、終末期病態学担当)。
■著 書
『患者の力 患者学で見つけた医療の新しい姿』(春秋社 2014 年)
『患者の生き方 よりよい医療と人生の「患者学」のすすめ』(春秋社 2004年)
参考文献
(1)Hanson LC, et al. Providers and types of spiritual care during serious illness. J Palliat Med.2008 11(6):907-14.
(2)エリカ・シューハルト著/ 樋口隆一・山本潤・伊藤綾訳 「このくちづけを世界のすべてにーベートーヴェンの危機からの創造的飛躍」アカデミア・ミュージック 2013年
https://thehospitalityteam.jp/topics/%E3%81%93%E3%82%8C%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AE%E6%99%82%E4%BB%A3%E3%81%AB%E6%B1%82%E3%82%81%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B%E5%82%BE%E8%81%B4%E5%8A%9B%E3%80%8C%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%96/ 【これからの時代に求められる傾聴力「アクティブリスニング」~顧客のことを興味を持って知り、理解するホスピタリティ術~】より
これからの時代の接客サービスは、マニュアル通りの「定型型」の接客サービスは、AIやロボットなどのテクノロジーに取って替わります。
実際に低価格帯の飲食店では、配膳ロボットが料理を提供し、スーパーもセルフレジが増え、銀行の窓口もインターネットバンキングやATMでできることが増えて、縮小化傾向にあります。
従って、これから「人間」による接客サービスは、AIやロボットにはできない、それぞれの顧客のことを知り、通り一遍ではなく、目の前の顧客に応じた接客サービスの提供、つまり、「適応型」の接客サービスが求められます。
その上で、目の前の顧客のことを知る為の「傾聴力」は非常に重要であり、その傾聴によって得られる情報によって、その後の接客対応が大きく変わります。
それでは、傾聴力を磨くには何が必要なのでしょうか?
そもそも「きく」には、「聞く」と「聴く」という字があり、「聞く」は、音が耳に入ってくること、音が自然と耳に入ってくることを意味します。
一方で「聴く」は、意識を向けて耳を傾けること、耳を突き出して心を傾けてよく聞くということを意味します。従って「傾聴」はまさに、前者の自然に音が耳に入ってくる「聞く」ではなく、相手に意識を向けて耳を傾けて聴くということになります。
その上で、傾聴スキルを磨く上で効果的なのが「アクティブリスニング」という傾聴術です。
このアクティブリスニングは、アメリカの臨床心理学者カール・ロジャース氏が提唱した傾聴姿勢で、積極的な傾聴を意味し、相手の話をよく聴く、ではなく前のめりで聴くことで、相手が心を開き「もっと話したくなるようになる」聴き方の手法です。
このアクティブリスニングには4つの要素があります。
1.相づち
熱心に相手の話しを聞くポーズであり、もっとあなたの話しを聞きたいというアピールとなります。共感ワードを有効に使いながら肯定的に聴きましょう。
「そうですよね」「それ、いいですよね。」「すごく良く分かります!」
といった相づちを会話の所々に入れることで、相手は自分の話しに共感してもらえていることを感じて、話し易くなります。
2.うなずき
うなずく相手の話をしっかり聞いているという態度を示し、相手の発言の潤滑油となり、
早目のペースでうなずくと相手は話し易くなるという効果があります。
「大きくうなずく!」「目を見てうなずく!」「笑顔でうなずく!」
この「うなずき」により、相手は自分の話しをしっかりと聞いてくれているという安心感に繋がります。
3.身振り手振り
身振り、手振りを大げさにすることで、相手を引きつける効果があります。
接客の現場において、身振り手振りといったオーバージェスチャーはどうなのだろうか?
と疑問を感じる方も居ると思いますが、現在はマスク接客の為「表情」でコミュニケーションが取りにくい為、
それを補うための、身振り手振りを多少大きくすることは、必要な行動・態度と言えます。
「大きな反応!」「大きな身振り!」「大きな手振り!」
4.スマイル
笑顔は、お互いの緊張をほぐし話し易くなり、親しみ易くなる効果があり、相手と早く関係性を築く上でも効果的です。
笑顔には、
①親和作用・・・場を和ませ、人を癒し、打ち解けた雰囲気を作ることができる。
②浄化作用・・・イライラした気持ちを一新し、不快な気持ちを洗い流すことができる。
③誘引作用・・・笑顔の人の方に引き込まれるように、足が向くことがある。
④解放作用・・・緊張をほぐす作用がある。
このような効果があると言われています。
「口角を上げる!」「目尻を下げる!」「相手が笑顔にするほどの満面の笑顔!」
このように会話の中で「相づち」「うなずき」「身振り手振り」「笑顔」を意識することで、
傾聴力は格段に向上します。
私もホスピタリティコンサルタントとして、様々なサービス業の現場にお邪魔して、
このような傾聴のトレーニングをするのですが、実際にペアでトレーニングやロールプレイングを実施した感想を聞くと、「もっと相手に自分の話を聞いてもらいたいと思った!」
「話しが自然と盛り上がるのを実感した!」「今まで会話が苦手だったけど、このアクティブリスニングを心掛けたら会話が続くようになった」といった効果を実感していただいています。
コミュニケーションは、言語的なコミュニケーションが35%、非言語的なコミュニケーションが65%という理論が示すように、「言葉によるコミュニケ-ション」よりも、「視覚的なコミュニケーション」のほうが影響力が強く、特に現在はマスク接客の為に、視覚的なコミュニケーションの中で最も大切な「表情」というコミュニケーションが奪われているのが現状です。それを補う上でも、「大きなうなずき」「オーバージェスチャー」「満面の笑顔」を伴うアクティブリスニングは、相手を知り理解する上で有効であり、このような傾聴によって、
「お客様との関係の質の向上」「お客様のことを知った上での効果的な商品提案」にも繋がります。
ザ・ホスピタリティチーム(株)では、このような傾聴も含めた接客・接遇に関する研修やコンサルティングのサービスも提供しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
サービス業のプロが一人ひとりの価値を高め、成果に導くホスピタリティ経営・コンサルティング・セミナー・講演のことならザ・ホスピタリティーチーム
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