気象現象と季語

https://news.kodansha.co.jp/20161029_b03 【【全日本人必読】風と雲のことば、粋で豊かな表現を知っておこう】より

日本の国土は南北に細長く、周囲を海に囲まれています。その絶妙な地理のおかげで季節ごとにさまざまな気象現象がありますが、地方によってその特色もさまざまです。

天気そのものを表したり、気象現象の特徴を描写することばが、日本語にはとても多いことにお気づきでしょうか。そのどれもが美しい響きを持っており、先人たちが気象現象を利用して生活を営む以外にも、感性豊かな表現を楽しみ、それを子々孫々に伝えてくれていたことが分かります。

雨にまつわることばを集め、発売直後からメディアで話題となった『雨のことば辞典』があります。「読んで面白い辞書」としてロングセラーになりましたが、今回はその姉妹書として出版された、『風と雲のことば辞典』を紹介します。

風を表すことばの例~「花散らし」の意味は近年は変化した!?

風を表すことばにはどのようなものがあるでしょうか。たとえば、季節ごとに吹く風にはさまざまな名称がありますが、それらは俳句の季語であることも多く、季節を代表することばとしての情緒的で圧倒的な存在感を私たちに与えてくれます。

このほかに、たとえば私たちはよく「波風が立つ」とか「風向きが変わった」など、物事の様子や雰囲気を表すのに「風」という表現を使います。

風とは単なる空気が移動する現象を指すだけではなく、自分の身に感じられる周囲の様子や、世の中やものごとのありさまを表したり、習わしを指したりもする、とても豊かな意味を持つことばなのです。

実際にその例をいくつか見てみましょう。

風薫る《かぜかおる》

初夏の爽やかな風が吹くさま。新緑や水の上をわたる風が、匂うように爽やかに感じられるのをいう。夏の季語。

風の吹き回し《かぜのふきまわし》

そのときの成り行き次第で、気持ちなどが影響を受けることのたとえ。物のはずみ。「どうした風の吹き回しか、今日はご機嫌がすこぶる悪い」などと使う。

風を切る《かぜをきる》

風上に向かって勢いよく進む。「肩で風を切って歩く」「矢が風を切って飛ぶ」。

風を食らう《かぜをくらう》

劣勢を予知してすばやく逃げる。「風を食らって逐電した」。

鎌鼬《かまいたち》

野良などで「つむじ風」にあたった直後、頬や脛《はぎ》に鎌で斬ったような切り傷を受けていることがある。痛みも出血もなく、古くはつむじ風に乗ってやってきた幼獣の〈鎌鼬〉の仕業だと信じられていた。が、実際はつむじ風による瞬間的な真空状態によって皮膚が裂けたものだと説明されている。新潟・長野・飛騨地方など各地に言い伝えがあり、「風神」が太刀を構える「構太刀《かまえたち》」に由来する名称だという説もある。「鎌風」も同じ。冬の季語。

神渡し《かみわたし》

出雲大社に集まる神々を渡し送る風という意味で、旧暦10月に吹く西風をいう。伊豆、鳥羽地方の漁業者の間の船詞《ふなことば》(航海用語)からという。「神立風《かみたつかぜ》」とも。冬の季語。

瑞風《ずいふう》

めでたい風。また能楽の世界ですばらしい芸風をいう。一方JR西日本では「瑞風《みずかぜ》」と読み、みずみずしい風、豊葦原《とよあしはら》の「瑞穂の国」に吹く吉兆を表す風だとして、2017年春から京阪神と山陰・山陽エリアを結んで走る新トワイライトエクスプレスの名前に採用している。

花散らし《はなちらし》

以前は花見のあとの宴会のことをいったが、近年は花を吹き散らす強風のことをいう。長崎県壱岐地方には「花散らし」という野遊びの行事がある。旧暦の3月4日の風の強い日に磯野出て、凧揚げをして重ね弁当を食べるのだという。春の季語。

