藤娘

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歌舞伎の演目

「藤娘」は歌舞伎女形の可憐な名作舞踊!あらすじと見どころを解説

「藤娘ふじむすめ」とは歌舞伎のもっともポピュラーな舞踊の一つであり、女形役者が一人で可憐に舞い踊る幻想的な姿は、歌舞伎をよく知らない人でも楽しめる演目です。

この記事では歌舞伎舞踊の「藤娘」について、その成り立ちやあらすじ、見どころなどを歌舞伎を知らない人にもわかりやすく解説し、藤娘を得意とする女形役者や、上演情報とDVDなどについても紹介していきます。

歌舞伎舞踊「藤娘」とは?

藤娘は藤の精が女性の様々な心情を演じる舞踊

歌舞伎舞踊の藤娘は、文政9年(1826年)に江戸の中村座で初めて演じられた、「哥へすがへす余波大津絵かえすがえすおなごりおおつえ」の一部でした。

この演目は、一人の踊り手が「藤娘」「天神」「奴」「船頭」「座頭」の五人に変化する変化舞踊と呼ばれるもので、この中の「藤娘」の部分だけが独立して上演されるようになったものです。

大津絵おおつえとは、江戸時代に琵琶湖のあたりを通る旅人のために描かれた、お土産用の観光絵画のことです。この変化舞踊は、その絵から抜け出した人物達が踊るという趣向で作られていました。

ところが、昭和12年(1937年)3月の歌舞伎座で六代目尾上菊五郎が演じたときに、絵から抜け出すのではなく、藤間勘祖の振り付けで藤の精が松の大木に絡んで踊るという設定に変え、舞台も大きな松の木に多くの藤の花房が垂れ下がるものにしました。

他にも、幕開きは暗いままで幕が上がって長唄の一節が切れたところでパッと明るくなるという演出に変えたり、岡鬼太郎の作詞による「藤音頭」が入るなど、大きな改変が行われます。

当時この演出は、「新藤娘」「藤娘の破壊」などと言われるなど賛否両論ありましたが、現在では藤娘といえば、この六代目菊五郎の演出が定番で、女形の踊る人気舞踊となっています。

