『10min.ボックス現代文』/俳句

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オープニング(オープニングタイトル)

scene 01

世界で最も短い詩、俳句「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺/正岡子規」。限られた字数の十七音。その五七五の中で豊かな世界を表現できる。それが俳句です。俳句は、世界で最も短い詩です。「いくたびも雪の深さを尋ねけり/正岡子規」。

scene 02

俳句の起こり、俳諧俳句の起こりは、江戸時代を中心に栄えた俳諧にさかのぼります。複数の人で句を詠み合う俳諧では、一人目が「五七五」、次の人が「七七」、さらに別の人が「五七五」と詠んでいきます。その最初の一行目が、「発句(ほっく)」と呼ばれて独立しました。当時は仲間どうしの言葉の遊戯にすぎなかった俳諧を芸術の域にまで高めたのが、俳人芭蕉です。「古池や蛙飛こむ水のおと/松尾芭蕉」。

scene 03

近代俳句の父、正岡子規明治に入り、発句を「俳句」と呼び、文学として位置づけたのが、正岡子規です。四国松山に生まれ、明治16年、15歳で上京した子規は、次第に俳句の魅力にとりつかれていきました。しかし明治22年、子規は突然、病に倒れます。当時、不治の病だった結核です。そのときの思いのたけを残した句。「卯の花の散るまで鳴くか子規(ほととぎす)」。古来より歌に詠まれたホトトギスは、その鳴き声から、血を吐くまで鳴く鳥とたとえられました。病に伏してからその姿を自らに重ね、ホトトギス、すなわち「子規」と名乗るようになったのです。

scene 04

俳句を変える新しい手法「写生」余命10年と悟った子規は、俳諧に新しい命を吹き込もうと決意します。過去の数万に及ぶ句を調べ、季語や表現の方法によって分析しました。そこで過去の句は、限られた語句や言い回しを形式的に組み合わせた新鮮味のないものが多いことに気づきます。子規が俳句を変える手段として用いたのは、当時、西洋の絵画で取り入れられていた「写生」です。草花や動物など現実の何気ない風景に触れ、見たまま、感じたまま、句に写し取っていきます。子規はこの新しい手法によって、決まりきった表現から逃れ、新しい俳句を生み出そうとしたのです。

scene 05

見たまま、感じたままの風景からりと晴れた秋、遠くに筑波山の見える場所に立って、詠んだ句です。「赤蜻蛉筑波に雲もなかりけり」。早春のころ、川をのぼってきた鮎が、川の支流で二手に分かれ、さらにのぼっていった様子を詠みました。「若鮎の二手になりて上りけり」。

scene 06

雑誌『ホトトギス』の創刊明治31年、子規は、今も続く雑誌『ホトトギス』を東京で発行します。そして、新しい表現方法を使った短歌、随筆、小説などを積極的に掲載しました。そこから多くの文学者たちが育っていったのです。明治を代表する作家、夏目漱石もその一人です。後に『ホトトギス』で『吾輩ハ猫デアル』を発表し、一躍人気作家となりました。漱石は子規に俳句の手ほどきを受けて、生涯に2500余りの句を作っています。「菫ほどな小さき人に生れたし/夏目漱石」。

scene 07

俳句に生き、俳句に死すしかし、子規の病は次第に重くなっていきます。病床からながめることができたのは、いつも糸瓜(へちま)の棚でした。咳(せき)や痰(たん)を止める薬となる糸瓜の水さえ、効果がなくなった子規。最後に、自分を仏になぞらえて、こう詠みました。「糸瓜咲て痰のつまりし仏かな」。子規は、2万を超える俳句を残し、34歳の若さで世を去ります。

scene 08

子規の志を受け継いだ二人子規の死後、遺志を受け継いだのは、同じ松山出身の二人の弟子でした。雑誌『ホトトギス』を引き継いだ、高浜虚子。「季語」と「定型」という俳句の決まりを守り、主に花鳥風月を題材にとりあげました。快い春風のなか、伝統を守っていく決意を詠んだ句です。「春風や闘志いだきて丘に立つ」。河東碧梧桐は、子規が担当していた新聞の俳句欄を引き継ぎました。しかし、新しい俳句の表現を求め、季語や定型から次第に離れていきます。椿が落ちる瞬間を切り取る、印象あざやかな句です。「赤い椿白い椿と落ちにけり」。

scene 09

現代に脈々と連なる子規の心子規を受け継いだ二人のもとからは、俳句のなかでさまざまな世界を表現する俳人たちが育っていきました。『ホトトギス』の投句欄から見出された女流俳人の句。「谺して山時鳥ほしいまま/杉田久女」。さまようように旅を続け、定型の枠を超えて生み出した句。「分け入つても分け入つても青い山/種田山頭火」。子規が近代俳句を始めて110年余り。今も100万人を超える人々が俳句を楽しんでいます。十七音の世界は、ときに、限りない広がりを私たちに与えてくれます。

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