雲を表すことばの例~「雲行き」が表すふたつの意味

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雲に関係することばにはどんなものがあるでしょうか。気象現象以外でわたしたちが日常でよく使うことばに、「暗雲が立ちこめる」「霧散する」などといった、少し不穏で残念な状況を指すものが多いかもしれません。

ちなみに、霧や霞は雲と本質的には同じもので、地上からの距離や目視可能な範囲によって呼称が変わります。雲も霧も霞も、人間の心の迷いや不安などを表したり、目の前が見えづらい状態や、先行きの見えなさ、心もとなさを表すことが多いようです。

いっぽうで、水墨画のようなしっとりとした、落ち着いた雰囲気を醸し出すことばや、神秘的で荘厳な印象を与えることばもあり、多彩な用例に驚くことでしょう。

寒雲《かんうん》

冬空に寒々と垂れこめた雲。また、冬の青空に現れては消える凍ったような白雲。「凍雲《いてぐも》」ともいう。冬の季語。

雲に梯《くもにかけはし》

とても叶わぬ高い望み。特に身分違いの恋についていう。

雲行き《くもゆき》

雲が動いていくようす。転じて、成り行き、情勢。「雲行きが怪しい」といえば、天気がくずれそうだということだが、悪いことが起こりそうだという意味にも使う。

卿雲《けいうん》

太平の世に現れるという、美しくめでたい雲。字書に「卿雲爛《らん》たり、礼(糺)漫漫たり」、卿雲が明るく美しい紫の光を曳いてどこまでも輝きめぐっている、と(『大字典』)。「慶雲」「景雲」とも書き、「きょううん」とも読む。「瑞雲」も同意。

東雲《しののめ》

夜明けがた、東の空にかかる雲。もともとは「篠の目」と書き、篠竹を編んで造った古代住居の明かり取りのことを意味したと辞書はいう。夜明けの光に明るむ篠竹の目が転じて、朝の薄明かりを指すようになり、さらに夜明けそのもの、朝ぼらけの雲を意味するようになった、と。

瑞煙《ずいえん》

「煙」は雲や霧の意で、山水に雲や霧が煙るようにかかっているめでたい光景をいう。「瑞烟」とも書く。

鳥雲《ちょううん》

小鳥が空をおおうように大群をなして飛び、雲のように見えること。秋の季語。

初霞《はつがすみ》

新春の野山、また里にたなびく霞。「新霞《にいがすみ》」ともいう。新年の季語。

知識の探求はもちろん手紙などの言い回しにも

本書『風と雲のことば辞典』は、「風」にまつわることば1040語と、「雲」にまつわることば611語を収録しています。いま紹介した以外でも、こうした風や雲がある場合には晴れる/雨が降るなどといった風や雲から読む天気の言い伝え、最新の観測技術から分かった気象現象の解説なども収録しており、読めば読むほど知識が深くなっていくことでしょう。

知識の探求にもちろん最適の1冊ですが、たとえばちょっとしたメールのやりとりにも、こうした天気を表す粋なことばで相手を気遣ってみてはいかがでしょう。なかなか直筆で文書のやりとりをする機会はなくなってきましたが、これからの季節では年賀状などに一筆、風と雲のことばを使って新年の慶びを伝えるのもオツだと思いませんか


https://tenki.jp/suppl/m_yoshino/2018/11/27/28619.html  【「知って得する季語」冬の雨“時雨”はレアな現象だった!?】より

「知って得する季語」冬の雨“時雨”はレアな現象だった!?

