「彩雲」と出会う

https://diamond.jp/articles/-/329690 【【雲研究者が教える】幸運を予感させる美しい「彩雲」と出会う方法】より

荒木健太郎  読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし

空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』の内容の一部を特別に紹介します。

「吉兆」は身近にある

 虹色の雲、「彩雲」は、幸運を予感させる美しさがあります。

 彩雲とはその名の通り、雲の一部が虹色に色づいて見える現象で、瑞雲や慶雲、景雲とも呼ばれ、昔から吉兆のしるし、縁起のよいものと考えられてきました。

 仏教では、極楽浄土から菩薩を伴って現れる阿弥陀如来の乗る雲は、五色の慶雲、彩雲だとされています。

 また、飛鳥時代の七〇四年には、宮中から虹色に色づく雲が見えたとして「慶雲」と元号が改められ、奈良時代の七六七年には、各地で彩雲が報告されたことから「神護景雲」と改元されました。

 めったに見られない珍しい現象と思われがちですが、実は彩雲は、季節や場所を問わず、頻繁に出会えます。

 特に、鱗雲や鰯雲と呼ばれる巻積雲や、いわゆる羊雲、高積雲が太陽のすぐ近くにかかっているときがチャンスです。

彩雲の虹色の正体

 彩雲は水でできた雲粒が生み出します。光が雲粒を回り込む「回折」が起こることで、色が分かれて見えるのです。

 回折の度合い、回折角は、光を受ける粒の大きさによって異なります。巻積雲や高積雲、積雲など、水の雲粒でできた雲の中では、空気が乱れており、雲粒が凝結・衝突・蒸発を繰り返しながら劇的に大きさを変えています。

 そのため、雲粒のサイズがバラバラで、回折の度合いも不揃いなため、彩雲は不規則な虹色に彩ります。高積雲や積雲のように、地上からある程度の大きさを持って見える雲の場合、輪郭部分ではっきりした虹色が見えることがあります。

 周囲の乾いた空気に接することで、雲粒が蒸発し、サイズが小さくなるため、回折の度合いが大きくなって綺麗な虹色に分かれ、鮮やかな彩雲になりやすいのです。

 上空に強い風が吹いていると、巻積雲や高積雲はレンズ状になります。

 このようなレンズ雲では、雲粒の大きさが揃いやすいため、天女の羽衣(神話などに登場する天女が身にまとうといわれる衣)のようになめらかで大規模に広がる彩雲を見られる場合があります。

彩雲を観察するコツ

 彩雲を観察するコツがあります。彩雲が現れやすいのは太陽のすぐ近く、視角度で一〇度以内の空です。

 まず建物の陰に入ります。陰の中から陽が当たっているところの境界線、太陽が建物でギリギリ隠れる位置に移動し、太陽の近くにある巻積雲や高積雲を見てみましょう。肉眼でもはっきり彩雲を確認することができます。

 ただし、太陽を直視するのは非常に危険です。太陽を建物で隠すなど、目を傷めないように十分に気をつけて、彩雲を観察してください。

 彩雲は室内でも観察できます。たとえば、紅茶やコーヒーの湯気です。太陽高度のまだ低い朝の時間、カーテンを開け、室内に注ぎ込んだ太陽光が湯気に当たることでも、虹色の彩雲を見ることができます。

 湯気の彩雲を観察するときは、観察する位置が重要です。太陽の光が差してくるほうを向き、自分の前に湯気があるようにします。湯気が足りない場合にはアロマキャンドルやお線香、ろうそくの煙で核を増やし、湯気を増量するという方法もあります。

 この実験は太陽ではなく懐中電灯を光源にすることでもできます。この場合も、太陽や強い光源を直接見て眼を傷めないように注意してください。

花粉で生まれる虹色

 鱗雲・鰯雲が空全体に広がっているとき、太陽を取り囲むように虹色の光の環が雲に現れる「光環」という現象が起こります。

 仕組みは彩雲と同じで、雲粒による光の回折です。虹色は太陽を中心に内側から外側に向かって紫から赤へと規則的に色が並びます。

 雲粒のサイズがバラバラだと虹色の並びが不規則な彩雲になりますが、雲粒のサイズがある程度揃ったときに光環が現れます。

 光環は、実は雲以外でも見られることがあります。それが、「花粉」です。春、二月から四月にかけて、空には大量の花粉が飛散します。花粉が飛びやすいのは、特に雨上がり、晴れて風が強い日です。

