http://www.tochigi-iryou.net/zadankai 【栃木県医師会座談会】より
●テーマ 地域医療の現状と栃木県医師会の取り組み
高齢(化)社会の中で県民一人ひとりの支えとなるのは地域医療。
さまざまな懸案事項も横たわっている。
栃木県内で健康の守り手として活躍する栃木県医師会の役員に集まっていただき、現在の課題とそれに向けての医師会の取り組みなどを語っていただいた。
●出席者
栃木県医師会会長 太田 照男 氏
栃木県医師会副会長 尾形 直三郎 氏
栃木県医師会副会長 前原 操 氏
栃木県医師会副会長 五味渕 秀幸 氏
栃木県医師会常任理事(広報担当理事) 小沼 一郎 氏
●司会
CRT栃木放送パーソナリティー 福嶋 真理子 さん
連携して高齢社会に挑戦
太田照男会長
医師会を挙げてさまざまな地域活動
■まず、太田会長から地域医療における栃木県医師会の役割、活動内容の概要をお話しいただけますか。
太田 栃木県医師会は毎年、事業計画を立てています。その中で特に地域医療、地域保健の充実について12項目を挙げています。健康づくり活動、母子乳幼児保健活動、学校保健活動、産業保健活動、少子化および高齢対策活動、健康スポーツ医学活動、感染症対策活動、救急医療活動、災害医療対策活動、医療連携活動、医師会共同利用施設活動(県医塩原温泉病院)、在宅医療の推進です。今日は特に健康づくりの活動と災害医療対策活動、医療連携活動、在宅医療の推進、認知症医療連携ネットワークについてお話をしたいと思います。
まず健康づくり活動について。県の医師会、郡市医師会で、脳卒中、糖尿病、急性心筋梗塞などの生活習慣病対策や禁煙活動の市民公開講座を主催して、県民の皆様に啓発の運動をしています。救急医療活動は各郡市の夜間休日診療所で会員が交代で一次救急の診療に当たっています。災害医療対策活動は、東日本大震災に際し、JMAT(日本医師会災害医療チーム)に参加しました。県でも災害時のネットワークと災害拠点病院を中心にしたシステムづくりに取り組んでおり、病院ごとにコーディネーターを任命して、その指令のもとに動いていきたいと思っています。
医療連携活動は、病病・病診連携のツールとして、地域連携クリティカルパス運用が本年度から開始されます。このパスによって患者のケアの継続性につなげられればと思っています。在宅医療の推進については、人生の最後をどこで迎えるか、長期療養をどう過ごすか、という問題です。在宅医療を希望する患者に対して支援の活動を拡大しています。県には保健福祉課、医事厚生課、高齢対策課、こども政策課を一つにまとめた「在宅医療推進室」を設置するよう要望しています。
認知症対策ですが、認知症連携医療ネットワークの構築を県にも求めています。認知症の早期発見、早期治療により、重症化を防止し、また、これによって地域で認知症の人たちを支えていくということです。県には認知症疾患医療センターが獨協医科大学病院、烏山台病院、足利富士見台病院にありますが、これだけでは足りませんので、われわれかかりつけ医が認知症の対策について深くかかわっていきたいと思っています。
前原操副会長
在宅医療の充実が高齢社会の鍵を握る
■取り組みの一つひとつが私たちが健康に生きていくためにも、安心して生活するためにも必要なものだと思います。そうした中から在宅医療、医療連携パス、栃木県疾病ワースト10とその対策などについてお話しを伺います。まず在宅医療について前原先生からお願いします。
前原 2025年にかけて日本の高齢化は急速に進みます。ピーク時には高齢者の人口が3500万人に達すると言われ、高齢者の死亡は現在より年間約50万人増えると見込まれています。全死亡のうち、病院での死亡が今8割を超えています。さらに50万人も増えますと、病院医療が機能不全に陥る可能性があります。早急に新たな医療供給体制を整備しなければなりません。医療と介護の在り方を再検討し、本格的な対策を講じないと社会不安を招く可能性もあります。