11月も終わりに近づき、いよいよ冬の気配が漂ってきましたね。街中ではダウンを着ている人もいたり、家では暖房器具を出したり……。いよいよ本格的に寒さ対策をする時季を迎えました。

冬といえば、雪の降らない地域では「乾燥」が最大の悩みどころ。けれども、初冬のこの時季は意外に雨が多いと思いませんか? 季語では「冬の雨」「時雨(しぐれ)」と呼び、寒いなか静かに降る雨をイメージできますが、実は“時雨”は単なる冬の雨とは違うらしいのです。

そこで今回は、“時雨”の意味や使い方などについて調べてみました。

「時雨(しぐれ)」の本来の意味を知ろう

まず、“時雨”の意味は以下の通りです。

── 冬の初めころから中ごろにかけ、さっと降ってさっと上がり、時にはしばらく断続的に降り続く雨。山から山へ夕立のように移動しながら降ったり、降ったかと思えば太陽が顔を出し、また降るといった具合の雨のこと。──(合本俳句歳時記より)

「しぐれ」は「過ぐる」から転じた言葉ともいわれ、いわゆる天気雨・通り雨をさすことが多いことがわかります。

そもそも“時雨”とは、北西の季節風に流された雲が日本海側から太平洋側へ移動する際に盆地で雨を降らせることで、日本海側や京都盆地、岐阜、長野、福島などの山間部ではよく見られる現象だそうです。

ある地域では頻繁に見られることから、下記のような言葉が生まれました。

○北山時雨(きたやましぐれ)

京都の北山とは、「船岡山」「衣笠山」「岩倉山」の山の総称で、その方面から降る雨を「北山時雨」と呼んでいる。「時雨」といえば「北山」というほど昔から有名な場所。

○高島時雨(たかしましぐれ)

滋賀県湖西で多い「時雨」は、滋賀県の高島市や大津市北部地域の特有の気象のため「高島時雨」」と呼ばれている。

○七時雨山(ななしぐれやま)

岩手県八幡平市、北上川水系の最北端に位置する七時雨山(1063m)は、「一日に七回もしぐれるほど天気が変わりやすい」ことから、その名の由来を持つといわれている。

“時雨”が入る季語とは?

“時雨”が入る季語とは?

いかがでしたか? 「時雨」は特定の地域で見られる冬ならではの通り雨のような現象だったのですね。

その地域では当たり前のように見られるかもしれませんが、関東地方に住むかくいう私も、数年前に雨の中で遠くに虹を見た経験があります。それが“時雨”だったかは定かではありませんが、意外に普段の生活の中で遭遇しているのかもしれませんね。

最後に“時雨”が入る四季の季語をご紹介しましょう。

○「時雨月(しぐれづき)」冬

陰暦10月のこと。時雨がよく降る月だから、このように呼ばれた。

○「時雨忌(しぐれき)」冬

陰暦10月12日。俳人松尾芭蕉の忌日をいう。特に芭蕉は「時雨」の情緒を愛していたことと、「時雨月」に亡くなったため。

○「初時雨(はつしぐれ)」冬

その年に降った最初の時雨。夜は「小夜(さよ)時雨」、朝は「朝時雨」、夕方は「夕時雨」と呼ぶ。

○「春時雨」「秋時雨」春・秋

春と秋にも時雨と同じような雨が降ることがあるため。

○「蝉時雨(せみしぐれ)」夏

時雨の意味のなかの、断続的に続く雨を例えた。

(参照:俳句歳時記(春~新年) 角川学芸出版 角川文庫)

「時雨」はレアでも身近でもある季語

「時雨」はレアでも身近でもある季語

──言葉や漢字の成り立ちを知ることは、日常生活に膨らみを持たせてくれるはず。

本来“時雨”とは、めったに見られないレアな気象現象なのですが、今では単なる冬の通り雨も“時雨”と呼ぶようになったそうです。確かにいわれてみれば、この頃の雨は、降ったりやんだりが多いですね。

