http://chakolate.blog.fc2.com/blog-entry-407.html 【谷原恵理子句集 『冬の舟』】より
画家であるお嬢様の画による装幀が豪奢な一冊。
桃食みて季節を一つ越す力 命を輝かせる命の輝き
吉祥の帯を仕舞へば春の風 くすっと笑える華やぎの一句。
艶やかに着物を着こなされる姿をFBで垣間見てうっとりしています。
魚の腑を返すましろき冬の波 静かに命を見つめる眼差し。
用意の指すでにしなりし歌留多会 張り詰めた緊張感。見つめる目の確かさ。
モノの確かな把握と濃い心情が共存している。
子牛の脚伸びて真白し春の雲 身籠りし時間の中の初桜
能舞台一歩は雪を踏むやうに 眉にふれ淡海にふれ春の雪
老犬に訪れる恋青ぶだう 黒セーターレノンの歌は雨のやう
人ひとと出会ひ続ける新茶汲む 人の死や鯉押してゆく花筏
一冊を読み通して、出会いと別れに十全に向き合ってこられた人なのではないかという思いを強くした。
https://kuribayashinoburogu.at.webry.info/202101/article_6.html 【谷原恵理子句集『冬の舟』】 より
谷原恵理子句集『冬の舟』 俳句結社「ににん」 俳句結社「篠」
谷原さんは、山田弘子主宰(故人)の「円虹」に入り、岩淵喜代子代表の「ににん」、辻村麻乃主宰の「篠」や超結社「亜流里」(中村猛虎代表)にも所属されておられる。令和三年一月二十日、俳句アトラス発行。序文は岩淵代表、跋文は辻村麻乃がそれぞれ書かれておられる。
自選の12句は次の通り。
狼は絶え伊勢道の常夜灯 一本の桜を母とみる夜かな
引力と神は見えざり木の実降る みちのくの星押し寄せてねぶた引く
空箱の軽さ恋猫戻りけり 眉にふれ淡海にふれ春の雪
いい女といふに幼き祭髪 黒セーターレノンの歌は雨のやう
花惜しむとは青空を仰ぐこと 心中を終へし人形近松忌
魚の腑を返すましろき冬の波 白木蓮のかたりと花の外れけり
筆者(=栗林)の共感の句は次の通り。(*)印は自選と重なったもの。
015 一本の桜を母とみる夜かな(*) 031 いい女といふに幼き祭髪(*)
043 能舞台一歩は雪を踏むやうに 047 素袷で見送りに来て雨の駅
073 人あまたゐてしづかなる桜の夜 080 二百十日大きな虹の恐ろしき
085 焼きたてのパンの膨らみ鳥の恋 095 この里で終はる命や初蛍
099 黙といふ優しさ通草口開ける 116 数へ日や夢の中まで探し物
119 木蓮のひと雨ごとの傷増ゆる 139 音たてて山霧生るる高嶺かな
153 新米の匂ふ俵や灘の蔵 159 戦乱のなき城の空鷹渡る
167 葦の角一人遊びの好きな鳥
一読して、平明な、しっとり感のある句集であると感じ入った。女性的な視点の句が、筆者には、印象的であった。選の重なった二句を鑑賞しよう。
015 一本の桜を母とみる夜かな(*)
これは序文に岩淵さんも書かれていることなのだが、「一本の」とわざわざ断ってあるところを見逃してはいけないだろう。英訳すれば、たった一語の「a」で終わるのかも知れないが、「特定の」という意味をくみ取るべきである。英訳すれば「a specific」とでも言おうか。そして、我々日本人にとって「桜」は意味が深い。しかも、「母とみる夜の桜」である。万感の思いが込められていよう。
031 いい女といふに幼き祭髪(*)
一転して、ユーモラスな句。「いい女」との出だしで、読者は過剰な期待をして読み下し、下五に至って「やられた」感を抱く。うまい句。しかも読後がさわやか。筆者イチオシの句である。
なお「ににん」の二十周年記念号で、谷原さんの次の句にお目にかかったことを覚えている。 月の雨花街の鯉光らせて
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