まず医療と介護の役割分担の明確化、さらに地域における連携体制強化の推進および地域生活を支える在宅医療等の充実に向けて取り組む必要があります。在宅医療というのは外来通院が困難になってきた方、病院から退院の許可が出ても通院が困難な方、さらに寝たきり状態の方、あるいは悪性腫瘍末期の方です。さらに認知症や難病などの患者さんで住みなれた自宅での療養を希望している方、こういう方々を対象とするわけです。在宅医療を志す医師は徐々に増えていますが、ネットワークづくりができず、孤軍奮闘しているかかりつけ医も多く見受けられるのが現状です。
理想的には患者さんを良く知っている地域のかかりつけ医が一貫して患者さんを診て、必要に応じて急性期病院または回復期リハビリ病院等に入院し、終末期は在宅で看取れる在宅医療連携体制が望まれます。在宅医療をするためには24時間対応の在宅療養支援診療所が求められます。また、訪問看護ステーションとチームを組んで在宅医療ネットワークを形成する必要があります。24時間対応ができないかかりつけ医においても、できるだけ在宅診療に協力をお願いしているところです。もちろん介護士や歯科医師、薬剤師等の協力、さらにバックアップの病床として有床診療所、医師会病院などの協力も必要です。急性期病院からの紹介のシステムをつくることが重要です。
在宅医療の要は訪問看護です。患者の苦しみや治療の苦痛、患者の希望、生きるための力などの意味を知っているのは、医師よりもむしろ彼らです。病院の医療では麻薬でも取れなかった痛みが自宅に帰ることで取れる場合もあります。残り2、3カ月の命と言われて退院した患者さんが、自宅に戻ることで生き生きとして1年以上も過ごす場合もあります。その終末期の患者さんがほほ笑んで最後に「ありがとう」と言って亡くなる場合もあるわけです。これが在宅の力なのです。医師と訪問看護師と介護士らの多業種が協働して初めてできることなのです。そのために連携、連帯、相互扶助のシステムを形成する必要があります。
看護協会は赤字を覚悟で栃木訪問看護ステーションをつくっています。われわれ地域の医師会も例えば有床診療所に在宅療養支援診療所の登録を勧めるとか、あるいは医師会自身がそういった診療所を経営するなどの覚悟も必要かと思っています。日本はスウェーデンと比較しますと、人口1000人当たりの訪問看護師、地域看護師が非常に少ない。10分の1くらいです。子どもとの同居率は大変高いのですが、にもかかわらず在宅死亡率が非常に少ないのです。今後、スウェーデンのような福祉国家になることは難しいでしょうけれども、日本的あるいはアジア的な家族制度を考慮した在宅医療のシステムが形成されればいいと思っています。
■在宅医療に関しては近年、非常に注目を集めていて、その必要性も伝えられています。住み慣れた家で最期の時を迎えたいというのが、皆さん共通の思いですよね。
前原 なかなかそれが難しいというのが現状なんですが、少しずつではあるけれども、その体制が進んできています。
■そのためにも横の連携、縦の連携をしっかりつくり上げていくことがこれから必要とされるわけですね。
前原 そうですね。
尾形直三郎副会長
各段階での医療機関が患者の情報を共有化
■では続いて医療連携パスについて、尾形先生からお願いします。
尾形 ご存じかもしれませんが、昨年度、法政大学が行った都道府県幸福度ランキングが発表されました。その中で栃木県は26位と下位に低迷しています。その原因は医療・健康部門が45位でこれが総合評点を下げる結果になっています。特にがん、脳卒中、心筋梗塞の死亡率は全国ワースト上位にあり、これを解決することがひとつの課題となっています。そのため栃木県医師会はこの課題の解消に向けて、地域医療連携パス、診療計画表といいますが、それをツールとしてこの課題に取り組むことにしました。
がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病の県内統一パスを作成し、昨年9月に各医師会員に説明し、その普及拡大に努めています。パスは12月から少しずつ動き始めたのですが、1月現在、糖尿病パスは既に12名の登録があります。
先ほど申しましたように、地域医療連携パスは、診療計画表といいまして、疾病の発生から診断、治療、リハビリテーション、在宅医療までを、複数の医療機関、さらに、介護、福祉施設に及ぶ診療計画を作成し、情報を共有するツールで
す。