季節感はいかに身近にあるか。「知って得する季語」で実感できるのかもしれません。

https://www.jsnds.org/ssk/ssk_28_1_001.pdf【季語を詠む俳句と日本列島の自然】より

財団法人国際高等研究所 所長 尾 池 和 夫

自然災害は自然現象の変化などで人命や社会生活に被害を生じる現象である。直接的な

原因が自然現象であっても,災害には人が関与していることも多い。日本列島は中緯度に

あって,緯度経度ともに広い範囲に国土がある。自然環境は地域によってさまざまである

が,全体的に中緯度にあるために四季折々の変化が明瞭である。

そこに住む人たちは,自然災害を恐れることもよく知っているが,一方では四季折々の

変化を生活に利用し,あるいはその変化を積極的に楽しむことも知っている。その地域ご

との季節の変化の特徴が,その土地特有の産物を生み出し,暮らし方の知恵を生み出して

きた。

その日本列島に季語を詠む俳句が生まれた。季節に連結して用いられる語を季語,ある

ときには季題というが,古今和歌集から和歌,連歌としだいに明確化され,俳諧において

著しく発達して大量の季語が生まれてきた。季語は古くからの生活の知恵や習慣を伝える

役目もする一方で,時代とともに新しく生まれ,それがまた定着して洗練されていくとい

う経過をたどってきた。

例えば気象現象で「春一番」という季語がある。気象用語では,「立春から春分までの

間で,日本海で低気圧が発達し,初めて南よりの強風(東南東から西南西の風向で8 m/s

以上)がふいて,気温が上昇する現象」とされている。春一番は日本海の低気圧の温暖前

線と寒冷前線の間に入ったとき暖域に吹く。その後,天候が悪化することが多い。

呼ぶ声も吹き散る島の春一番 中村苑子

春一番島に神父のおくれ着く 中尾杏子

春一番という言葉は長崎県で生まれた。1859(安政6)年,壱岐の漁師53人が突風で遭難して以来,漁師の間で春の初めの強い南風を「春一」とか「春一番」というようになっ

たという。壱岐郷ノ浦の公園には「春一番の塔」が建っていて,毎年「春一番・風のフェ

スタ」が開催される。というわけでこの季語は芭蕉のころにはなかった。

私の専門は固体地球物理学,とくに地震学である。地震と火山噴火と津波は日本列島を

形作ってきた最も基本的な自然現象だと思っているので,それを詠んだ俳句を気をつけて

集めてみたこともある。阪神・淡路大震災を詠んだ句は多いが,やはり一番激しい句はこ

れだろうと思っている。

倒・裂・破・崩・礫の街寒雀 友岡子郷

火砕流という言葉も詠まれるが,俳人は自分の目で見たものを詠むので,噴火や津波や

火砕流の句は地震の句よりは少ない。

るいるいと枇杷熟れし地に火砕流 太田安定

風水害などを詠んだ句を例として挙げてみたい。風水害には,熱帯低気圧,前線による

集中豪雨,洪水や土石流,鉄砲水,がけ崩れ,地すべり,高潮などがある。

山豪雨全山滝となりにけり 福田蓼汀

川上に崖崩れあり地蔵盆 山本洋子

高潮ののちの青海舟大工 平畑静塔

竜巻に野蒜飛ぶなり鰻池 水原秋桜子

大雪,雪崩,雷,雹も詠まれ,異常気象現象によって,暖冬,猛暑,冷夏,空梅雨,乾

燥による山火事なども詠まれている。

大雪の今朝山中に煙たつ 宇多喜代子

地震計雪崩の揺れを記録せり 尾池和夫

使徒一人欠けたる長き冷夏かな 有馬朗人

山火事のありたる地肌夏蕨 茨木和生

自然災害から立ち直る力強さも,自然災害を受け流す知恵も,大らかに自然現象を見つ

める目も,もともと日本列島が豊かな自然に恵まれて,日本列島に住み着いた民族が,変

動する大地と気候によってさまざまに姿を変える環境に暮らしてきたことから,自ずと養

われてきたものなのだと思う。それらの自然から生まれた季語を,世界一短い詩形に俳句

は詠み込む。俳句は,大切にしなければならない日本の文化だと,私は思っている。

2009年4月13日


コズミックホリステック医療・現代靈氣

吾であり宇宙である☆和して同せず  競争でなく共生を☆

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