 雨が降ると、大気中の花粉は雨と一緒に地面に落下しますが、その後に晴れて風が強いと、木から飛散する花粉に加えて、地面の花粉も空に巻き上げられるのです。

 花粉が飛散している日に太陽を街灯や建物でギリギリ隠して見ると、太陽の周りにくっきりした虹色の環、「花粉光環」を確認することができます。花粉光環が起きやすいのは、スギ花粉です。

【雲研究者が教える】幸運を予感させる美しい「彩雲」と出会う方法<br />

花粉光環(写真:荒木健太郎)

 スギ花粉は形が球体に近くて均等、大きさも雲粒と同等なので、雲粒と同じような働きをするのです。スギ花粉はリンゴのように一部分が窪んでいるような構造をしていることがあり、太陽高度が低いときの花粉光環は六角形のような形状になることもあります。

(本原稿は、荒木健太郎著『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』から抜粋・編集したものです)

荒木健太郎(あらき・けんたろう)

雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・博士(学術)。

1984年生まれ、茨城県出身。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事したあと、現職に至る。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、気象災害をもたらす雲の仕組みの研究に取組んでいる。映画『天気の子』(新海誠監督)気象監修。『情熱大陸』『ドラえもん』など出演多数。著書に『すごすぎる天気の図鑑』『もっとすごすぎる天気の図鑑』『雲の超図鑑』(以上、KADOKAWA)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)、『雲を愛する技術』(光文社新書)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)、新刊に『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(ダイヤモンド社)などがある。

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美しい空は科学的な謎に満ちている――著者より

 雨上がりの夕空にかかる鮮やかな虹の架け橋、深紅に染まる盛大な朝焼け、夏の青い空に湧き立つような白い雲、何かよいことが起こりそうな虹色の雲――そんな魔法のような空の風景を目にして、心が動かされたという経験はありますでしょうか。

 空は、心を映し出す鏡です。私たちは空の下で生きており、空を見上げることで多様な思いを繰り広げられるのです。

 そんな空の現象を科学的に扱い、自然への理解を深めようという学問が、「気象学」です。雨乞いは紀元前三五〇〇年頃から行われていたという記録もあるように、古くから気象は人々の生活に身近なものでした。特に農業や漁業、自然災害など、人間が生きていくために気象は重要なものです。

 古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、『気象論』で自然科学を論じています。彼の気象についての考察は「観察」すること、つまりは空を見上げることからはじまっていました。実は、これは今でも全く変わっていません。

 気象学では、地球を覆う空気である「大気」の流れや、雲、雨、雪、雷などを、まずは観測をすることで、それらへの理解を深めようとしています。そして、観測するということは、天気予報の精度を高めることにもつながっています。

 そのような現代でも、気象学ではよくわかっていないことが非常に多くあります。そのあたりに浮かぶ雲ですら、詳しい微物理構造など、仕組みが未解明ということもあるのです。

 私は雲研究者として、日々、雲の研究に取組んでいます。空を見上げたときに目に映る風景に、まだ科学的に解き明かされていない謎が詰まっている――そう思うと、私はどうしようもなくワクワクしてしまうのです。

 気象学は天気予報という形で私たちの生活に大きく関わり、災害などから身を守るための防災という役割を持っているだけでなく、地球温暖化などの地球環境の現在・未来を正しく理解するという側面も持つ、実践的な学問です。

 地球科学の一つとして、地学や工学との関わりも深いのですが、農学や経済学、医学などにも関連します。そして、気象という物理現象を説明するために、数式を使って現象を記述し、それをシミュレーションなどにも利用して天気予報を作っているのです。

 本書が目指しているのは、気象学の成り立ちから発展、現在わかっている気象の仕組みを俯瞰しながら、読者の皆さんが生活の中でも気象学をより身近に感じ、そして空をもっと楽しむきっかけを作ることです。

 本書を読み終えたあと、皆さんの見上げた空が、より美しく見えるようになっていたら、雲研究者としてこれほど嬉しいことはありません。

コズミックホリステック医療・現代靈氣

吾であり宇宙である☆和して同せず  競争でなく共生を☆

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