例えば、脳卒中地域連携パスについて説明しますと、病気が発症し、救急搬送されると、急性期脳卒中の専門病院に入院、そしてリハビリを行います。その後、ある一定の回復が得られたら、回復期リハビリテーション病院でリハビリに努めます。そして在宅や施設でその後の経過を見るスタイルになります。その維持期のレベルではかかりつけ医が再発を予防するなど疾病の管理を行い、日常の生活動作を評価し、維持期リハビリテーション、あるいは社会復帰に努めていただきます。
当然、介護、福祉あるいは行政との連携は欠かせません。これら複数の医療機関や、施設が連携し、役割分担のもと、地域全体で脳卒中診療の向上を目指すものです。あらかじめ診療内容を患者さんに説明することにより、患者さんは地域で安心して治療が受けられるという仕組みです。患者さんには、地域でも大学病院や専門病院と同じように、質の高い医療が提供される、医療が等しく行き渡るという仕組みを考えています。わざわざ遠くまで行く必要はなくなるわけです。
医師不足、偏在が叫ばれている現在、数少ない地域の医師が総合的な診療能力を身に付けることになり、これはとりも直さず、地域医療のレベルアップにつながります。パスの狙いは患者さんと医師が情報を共有し、お互いが協力して病気に取り組もうというもので、また医療機関においても、専門医療機関、地域の医療機関を問わず、役割の分担のもと、すみ分けができて、効率の良い無駄のない、そして患者さん、それぞれの医療機関の顔の見える医療を地域に提供しようというものです。
地域連携パスの普及度は、地域で連携がどれだけ進んでいるか、地域の医療レベルを測る一つの指標になります。今までのような病院完結型から、地域完結型を目指すものです。どこの医療機関に行っても、そのパスを見せることによって、診療がスムーズにいきます。課題としてはこれをどうやって普及させるか。それには患者さんの理解と、大病院志向を変えることが必要です。また、大病院の医師や専門医、さらに地域のかかりつけ医も、医療連携パスの有用性を理解して、協力していただくことが大切です。
■先ほどの在宅医療にも結び付くところもありますね。
尾形 非常に大事な問題です。われわれの地域医療は、普通の医療である1次医療、入院をする2次医療、先進医療・高度医療の3次医療となりますが、この1次、2次、3次のシステムをつくるのを縦糸としますと、がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病の4疾病、最近では精神疾患も含めた5疾病が横糸です。それと同時に、周産期医療、救急医療、災害医療、僻地医療、小児救急を含む小児医療の5事業、それに先ほど前原先生がおっしゃった在宅医療もあります。この横の糸、4疾病あるいは5疾病と5事業をうまく組み合わせて、地域の医療を確立していくことが求められています。
■在宅医療を確立するためにもまずはその前の段階、医療連携パスをしっかり構築していくことが必要になってくるわけですね。
前原 そうですね。まず発症して初めのときには、治す医療が必要になりますね。そのためにはやはり病院に入院するなどが必要です。しかしほとんどのお年寄りの病気はなかなか治らない。ある程度の障害を残します。われわれがやる在宅医療は、治す医療ではなくて支える医療なわけですね。治す医療というのはキュアといいます。われわれがやる支える医療はケアなんですね。この二つがうまく組み合わさることによって、患者さんをずっと診ることができます。
小沼一郎常任理事
保健医療分野の成績が悪い栃木県
■地域の力が必要になってくるというのを改めて感じますね。今お話しの中に、4疾病、あるいは精神疾患を加えて5疾病という話がありましたが、疾病ワースト10、そしてその対策について小沼先生からお話しを伺います。
小沼 栃木県は全国の保健医療分野の統で、ワースト10に入るものがたくさんあります。それを紹介してその対策についてお話したいと思います。
まず平均寿命ですが、これは平成21年度のデータですが、栃木県は男性が78・01歳、全国で40位です。1位は長野県です。女性は85・03歳でこれはなんと46位です。一番女性が長生きなのは沖縄県です。それから先ほどから何回か出ていますが、3大死因と言われる脳血管障害、心臓病、悪性新生物いわゆるがん、この3つでほとんど8割を占めるのですが、栃木県はこれで亡くなる方が全国45位と、非常に悪い成績なんです。