「藤娘」のあらすじと見どころ

幻想的な藤の花

真っ暗な中で幕が開くと、「若紫に十返りの、花を現す松の藤浪・・・」と長唄が始まります。

一瞬にして舞台に明かりが灯ると、大きな松の木に絡んだ藤の花が一面に咲き誇り、その下には黒塗りの傘を被って藤の枝を持った美しい娘が立っています。

実はこの娘は人間ではなく、若い娘に姿を変えた藤の精なのです。

傘を被ったまま一時舞い踊った後、松の陰に姿を隠した娘は、今度は傘を手に持って藤の花房をかき分けて姿を表します。

そして近江八景の情景を読み込んだ長唄の詩に合わせて、初々しい娘の浮気な男への恋に身を焼く女心を見せる「クドキ」の場面になり、艷麗に舞い踊ります。

再び松の陰に隠れた娘は、今度は傘を持たず衣装を変えて登場し、この舞踊の見せ所でもある「藤音頭」を披露します。

これは扇を盃にして酒を飲んだ藤の精が、ほろ酔い加減で舞う様子を見せるものですが、これは藤の木に酒をかけると花の色がよくなるという俗信をもとに作られたそうです。

藤音頭が終わるといったん松の陰に入り、今度は両袖を脱いだ状態で登場して軽やかな踊り地おどりじ(手踊り)を見せます。

やがて鐘の音が鳴ると日暮れが訪れ、再び藤の枝を肩に担いだ娘は春の名残を惜しみながら美しい立ち姿で幕となります。

藤娘の長唄の歌詞

藤娘は歌舞伎音楽の長唄の演奏に合わせて演じられますが、演じる役者や公演によって歌詞が少し変わることもあります。

ここでは第四期の歌舞伎座が建て替えられる時の「歌舞伎座さよなら公演」で、四代目坂田藤十郎が藤娘を演じたときの歌詞を以下に紹介します

若紫に十返りの  花を現す松の藤浪  昔ながらに咲く花の  時に近江の待つの藤浪

人目せき傘塗傘しゃんと  振りかたげたる一枝は  紫深き水道の水に

染めて嬉しき由縁ゆかりの色の  いとしと書いて藤の花  エエしょんがいな

裾もほらほらしどけなく  男心の憎いのは  外の女子ほかのおなごに神かけて

粟津あわずと三井みいのかね言も  堅い誓いの石山に  身は空蝉うつせみの唐崎や

待つ夜をよそに比良の雪  解けて逢瀬の  あた妬ましい  ようもの瀬田に

わしゃ乗せられて  文も堅田の片便り  心矢橋のかこちごと  藤の花房 色よく長く

可愛がろとて  酒買うて飲ませたら  うちの男松おまつに  絡んでしめて

てもさても  十返りとかえりという名の憎くや  帰るというは忌み言葉

花もの言わぬためしでも  知らぬ素振りは奈良の京  杉にすがるも好きずき

松にまとうも好きずき  好いて好かれて  はなれぬ仲は  常盤木ときわぎの

立ちも帰らで  君と我とか  おお嬉し おお嬉し  松を植よなら  有馬の里へ

植えさんせいつまでも  変わらぬ契り  かいどり褄つまで  よれつもつれつ

まだ寝が足らぬ  宵寝枕の  まだ寝が足らぬ  藤に巻かれて  寝とござる

アア何としょか  どうしょうかいな  空も霞の夕照りに  名残惜しみて

帰る鴈がね

歌舞伎座さよなら公演「藤娘」

藤娘といえばこの女形役者

藤娘は長くても20分ほどの上演時間ですが、舞台上でたった一人で演じるので、女形役者にとっては大きな見せ所の舞踊と言えます。

六代目菊五郎の改変以降、多くの名女形が演じてきましたが、中でもダントツの上演回数27回を誇るのが六代目菊五郎の養子でもある七代目尾上梅幸で、次に続くのは四代目中村雀右衛門の21回があり、この二人が群を抜いています。

七代目中村芝翫も藤娘を得意としており、12回演じています。芝翫がまだ子供時代に、六代目菊五郎が藤間勘祖による新たな振り付けをする現場を間近に見ながらすべて覚えこんで踊っていたそうです。後に藤間勘祖が芝翫の藤娘を見て、「私の作った藤娘をちゃんと踊ってくれて嬉しかった」と言ったほどで、芝翫の藤娘は六代目菊五郎の藤娘を忠実に再現していたようですね。

現役では、人間国宝でもある名女形の坂東玉三郎が14回となっています。自主公演などで演じるだけでなく、二人の藤娘が登場する「二人藤娘」として、中村七之助や中村児太郎と共演し、次代の女形へ自らの芸を舞台上で伝えることも忘れていません。

2021年1月の新橋演舞場で行われた「初春海老蔵歌舞伎」では、市川海老蔵の長女・市川ぼたんが、9歳という若さで藤娘を一人で演じました。

近年において、大きな舞台で歌舞伎役者ではない女性が藤娘を演じた記録は、大阪・新歌舞伎座で1990年06月に高田美和が演じて以来であり、9歳という年齢はおそらく最年少ではないかと思われます。

歌舞伎役者の男性が女心を演じるのとはまったく違って、まだ幼い少女が年頃の娘の恋心を演じるというのはなんとも不思議な感じでしたが、しっかりと踊っていたのはさすが歌舞伎役者の娘だというところでしょうか。

5年後、10年後の市川ぼたんが「藤娘」をどう演じるのかもぜひ見てみたいところですね。

コズミックホリステック医療・現代靈氣

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