その中でも特に悪いのが、脳血管障害。脳出血とか脳梗塞で亡くなる方が、男性は全国で45位。女性はなんと47位で一番多いわけです。それから心臓疾患、主に心筋梗塞なんですが、これで亡くなる方が男性は全国で42位、女性は44位です。こういう血管障害で亡くなる方が栃木県は非常に多いということです。がんは幸いに全国で9位と成績がいい。がん検診が栃木県は結構行われてるためです。しかし3大死因としてまとめると、全国で45位と非常に悪い成績です。その原因としては、やはり塩分の過剰摂取、寒さで血管がやられて、脳出血や心筋梗塞で亡くなる方が多いと言われています。
それから、これは平成20年のデータですが、栃木県民一人当たりで使っている医療費が少ないのです。全国で44位。我慢強いというのでしょうか。あまりお医者さんにかからない方が多いか、かかっても早くかからないということがあるのではないかと思います。人口当たりの病院数も38位と少ない。自治体立の病院にいたっては、栃木県では6カ所しかなく、これは47位です。人口当たりのベッド数も39位と少ないですね。看護師さんの就業数も全国で42位です。先ほど尾形先生からもありましたように、栃木県は幸福度ランキングで下位にあるということですが、医療分野が手薄であるということになると思います。
医師会としての対策ですが、先ほどのお話しにもありましたように、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病についてはクリティカルパスの作成が行われました。また、前原先生からもありましたように、在宅医療の充実ということに努めています。それからいろんな病気の原因になるたばこは、受動喫煙防止も含めた禁煙キャンペーンをこの2年間、栃木県医師会として力を入れてやっています。高血圧や糖尿病、認知症などに関する市民公開講座を県医師会や各郡市医師会などで頻繁に行って、市民の啓蒙に努めています。
医師不足、看護師不足について、これは非常に難しい問題ですぐに解決できるものではないと思いますが、県医師会としては看護師養成について非常に協力しています。資金面や、看護師学校の講師に医師を派遣するなどの人的な面でも協力しています。また、女性医師や女性看護師が働きやすい環境をつくるために、病院内に託児所をつくったりすることについて、男女共同参画委員会を通じて応援しています。それからこれは栃木県の特徴ですが、県医師会塩原温泉病院があります。脳梗塞などで倒れた患者さんの社会復帰のため、あるいはご自宅で何とか一人で生活できるようになるまでのリハビリテーションが、非常に良い環境でできる全国でもレベルの高い塩原温泉病院を県医師会として運営しています。
医師不足に関してですが、小児科とか、内科などの勤務医の先生が少ないために、毎日当直では疲れてしまうということで、夜間の7時から10時ぐらいまでを医師会員である開業医の先生たちがチームをつくって当番を務めています。県北、あるいはその他の地域の医師会でもそれを行って、開業医と勤務医が連携して、患者さんのために頑張っている状況も医師不足対策の一つではないかと思っています。
■あらためて3大疾病に関しては全国何位という数字を聞いてしまうと驚きますよね。ほとんどが40何位というのが現実なんですね。
前原 これは厚生労働省に言わせますと、寿命が短い、早く亡くなる、医療費が少ないという悪い方のモデル県ということなんですね。
五味渕秀幸副会長
病気にならない身体をつくる予防医学
■それをモデルにされてしまうというのは複雑な思いですね。ここまで医療のサポートする体制、物であったり地域の連携などを伺ってきましたが、私たちが健康なうちに気をつけていれば避けられることもあると思います。病気にならない身体づくりが重要だと思いますので、五味渕先生から予防医学のお話しをお願いします。
五味渕 予防医学ということは聞きなれない言葉かもしれませんが、病気になったら治すという治療医学に対しまして、病気にならないようにする、これを予防医学とわれわれは呼んでいます。ただ、これまでの医療現場では、やはり治療医学に重きが置かれていました。現在わが国では高齢(化)社会に突入して、医療費がかなり増加しています。その延長線上には国家財政もあります。これから予防医学の重要性が増してくるだろうと思います。食生活、運動、生活習慣などを正して病気にならない身体づくりをすることが予防医学なのですが、さらに広く解釈すれば、寿命の延長、身体以外に精神的な健康の増進、これも目的としているわけです。現在では病気を未然に防ぐだけではなく、病気の進展を抑えて遅らせること、さらには再発を防止すること、これも予防の一つになっています。
これまで各先生から、日本人の3大死因ががんと心疾患、脳血管障害という話しが出てきました。ただ、例えば心疾患、脳血管障害、これらには高血圧症、糖尿病、高脂血症、さらには肥満、喫煙などいろいろなリスクファクターが必ずダブっているわけです。もちろんこれらは家系や遺伝など先天性な因子が関わることが多いのですが、食事、運動、ストレスなどの生活環境、後天的な因子の影響も非常に大きいわけです。これらの後天的な危険因子を改善することが予防につながります。
メタボリックシンドロームという言葉をよく聞くと思いますが、2008年4月からリスク保有者の層別化と、行動の変容につなげる目的で特定健診、さらには特定保健指導が義務付けられました。受診率や利用者がまだまだ少ないのですが、得られたデータのうち、腹囲や体重など、特定保健指導の面でそれなりの成果が出ているという報告もあります。県の医師会では、太田会長や小沼先生からもお話しが出ましたが、県の委託事業の一つとして、各郡市医師会の協力を得て医師を対象にした脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、慢性腎臓病などの研修会を行っています。メンタルな面ではうつ病アプローチ強化研修会などもやっています。
ただ、われわれ医師が一生懸命頑張ったとしても限界があり、個人の自助努力が求められる時代になっています。言い換えれば、健康の維持、増進、治療のあとの予後には、個人の自己責任が求められている時代です。個人で努力できる人だけが健康づくりの目標を達成できるわけですが、理想としては社会全体で健康に対するリスクを取り除いて、危険因子レベルを減らすことができれば一番良いことだと思います。運動、食事、ストレスなどいろいろある中で、自分の健康に必要なものは何かを個人個人が考えていかなければならないのではないでしょうか。今後のことを考えますと、医学だけではなく、保健学、栄養学、看護学、教育学など、医学以外の多くの連携が、ここでも必要になってくるのではないかと思います。
■さまざまな分野からのサポートとともに、自分のことを自分でしっかり管理するという自助努力が第一ですね。
五味渕 その通りです。
■がん検診については栃木県ではしっかり行われているというお話しがありましたが、健康診断全体としては、まだまだ受診率が低いのでしょうか。
小沼 現在行われている特定健診は、生活習慣病で重症化するのを防ぐための健診ということになっていますが、県民の関心はあまり高くない状況です。がん検診の受診率は高いので、一緒にやればもう少し上がると思うのですが。
福嶋真理子さん
県民の力を合わせ幸福度高める努力を
■がんはなかなか難しい病気だという認識があるからかもしれませんが、3大疾病、そして精神疾患を加えたものについても、もっと私たちも勉強していかなければいけませんね。いろいろとお話しを伺ってまいりましたが、これからの医療について、さらに医療と地域のみなさんとの連携について、太田会長からお願いできますか。
太田 先ほど在宅医療についてのお話しが出ましたが、在宅医療、介護への県民の関心度は非常に高いのです。県のアンケートによれば、長期療養が必要になったとき、自宅療養を希望する人が約58%。しかし一方では、在宅では介護が不足、家庭に負担がかかるので無理という回答が約70%あります。そうすると、在宅医療は地域の住民の方が一緒になって支えないとできないことなのです。それから先ほど幸福度についてのお話しが出ましたが、総合では26位で、労働企業が15位、生活家族が16位、安全安心が22位です。しかし、先ほどの尾形先生のお話しですと、医療健康についてが45位で、これが非常に足を引っ張っているのです。医療健康についての順位を上げれば、もっと幸福度が上がると思います。しかし、幸福度と言っても、幸福感がなければだめなわけなので、幸福感をいかに高めるかが重要だと思います。そのためにはどうしたらいいか、県民の皆さんが一緒になって考えなければならない問題だと思っています。
それから先ほど地域連携クリティカルパスのお話しが出ましたが、これは患者さんのケアの継続性の通路、通り道なのです。公的医療保険を継続するには、秩序ある受診行動が求められます。その中で地域連携クリティカルパスの運用、さらに在宅医療の充実が必要になってくるわけです。それには医療機関の機能分化、病院と診療所の連携が重要ということになってきて、地域連携クリティカルパスが出てくるわけなのです。
いかにして医療健康の45位を上げるかということでは、県民一人ひとりの皆さんが自分の食生活について振り返り、心がけていかなければなりません。先ほどの喫煙や塩分のお話しが出ましたが、特に塩分は、摂取量が平均よりもかなり高い。栃木県には外食産業も結構多いので、メニューに塩分量、カロリーの表示をしてもらえばいいと思います。県の医師会としても、郡市の医師会の皆さんと一緒に、講演会などを設けていますので、ぜひ参加していただければと思います。
■幸福度は総合26位でも医療健康が45位なわけで、これをなんとかしていくためにも、医療の現場と地域との連携が急務とされるかもしれませんね。ほかの皆さんからも最後に一言ずつお願いします。前原先生いかがですか。
前原 脳卒中発症後の急性期の病院はそれなりにあるのですが、回復期のリハビリテーションが栃木県では少ない。塩原温泉病院が一番優れていると思います。回復期リハビリテーションをすると麻痺もかなり改善されるし、言葉もしゃべれるようになります。もう少し回復期のリハビリを充実したらいいのではないかと思います。
■尾形先生、いかがですか。
尾形 近い将来、わが国は高齢化率が30%を超えるだろうと言われています。そういった中で医療と介護の連携は外せないと思います。特に介護の強化は不可欠で、その意味で住民参加というか、いろんな職種の方が連携して医療と介護の地域のスタイルをつくっていくことが求められていると思います。
■すべての連携が大きなポイントになってくるところですね。小沼先生いかがでしょうか。
小沼 医療分野でのワースト10を脱却するためにも、県民の皆さまには近所の開業医の先生をかかりつけ医として持っていただき、自分の身体を気軽に相談してもらいたいと思います。例えば耳の病気だから内科に行ってはいけないだろうなどと思わずに、かかりつけ医の先生に相談すれば、その病気に合ったところを紹介していただけますし、開業医とその病院との連携もスムーズにいきます。ぜひとも自分がなんでも相談できるご近所の先生を、かかりつけ医としていただきたいと思います。
■自助努力は必要ですが、誤った自己判断は間違いのもとですから、正しい導きをしていただける、信頼できる先生が大切ですね。
小沼 最近、インターネットで自分で調べて生半可な知識で病気を悪化させてしまうことが非常に多くみられます。やはりわれわれ医師は専門家ですから、専門家にご相談なさってから、行動されたほうが良いかと思います。
■最後に五味渕先生いかがでしょうか。
五味渕 昔、スポーツをやっていても、いきなりまたやろうとすることは危険です。それなりの年代に合わせてゆっくりとしたペースでやれればいいと思います。その前にはやはり医療機関をちゃんと受診して、メディカルチェックを受けるなど、気をつけながら健康づくりをしていけばいいのではないでしょうか。
■今の自分のレベルというのをしっかり知るということですね。いろいろお話しを伺いましたが、これからの医療連携については、私たちも期待をしながら自らも勉強しなければならないと思います。
本日はありがとうございました
(平成24年1月11日、栃木放送スタジオで収録)
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